米バブソン大学に学ぶ「未来創造への思考と行動法則」

「“失敗”からの学び」と「強い情熱」で自分、社会、世界を変える!

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「起業教育の名門校」として名を馳せる米国・バブソン大学。同校のアントレプレナーシップ准教授である山川恭弘氏は、起業家を目指す学生たちと数多く接してきた。こうした経験を背景としながら「失敗からの学びの重要性」を広く説いている。そんな山川氏が昨年の「BITS2020」に引き続き、「BITS2021」においても登壇。講演では、日本ユニシス代表取締役専務執行役員CMOの齊藤昇との対談が行われ、スタートアップだけでなく、新規事業やイノベーションに挑戦するビジネスパーソンなどにとっても示唆の多い内容となった。以下、その内容を紹介したい。(以下、敬称略)

失敗経験を通じて「失敗への寛容度」を高める

齊藤 山川先生が上梓された『全米ナンバーワンビジネススクールで教える起業家の思考と実践術 あなたも世界を変える起業家になる』(東洋経済新報社、2020年)を拝読しました。かなり分厚い書籍ですが、エンターテインメントのような起業ストーリーに引き込まれて一気に読み終えました。バブソン大学は、多くの起業家を輩出していることで有名です。アントレプレナーシップ教育の最前線の熱量、その一端をこの本を通じて感じ取ることができました。

山川 最初は、一般的な「起業教育本」として書き進めていました。しかし、同内容の書籍が多くあると気づき、途中で方針変更しました。ドラマ仕立てにして読みやすくするため、脚本家と手を組む形で執筆を進めました。500ページ近い厚さですが、読者からは「読みやすい」と好評です。主人公の起業ストーリーは、人間としての成長ストーリーでもあります。「子育て本みたいだね」とか「ウチの子供にも読ませたい」といった声も多くいただいています。

写真:山川恭弘氏
バブソン大学 アントレプレナーシップ准教授
山川恭弘氏

齊藤 私も同じ感想を持ちました。中学生や高校生がこの書籍を読んで失敗を恐れず、チャレンジする気持ちを育んでくれればうれしいです。「チャレンジって面白い」と感じた読者が、いずれは起業の道に歩むかもしれません。企業に入って新規事業などにチャレンジする人もいるでしょう。一方で、日本の現状を見ると課題が多いとも感じます。確かに注目されるスタートアップも出てきていますが、他の先進諸国に比べると圧倒的に少ないですし、企業の中でチャレンジが増えないことに歯がゆさを感じる経営者もいるでしょう。

山川 根底にあるのはおそらく、社会、組織や個人を含めた「失敗への寛容度」ではないかと思います。ただ、寛容度を高めることは容易ではありません。マインドセットを変えるには、若いうちから多様な失敗を経験し、「失敗は決して悪いものじゃない。むしろ、より良いものを目指すための『学びの機会』」という感覚を身に付ける必要があると思います。

失敗から得た「学び」を組織で共有する

写真:齊藤昇
日本ユニシス株式会社
代表取締役専務執行役員CMO 齊藤昇

齊藤 バブソン大学のアントレプレナーシップ教育では、「失敗」を推奨しているようですね。

山川 「失敗してナンボ」、といっても過言ではありません。正確には質の良い失敗を数多く経験することで学びを最大化するということです。例えば、学部1年生向けの必須授業では、学生たちがグループに分かれて実際にビジネスを立ち上げます。銀行口座を開設し、リアルにお金を回しながら起業を体験します。成績に直結するのは売上高ではなく、「どれだけ学んだか」。実験を重ね、失敗をすればするほど学びが大きくなり、成績が上がります。ここに大きなインセンティブが働きます。成功の中では見えにくい学びの部分が、失敗の中ではよく見えるのです。学生たちもこの点を心得ていて、進んで実験し、進んで失敗するようになります。そして、さまざまな失敗経験の中から、多様な学びを獲得しています。

