「BIPROGY」に込めた思いと未来社会への展望

“変わらぬ思い”と“しなやかに変わる強さ”を胸に社会変革の先頭に立つ

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日本ユニシスは、「BIPROGY(ビプロジー)」への社名変更(2022年4月1日付)という大きな決断を行った。これまでも多様なステークホルダーとの共創から得た経験・実績を発展させた「デジタルコモンズ」の提唱をはじめ、さらなる価値創造に向けた「Purpose(企業の存在意義)」の提示や2030年を展望した「Vision2030」の策定など各種メッセージアウトも行い、変革への着実な一歩を重ねている。本稿では、コーポレートブランド刷新の舞台裏に加え、BIPROGYという名称の誕生秘話、そして未来社会への貢献に向けた思いを日本ユニシス株式会社代表取締役社長の平岡昭良に聞いた。

既成概念に縛られない大胆な発想でリブランディングに取り組む

――社名を「BIPROGY」に変更するという大きな決断をされました。その背景をお聞かせください。

平岡 私自身、日本ユニシスという社名には強い愛着を持っていますが、同時にもどかしさを感じていました。現在、日本ユニシスは米国のユニシス・コーポレーションと資本関係にはありませんが、技術提携を通して共に成長していこうとする良好な関係にあります(参考「強固なパートナーシップを構築し社会課題を解決していく」)。しかし、私たちが赤色の「UNISYS」というロゴマークを海外で使用することには制限がありました。使用する場合には、協議の上で事前了承が必要だったのです。

例えば、イタリアで開催された2015年のミラノ万博(ミラノ国際博覧会)のことです。ミラノ万博においては、多様性を訴求した日本館の展示が好評を博し、展示部門の金賞を受賞しました。日本における自然と技術の調和をデジタルの力で伝えたこの展示には、私たちもご協力させてもらったのです。しかし、グローバルなイベントのためロゴマークを使うことができずに、看板には「Nihon Unisys, Ltd.」と黒文字で記載する形となりました。とてもショックを受けると同時に「いつか社名やロゴマークを変える日が来るのではないか」と感じていました。

写真:平岡昭良
日本ユニシス株式会社
代表取締役社長 平岡昭良

――それが社名変更のきっかけとなったのでしょうか。

平岡 直接のきっかけは2018年に開始した中期経営計画を策定する議論の中で、当社の存在意義を議論したことです。前中期経営計画では「ビジネスエコシステムで社会課題を解決する」ことを掲げ、新しい中期経営計画においてはさらなる飛躍を検討していました。「企業として成長し、世の中から必要とされるためにどう行動すべきか」を考えるために2018年の秋には「未来シナリオを描こう」というプロジェクトも立ち上げました。社内有志による合宿を行い、100回以上も議論を繰り返し、この中でたどり着いたのが「デジタルコモンズ」というコンセプトです。

デジタルコモンズは、公共の利益のための共有財を意味する「コモンズ」の進化系です。「デジタルで拡張された知識と共有のコモンズ」と言い換えることもできます。デジタルの力を使って社会的価値と経済的な価値を両立させることで、持続的な社会づくりのための良好な循環を生み出します。デジタルコモンズの実現には、デジタルの世界に閉じるのではなく、テクノロジーの可能性を引き出し、アナログもリアルも合わせて世界を変えることが必要です。これこそ私たちが目指すものだと考えるようになりました。

しかし、当社は社外からはICTベンダーとして見られていて、社員たちもICTからの発想に縛られています。しかも日本国内だけではデジタルコモンズは実現できません。ボーダーレスな活動が必要です。デジタルコモンズは今までの活動の延長上ではなく、既成概念を超えて社会課題を広く捉えなければなりません。社外からの見られ方や社員の発想を大きく変えるにはどうすればよいかと考えたときに、手段の1つとして社名変更が再び脳裏に浮かび上がりました。社名やロゴマークを変えることは、社内外に私たちの思いやメッセージを伝えることにもなります。そう考えた私は、2019年の夏から米国ユニシス・コーポレーションの幹部とも議論を重ね「何があっても友好的な技術提携関係は変わらない」との合意を得た上で社名変更の準備に取り組みました。しかし、そこに新型コロナ感染症によるパンデミックが発生し、一旦プロジェクトを止めざるを得ない状況になりました。

――先行きの見えない状況だったので一旦ストップすることも当然だと思えますが、2021年5月には社名変更を発表されました。そこにはどんなお考えがあったのでしょうか。

