トップインタビュー・齊藤昇新社長に訊く

BIPROGYが描いてきた軌跡と、紡ぎ出す明日への物語

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多彩なステークホルダーとの共創を通じて、社会的価値の創出と持続可能な社会づくりに取り組むBIPROGYグループ。Purpose(企業の存在意義)を明確にし、未来に進み続けている。2024年4月1日には、代表取締役専務執行役員CMOだった齊藤昇が代表取締役社長CEOに就任し、今後に向けて着実な一歩を重ねようとしている。本稿では、齊藤がキャリアから培った思いや、経営トップとしての在り方、2024年度から2026年度に向けた新たな経営方針などを踏まえて「未来に向けてBIPROGYグループをどのように舵取りしていくのか」について聞いた。

ヘッドライン

転機となったCMO就任と、「キャナルベンチャーズ」の設立

――まずは、これまでのキャリアや大きな転機になった出来事を教えてください。

齊藤1986年に入社し、アパレル業界や流通業界、ビジネスイノベーション分野の営業責任者などを担当してきた私にとって、2016年にCMOとして広報や商品企画、グループマーケティングなど営業以外の業務を経験したことは大きな転機でした。さらに大きな挑戦となったのは2017年です。この年、CVC(※1)である「キャナルベンチャーズ」を立ち上げました。2020年まで同社CEOとして活動してきましたが、CVCでの取り組みはこれまで経験してきた世界とは全く違い、大手企業のお客さまを中心としたBtoBの常識が通用しません。何よりも商品やサービスを売る立場からスタートアップの価値、そしてそこから生まれ得る新規事業の価値に投資する立場に変わったことや、スタートアップ・エコシステムの一員となり、イノベーションの源泉となるスタートアップと連携する立場になったことは大きな変化でした。

  • ※1CVC:コーポレート・ベンチャー・キャピタルの略。事業会社が自己資金でファンドなどを組成し、未上場のベンチャーやスタートアップに出資等を行う活動組織を指す

キャナルベンチャーズ立ち上げの大きな目的は、新領域に挑戦し続けるスタートアップとの共創を通じて、私たちの視野を広げつつ持続的にイノベーションを創出し、社会への提供価値を拡大させることです。そのために、日米のベンチャーキャピタリストなど多くの人たちと意見交換してスタートアップを社内につなぐ活動をしてきました(参考:鼎談:スタートアップから学び、お客さまと共に未来を創る)。そこで培ったノウハウや人的なネットワークは私の大きな財産です。

写真:齊藤 昇
BIPROGY株式会社 代表取締役社長 CEO
齊藤 昇

――2019年には、「経団連スタートアップ委員会」の企画部会長に就任されています。それもCVCの文脈から派生したのでしょうか。

齊藤企画部会長に就任する少し前、経団連の会合に参加する機会がありました。経済産業大臣も出席されるレベルの会合だったのですが、この場で「スタートアップと大企業との付き合い方」について意見を求められ、せっかくの機会なので、少しばかり“爪痕を残そう”と「大企業とスタートアップの違い」「一緒にやっていくことの難しさ」「大企業としてとるべき立場」など忌憚のない意見を述べました。

私の率直な意見、または大胆な行動が、当時企画部会長であったKDDIの高橋誠さんの目に留まったのか、後任に推薦していただくことになりました。それらが契機となり、東京大学の特定研究成果活用支援事業外部評価委員会の外部評価委員や、セイコーグループの社外取締役への就任などの社外活動が広がっていきました。

写真:経団連スタートアップ委員会主催のピッチイベントの様子
2024年1月に実施された経団連スタートアップ委員会主催のピッチイベント
「KIX(Keidanren Innovation Crossing)」の様子
(公益財団法人大阪産業局、一般社団法人ナレッジキャピタルの協力を得て大阪にて開催)

グループ初の社外取締役にも就任。分野を超えて培われた“起業家精神”

――他社の社外取締役に就任する事例はBIPROGYでは初とのことですが、社内のハードルは高かったのではないでしょうか。

齊藤新しいことに挑戦するには勇気が必要です。ただ、命まで取られることはないのですから「やれることはやろう!」と常に思っていました。また「先陣を切る」姿勢が次代の道を切り拓く、という信念もありました。そして、何より社外活動はイノベーションの源泉となり得る重要な活動です。社内にない見識が得られますし、仕事以外の人脈も広がります。セイコーグループは国際的にブランドビジネスを展開しているので、 グローバルビジネスのポイントを深く学ぶ機会にもなっています。「何事にもチャレンジし、学びを次につなげる」姿勢は自分らしさの1つだと思っています。

――その姿勢はこれまでの経験から培われたかと思います。手がけてきた事業で思い出に残っているものにはどんなものがあるのでしょうか。

齊藤事業の拡充・展開だけでなく、新機軸のソフトウエア開発にも挑戦してきました。例えば、次世代の流通向けソリューションである「CoreCenter」シリーズもその1つ。メンバーと企画したものを経営陣に提案し、大きな投資を受けて世の中に出すことができました。

