「見えない価値」を意思決定の判断軸に。インパクト可視化で地域の価値を発信する

連載「進化するBIPROGY総合技術研究所」第8回:インパクトサークル×BIPROGYが挑む、「インパクト」を軸とした社会的価値の指標化

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今、社会課題の解決や地方創生の現場では、「どんな変化を生んだのか」を問う姿勢がこれまで以上に重視されている。事業や施策の成果を利益だけで測るのではなく、社会へ与えた影響、すなわち「インパクト」として捉え直す動きが政策や企業活動の現場にも広がり始めている。こうした社会的価値を可視化し、指標として活用することで、持続的な課題解決に向けた意思決定にもつなげていこうという機運が高まっている。その取り組みの一例である、新潟市で実施された公共交通利用促進キャンペーンでは、スタートアップのインパクトサークルとBIPROGYが連携して社会的価値の可視化に取り組んだ。今回は、インパクトサークルの鈴木正也氏をゲストに迎え、BIPROGY総合技術研究所(以下、総研)の丹羽南、山田勉、本プロジェクトを主導した事業開発本部の箱崎浩大、橋本貴幸がインパクト可視化の現在地と展望を語り合った。

企業や地域で広がる「インパクト可視化」の重要性

――インパクトサークルがインパクト可視化の事業に取り組んだきっかけを教えてください。

鈴木当社は2021年にスタートし、創業者とゆかりの深かったフィリピンなどの諸外国を中心としたインパクトファイナンス事業(財務的リターンと社会的・環境的リターンの両立を目指す金融事業)からスタートしました。現地の貧困問題などの社会課題の解決を目的に、事業者に資金提供するビジネスです。ファイナンスを続ける中で実感したのは、インパクトを可視化して伝えることの重要性でした。

写真: 鈴木正也氏
インパクトサークル株式会社
プロダクト・マーケティング事業部長 鈴木正也氏

日本の投資家に、資金提供によって現地で起きている変化をきちんと伝えることが、継続的な投資につながるからです。そこで、「インパクトファイナンス事業」に加えて、2024年からインパクトの可視化を新たな事業の柱に据え、リサーチ設計から分析、ステークホルダーへの発信までを一貫して支援する「インパクト可視化サービス」を始めました。

インパクトサークルの取り組み例

インパクトサークルの取り組み例
インパクトサークルでは、社会課題解決に向けて「インパクトファイナンス事業」と「インパクト可視化事業」を軸として取り組んでいる。前者は、例えば個人で自動車を所有する職業ドライバーに対して「ローンを提供することで、ドライバーの収入がどのように維持・向上されるか」といった“インパクト”を評価し、それに基づいてファイナンスを行う点がポイントだ。後者は、企業や事業/個人がどんな社会的なインパクトを起こしうるかを「見える化」し、新たな意思決定の評価軸を提供する事業として展開している

――総研では、「エコシステムのための価値循環デザイン」の研究に取り組んでいますね。

丹羽はい。企業や自治体、地域住民など多様なステークホルダーが関わるエコシステムを維持していくためには、事業でどのように価値を生み出し、どのようにステークホルダーに還元するかを設計することが重要です。そのカギとなるのが「価値循環」という考え方です。価値循環とは、あるステークホルダーが提供した価値がエコシステムの中で連鎖していき、元のステークホルダーに還元されることをいいます。価値循環を捉える際、お金やモノの流れは把握しやすいのですが、住民の健康や地域への愛着の醸成といった社会的価値は可視化されにくいという課題があります。

写真: 丹羽南
BIPROGY株式会社 総合技術研究所
共創デザイン室 上席研究員 丹羽南〔エコシステムデザインラボ〕

しかし、こうした社会的価値を測ろうとしなければ、事業が生み出している本来の価値を説明することも、価値が循環しているかを確かめることもできません。社会的価値を測るための指標をつくり、定量化することが重要だと考えています。

山田社会的価値の可視化では、まず価値がどこから生まれ、どこへ流れているのかを整理することから始めます。製品やサービスのターゲットだけでなく、そのターゲットに生じた変化や効用が、他のステークホルダーへどう波及するのかを整理します。そうすることで、社会的価値がどこで生まれているのかが見えてきます。

