熱論!ニューノーマル時代を生き抜く新しい組織とリーダーシップ

変革のカギは「失敗しても再チャレンジ可能な組織文化」

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新型コロナウイルスの感染拡大は企業のさまざまな課題を浮き彫りにした。今、多くの企業が激変する環境に対応し、「ニューノーマル時代」を生き抜くため組織やマネジメントスタイルの形を見直そうとしている。そんな中、「組織と人」をテーマに情報を発信し続けてきた2人による対談が実現した。今回は、「ニューノーマル時代」に対応した組織とリーダーシップの在り方について、Yahoo!アカデミア学長で「武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(2021年4月開設予定)」学部長就任予定の伊藤羊一氏と、日本ユニシス執行役員人事部 組織開発部担当の白井久美子が語り合った。

「ニューノーマル時代」に即応できる
リーダーや組織の条件とは

白井 新型コロナウイルス感染拡大という危機を受けて、リーダーの役割はますます大きくなっているように思います。Yahoo!アカデミア学長を務めるなど、リーダーシップの育成活動を続けてきた伊藤さんは、「ニューノーマル時代」にどのようなリーダーが求められているとお考えでしょうか。

伊藤 大きく2つあります。第1に、変化対応の重要性です。社会を見渡せば、今回のことで売り上げが激減した企業が多数あります。多様な業種のいろいろな会社が、さまざまな影響を受けました。これほどの環境変化が起こり得る前提で、変化に柔軟な対応ができる組織やリーダーシップの在り方を考える必要があります。第2に、マネジメントスタイルです。これまではリアルな職場で、マネジャーは何となく「マネージしている風」を装うことができました。オンラインのリモートワーク環境に移行する中で、そうした従来型のマネジメントスタイルの問題点が図らずもあらわになってしまった。チームメンバーに向き合い、適切なコミュニケーションを実践しているマネジャーと、そうでないマネジャーの差が明らかになったと思います。

写真:Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一氏(1)
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト、
Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一氏

白井 2点とも重要な視点ですね。共通する課題意識を感じます。まず、変化の観点で私たちの経験を紹介しましょう。日本ユニシスは6年前の中期経営計画で、大きな変革を掲げました。企業の存在意義を含めて見直し、SIerとしての実践力を生かし「社会課題を解決する企業」になると宣言しました。そのためには、グループ社員一人ひとりが変革を「自分事」として捉え、それぞれの領域で具体的な活動に取り組む必要があります。組織文化(カルチャー)変革も必要です。こうしたメッセージの浸透には時間がかかりますが、最近は変革マインドが定着してきたと感じています。第2のポイントについて、御社ではどのようにマネジメントスタイルを変えてきたのでしょうか。

伊藤 代表的な取り組みが「1on1」ミーティングの実践です。マネジャーにとってチームとの1対n(編注:1人のマネジャーが多くの部下と向き合う)のコミュニケーションは当然ですが、それに加えて1on1で向き合うために、毎週1人に対して30分程度の時間を確保しています。当初、忙しいマネジャー層からは反発もあったようです。しかし、2012年ごろ、経営トップが強力に導入し、数年かけて組織全体に浸透しました。すべてのマネジャーがチーム全員に向き合い、現状把握や信頼関係の強化に取り組んでいます。リモートワークへのシフトを経て、その有効性はより明らかになりました。「オンラインに移行してもマネジメント面での問題はほとんどない」と現場からは状況を聞いています。

変化の激しい時代に求められる
経営方針と現場施策の整合性

白井 当社では1on1を取り入れているチームと、そうでないチームがあります。その代わりではありませんが、以前から「コーチング文化」の定着に向け注力してきました。いわば、「褒めて伸ばす」スタイルへの転換です。というのは、SIerとしての長年の経験から、従来は「レビュー文化」が強かった側面があるからです。言い換えれば「お客さまの仕様通りに、きっちりつくる文化」です。こうした文化が強いと、社員のマインドは「余計なことはしない」「失敗のリスクを避ける」方向に向かいがちです。これでは、社会課題解決に向けて自らを変革する、イノベーションを起こすという経営方針と齟齬が生じます。そこで、レビュー文化からコーチング文化へのシフトを進めてきました。時間はかかりましたが、社員もコーチング文化になじんできたように思います。

