可能性の芽を育む“ゆるやかにつながる”コミュニティ「Morning Challenge!」

オープンイノベーションを促す場づくりの軌跡とこれから

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デジタルコモンズの実現や次世代に向けた新しい価値創造を目指し、BIPROGYは多角的な取り組みを推進している。その1つが、2017年2月にスタートしたオープンイノベーション創造の場「Morning Challenge!(モーニングチャレンジ)」だ(毎月1回程度、朝8時から開催)。新たなビジネス創出に挑戦する社員などに向けて、スタートアップの優れた技術やアイデアを紹介するとともに、一人ひとりが気づきや感じたことを共有し、さらなる価値創造に向けて刺激し合えるコミュニケーションの場として開催されている。2018年には、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが発行する「オープンイノベーション白書(第二版)」で紹介された。コロナ禍にも柔軟に対応しながら進化を続け、2023年現在の参加者は常時500人を超えるという。社内外からも注目を集めるこの取り組み。今回は、発足経緯や進化の過程、今後について取り組みの原点となったスクラムベンチャーズの宮田拓弥氏のコメントも交えつつ、発起人である北上峰子、松岡亮介、青山泰が語り合った。

ヘッドライン

職位や部署の垣根を越え、人と人とが“ゆるやかに”つながる場へ

第1回目の「Morning Challenge!」がBIPROGY本社で開催されたのは、2017年2月14日のことだ。始業前、8時からの50分間、このイノベーション創発の場に100人超の参加者が集まった。その立ち上げの経緯について、オープンイノベーション推進室の北上峰子は次のように説明する。

写真:北上峰子
BIPROGY株式会社 グループマーケティング部
オープンイノベーション推進室主任
北上峰子

「社内でコミュニケーションを取る相手は、どうしても自分の知り合いや同じ部署の人に偏りがちです。オープンイノベーションの加速のためには部署や役職、役割を超えて会話をする機会をつくりたい。そのためのきっかけになる場を、と考えました」

「Morning Challenge!」とは

スタートアップやイベントの情報×仲間(社内)の取り組み×自分事として考えるきっかけ
新たなビジネス創出に挑戦する社員に向けてスタートアップの優れた技術やアイデアを紹介する場。それだけでなく、オープンイノベーションを推進するための風土づくりやそれを応援する社員一人ひとりが気づきや感じたことを共有し、さらなる価値創造に向けて刺激し合える場として取り組まれている。想いのある社員は誰でも自由に参加できる。

同じくオープンイノベーション推進室の松岡亮介は「当時、オフィスをフリーアドレスにするなど、多くの企業が社内活性化やイノベーション創出に向けたさまざまな取り組みを始めたタイミングでした。普段あまり会話をしないような人同士が接することによって起こる『セレンディピティ(偶然がもたらす幸運)』を狙ったのも目的の1つ」と語る。

写真:松岡亮介
BIPROGY株式会社 グループマーケティング部
オープンイノベーション推進室 室長
キャナルベンチャーズ株式会社 取締役
松岡亮介

その実現に向けては、まずは役員たちの説得に回ったという。北上と松岡はそれぞれ当時をこう振り返る。

「役員のみなさんにも、『一個人として参加して社員たちとの交流を楽しんでほしい』と伝えました。多くの方は『面白そうだね!』と言ってくださり、一部の方には『えっ……?』と戸惑いの声をいただきました」

「世間一般的には、『予算や時間をかけるのだから、どれだけの効果が得られるのかを示しなさい』との話になると思うのですが、多くの役員が、『効果がすぐに見えなくても、みんなで一歩踏み出そう』と賛同してくださったことが、スタートの後押しになりました。すごくありがたかったですね」

とはいえ、最初からうまくいったわけではない。「手探り状態だった」と北上は言葉を続ける。「最初は出席者同士で会話が弾むこともなく、みんな『ふーん』と登壇者が発表するお話を聞いている状態でした。でも、このような機会をつくることが第一の目的だったので、『とにかく継続しよう』と思いました」