また、私がゼロから手がけたものではありませんが、「電子バリューカード事業」の成功も大きな意味がありました。これも従来とは全く違うビジネスでしたので電子決済を行う米国企業と交渉したり、日本のカード会社と連携を図ったりと、多種多様なトライアルを積み重ねました。もちろん、すぐにビジネスとして軌道に乗せることができたわけではなく、お客さまにご迷惑をおかけすることもありました。その度に、リカバリーに奔走したものですが、歩みの1つひとつが新会社「キャナルペイメントサービス」の設立と当社グループの幅広い決済事業サービスにつながっています。

写真:齊藤 昇

オープンイノベーションを通じて、“共創”文化を社内に醸成

――他社では、CVCが社内から浮いてしまう事例もありますが、キャナルベンチャーズのCEOとしてはどんなことを心掛けていたのでしょうか。

齊藤キャナルベンチャーズ設立には、「オープンイノベーション」を活用して自社単体では実現できない価値創出を実現する、という狙いがあります。そのためには、社内連携が不可欠。「(未知の領域であっても)この人のためなら」と思ってもらうきっかけづくりや、「オープンイノベーション」という聞き慣れない言葉に対して社員がアレルギー反応を起こさないようにすることが重要でした。そこで、スタートアップを近くに感じてもらうさまざまな活動を行ってきました。その1つが「Morning Challenge」です。2017年から1カ月に一度、朝8時からスタートアップの技術やサービスを紹介する場として開催しています。情報を届けることや文化をつくることの大切さを意識しながら継続してきました。

写真:齊藤 昇
写真:「Morning Challenge」の様子
2024年3月の「Morning Challenge」の様子。
リアルとオンラインのハイブリッドで開催された
(会場はBIPROGYの豊洲本社1階にある BIPROGY LOUNGE)

コロナ禍以前は、約60人がリアルで集まってコーヒーを飲みながら情報交換をしていましたが、コロナ禍ではオンラインで気軽に参加できるようになり、700~800人が参加するまでになりました。この取り組みによって、社内でオープンイノベーションへの理解が進み、社内で頑張る人にスポットを当てるきっかけづくりや、チャレンジする文化を定着させる後押しになったと自負しています。また、自主的に挑戦したいという人たちを支援する役目を果たせたと思っています。7年間継続してきたこの取り組みは、今年度からはさらなる活性化への期待と共に現CMOに託し、私自身は新たに「Meetup Lounge」と称してグループ役職員との交流、意見交換の場を企画しているところです。

社員一人ひとりが輝く唯一無二の企業に。BIPROGYが描く「未来」への思い

――BIPROGYのDNAは、どんなところにあるとお考えでしょうか。

齊藤よく言われるのは「完遂する力」や「逃げない姿勢」です。私は、それに加えて「未踏の領域に挑戦し、そこで得た学びを積極的に取り入れていく」ことも、BIPROGYのDNAだと思います。例えば、私たちは銀行の勘定系システムを世界で初めてWindowsベースで構築した「BankVision」を提供しています。これは、利益の確保や従来の発想にとらわれずにお客さまの立場からニーズに応えてきた結果の1つです。新機軸で発想し、挑戦し、成功してきた背景には、実行力と共にたとえ他社製品やサービスであれ良いものは取り込み、「お客さまに新たな価値を提供したい」という私たちの思いと、試行錯誤が確かに存在します。

私自身も、営業時代は新しい組み合わせによる価値創造に挑戦してきました。物流のお客さまを担当した際には、自動ピッキングシステムを他社の製品とコーディネートして提供したこともあります。初めはうまく動かない事態もあり、毎朝早くにお客さまの物流倉庫に行って稼働を見守ることを何カ月も続けました。伝票を運んだり、出荷の手伝いまでさせていただいたりしたことを思い出します。また、アパレルのお客さまを担当した際は、工場で課題を聞くだけでなく、お客さまの製品である洋服を数多く購入しました。 「お客さまの役に立ちたい」という姿勢を持って、お客さまのことを知ることが新しい価値提供の第一歩である――。その在り方が信頼関係を築いていくと信じているからです。

――今後、どんなDNAを強化していきたいと考えていますか。

齊藤主に2つの点を強化していきたいと考えています。1つ目は、人財戦略のさらなる強化です。 一人ひとりが洗練された課題発見力と強力なビジネスプロデュース力を身につけ、プロフェッショナルとして課題解決に向けた実践力を持つための施策を展開していきます。2つ目は、グローバルビジネスの拡大です。少子高齢化などを背景に日本のマーケットは小さくなっていきますからグローバル化は避けては通れません。新しい知財だけでなく、新しい海外パートナーとのコミュニケーション力や、企業の潜在力や将来性などを推し測るデューデリジェンス(※2)の力も必要になります。グローバル化はチャレンジングな領域ですが、すでに踏み出した一歩を礎に私たちのDNAをさらに磨き上げながらやり切りたいと思っています。