写真: 山田勉
BIPROGY株式会社 総合技術研究所
共創デザイン室 上席研究員 山田勉〔エコシステムデザインラボ〕

そこから、指標化すべき対象を絞り込んでいきます(参考:「R&D Meetup Days 2025」開催――共感と共創で社会課題解決に挑む(後編))。

――近年、インパクトへの注目が急速に高まっています。その背景をどう見ていますか。

鈴木インパクトという考え方を比較的早く取り入れたのは金融業界です。財務的なリターンだけでなく、貧困の解消や地域課題の解決といった社会的価値も踏まえて投資判断を行う「インパクト投資」が先行し、その考え方が他業界の企業や自治体へ広がってきたのです。財務リターンだけでは測れない社会的価値が投資判断に影響する場面が増え、従来の指標では事業の本質的な成果を捉えきれなくなったことが背景にあります。近年は実績の蓄積に加え、国の政策でも「インパクト」という言葉が使われるようになり、関心は確実に高まっています。

――企業の現場では、インパクトの可視化はどのように受け止められているのでしょうか。

写真: 箱崎浩大
BIPROGY株式会社 事業開発本部 事業推進二部
DPプロジェクト 担当部長 箱崎浩大

箱崎新規事業開発を担う私たちの部署にとって、取り組みの成果を売上以外の指標でも示せることは大きな助けになります。企業の活動には売上だけでは測れない価値も多くありますが、それを客観的に説明するのは簡単ではありません。例えば、社会貢献活動がどのような成果を生んでいるのかを問われても、客観的に述べることは困難です。そうした成果を指標として捉えられるようになることは、企業にとって重要だと感じています。

写真: 橋本貴幸
BIPROGY株式会社 事業開発本部 事業推進二部
事業開発プロジェクト 橋本貴幸

橋本地方創生の現場では、短期では解決できない課題が多くあります。一方で企業としては、短期的な成果も求めていく必要があります。インパクトという視点でプロジェクトを設計することで、短期の成果を追いながらも、その取り組みが長期的にどのような価値を生み出すのかを、ステークホルダーと共有しやすくなります。エコシステムに参加する多様な関係者に対して、その取り組みの意義を説明しやすくなる点は大きなメリットです。

新潟市での公共交通利用促進キャンペーンの社会的価値を指標化

――具体的な事例を教えてください。

橋本新潟市では、自家用車への依存度が高いという地域の交通課題を背景に、交通事業者やシェアサイクル事業者、商業施設などと連携し、公共交通の利用促進に取り組んできました。その取り組みの1つが、無料でバスに乗れるキャンペーンです。この取り組みにおいては、キャンペーン実施日の乗車人数を把握することはできても、その後、バスを日々の移動手段とする人がどれだけ増えたか、キャンペーンを通して地域の方の行動がどう変化したかといった効果までは定量的に捉えきれていないという課題がありました。そこでインパクトサークルさまに参画いただき、短期・中期・長期のアウトカムを整理した上で、それぞれにKPIを設定する形でプロジェクトの指標設計を進めていきました。

新潟市での取り組み概要(1)

新潟でのインパクト設計・活用事例

鈴木インパクト評価では、アウトプットとアウトカムを区別します。アウトプットは乗車人数や売上といった直接的な成果、アウトカムはその結果として人々の行動や暮らしがどう変化したかという効果を示すものです。こうした取り組みではアウトプットベースで議論が進みがちですが、アウトカムを設計することで、プロジェクトが本来目指す方向について関係者の認識をそろえやすくなります。

橋本これまで、このような取り組みでは、最初から明確なKPIを設定するケースは多くありませんでした。指標を設けると、かえって動きにくくなることもあるからです。今回インパクトサークルさまと一緒にプロジェクトを進めることで、初めの段階で長期的に目指すアウトカムを整理でき、その中でKPIを調整しながら進めていくことができました。長期的な目標を関係者の間で共有できたことで、プロジェクトにおける合意形成のしやすさが確実に高まったと感じています。

丹羽私たちは、エコシステムの観点からこの事例を捉えていました。キャンペーンが生み出した価値は公共交通の利用促進にとどまりません。バス停まで歩くことで歩行量が増え、地域住民の方の健康に貢献する。さらにバス乗車をきっかけに商業施設を訪れる人が増えれば地域の店舗の売上や来客増の効果も期待できます。こうした価値の広がりをどう指標として捉えるかを、インパクトサークルさまの知見を参考に整理していきました。