Morning Challenge!が目指したのは、「ゆるやかなコミュニティ」だ。

「もちろん、最終的なゴールは新しいアイデアの事業化です。でも、事業化だけに注力しすぎると続かないと思ったんですよ。例えば、事業化を第一義として置くと、フィンテックやブロックチェーン、IoTなどその時々のテーマの中で事業化が見込めそうなアイデアかで終わってしまう。そうではなく、『アイデアを出し合う土壌が会社にあると実感できる』ことや、『アイデアを誰かに話したくなって周りが巻き込まれていく』こと、こうした良い循環の文化を創造することが大切と考えました。その“ゆるやかな”コミュニティが、やがて次へ次へとつながっていくことを期待しました」(松岡)

参加者には、ベーグルとコーヒーを提供する。これも運営チームのこだわりだったという。松岡はこう続ける。

「ゆるやかなコミュニティには、私見ですが、一定のおしゃれさと居心地の良さが必要なんじゃないかと考えました。だから、おにぎりとお茶ではダメだったんです(笑)。ベーグルとコーヒーだと、いかにもポジティブな会話が生まれそうじゃないですか」

「いやぁ、それも本当に試行錯誤しましたよね。ベーグルを早く来た人だけ食べられるよう数量限定で出したこともありました。開始前にベーグルをかじりながら、役職や部署を超えて会話が生まれる。自然と仲間になれる雰囲気づくりに心を砕きました」(北上)

第1回「Morning Challenge!」の様子

写真:第1回「Morning Challenge!」の様子
第1回目はまだ硬い雰囲気。試行錯誤を重ね、役職や部署の垣根を越えてコミュニケーションしやすい雰囲気をつくっていった

席の配置なども劇場のような配置にしてみたり、円状にしてみたり。さまざまに試行錯誤した。この結果、参加者が前方のスクリーンに向かって座る形に落ち着いたという。また、あえてテーブルは置かずにパソコンを開きにくい環境も意識した。パソコンを開ける状況では、どうしても仕事をしてしまう人が出てきてしまう。そうではなく、Morning Challenge!に集中してほしいと考えたからだ。

多様なトライアルを行う中で、出席時間を業務時間に含めるかどうかも課題の1つだった。この点は、人事部と相談した結果、各部署の判断に任せることになった。ただし、意義を理解してもらうために運営メンバーが直接、参加者の上司に説明することもあるという。「何事もガチガチに決めすぎない。その曖昧さが参加しやすい雰囲気をつくるのでは」と松岡は語る。

ただ紹介するのではなく、「一緒に何ができるか」考える

コンテンツも試行錯誤し、初期から大きく変化させた。その始動から1年ほど経った頃、参加者が減少、かつ、固定化してしまったことがきっかけだった。

「当初は、数社のスタートアップ企業をカタログのように紹介するスタイルでした。そうすると、参加者の担当領域ではない情報には興味がわかない場になってしまう。各企業の事業や技術のすごさを伝えるだけではなく、私たちは、スタートアップ企業とどのようなかかわり方ができるのか、どんな面白いことができるのかを考える『ストーリー型のコンテンツ』に変えたんです」(松岡)

「やはり現場の人たちは、自分に関係ある業界の情報がほしい。でも、特定業界に閉じてしまったら、オープンイノベーションにはなりません。『自分には関係ないと思っていたけれど、話を聞いてみたら何かつながりそうだと思えるようなきっかけづくりがしたい』。その原点に立ち返って、徐々に変化させていきました」(北上)

こうしてBIPROGYのオープンイノベーションへの取り組みは社内外で注目を集め、2018年にはオープンイノベーション創造協議会(JOIC)&新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が発行する「オープンイノベーション白書(第二版)」にその取り組み内容が紹介された。