平岡 新型コロナ感染症拡大防止のために緊急事態が宣言されるなど、私たちの日常の行動や企業のビジネス活動は大きく制限されました。一方で、持続可能な社会に向けた課題解決への機運はいままでになく高まりました。デジタルコモンズは、こうした課題を解決するために必要なコンセプトです。2020年9月からは状況を見つつ商標登録などの各種準備は進めていました。社内的な議論を進め、2021年の1月に「変革が求められる今こそ社名変更のタイミングだ」と考えて社名変更に向けた決意を固めました。5月7日の取締役会で、2022年4月1日付で社名を「BIPROGY」に変更することを決議し、併せて2030年に向けて進む方向性を定めた「Vision2030」と「経営方針(2021-2023)」を発表しました。

造語の社名に込められた「唯一無二」と「多様性」への思い

――社名変更について外部の有識者などにも相談されてきたのでしょうか。

平岡 社名変更そのものというよりも、「持続可能な未来シナリオをいかに描くか」というテーマの中で多くの方々と議論し、核となるデジタルコモンズのコンセプトを磨き上げてきました。特に注力したのは、「このコンセプトは私たちが実現可能なものか」という点です。発想のきっかけは、未来に向けて日本が進む道を説いたジェレミー・リフキン氏の『スマート・ジャパンへの提言』(NHK出版、2018年)という1冊の本でした(参考「私の本棚 第1回 イノベーション」)。そこには、「コモンズ」がデジタルによって拡張されつつある点が示されていました。この感銘も契機としながら、私たちが取り組むことを意思表示するために「デジタルコモンズ」を商標登録しました。その後、デジタルコモンズの創造を当社の存在意義としたいと考え、国内外のさまざまな有識者とディスカッションを重ねてきました。これらを踏まえ、100ページ近い論文としてまとめて社員の皆さんに提供しています。2019年の秋にはハーバード・ビジネス・スクールで教授たちと1 on 1の議論を行うとともに、2020年の2月からスタンフォード大学教授のマイケル・シャンクス氏とチームを組んで世界の有識者にインタビューしながら考察を深めました。徹底した議論を積み重ね、コンセプトをより明瞭に磨き上げる中で、私たちがデジタルコモンズを手掛けることができる確信と「私たちが未来を担うのだ」との覚悟が生まれました。これらの経験を昇華させ、先に触れたVision2030はもちろん、「Purpose、Principles」としてメッセージアウトしつつBIPROGYへと生まれ変わる準備を進めていきました。

――新社名の「BIPROGY」はあまり聞き慣れない言葉です。なぜその社名になったのでしょうか。

平岡 完全な造語ですから、聞き慣れないのは当然です。社名については少人数のタスクフォースで検討してきましたが、最も心を砕いたのはこれまでの「日本ユニシス」を感じさせないものにする点です。既存のイメージに縛られることなく、「世界で唯一無二の企業」に成長したいと考えたからです。そのため、当初からアルファベットを使った造語を前提に検討しました。伝えたかったのは、デジタルコモンズの実現に向けて必要となる「多様性」です。持続可能な未来社会を実現するために、テクノロジーを用いてイノベーションを起こし続ける必要があります。そのためには、新たな視点や発見の源泉となる多様性が欠かせません。この部分を社名としても表現することを強く意識しました。

議論の結果、たどり着いたのが「光の反射」を表現することです。光は、さまざまな色が混じり合って照射されます。「未来を照らす光」を表現するために、光が屈折、反射した時に見える7色の頭文字を並べて社名とすることとしました。光は、組み合わせで見え方が変化します。同様に私たちが提供する価値も多様なパートナーと結びつくことで、「これまでの枠を超えていきたい」という思いや、固定観念にとらわれない多様性や柔軟性も表現できると考えました。まず決まったのは「Blue」を使うことです。これは私たちの住む唯一無二のコモンズである地球を想起させることから選択しました。これで最初の文字は「B」になりました。後は一般的な単語をイメージさせないように文字の組み合わせを試行錯誤し、「BIPROGY」という社名が出来上がったのです。

――「唯一無二の会社を目指す」決意をどのように伝えていくのでしょうか。

平岡 「BITS2021」(2021年6月開催)において、デジタルコモンズと共にBIPROGYへの思いについてお話しさせていただき、志と覚悟はお伝えできました。ご視聴いただいた皆さんも、新型コロナ禍という未曽有の状況を経験し、企業が社会的に果たすべき役割を実感していた折でもあり、「持続可能な社会の必要性や地球というコモンズを守るために国連や政府だけでなく民間企業も取り組むべき」と共感してくれました。

