対談:シリコンバレー文化を学び、マインドチェンジを図る

ユニシス研究会 海外スタディツアー

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日本ユニシスのユーザー会であるユニシス研究会が、毎年会員向けに開催している海外スタディツアー。2019年は16名の会員が、世界のIT業界が集まるシリコンバレーへのツアーに参加した。ツアーでは、参加者同士のワークショップに加え、在米40年を超えるAI研究者・井坂 暁氏による講演が行われ、シリコンバレーのビジネス気風や文化が紹介された。本稿においては、井坂氏と日本ユニシスの海外リサーチ拠点であるNSSC(NUL System Services Corporation)の大田 隆博が、先進テクノロジーの集積地であるシリコンバレーの気風に触れることなどをきっかけに、課題解決型のマインドへと変革するためのヒントについて語り合った。

イノベーションは誤解されている

大田 今回「シリコンバレースタディツアー」に参加したのはユニシス研究会の皆さんです。ユニシス研究会は、日本ユニシスのお客さまや協力会社さまから構成されるユーザー会で、実際のビジネスで培われた固有のノウハウや情報資産などを、業界や企業の枠組みを超えて共有し、会員同士が活用し合い、企業活動に活かしてもらうために活動しています。私たちNSSCでは、年に1回ユニシス研究会の会員向けの海外スタディツアーの開催をサポートしています。井坂さんには、昨年に引き続き講演をお願いしました。今年も「シリコンバレーの生の声が聞けた」と高い評価をいただいています。今回は、イノベーションをテーマにご講演いただきました。イノベーションについては、私自身、「何か革新的なことを始める」「今までにないものを創り出す」というイメージを持っていましたので、「イノベーションとは画期的なビジネスのアイデアを生み出すことではない」という視点は新鮮な驚きがありました。

President, Vision del Mar, LLC
井坂 暁氏

井坂 ありがとうございます。イノベーションについては、多くの人がどこか難しく捉えていると感じています。そうではなく、その本質は「問題を解決すること」と捉えるべきです。ただ、“問題”とひとことで言っても、環境問題をはじめとした地球規模的の課題から生活上の困りごとまで色々なレベルがあります。まず、具体的に解決したいと思う課題に目を向けることが、イノベーションの第一歩です。

大田 なるほど。多くの日本企業がイノベーションのヒントを探しにシリコンバレーを訪問していますが、それについてはどのように感じていますか。

井坂 繰り返しになりますが、イノベーションとは問題を解決することです。シリコンバレーに来たからといって、イノベーションの種、つまり「解決したい問題」がすぐに見つかるとは限りません。むしろ、短い滞在期間で学んでもらいたいのは、一過性のトレンドや情報よりも、問題発見や解決方法を模索するためのシリコンバレー流のマインドや文化です。

大田 つまり、シリコンバレーで学ぶべきなのは問題を見つけ、解決しようとする「イノベーション創出の基礎となるマインド」だということですね。しかし、ひとことで文化を学ぶといっても、それは難しいことだと思います。また、解決したい問題を発見する力をすぐに養うことも簡単ではないと思います。井坂さんは、そのポイントとして「共感が大事」だとお話しされていましたね。

自ら体験することで気づきが得られる

井坂 ええ。ピータードラッカーの「Focus on Opportunities, not problems」という言葉があります。ここでいうOpportunityとは、“感じる”、“気づく“、”共感する“という意味です。今回のスタディツアーでは、参加者の方にサンフランシスコ市内を散策してもらい、気づいたことをワークショップで発表してもらっていましたね。自らの足で歩き、情報を捉え、考えて発表することは、有意義な取り組みだと思いました。自分で行動し、試すことは課題発見に必要となる視野を広げることにつながります。何より知らない土地で、言葉もままならない中で体験する“スリル”と、そこで得た感覚は、心に刻まれるものです。

NUL System Services Corporation(NSSC)
大田 隆博

大田 ありがとうございます。講演の後に、参加者に市内を散策してもらう時間を設けました。せっかくシリコンバレーに来てもらったのに、話を聞くだけではもったいない。そう思って、参加者自身の肌感覚で日本との違いを感じてもらう機会を設けようと考えました。

井坂 一度、“気づき方”が分かると、その後の行動も変わってくるのではないでしょうか。それがマインドの醸成です。参加者の方からの反応はどうでしたか。

大田 参加者からは「もう少し自由な時間があればよかった…」という声も上がるほどでした。特に、市内交通で役立てられている電動スクーターの便利さに感動した参加者が多かったですね。日本では安全性の理由などから公道では乗れないサービスですが、とにかく始めてみて問題があれば軌道修正するシリコンバレーのチャレンジ精神や文化、ビジネス環境を実感していただいたようでした。また、「Amazon Go」などのキャッシャーレス店舗での買い物体験についても参加者の刺激になったようです。これには車の自動運転で活用されているコンピュータ・ビジョンとディープラーニング、センサー技術が用いられています。スマホひとつを携えて店舗に入るだけで簡単かつスムーズな商品の決済を可能にする、まさに未来をテーマに描いた映画のような技術です。

井坂 そういった体験をしてみて、どう思ったか、何を感じたか、を共有することはとても大切なことです。サンフランシスコの散策を通じて”気づき“を得た経験は、新たな価値創造の力につながるのではないでしょうか。