山田利用者へのアンケートで「普段どんな交通手段を使っているか」を聞くと、自家用車からバスへ切り替えた割合が分かります。そこからCO2削減効果の推計も可能になります。つまり、地域公共交通は、交通だけでなく医療や商業、環境といったさまざまな領域とつながっているのです。このように多面的な観点で指標をつくり、取り組みの効果を客観的に説明できるようにすることで、これまでよりも多くのステークホルダーと共創できるようになると考えています。

新潟市での取り組み概要(2)

社会的価値の多面的評価の例

箱崎総研が研究手法を持っていても、現場で試す機会がなければ、それは社会には広がりません。私たち事業開発本部がこれまで関係者との信頼関係を築いてきた新潟のフィールドを提供することで、地域で実践することができました。研究と現場が連携できたことも、このプロジェクトの大きな成果だと思います。

実践知をモデル化し、社会実装へつなげる

――インパクトサークルとBIPROGYが連携する意義をどう捉えていますか。

鈴木インパクトの指標やモデルを標準化していくことは当社にとって重要なテーマです。業種や社会課題ごとにどのような指標が適切かを整理し、将来は共通のモデルとして展開していきたいと考えています。そのためには実際のプロジェクトで実績を積み上げることが欠かせません。BIPROGYさまとの取り組みは、今後のプロジェクトにも応用できるモデルづくりにつながるものだと感じています。実践知を積み重ね、それをモデル化して広げていく。この2つを両社で補完し合っているのだと思います。

丹羽インパクトサークルさまの専門性に学びながら、その知見を実際のプロジェクトにどう適用するかを考え、社内でも活用しやすい形に整理していくことが私たちの役割です。また、社会的価値を示す指標について、社内外の関係者に説明できるだけの説得力を持たせることも重要だと考えています。実践的な知見とBIPROGYのプロジェクト基盤を組み合わせることで、社会課題解決に向けた取り組みをより実装しやすくなると考えています。

箱崎インパクトサークルさまには、世の中に出してきた事例の数という説得力があります。金融機関や投資家に対しても実績をもとに説明できる。それはBIPROGYだけでは補えない強みです。一方でBIPROGYには、地域やプロジェクトの現場で取り組みを実践していく力があります。そうした強みを持つ両者が連携することで、この取り組みの価値がより高まっているのだと思います。

――最後に、「インパクト可視化」の今後の可能性と課題を聞かせてください。

鈴木今後、企業評価や投資の世界では、経済的価値だけでなく社会的価値も評価していく流れになることは確かだと思っています。一方で、課題はコストです。インパクト可視化にはデータ収集や指標設計といった新たな作業が必要になります。DXやAIを活用して低コスト化を進め、最終的には当事者が自分たちの組織でインパクトを認識し、数値管理できる仕組みを整えていくことが理想です。私たちのような会社がコンサルとして入り続けるのではなく、自走できるツールを届けていくことが次のステップだと考えています。

丹羽総研としては具体的な実践例を増やすことが重要な目標です。可視化したインパクトがどのような波及効果を生むのかを示し、現場の事業開発を支援する基盤を整えていきたいと考えています。

山田総研は中長期的な先端技術の研究開発も担っていますが、今回の取り組みは実際のプロジェクトにおいて成果を出すことができました。研究の成果を現場で活用し価値を生み出す実績をつくれたことは、私たちとしても大きな手応えでした。

橋本国の事業では、申請段階からインパクト指標が求められるケースも出てきています。ただ、指標が示されていても、それを実際に測定できるようにデータを取得する仕組みまで設計できているプロジェクトは多くありません。プロジェクトの立ち上げ段階からデータを取得できるように設計しておくことが重要で、インパクトサークルさまのような専門家が関わることで、そうした仕組みをあらかじめ組み込めると感じています。

箱崎この取り組みをBIPROGY社内に広く伝えていくことも重要です。以前、社内勉強会「Morning Challenge!」で紹介したところ、多くの参加者に関心を持ってもらえました。ただ、現場がクライアントに対してインパクトの視点を積極的に提案するところまでは広がっていません。国も指標化に本腰を入れ始めている今は大きなチャンスです。こうした取り組みを社内外に発信しながら、実践の事例をさらに積み重ねていきたいと思っています。

鈴木インパクトを可視化することは、日本の地方や中小企業が自分たちの価値を世界に向けて発信するための「言語」になり得ます。経済的な成果だけでは伝えきれない価値を、共通の指標やデータで示すことで、多くの人に理解してもらえるようになる。そうした可能性に、これからも挑み続けたいと思っています。

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