官民連携のコンソーシアムが仕掛ける“新機軸”のインバウンドプロモーション

広島の魅力を世界に発信。オンライン商談会で需要回復の一歩を切り拓く

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政府の掲げる「観光先進国の実現」に向け、多くの自治体が国内外からの観光需要拡大を目指そうとしている。特に、訪日旅行の促進による観光消費や関連需要の創出には期待が寄せられているものの、プロモーションに課題を抱えるケースが少なくない。こうした中、広島県では官民連携による「広島を拠点にしたインバウンドツーリズム活性化協議会」を組織し、インバウンド誘致の取り組みに力を入れている。その1つとして、BIPROGYのバーチャル見本市サービス「TradingSquare(トレーディングスクエア)」を採用したオンライン商談会を開催し(2022年11月)、海外エージェントとのリレーション構築や、欧米豪・アジア各国からの送客増加につながる働きかけを行っている。今回は、広島県観光連盟の玉垣雅史氏と株式会社マイコンシェルジュ代表取締役社長の三浦真氏、BIPROGYの山本昌弘に、取り組みの背景や広島の隠れた魅力発信にもつながったオンライン商談会の詳細、そして今後への展望について話を伺った。

ヘッドライン

広島の隠れた魅力を発信。海外エージェントに向けたオンライン商談会を開催

歴史と平和への思いが深まる平和記念公園や原爆ドーム、風光明媚な宮島の厳島神社。いずれも名高い世界遺産であり、広島を代表する観光名所だ。一方で、これら世界遺産以外の広島の見所については、国内外であまり知られていない現状がある。さらに、2020年以降のコロナ禍において外国人観光客が激減し、広島県観光連盟では需要回復の打ち手に頭を悩ませていたという。広島県観光連盟カスタマーコミュニケーション事業部の玉垣雅史氏は、こう振り返る。

写真:玉垣雅史氏
一般社団法人広島県観光連盟
カスタマーコミュニケーション事業部
プロデューサー 玉垣雅史氏

「広島には、瀬戸内海に浮かぶ大小さまざまな島を見渡せる瀬戸内海国立公園や中国地方で最大規模のスキー場など魅力あるスポットが多くあります。世界遺産だけを巡って満足するのではなく、県内のさまざまな場所に足を延ばしてもらう、滞在型の旅を積極的に提案したいと考えています。しかし、ここ数年はコロナ禍の影響で外国人観光客は激減。その影響で、築き上げてきた海外エージェント(旅行会社やツアーオペレーター)や航空会社とのパイプも完全に途切れてしまいました」

ウィズコロナ・ポストコロナに向けて時代が変容しつつある中、インバウンドの本格的な再開に向けて活用されたのがBIPROGYのバーチャル見本市サービス「TradingSquare」。本サービスでは、遠く離れた海外エージェントが相手であっても時間や場所に制約されることがなく、大きな会場を手配する費用やブース設営の手間も抑えられるため、主催者側はスピーディかつ低予算でのオンライン商談会の実行などが可能となる。

2022年11月、このTradingSquareを導入して開催されたのが「Japan オンラインツーリズム商談会 in 広島 2022」だ。中国、台湾、東南アジアの海外エージェント約40社と広島の観光事業者50社が参加し、オンラインながら熱のこもったやり取りが交わされた。海外エージェントからは「原爆ドームと宮島以外にも、魅力ある観光商材を知ることができた」といった声が聞かれ、観光事業者からも「10社を超える海外エージェントに自社の商材をPRできた」と、初回ながら評判は上々だという。

官民連携のコンソーシアムでインバウンド誘致を目指す

この商談会を主催したのは、広島県観光連盟、広島観光コンベンションビューロー、NTTコミュニケーションズ、BIPROGYなどからなる「広島を拠点にしたインバウンドツーリズム活性化協議会」。その運営の中心を担うのが、ツーリズム・マーケティングを手掛ける株式会社マイコンシェルジュ(広島県呉市)代表取締役社長の三浦真氏だ。

写真:三浦真氏
株式会社マイコンシェルジュ
代表取締役社長 三浦真氏

「私の出身地である、広島県安芸津町は県内でもあまり注目されない場所です。観光で訪れる方は少ないものの、瀬戸内海を望む本当に素敵な場所です。実家は造り酒屋を営んでいて、地元の自然を生かして醸造した吟醸酒は『世界に誇れる味』と自負しています。そんな“知られざる広島の魅力”を広めたいと思い、マイコンシェルジュを起ち上げました。BIPROGYとは、取引のある銀行の紹介で顔を合わせました。その際に、TradingSquareの概要を紹介してもらったのが、今回のきっかけになりました」