  • ※2デューデリジェンス:投資に際して投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することを指す

――2024年度は、新経営方針の初年度です。方針の骨子について教えてください。

齊藤従来の「コア事業」と新しい「成長事業」の両輪で、社会的価値と経済的価値の創出を図ります。まず、コア事業の推進エンジンはお客さまのDX化支援にあります。コア事業の拡大のために「ファイナンシャル」「リテール」「エネルギー」「モビリティ」「OTインフラ(※3)」という分野に集中して投資を行い、お客さまの課題解決の中で生まれる各種アセットを次のビジネス創出と提供価値拡大につなげる循環サイクルを生み出します。

  • ※3OT:Operational Technology(オペレーショナルテクノロジー)の略。交通やライフラインなどの社会インフラにおいて、必要な製品や設備、システムを最適に動かすための制御や運用技術を指すことが多い。

次に新しい成長事業としては、「市場開発」「事業開発」「グローバル」を3つの柱と考えています。「市場開発」では成長市場でありながら、当社グループが十分にシェアを獲得できていない分野にしっかりと入り込み、サービス領域を拡大していきます。例えば、お客さまの経営判断を支援するデータ/AIの利活用サービスなどがこれにあたります。「新事業開発」の面では、新たなサービス領域の獲得や成長市場の深耕に加え、社会課題を解決するDX事業を開発・共創・展開します。「グローバル」に関しては、例えば、ASEAN主要国においてセキュリティやマネージドサービスなどで大きな商機があると考えていますので、日本企業の進出支援だけでなく地元企業との取引を開拓していきます。

そして、コア事業と成長事業を支える企業基盤強化の側面では、グループ社員全員が能力やスキルを拡げていくための人財戦略を描きます。この中では、「先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出し、持続可能な社会を創出する」というBIPROGYのPurposeに社員一人ひとりが向き合うように働きかけ、一人が複数の役割を担うイントラパーソナル・ダイバーシティの自律的な達成を促すためにROLES(※4)という考え方を進化させるなど、Vision2030の実現に向けてしっかりと足場を固めていきます。

  • ※4ROLES:ロールズは、BIPROGYグループにおいて、個人内多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)の促進と経営に必要な人的資本/資源を可視化し、強化する目的で推進する施策名称(正式名称は「ROLES Foresight®」)。
写真:笑顔の齊藤

――最後に、「BIPROGYの未来の姿」について教えてください。

齊藤「お客さまやパートナーをはじめ、あらゆるプレイヤーとコラボレーションしてICTで社会課題を解決していく姿」、つまりVision2030の実現です。それは私たちの存在意義にもつながります。未来社会の実現には、経済的価値を追求するだけではなく、「社会にどんな価値を提供できているのか」が鋭く問われます。

この問いに、BIPROGYとして真摯に応え続けることが唯一無二の存在意義を生み出し、社会に必要とされる企業になる道だと考えています。そのためには、社員一人ひとりが熱い想いと多様なスキルセット、そして誇りを持ち、光り輝く存在になることが大切です。一人ひとりの輝きが集まると強力なパワーが生み出され、企業も輝く。その魅力から、「共に社会課題を解決したいパートナー」として想起いただく存在となることで、共感の輪(=デジタルコモンズ)が拡がると考えています。

私が座右の銘としているのは「自主協調」 です。私が通った高校の校訓ですが、“個性を伸ばして自らが主体となり、周囲を尊重して協力し合う”という意味です。エコシステムで社会課題を解決するには、自らが輝いて主体となりながらも、さまざまなステークホルダーとの連携が欠かせません。当社グループのありたい姿を考えたとき、改めてこの言葉が心に染み込んできました。2030年はもちろん、その先の遥かな未来を見据え、一歩ずつBIPROGYは挑戦と進化を重ねながら進んでいきます。

Profile

齊藤 昇(さいとう のぼる)
BIPROGY株式会社 代表取締役社長 CEO
1986年、バロース(現・BIPROGY)入社。アパレル営業所長や流通事業部長、ビジネスサービス事業部長などを歴任し、異業種企業との協働により数々の新規事業を立ち上げ、2013年に執行役員に就任。2016年から取締役常務執行役員 CMOを務める。キャナルベンチャーズ設立に際し、2017年から2020年まで同社代表取締役CEOを兼務。2019年より日本経済団体連合会スタートアップ委員会企画部会長、2020年には東京大学特定研究成果活用支援事業外部評価委員会 外部評価委員に就任。2022年6月にセイコーグループ社外取締役に就任。2024年4月に、BIPROGY株式会社 代表取締役社長 CEOに就任。

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