写真:日本ユニシス株式会社 執行役員 人事部、組織開発部 担当 白井久美子(1)
日本ユニシス株式会社
執行役員 人事部、組織開発部 担当
白井久美子

伊藤 1on1にせよ、コーチングにせよ、社員の意識や組織文化に関わる変革には何年もかかりますね。

白井 本当に。粘り強くやり続けることが大事ですね。実は、日本ユニシスグループでは社員に対するエンゲージメント調査を毎年行っており、経営においてもその結果を重視しています。従業員エンゲージメントと営業利益率や株価との相関はかなり高いと感じます。1on1について言えば、当社内でこれを実践しているチームはそうでないチームに比べて、高いエンゲージメントを示しています。私たちも、1on1の拡大に向けて検討を進めていきたいと思っています。

伊藤 お話を聞いて印象的なのは、ミッションやビジョンと、カルチャー変革、人事施策が一本の線でつながっていることです。経営方針と現場の取り組みが整合しているから、環境変化が起きた際には、組織全体が柔軟性をもって変わることができるし、社員にとってはより力を発揮しやすくなる。こうした考え方は、御社とヤフーに共通するものだと思います。

個々人が自律的にいきいき働ける
組織づくりのカギとは?

白井 最近は日本企業の間でも、ジョブ型(※)の人事制度が関心を集めるようになりました。メンバーシップ型からジョブ型に転換しようという動きもあります。御社には、ジョブ型のような制度はあるのですか。

※ 定まった職務に能力を有する人材を当てはめていく形式を指す。これに対し、メンバーシップ型は人と仕事の結びつきを自由に変えられるようにしておくスタイルを意味している。

伊藤 ありません。おそらく、インターネットの世界の変化があまりにも速いからだと思います。環境が変われば新しいサービスが求められ、次々にプロジェクトが立ち上がります。これに伴い、組織編制も毎期のように変わります。例えば、新型コロナの関連では、スマホ向けの乗換案内アプリに「混雑レーダー」という機能が搭載されました。電車の混雑度が一目で分かる仕組みです。誰かが「やろう」と言えば、いろいろな社員が集まってプロジェクトが組成される。そういう組織なので、ジョブ型とかROLE(ロール)を決めるやり方はなじまないかもしれません。

写真:日本ユニシス株式会社 執行役員 人事部、組織開発部 担当 白井久美子(2)

白井 「この指とまれ」型ですね。素晴らしいと思います。当社は日本企業で一般的な人事制度を長く維持してきましたが、近年はそこに揺さぶりをかけようとしています。目指しているのは、社員が個の多様性を発揮し、組織全体としては助け合い補完し支え合えるような状態です。多様で複合的な役割を担うので、「ROLES(ロールズ)」と表現しています(※)。一人ひとりが主体的に多様なスキルやコンピテンシーを身に付け、そうした能力を自発的に発揮するような環境をいかに構築するか――。試行的な取り組みの一例ですが、一部のプロジェクトにフラットなホラクラシー型組織を導入しました。そのチームを横から観察すると各メンバーがいきいきと自律的に働いているように見えます。ホラクラシーやティールといわれる組織形態については人事部門としてもっと研究したいと思います(参考:ニューノーマル時代に加速する「人と組織」のパラダイムシフト)。

※ 「ROLES」は、日本ユニシスグループにおいて、個人内多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)の促進と経営に必要な人的資本/資源を可視化し、強化する目的で推進する施策名称(正式名称は「ROLES Foresight™」)。

伊藤 激変する環境を前提に、次世代の組織の在り方をどう考えるかが重要ですね。おそらく、従来型の組織ではうまく対応できないでしょう。私の考えるキーワードは、「フラット」「自由」「自律」です。個々人が自律的に、さまざまな部門やプロジェクトを行き来できるような環境も重要でしょう。そのためには、ROLESは非常に適した考え方だと思います。

白井 ROLESを実践するためには、個人の中に多様性を育む必要があります。個人内多様性のことを「イントラパーソナル・ダイバーシティ」といいます。組織だけでなく、一人ひとりがダイバーシティを生かして複数の役割を担い、社内の仕事だけでなく、外部の仕事にも積極的に参加できる方向を目指しています。

伊藤 ヤフーでは先ごろ、外部から週に数時間程度働いてもらう副業人材を受け入れると発表しました。「ギグパートナー」と呼ばれ、約100人の募集に数千人の応募があったそうです。どんな成果が出るのか分かりませんが、新しいことにチャレンジすることが重要です。それは、デジタルの最前線にいる企業の使命でもあると思っています。