TradingSquareに可能性を感じた三浦氏は、まず事業再構築補助金(※)を申請。交付決定後は、広島県観光連盟をはじめ、三井住友信託銀行や広告代理店のJR西日本コミュニケーションズなど、官民問わずさまざまな企業や団体を巻き込んでいった。「商談の幅を広げるためにも規模を大きくしたいと考え、まずは観光連盟さまにお声がけしました。また、広島から足を延ばして近隣の県を周遊するツアーを売り込むことを見越し、大手銀行や広告代理店にもコンソーシアムに加わってもらいました」と振り返る。

  • コロナ禍を経て変化した社会への対応を目的に、中小企業等の事業再構築を支援する経済産業省による助成制度の1つ

こうして、2022年10月にオンラインツーリズム商談会の主催となるコンソーシアム「広島を拠点にしたインバウンドツーリズム活性化協議会」が誕生。本格的にTradingSquareを活用したオンライン商談会の準備に取り掛かることになった。コンソーシアム誕生から商談会の開催までは数カ月程度の時間しかなかったが、「TradingSquareがハブとなっているからこそ、参加する観光事業者の準備がスムーズに進行しました」と玉垣氏は評価する。

主催者・出展者・来場者をシームレスにつなぐ「TradingSquare」

写真:山本昌弘
BIPROGY株式会社
プロダクトサービス第一本部
プロダクト一室 一課 山本昌弘

BIPROGYの山本昌弘は、「シンプルで分かりやすい操作性を意識しているので、普段PCを使い慣れている方なら問題なく対応して頂けます。また、早めに資料をアップロードしておけば、海外エージェントが事前に目を通すことができ、閲覧履歴から関心が高い観光商材の把握も行えるので商談予約をスムーズに進められます。その他、閲覧傾向を分析して、その後のプロモーションにも役立てることも可能です」と説明する。三浦氏がこう続ける。

「広島の観光コンテンツを海外エージェントに広く伝えるうえで、以前から情報を1か所にストックしておくBtoBに特化したプラットフォームが必要と考えていました。一般的なCMSでもプラットフォームを構築できますが、要件定義や設計には時間も労力もかかります。TradingSquareの導入によって抱えていた課題がスピーディに解消されました。複数の観光事業者情報を同一のフォーマットで提供できるため、海外エージェントにとっても比較・検討がしやすいメリットもあります。また、チャット機能を使い、TradingSquare上でやり取りが完結できる点も便利だと感じています」

「TradingSquare」の全体像(イメージ)

図版:「TradingSquare」の全体像(イメージ)
「TradingSquare」には、オンライン商談をサポートする機能としてコンテンツ管理やチャット、WEBサイト構築機能などが標準装備されている。また、参加事業者側においては、事前準備として動画や画像、パンフレットといった自社商材をアップロードすることで商談準備を迅速に完了することが可能
TradingSquareで構築したWEBサイトは、海外エージェントとのリレーションが切れないよう、参加している広島県の出展者情報を継続して更新・紹介しながら、春は桜、冬はスキーなど、季節に合わせた広島の観光情報を発信していく予定だ。

観光案内のプロ「地域通訳案内士」の新たな活躍の場を創出

TradingSquareがプラットフォームとして機能した今回のオンライン商談会の特長の1つが、「地域通訳案内士(※)」を介してコミュニケーションが行われた点だ。三浦氏は、「地域通訳案内士こそがオンライン商談会、そして今後の広島におけるインバウンド需要回復において欠かせない人材」と語る。マイコンシェルジュでは、コロナ禍で活躍の場が奪われてしまった彼らのスキルが低下しないよう、日頃から地域通訳案内士の有資格者を集めてガイドトレーニングを行っていた。

  • 地域通訳案内士は、観光庁が認定する制度の1つ。外国人観光客の観光案内に特化したスペシャリストとして知られ、広島県においては、広島県観光連盟主催の下で資格取得を支援している

「地域通訳案内士の方々のスキルは目を見張るものがあります。セカンドライフのような形で始めるシニアの方が多いのですが、長らく海外駐在を経験されていた方や、英語のみならずフランス語まで堪能な方もいらっしゃいます。言語能力はもちろん、話してみるとコミュニケーション能力もものすごく高い。彼らがトレーニングを続ける機会をつくることは後々大きな力になると考えていましたが、まさに商談会はうってつけの機会となりました」