写真:平岡昭良

これまで日本企業は、概念を理解していても有効な行動に結びつかないケースも多かったと思います。SDGsへのコミットメントについても、事業の枠内で実現可能なレベルに落ち着いてしまいます。そうではなく実現に向かって最大限に努力する姿勢と思いが重要です。例えば、世界的な取り組みである国連グローバル・コンパクトへの署名も私はその覚悟を抱いて臨みました。経営はサイエンスとアートだといわれますが、その前提としてフィロソフィ(哲学)が大切だと思っています。つまり、「一人の人間として、社会とどのように関わるのか」です。コーポレートブランディングの刷新という過程を通じてこのフィロソフィを突き詰めることができたと感じます。今後は、デジタルコモンズをサイエンスとアートの両輪でつくっていかなければなりません。そこには社会課題を俯瞰し未来を変革する意志とデジタルの力が必要です。私たちがこれまで手掛けてきた経験やノウハウ、多くの皆さんとのつながりが大いに役に立つと考えています。先般発表した日本ユニシスグループの統合報告書にもこうした思いの一端を綴っています。ぜひご覧いただければ幸いです。

持てる力を結集して持続可能な未来社会を実現する

――持続可能な未来社会の実現に向けて御社はどのように行動していくのでしょうか。

平岡  Vision2030の実現に向け、2021年度からの経営方針において「For Customer(お客さまの持続的成長に貢献する顧客DXの推進)」「For Society(パートナーと共に社会課題解決を進める社会DXの推進)」を基本方針に活動していきます。この活動の先に、デジタルコモンズの実現があると考えています。そのために重要なのが「ナラティブ」。つまり、「物語性」です。自分事化して物語として思いを語ることが共感の輪を生み、多くの人を巻き込む原動力となります。私たちはこれまでの経験からその重要性を認識し、さらに課題解決に向けて多くのテクノロジーで見える化・見せる化し、お客さまが持つ知財やスタートアップの先進技術をつなぐ力を高めてきました。これらはデジタルコモンズの実現に向けて活用することが可能です。

例えば、「廃棄ロス」を無くすには、小売店の商品陳列に際して売れ残りのロスを生まないような対策も大切ですが、一歩前進し、「廃棄ロスという課題そのものを生まない」ための社会全体のパラダイムシフトが必要となるでしょう。店舗や企業グループの枠を超えて食品を冷凍保存して、相互に融通し合うような社会インフラの再設計をデジタルの力で構築できれば問題解決につながります。また、エネルギーマネジメント分野でもこれまでのノウハウが生きるでしょう。社会全体で見える化・見せる化することで需給バランスを最適化したり、家庭の電気自動車で蓄電ネットワークをつくったり、グリッド化した地産地消の送電網を利用することで安定的に電力を供給したりすることが可能になります。

――そこでは御社のスキルやノウハウが活用できるというわけですね。

平岡 可能性は無限大です。すでに動き出しているところもあります。前回の中期経営計画を実行してきたことで、いわば「ファーストペンギン」が社内に育っています。その姿に感銘を受けて行動につなげる社員も生まれています。こうした循環の中で社員の一人ひとりが気づかないうちに行動変容しています。ここ数年で社員の行動は大きく変化しました。これは社会的価値を生み出す源泉であり、経済的な価値を生み出す力です。社会課題を解決する力をさらに磨くことで、私たちは社会にもっと貢献できるようになる。水面下で力を蓄え、水面から上に出てくるまでには時間がかかりますが、その1つ1つの歩みや取り組みの中で、課題解決に資するシステムやサービスの社会実装が進みます。そしていずれは追加コストがかからずに多くの人々が利用可能な「限界費用ゼロ」の世界に突入し、デジタルコモンズが生み出されます。2018年からの取り組みを通じ、私たちは社会課題をエコシステムで解決するという「星」を見つけました。この星をつなぎ合わせることで「星座」になります。私は「星を星座にしよう」と口癖のように言ってきましたが、今その手応えを強く感じています。共有の資源を枯渇させるような「コモンズの悲劇」ではなく、持続可能性を高めて地球を次の世代に渡す「コモンズの奇跡」を実現すべく、BIPROGYはその先導役を果たしていきます。

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