「R&D Meetup Days 2025」開催――共感と共創で社会課題解決に挑む(後編)
連載「進化するBIPROGY総合技術研究所」第7回
連載「進化するBIPROGY総合技術研究所」では、前回と今回の2回にわたり、BIPROGY総合技術研究所(以下、総研)が開催した「R&D Meetup Days 2025」の模様をお伝えしている。後編となる今回は、社会課題解決に挑む最新の研究テーマである「世界シカケ化共創計画」に取り組む研究者たちの思いにフォーカスする。これは、「仕掛学」を研究する「シカケラボ」と、社会課題解決を促進する「価値循環デザイン」を研究する「エコシステムデザインラボ」の2チームが協働して進められているもの。新機軸の研究が生み出す視点や、課題解決に向けたアプローチとは一体どのようなものだろうか――。両チームの研究者たちに「世界シカケ化共創計画」の取り組み内容や今後の展望を聞いた。
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「シカケラボ」:居酒屋のPOPをつい見たくなる「仕掛け」
――まずは、「シカケラボ」の注力テーマや現在の取り組みを教えてください。
森本仕掛学は、大阪大学の松村真宏教授が提唱する人の好奇心や遊び心に働きかける「仕掛け」によって、自発的な行動変容を促し、社会課題の解決を目指す「仕掛け」を対象とした新しい学問領域です(参考「BIPROGY総合技術研究所の取り組み」8頁)。私自身は、大学時代にAI(人工知能)の研究をしていましたので、その知見を生かし、2024年からシカケラボで生成AIを活用した課題解決プログラムについて研究しています。
共創デザイン室 研究員 森本紗矢香〔シカケラボ〕
齊藤もともと私が研究活動の1つとして仕掛学を応用した研究開発を進めていたのですが、2024年に森本さんが加わったことをきっかけにシカケラボを立ち上げました。私自身はBIPROGYのグループ会社であるユニアデックスに経験者採用で入社して、コミュニケーションロボットの利活用に関する研究開発に携わり、2018年に総研へ出向し、2025年に転籍しました。総研に出向した際、コミュニケーションロボットも人間の行動変容を促す仕掛けの1つではあるものの、なぜうまくいかなかったのかと考えていたときに仕掛学を知り、研究を始めました。
――シカケラボの研究概要を教えてください。
齊藤私がコミュニケーションロボットの研究開発に携わっていた際に、豊橋技術科学大学 情報・知能工学系教授の岡田美智男先生(現在は筑紫女学園大学 現代社会学部 現代社会学科 教授)が〈弱いロボット〉の研究をされていることを知りました。〈弱いロボット〉は「ロボット単体で完結するのではなく、周りに行動を委ねることで目的を達成する」という発想から生まれたものです。ロボットに完璧な機能を実装するのではなく、人間が「助けてあげなきゃ」と思うように仕掛けることで行動変容を促す方法もあることを知りました(参考:NexTalk「連載対談「未来飛考空間」第7回 岡田教授と語る「弱さ」が取り持つ、人とロボットのやさしい関係」)。
共創デザイン室 上席研究員 齊藤哲哉〔シカケラボ〕
この他にも、ゴミ箱にバスケットゴールを設置してゴミを投げ入れたくなるような行動を促すものもあります。さらに、バスケットゴールにゴミが入ったことを検知できるセンサーを設置することで、ゴミ箱が満タンになりそうになったら通知される仕組みができますし、そのタイミングで回収に行けば省力化にもなります。また、どれくらいのスピードでゴミが溜まるかというデータを蓄積して分析することで、さらなる課題解決につなげることもできます(参考「IoTスマートごみ箱「SmaGO」がオーバーツーリズムによるごみ問題解決の一手に」)。
このように、シカケラボでは遊び心に加えてデジタルの利点もうまく使う「仕掛け」を課題解決に応用し、かつビジネスとして利益を生み出せる新たな事業を創出したいと考えています。現在は、当社のお客さまに対してこのような「仕掛け」の着想を支援するワークショップを開催しています。この2年で18回のワークショップを実施しました。
――ワークショップから生まれたアイデアで、すでに運用されている事例はありますか?