齊藤 素晴らしい教育ですね。日本企業が学ぶべきことも大いにありそうです。

山川 企業においても、失敗への寛容度を上げることが重要です。そのためには、トップの姿勢が大切です。「失敗してもいい」とただ言葉で伝えるだけでなく、社員が挑戦に失敗したとき、その中で学んだことを適切な形で人事評価などに反映する必要があります。「こんな失敗をしたけれど、こういう学びがあった。その学びを次のチャレンジに生かして成功した」という失敗の成功例が企業などの中でもっと蓄積する仕組みを構築できればいいと思います。

齊藤 「失敗からいかに学ぶか、その学びを組織としていかに共有するか」は、とても大事な論点ですね。当社も、過去いくつもの失敗事例を経験していますが、それらを成功の糧として次のビジネスに生かしています。この先、新たな挑戦をしていく中で山川先生のメッセージには強く勇気づけられます。ご著書を読んだビジネスパーソンや学生の多くも同じ感想を抱いたのではないでしょうか。こうした思いを大切にしながら、これからはより多くの意欲的なチャレンジに取り組んでいければと考えています。

写真:BITS2021の一幕(2021年6月)(1)
BITS2021の一幕(2021年6月)(1)

「一歩踏み出す」「一歩踏み外す」、そして「一歩はみ出す」

齊藤 バブソン大学の学生たちのマインドセットにも興味があります。起業教育で定評のある大学に入学しようと思うくらいですから、チャレンジ精神旺盛な学生が多いのではないかと感じます。その特長について教えてください。

山川 特に、行動力が突出しています。「まず一歩を踏み出してみよう」という意欲と気概がある。キャンパスには、そんな学生があふれています。例えば、こんなエピソードがあります。ある新入生が力強い握手と共に、“Hi, Professor! I'm gonna change the world!(教授!俺は世界を変えるぜ!)”とインパクトのある挨拶をしてきました。そこで彼に“Have you started something already?(すでに何か始めたのかい?)”と問うと、“No! You teach me. That's why I'm here!(いいえ、あなたがそれを教えてくれるんでしょう?そのために私はバブソンに来ているのだから)”と無邪気に言うんです。人間、思慮が深すぎると事前に失敗のリスクの大きさが分かるので、行動に移せないことがよくあります。しかし、世の中のイノベーションの多くが、賢さとは対極にある強い情熱から生まれています。多くの学生たちは、「皆がやらないから、私がやる!」くらいの気持ちを心に宿しているのです。

齊藤 そういう人材を、日本でも増やしていかなければなりませんね。

山川 日本では実行の前に「できるか、できないか」を気にする人が多いと感じます。しかし、できるかどうかはやってみないと分からない。起業に関して「好きなことをやるか、得意なことをやるか」という問いがありますが、それも同じです。多くの場合、自分が本当に好きかどうか、上手にできるかどうかは本気でやってみないと分かりません。書籍でも触れましたが、起業には3つのステップがあります。まず「一歩踏み出す」、次に「一歩踏み外す」、そして「一歩はみ出す」。とにかく行動してみて、多面的に実験を重ね、自分たち独自のものをつくりだすのです。

齊藤 そういうマインドセットを持つ仲間が多いと、互いに刺激し合えますし、学習効果もさらに高まりそうです。

山川 その通りです。バブソン大学には、社会にインパクトを与えたいという学生たちが世界中から集まります。そのバックグラウンドは多種多様です。さまざまな人的ネットワークを生かしながら、学生たちは起業を実体験していきます。その中で重要なのは「自分よりも(経験・知識・能力が)優れている人」とつながることです。つまり、「誰を知っているか」というソーシャル・キャピタルです。これは、起業道の原則といってもいい。起業家は、ビジョンはあるがあらゆるリソースが不足しています。足りないからこそ、周囲を上手に巻き込んで助力を引き出しながら、アイデアを形にしていく。それも、リーダーシップやアントレプレナーシップの大切な要素です。