写真:地元の観光スポットに精通する地域通訳案内士が海外エージェントをサポートし、広島県の観光事業者との商談を実施
「Japanオンラインツーリズム商談会in広島2022」では、TradingSquareが主催者・出展者・来場者をつなぐプラットフォームとして機能した。特に、地元の観光スポットに精通する地域通訳案内士が海外エージェントをサポートすることで、広島県の観光事業者との商談が円滑に実施された。

一般的に、外国人を相手にする商談会では日本人の側に通訳を付ける。しかし、今回の商談会では、参加する海外エージェント側に担当となる地域通訳案内士を付けて商談会前に主な客層や興味のある商材について詳細なヒアリングを実施。そして、意向に沿う観光事業者を提案し、当日の商談に持ち込む流れで行われた。海外エージェント主導で商談先を決めれば、宮島や平和記念公園などの世界遺産に関わる観光事業者に商談が集中してしまうが、「宮島に行くなら、〇〇にも足を延ばして〇〇を体験するコースはどうですか?」と、地域通訳案内士を介した提案をすることで、これまで日の当たらなかった県内の観光スポットにも商機を見出すことができたという。

「オンライン商談会の前に海外エージェントと地域通訳案内士がコミュニケーションを取り合う内に、ファーストネームで呼び合う仲にまで発展することもあります。人と人ですから、エージェントも『自分の大切なお客さまはこの人にアテンドしてもらいたい』と思うはずです。地域通訳案内士がエージェントの信頼をつかみ取ることは、自らを売り込むセールスチャンスであり、広島県のファンを増やすチャンスでもあると考えています」(三浦氏)

本格的なインバウンド回復に向けて歩みを進める

2023年3月には、第2回目となる欧米各国とオーストラリアの旅行会社に向けたイベントを開催した。現在は、アフターセールスにつながる確度を上げるため、海外エージェントの募集ルートを再検討するなど試行錯誤を重ねながらノウハウを築きつつある段階という。

写真:左から山本昌弘、玉垣雅史氏、三浦真氏

玉垣氏は今後への期待をこう話す。

「私も含めて、広島県民は地元に対する愛情がとても強い。観光産業の活性化はもちろんですが、シンプルに『こんなに綺麗な自然がある』『こんなに楽しい経験ができる』ということを多くの方に知ってもらいたいのです。海外エージェントに向けて広く情報を発信できるオンライン商談会は、観光連盟だけでは成し得なかった非常に良い仕組みと感じています。今年5月には、G7広島サミットの開催も予定されています。この機を捉え、TradingSquareを有効活用しながら、世界に対して広島県の魅力をさらに発信していきたいと考えています」

また三浦氏は、「協議会としてより多くの海外エージェントを呼び込めるかが今後の課題」と話し、こう続ける。「接点となる、TradingSquareには期待値を超えるコンテンツが揃っている状態にすることが大切と考えています。参加する広島県の観光事業者にも『セカンドオフィシャルサイト』としてTradingSquareを日々更新してもらいながら、商談会翌日から公開した特設サイトでも海外エージェントの興味を引く特集を組んで積極的に情報発信をしていきます。さらに、各種の問い合わせに対応できる機能や今後必要となる体制なども整えたいですね」

オンライン商談会の将来像を見据え、BIPROGYにはすでに新たな要望も寄せられている。山本は、「商談会では、海外エージェントと観光事業者のマッチングとスケジュール調整の面で協議会が苦労されていると伺いました。この点はデジタルの力で見える化し、負担を軽くできると考えています。今後も定期的なミーティングでフィードバックや改善要望を頂き、協議会に伴走しながらTradingSquareをブラッシュアップしていきたい」と話し、意欲を見せる。

オンライン商談会が身を結び、県内の至る観光スポットに外国人観光客を呼び込むことができれば、同様の課題を持つ他県にも座組を横展開することができる。さらに、岡山県や山口県といった広島に隣接する県もオンライン商談会を行えば、県をまたぐ周遊ツアーをそれぞれの県がPRすることで相乗効果も生まれるだろう。インバウンド需要回復の兆しが見えつつある今、“穴場”と言われる観光スポットが外国人観光客でにぎわう日も近そうだ。

外国人観光客が広島県の穴場スポットを巡るムービーの一場面。
吟醸酒発祥の地とされる、東広島市安芸津町。その酒蔵の1つである柄酒造でゲストが日本酒を手に取っている(動画配信元:協議会メンバーである一般社団法人 地域創生グローバル人材支援協会)。

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