しかし、2020年に世の中はコロナ禍に突入。一時は継続が危ぶまれたものの、運営チームは同年3月からいち早くオンライン開催への切り替えを決断した。

「今でこそ100人以上が参加するウェビナーは当たり前ですが、当時はネットワーク環境も不安でしたし、とにかく手探り状態でした。でも、『社内なんだから、何かトラブルが起きてもいいじゃん。誰もやったことのないことだけど、やってみよう。それがMorning Challenge!だよね』と、日程も時間も変えずに開催しました。地方支社店の社員からも『待ってました!』という声が多かったです」と北上。松岡もこう補足する。

「在宅勤務に切り替わったことで、イベントを開催する朝8~9時と重なる通勤時間帯がちょうど空いたんですよね。それで、オンラインに切り替えたこともあって参加者が一気に増え、300人くらいになり以降、回を重ねる度に増えていきました」

オンライン開催をきっかけに、地方支社店やグループ会社のメンバーを加え、裾野が広がった。前述したカタログ型からストーリー型に転換したコンテンツも研ぎ澄まされていった。「オンラインだと特に、ただカタログ型の発表を聞いていてもつまらないんですよ。ある種の仮説に基づくストーリーを聞いているほうがイメージもしやすく、楽しく参加できます。結果的に半年で600人にまで参加者が増えました」(松岡)

一方、オンラインならではの課題もある。リアルな場で人と人が出会うことで生まれる「セレンディピティ」の要素が薄くなっていることだ。今後は、リアルとオンラインのハイブリッドにするなど、新たな展開を模索しているところだ。

ICTから離れた分野や領域もテーマとして考える「苦しさ」と「楽しさ」

コロナ禍以降、企画・運営にも携わる青山泰は、主にシナリオづくりを担当している。その思いを次のように話す。

写真:青山泰
BIPROGY株式会社 グループマーケティング部
オープンイノベーション推進室 事業協創グループ グループリーダー
青山泰

「企画会議の場では、登壇者と『どういったメッセージを参加者に持ち帰ってもらうか』を決めます。それがその回のタイトルになります。事例や商材を単に紹介するカタログ型ではないので、『〇〇社紹介』というふうに、社名がタイトルにはなることはありません。その後、当日の進行シナリオをつくりながら登壇者と打ち合わせを進めていきます。コロナ禍以降、オンライン環境の普及で参加者も増え、その期待値が高まっているのを感じます。プレッシャーも大きいですが、期待に応えることがモチベーションにつながっていますね」(青山)

「Morning Challenge!」のテーマの一例

図:「Morning Challenge!」のテーマの一例

自身が担当する領域や分野であれば、社員たちもそれぞれアンテナを張っているため、情報感度も高い。ただ、Morning Challenge!ではそこから少し外れた分野や、1~2年後に可能性が広がりそうなマーケットに対してテーマ設定することを意識している。最近では、生成AI「ChatGPT」をテーマにした回は大反響を呼んだという。

「やはり自分が考えた企画が参加者から大きな反響を得られると嬉しいですし、たとえ反響が少なくても、じゃあ次回どうするかと工夫しながら考えていくのが楽しい。その魅力に取りつかれ、やめられなくなっています(笑)。また、参加者がイベントの話題をお客さまに話してくれていると聞くことも、とてもうれしい瞬間」と青山は笑顔を見せる。

「参加した社員たちがお客さまとの商談で話題にすることで、『BIPROGYは面白いな』と感じてもらって既存事業の受注の後押しになったり、新しいことを一緒にやりたいと思ってもらえたりする効果も期待するところです」(松岡)

写真:宮田拓弥氏

スクラムベンチャーズ
創業者兼ジェネラル・パートナー
宮田拓弥氏

――まずは、スクラムベンチャーズの取り組み(「Tackle!」)を参考に始動した「Morning Challenge!」ですが、その印象を教えてください。

私が参加をさせていただいた際に特に印象的だったのは、「幹部のコミット」です。朝からの開催でしたが、齊藤専務自らイベントをリードされていました。こうした取り組みは往々にして、現場がリードして、幹部の方は参加をしていても受け身であることが多いのですが、幹部がイノベーションに前向きである姿勢が強く伝わりました。