齊藤飲料メーカーのサントリーと立ち上げた「楽しい居酒屋プロジェクト」があります。飲食店のPOPがお客さまの目にとまりにくいという課題があり、ワークショップで着想された「あれ」をPOPに使う仕掛けが採用されました(参考「サントリーHDと居酒屋がコラボ──「仕掛学」で実現した行動変容」)。
「エコシステムデザインラボ」:社会課題解決を促進する「価値循環デザイン」
――続いて、エコシステムデザインラボの注力テーマや現在の取り組みを教えてください。
丹羽私は、エコシステムデザインラボでビジネスエコシステムやイノベーションエコシステムについて研究しています(参考「BIPROGY総合技術研究所の取り組み」11頁)。2013年にBIPROGYに入社し、金融系のシステムエンジニアを経て、サービスデザインやUXデザインの専門部署に所属して新規事業開発や既存事業のUX改善プロジェクトなどに従事してきました。
共創デザイン室 上席研究員 丹羽南〔エコシステムデザインラボ〕
サービスやプロダクトを通じた体験のデザインに取り組む中で社会の仕組みのデザインにも興味を持つようになり,2021年に総研に異動になってからは、企業と企業が価値提供のために連携する「エコシステム」について研究を始めました。
山田新卒でBIPROGY(当時は日本ユニシス)に入社した後、グループウェアの開発やシステム間連携ミドルウェアの適用支援に従事しました。2011年に総研に異動となり、自然言語処理や衛星データ活用など、幅広い研究テーマに取り組んできました。2021年からは丹羽さんと共に、「エコシステム」の研究に携わっています。そして現在は、社会課題の解決と経済的価値の両立を目指すビジネスモデルを専門に、事例収集や成功・失敗パターンの分析を進めています。
共創デザイン室 上席研究員 山田勉〔エコシステムデザインラボ〕
エコシステムデザインラボの取り組みイメージ
――エコシステムデザインラボの研究概要を教えてください。
丹羽エコシステムデザインラボでは、大きく2つのテーマに取り組んでいます。
1つは、社会価値の創出と経済的利益を両立させるための事業設計手法の開発です。これまでも社内では多様な社会課題に向き合うプロジェクトが立ち上がり、私自身も挑戦してきました。ただ、ビジネスモデルの組み立て方や共創パートナーといかに合意形成しながら事業を前に進めていくかといった点には、なお工夫の余地があります。
もう1つのテーマは、事業が生み出す価値──、とりわけ社会的な価値をどのように評価し、伝えていくかということです(参考「研究員と会える! 話せる!「R&D Meetup Days 2024」開催」/ピックアップ2「価値循環で目指す社会課題解決」)。例えば、ヘルスケア事業で地域の方々の健康に寄与できても、定量的に捉えられる価値は売上や短期的な医療費削減といった限られた指標にとどまりがちです。この他にも、健康寿命の延伸による地域経済への波及や、コミュニティの活性化など、より広く・長期的な価値が生まれている可能性がありますが、これらは可視化が難しく、結果として事業の意義が十分に評価されないこともあります。そこで私たちは、こうした価値を適切に示すための評価指標の設計や可視化の仕組みづくりに取り組んでいます。
――研究を知るうえで知っておくべきトピックをいくつか教えてください。
丹羽まず、社会課題解決と経済的価値の両立のため、私たちは「価値循環」という考え方に着目しています。例えば、先ほどのヘルスケア領域では、地域住民向けの健康促進サービスを事業化した場合、医療費の削減や健康寿命の延伸といった効果が期待できます。さらに、地域の人々が健康になったり、取り組みの効果により移住したりする方が増えれば健康な働き手が増えることで地域の企業にもメリットがあります。
これらの効果を示せれば、健康促進サービスを利用する住民だけでなく、自治体や地域の企業からも収益を得られる可能性があります。このようにステークホルダーの間を「ぐるっと価値が回って返ってくる」というのが価値循環の基本的な考え方です。
社会課題に対しては、1社が持つ知財や技術適用だけで解決するのは難しい場合が多く、複数の人や組織が連携して進めます。こうした取り組みでは、関わる全員が価値循環を経て事業への投資に見合う価値を享受できるような仕組みづくりが重要です。当然、ステークホルダーが増えるほど、その仕組みづくりは難しくなります。
山田その仕組みづくりや精緻化に向けて、現在は、さまざまな企業の事例を分析し、どのような価値循環が存在するかを分析しています。また、BIPROGY社内の多様な企画中の事業に対しても価値循環の検証を行っており、「どのようにすれば価値循環を生み出せるのか」「欠けている要素は何か」をプロジェクトのメンバーと一緒に検討しています。さまざまなフェーズの事業に伴走しながら、価値循環のモデリング手法をブラッシュアップしています。