失敗しても再チャレンジできる環境、
多様性を体感する場づくりの重要性

白井 先ほど、自分事とか自発性、自律性などのキーワードに触れました。御社の社員、とりわけリーダーにはどのような資質が求められるのでしょうか。

伊藤 意味するところは御社と同じだと思いますが、ヤフーでは「Lead the Self」がキーワードです。意訳すれば、「自分の人生を生きろ」でしょうか。「自分は本当にやりたいこと」をとことん考え、それが見つかれば自然に、チャレンジへの意欲や情熱が湧き上がってくるはずです。一方、会社はそんな個人をサポートしなければなりません。チャレンジすれば失敗することもあるでしょう。失敗から学んで再チャレンジできる、そんな環境を用意することが大切です。

白井 とても共感します。出発点は、失敗を恐れずチャレンジする個人の気持ちです。当社でも、経営層からはそうしたメッセージを頻繁に発信しています。例えば、代表の平岡は「成功のKPIは失敗の数」と表現しています。一人ひとりのマインドを変えるには時間がかかりますが、少しずつ挑戦への意識や意欲が高まっているという実感があります。そうした中から情熱をもってチャレンジし、関係者を巻き込んでやり抜く次世代リーダーが育ってくるのではないかと期待しています。

伊藤 リーダーがチームをゴールに導くためには、個々のメンバーの心配事やストレスを減らし、最大限の力を引き出すことが求められるでしょう。各メンバーとの関係づくりがカギを握ります。だからこそ、1on1のような丁寧なコミュニケーションが重要です。コミュニケーションについて言えば、「量が質を生む」と私は思っています。

白井 私たちとしても対話の量と質を増やし、エンゲージメントの向上につながるようなサイクルを回していきたいと思っています。

写真:Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一氏(2)

伊藤 リーダーシップにも関係することですが、多様性の観点で最近気づきがありました。現在、Yahoo!アカデミアの対象者をZホールディングスに拡大したことからその形態も変わりつつあります。これまではヤフー社員対象が基本でしたが、今年度からグループ会社社員にも対象を広げています。すると、30人のクラスを覗くと、20社の社員が集まっていたりする。多様性のレベルが一気に高まり、参加者はそれだけで楽しく、ワクワク感を覚えるようです。別の視点を得ることで、気づきの機会も増えるのでしょう。こうした場での経験を通じて、幅広い視野を持つリーダーが育つことを期待しています。

白井 「場づくり」も重要なキーワードですね。「ダイバーシティを通じてイノベーションを起こしましょう」といくら言っても、「社員の心にどの程度響いているのだろうか」というと疑問に思うこともあります。しかし、そうした場でワクワクを体験すれば、ダイバーシティの意義を実感できるはずです。

伊藤 そうですね。「ダイバーシティ推進」というだけでは、たぶん何も変わらない。多様な人材が集まる場で楽しさや面白さ、イノベーションへの可能性を実感することで、人の意識は変わるのでしょう。

白井 やがては、「自分のチームにももっと多様性がほしい」とか、「外部との関係づくりが重要」などと真剣に考える人も増えそうですね。そんな中から自主性や自律性を持ち、ダイバーシティを上手にドライブする次世代リーダーが、1人でも多く登場してもらいたいと思っています。そのためには場づくり、制度や環境づくりなどをもっと工夫する必要がありそうです。今日は、有意義な気づきをいくつももらいました。本当にありがとうございました。

Profile

伊藤 羊一(いとう・よういち)
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト、Yahoo!アカデミア学長、株式会社ウェイウェイ 代表取締役、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長(就任予定)
1990年日本興業銀行入行、企業金融、事業再生支援ほかに従事。2003年プラス株式会社に転じ、流通カンパニーにてロジスティクス再編、グループ事業再編などを担当した後、2011年執行役員マーケティング本部長、2012年よりヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の立ち上げ準備中、2021年開設時には学部長就任予定。
白井 久美子(しらい・くみこ)
日本ユニシス株式会社 執行役員 人事部、組織開発部 担当
大学卒業後、新卒で日本ユニバック(現 日本ユニシス)入社。システムエンジニアやプログラム&プロジェクトマネジャーとして実績を重ねた後、各種ソリューション事業立ち上げの責任者や当時日本ユニシスが注力していた「Microsoft.NET」関連SI事業を推進。その後グループの教育事業子会社社長に就任。子会社経営改革を進め、本社復帰後、働きながら大学院へ進む。企業革新のための戦略的なHRマネジメントや経営・社会工学で工学博士号を取得し、現在は、戦略人事改革・組織風土改革およびイノベーティブ人財の獲得と育成を担い、日本ユニシスのディスラプティブな側面を発信する役割にもコミットしている。

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