――Tackle!において、スクラムベンチャーズが日本企業の方々とコミュニティ形成を進めるにあたって注力している点を教えてください。

毎回アンケートをとりながらPDCAを回すことを意識しています。イベント終了直後にアンケートを送ることで参加者の方々から多くのフィードバックがいただけます。そのフィードバックから、どんな内容が期待されているのか、改善点はないか、などが把握できます。そうしたインプットを必ず次の回に反映させることで、参加者の方々のエンゲージメントを高めることができると考えています。

――オープンイノベーション推進を企図した取り組みは近年増加傾向にあります。しかし、志半ばで頓挫するケースも生まれがちです。その難しさについて、宮田様の視点からコメントいただければ幸いです。

イノベーションのJカーブを理解することが大事です。例えば、今であれば生成AIにみなさんの注目が集まっています。新しいソリューションを導入することですぐに見える効果もあるかもしれません。ですが、多くの場合、新しいイノベーションやスタートアップとの共創の成果が得られるまでには時間がかかることも多い。このため、1~2年という視点でなく、3~5年という長期的な視点を持つことが大事です。今であれば2030年の未来を見据えながら取り組めるかが肝になります。

――最後にBIPROGYおよび「Morning Challenge!」への期待についてお聞かせください。

さまざまなカテゴリーの企業のDXをリードする立場にあるBIPROGYが、イノベーションにコミットしていることを大変心強く感じています。この取り組みのような活動はすぐには成果に現れない地道な取り組みですが、長期的な視点でイノベーティブな雰囲気の醸成、コミュニティパワーの育成に役だつと考えています。これからもぜひ日本企業のイノベーションをリードしていってほしいと思います。

スピンオフ企画も誕生! 試行錯誤しながら進化し続ける

スタート当初、Morning Challenge!は新たなアイデアや交流の創出を企図していたが、現在は「得た気付きをそれぞれの部署に持ち帰ってもらうことが一番の狙いになっている」と松岡は話し、こう続ける。

「50分という限られた時間なので、その場ですぐに答えが出るわけではありません。何ができるかではなく、これからに向けて一緒に何ができそうかを参加者が持ち帰ることが大事なんですよね」

実際、参加した人が、自分の部署の部会やグループ会などで内容を伝える機会も多くなっているという。参加者自体は部署に1人か2人でも、その参加者が伝道者となり部署全体に広がっていく。

写真:今後の展望について語る3人

今後の展望について、3人は次のように語る。

「自分が今50代に近づいたことで、次世代を担う若者を応援したいとの思いが強くなっています。Morning Challenge!をきっかけに、社内外の若者たち同士が接点を持ち、社会課題の解決につなげられるようなきっかけづくりをしたいと思っています」(青山)

「続けてきて感じるのは、やっぱり人の話を紡いでいくのって難しいということ。それがうまくできるようになったら、オープンイノベーションがより加速しやすくなると感じます。出会っただけでなく、その人から聞き出す、その人を知ることができるようになれば、さまざまな可能性の組み合わせが生まれると考えています。そんな良い循環の基点として、今後も発展していければと思います」(北上)

「ゴールは、やはり事業を起こすこと。今後も、手探りの部分はあるものの、互いを尊重し合いながら前に進んでいきたい。そうすることで、思いもしなかった社会課題解決の可能性にたどり着けると信じています」(松岡)

2023年5月からは、スピンオフ企画「モアチャレ!」もスタートした。タイトルには、Morning Challenge !の愛称である「モーチャレ」に「もっと知りたい」という思いを加えた。イベントで取り上げた特定のテーマを参加者全員で自由に会話をすることで、より深掘りしていくものだ。すでに3回開催され、それぞれ100人以上が参加するなど新たな盛り上がりも生まれている。スタートから6年を迎えたMorning Challenge!は、今後も進化を続けていくことだろう。

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