齊藤 巻き込み力は本当に重要ですね。特に、1社では実現できないことや解決できない課題に向き合うために不可欠な能力だと思います。魅力的なビジョンやミッションを提示する、あるいは並外れたパッションや人間的魅力で人を惹きつけ、周囲を巻き込んで一緒に走る。日本でも、そんなリーダーをもっと増やす必要がありそうです。

山川 そうですね。突出したカリスマ性あるリーダーを起点に新しい起業や価値創出が生まれることも多いと思います。その後、それらが成長していくにしたがって、どのようなビジョンやミッション、パーパスを持ち、実現に向けて動いていくのかが問われます。この部分に人々の共感が生まれ、「ヒト」「モノ」「カネ」が集まる。新たなアイデアも芽吹いていく。そういう方程式は普遍だと感じています。日本ユニシスにおいては、「リブランディング」という形でビジョンを進化させていますね。

存在意義を進化させ、「BIPROGY」に商号変更

齊藤 山川先生のおっしゃる通り、これからの時代、スタートアップや既存企業を問わず、ビジョンやミッションはより重要になるでしょう。社会的に意味のある企業としての存在意義を掲げることで、「世の中をよくするため自分も一肌脱ぎたい」という志ある多様で優秀な人々が集う共感の輪も広がります。そして企業はときに、社会環境や人々の意識変化に合わせ、存在意義そのものも進化させなければなりません。私たちは、今がそのタイミングと考えました。先ごろ発表した「BIPROGY株式会社」への商号変更(2022年4月1日に商号を変更)の背景には、それらを鑑みたパーパスやビジョンの再検討、再定義がありました。

写真:BITS2021の一幕(2021年6月)(2)
BITS2021の一幕(2021年6月)(2)

山川 大企業のリブランディングというのは、思い切った決断だったと思いますが、新たなムーブメントやすでにお持ちのエコシステムの求心力を発揮していく上で、ものすごいチャンスだと思っています。

齊藤 BIPROGYは、光が屈折・反射した時に見える7つの色(Blue、Indigo、Purple、Red、Orange、Green、Yellow)の頭文字による造語です。人はそれぞれ、光り輝くものを持っていると思います。多様な輝きを包摂し、掛け合わせて新たな価値を創造する。そして、お客さまや取引先を含めさまざまなステークホルダーと一緒にサステナブルな新時代をつくっていきたい。そんな思いを込めました。

山川 新たなブランディングを十分にレバレッジし、世界にあふれるさまざまな課題を解決する側となって世界を変えていくためのリーダーシップを発揮していただきたいです。おそらく失敗の1つや2つは増えてくるでしょうけれど、それをシェアしていただき、共に学びながら成長していけたらと、本当に楽しみです。

齊藤 商号だけでなく、グループ社員それぞれのマインドセットや行動も変えなければならないと思っています。この新しいブランドを価値あるものにするのは社員一人ひとりですので、全社一丸となって盛り上げていきたいと思います。また、お客さまをはじめとするステークホルダーはもちろん、この先の社会を担う学生の皆様と共に新しい未来を創造していきたいと考えています。最後に、山川先生から読者に向けてメッセージをいただければと思います。

山川 大学での講義に向き合う私にとって、一番の失敗は「学生たちが失敗をしないこと」です。同じように、今回の対話を終えて皆さんが今後失敗をしないようであれば、それは私の失敗だと思います。私の言葉に触れた方々が「失敗したけど、こんなポジティブな学びがあった」「失敗って最高」と思ってくれれば、それが私にとっての“accomplishment”、つまり「達成」であり、「成功」です。また、皆さんにはどのような状況下においても、自分がいかにhappyになれるか、自らが選び取るhappinessを大切にしてほしいです。そのための第一歩となるのが行動すること。本日のセッションを聞いて頂いて、何か小さくてもいいので行動を起こしてくれればうれしいです。

齊藤 私たちも社会や世界に変化をもたらし、輝かしい未来を創造していくために、失敗を恐れずチャレンジを続けたいと思います。本日はありがとうございました。

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