大田 今回の海外スタディツアーは“参加型”であることを心がけました。NSSCとしては、これからも日本ユニシスグループの社員とお客さまに対して、新たな気づきを得られる体験の場を提供していきたいと考えています。

ネットワーキングは仲良くなることではない

大田 ところで、共有という観点からは、シリコンバレーに多くの国から人が集まってくる理由には「ネットワーキングを求めているから」だと講演でお話しされていましたね。このネットワーキングとはどのように捉えればよいのでしょうか。

井坂 ネットワーキングは日本語で“人脈形成”と訳されます。このため、「知り合いを作りにネットワーキングパーティなどに参加する」ことを示すものと受け取る方もいます。しかし、人脈形成は手段であって、目的ではありません。自分の知っている“既知”と、自分の知らないことを知っている“他人の既知”を組み合わせて“奇知”、つまり新しい価値を生み出すことが、ネットワーキングの主眼とするところです。

大田 「日本人はネットワーキングが苦手」という話も聞きますね。

井坂 ええ。解決したい問題を抱えていれば、何とか解決策を見つけたいと思うのが当然です。日本企業のビジネスパーソンは、この課題設定を苦手に感じている方が多いのではないでしょうか。解決したい問題を持っていないのに、ネットワーキングパーティに参加しても、自分に“既知”がないので、“他人の既知”が分かっても、“奇知”を生み出すことはできません。海外スタディの上級編として、取り組みたいと思う課題を明確にしつつ、ネットワーキングにもぜひチャレンジしてもらいたいと感じています。

徹底的に考え、素早く実行する

大田 井坂さんとお話しをしていて、「だから?」と徹底的に問いかけられたときには、衝撃を感じました。改めてそう聞かれると一生懸命考えるものですね。普段、強く意識して徹底的に本質を掘り下げて考えてこなかったことを反省しています。

井坂 「だから?」は、いわば魔法のワードです。英語だと「So What?」ですね。問いを繰り返していくと、人は「なぜそれを問題だと思うのか」と突き詰めて考え始めます。

井坂氏の講演の様子。課題発見・解決力を高め、イノベーションを生み出すには、なぜそう感じたか、思ったのかについて「だから?」と突き詰めて問いかける姿勢が重要と語る。

大田 なるほど。自らに問い続けるのはなかなか難しいので、魔法のワードを常に問いかけてくれる周りの人の存在は大きいと思います。その意味で、同じように徹底的に考える人が周りにいる環境は重要ですね。

井坂 それがこの地の気風です。シリコンバレーには「Fail Fast, Fail Often」という言葉があります。「頻繁に、“早く”、”速く“、失敗する」です。そうすれば誰でも継続してイノベーションが創出できる。成功して気づくこともありますが、それよりも失敗してから得ることの方が多いと思いませんか。シリコンバレーでは、「失敗したとしても、それを次に活かす」という土壌があり、その中でビジネスが循環しています。徹底的に考え続けるというマインドも、こうした中から生まれ続けています。

大田 スティーブ・ジョブスが「社員の失敗はよいこと。失敗した社員のサポートを行うことが、リーダーの仕事」と語っていた講演映像もご紹介いただきましたね。日本ではまだ“失敗”というとマイナスのイメージが強く、「なるべく失敗しないように」という考え方に捕らわれているような気がします。

井坂 リスクを許容する考え方が文化として根づくためには、「失敗してもよい」ということに対して、その姿勢を理解し、腹落ちする人を増やすことが大切です。日本はまだ少ないかも知れませんが、シリコンバレーを訪問することで、そのような人が増えることはよいことです。日本ユニシスの平岡社長も、常日頃から成功のKPIは失敗の数だと明言されています。日本は、本来、昔からチャレンジを繰り返してきた国です。日本の教育を含めて、まだまだ変革の可能性はあると期待しています。

Profile

井坂 暁(いさか さとる)
President, Vision del Mar, LLC
埼玉県所沢市出身。1978年法政一高卒業後渡米。1989年カリフォルニア大学サンディエゴ校にて制御工学と人工知能の研究で博士号を取得。シリコンバレーにて大手企業やスタートアップを経た後独立。社会に役立つ技術の開発に取り組みながら、時に企業アドバイス、講演、通訳などグローバルビジネスの支援を行う。脳科学の知見と3児の子育てやスポーツコーチの経験を活かし科学的に幼児の情動教育を推進するプロジェクトMood Cow、音声認識技術を活かした英会話加速学習プロジェクトMechatope、独自の概念行動理論を応用した人工扁桃体+機械学習の組込みシステム、などの研究開発テーマに取り組み中。著書に「The Principles of Mental care」(英語)、「音声認識を使った英会話の学習法:3つの秘訣」(日本語)がある。カリフォルニア州サンノゼ在住。
大田 隆博(おおた たかひろ)
2007年、日本ユニシス入社。鉄道やロジスティクス、流通小売業のお客様へ営業として基幹システム導入の提案に従事した後、2017年よりNSSCに出向し、シリコンバレー駐在。日本側の依頼に基づく市場調査、リサーチ活動に従事。

NUL System Services Corporation(NSSC)について

NUL System Services Corporation(NSSC)は、シリコンバレーを中心に、新情報技術の収集と事業機会発掘を行う日本ユニシスグループの海外リサーチ拠点です。2006年にシリコンバレーオフィスを開設して以来、北米を中心とした各種パートナーと連携し、日本ユニシスグループに対して情報発信を行っています。

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