――具体的な事例はありますか。
丹羽地域の公共交通事業者と連携し、公共交通利用を促進するためのプロジェクトを行いました。普段は自家用車を利用する方に初めてバスに乗っていただき、そこから定期的な公共交通の利用につなげることを目的としたキャンペーンです。このプロジェクトでは、キャンペーンによってどれだけ利用者が増えたのかだけでなく、地域にもたらしたさまざまな価値を評価指標としました。
地域公共交通をテーマに社会的価値の指標化に取り組んだ例
キャンペーンをきっかけに買い物に行く方が増えれば近隣店舗に経済効果を生み出せます。さらにバス停まで歩くことで運動量が増え、医療費の抑制にもつながります。また、自家用車を使わずにバスを利用することで、CO2削減効果も期待できます。このように、事業が生み出した価値を医療や商業、環境、地域コミュニティの活性化などさまざまな視点から評価する試みを進めています。
遊び心を大切に、楽しく社会課題の解決に挑戦する
――シカケラボとエコシステムデザインラボの協働によって、「世界シカケ化共創計画」が立ち上がりました。きっかけは何だったのでしょうか。
齊藤各研究を進めていく中で、どちらのラボにも課題がありました。私たちは仕掛けを考えて効果測定まではできるけれど、ビジネスにつなげていくための知見がまだ不足しています。また、お客さまの課題の粒度もさまざまです。例えば、「CO2削減」という大きな課題に対して、仕掛けで解決する方法を考えるのは難しかったのです。
たまたま、ある製茶・販売業のお客さまの課題解決に取り組む中で、数多くの課題を抱えていることが分かりました。その分類や優先順位を決めるにあたって、同じ共創デザイン室で研究をしているエコシステムデザインラボに相談しました。お互いに協力し合うことで具体的に課題を抽出できましたし、これらを解決する「仕掛け」はワークショップを開催してお客さまと一緒に考えました。
また、「仕掛け」の事業化に向けた価値循環モデルを描く段階では、再びエコシステムデザインラボの知見が大きく役立ちました。こうした相乗効果を実感したので、「一緒に組めばいいのでは?」と考えたのです。その結果、2025年1月に「世界シカケ化共創計画」のチームを結成し、協働研究を進めています。
世界シカケ化共創計画のきっかけとなった事例
丹羽お客さまにご相談いただいて価値循環モデルを描いてみると、例えば、提供価値が不足していてサービスやプロダクトについても見直しが必要になるケースがあります。しかし、「見直しが必要だ」とただ伝えるのみでは、お客さまもどうしていいか分かりませんが、仕掛けを応用して解決策の提案ができれば、価値循環を実現できます。お互いの強みがうまくフィットしました。
世界シカケ化共創計画と協働研究のイメージ
――今後、世界シカケ化共創計画を通して、どんな社会的価値を生み出していくのか、展望をお聞かせください。
森本チーム結成のきっかけとなった先ほどの製茶・販売業の事例は、2つのラボの連携が見事に機能した事例でした。世界シカケ化共創計画というチームができたことによってさまざまな課題解決に挑戦できる可能性を感じています。私自身は専門知識を生かし、いかに生成AIをこの取り組みに活用できるかを考えていきます。小さな部分での適用は始まっていますが、さらに広く活用可能な方法を検討して、より大きな社会的価値を生み出していきたいと考えています。今後の展開にワクワクしています。
齊藤この研究テーマは始まったばかりです。これから、一気通貫で社会課題解決につながる事例が生まれていくと思います。私自身、いかに楽しく社会課題を解決できるかをずっと大事にしてきました。世界シカケ化共創計画というチームができて、生成AIも導入することで解決に資する手法の幅もさらに広がるでしょう。楽しく、いろいろなチームと共創しながら、課題を解決していきたいと思っています。
丹羽社会課題解決って、本気で向き合うとすごくしんどいんですよね。問題の根深さや大きさに圧倒されてしまい、自分たちにできることが少ないように感じてしまっていて、「本当に意味があるんだろうか……」と悩むこともあります。齊藤さんの「楽しく」に通じることですが、遊び心を取り入れることで、課題解決を継続しやすくなります。「世界を変えてみよう!」というくらいの明るい気持ちで取り組めるチームにしていきたいと思います。
山田これまでは、お客さまからの相談に応じてスポットで課題解決に関わることはありましたが、最初から最後まで全工程に関わる機会はありませんでした。今回の取り組みでは、事業構想の案から課題解決まで一貫して関われそうでとても楽しみにしています。また、現在は主に経営学の視点から取り組んでいますが、BIPROGYが強みとするシステム工学の手法も活用し、より効果的な課題解決に挑戦したいと考えています。






