連載「進化する日本ユニシス総合技術研究所」

第1回 チーム研究で挑む未来のイノベーション

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日本ユニシス総合技術研究所」は、日本ユニシスグループのR&D拠点として2006年1月に設立された。「技術を人類・社会・企業の価値に変え、持続可能なありたい未来を創造する」をビジョンに掲げ、社会的・経済的価値を生む技術を育て、社会に送り出す先陣を切る。さまざまな領域で研究に取り組むとともに、テクノロジー視点で5~10年先の未来像を「Technology Foresight」として公表するなど、メッセージ発信も積極的に行っている。日本ユニシスが「BIPROGY」へと進化する中、総合技術研究所も大きく進化しようとしている。その思いと、今後に向けた戦略について、2021年4月に着任したセンター長の香林愛子に聞いた。

培ってきた数理の力をイノベーションの源泉に

「日本ユニシス総合技術研究所(以下、総研)」が設立されたのは、クラウド、IoTデバイス、機械学習などデジタル技術が急速に変化し、社会浸透が進んでいた2006年。この総研を十数年にわたり牽引してきた前任者から引き継ぎ、2021年4月からセンター長を務めるのが香林愛子(こうりん あいこ)だ。「総研は『技術を自らの手で追い求めていきたい』というICTベンダーとしての矜持と、『技術の力で社会をよりよくしたい』という思いから誕生しました。総研の取り組みによって、現在の単純な延長にはない未来の選択肢を増やしていきたい」と語る。

写真:香林愛子
日本ユニシス株式会社
総合技術研究所 センター長 香林愛子

総研は「技術を人類・社会・企業の価値に変え、持続可能なありたい未来を創造する」ことをビジョンに掲げる。

「技術に対する好奇心だけでなく、『こういう人を助けたい』『こんなところを良くしたい』という目的意識や熱量が重なることによって、技術で世の中を変えていく力が高まります。ただ、どうすれば変えられるかについて、明確な正解があるわけではありません。そこで総研では、形にして試したり壊して作り直したりと、素早く根気よく仮説検証を繰り返す探究を『アイデアをすぐ形に』という言葉とともに大切にしています」

香林は、いわゆる「研究畑」の出身ではない。システムエンジニアとして入社し、ここ十数年はUI/UXの開発やマーケティングに従事してきた。「どちらかといえば、総研は“遠い”存在で、別世界に移るような気持ちでした」と着任当時を振り返る。新型コロナ禍のためテレワークが続く中、研究員とオンラインでのランチ座談会を重ね、総研の雰囲気や研究員の思いをつかんだ。「ランチ座談会で全員と話してみました。誰もが好奇心や探究心にあふれ、熱い思いを受け取りました。論文が学会を通ったり、講演者として招聘されたり、といった実績を知るにつけ、活躍の場を広げている姿が想像できました」と目を輝かせる。

「総研のことが分かってくると、強さの根幹は数理にあると確信しました」と語る。コンピュータは文字通り計算する機械だ。解きたい問題を数理モデル化し、解くための最適なアルゴリズムを考え、コンピュータで実行する。それは日本ユニシスが連綿と続けてきたことであり、企業としてのオリジナリティにもつながる。「数理の力を高めて、社会課題の解決や価値創造を、総研の研究活動の柱に据えたいと思いました」。例えば、総研の活動を起点に生まれた「BRaVS(ブラーブス)」は、物体認識、形状処理、深層学習などで培った技術を融合させたソフトウェアだ。

総研は、2016年、「生命科学」を注力分野に加えた。科学のフロンティアの1つであり、社会を変える潜在力も高い。数理の応用先としても魅力的だ。さらに情報通信技術と融合することで新たな価値創造、社会課題解決につながるという見立てだ。また、数理と並んで総研の土台となっているのが「システム工学」だ。日本ユニシスは長年にわたり情報システムの構築と運用を続けてきた。巨大で複雑なシステムをどのように作り上げ、いかに動かすかの知見が積み重ねられている。今後、取り組む対象は、情報システムだけでなく、人や集団、社会にまで広がっていく。

「複雑なものをきちんと動かすには、まず全体像を描くこと、つまり、“デザインする”ことが大切です。社会を変えるには、技術を単体で捉えるだけでなく、実際の社会に適用された『青写真』も併せて考えなければなりません」という。さらに、「既定路線の無い中で新しい仕組みが人や社会に受け入れられるには、相手に仮説をぶつけて検証を繰り返す『壁打ち』がとても重要」という香林は、社会のデザインから実装までを一続きに取り組むチームを立ち上げた。

先端技術に向き合う研究と人・社会に向き合う研究を軸に

前述のとおり2021年4月に着任した香林。彼女は、社会実装に向けた取り組みの強化を鮮明にし、先端技術に向き合う研究、人・社会に向き合う研究を総研の軸に据えた。人や社会に向き合うことは、日本ユニシスグループの新たな経営方針「Vision2030」の「For Customer」「For Society」の視点と呼応することになる。「当社方針との関連性が高まりました。ただ、これが最終形とは思わず、常により良い形を考えていきたい」と強調する。

では、ここで、総研の取り組みをいくつか紹介していこう。

先端技術研究では、数理、計算機科学などの分野を中心に、数理モデル、自律的知識ベース、空間認識、量子ソフトウェアなどの研究に取り組んでいる。量子ソフトウェア研究では、量子コンピュータが実用化・普及したときにその上で実行される「ソフトウェア」としてどのようなものがふさわしいか、それをいかに設計・実装すればよいかという目線から「ハードウェア」の先に来るものを見据える。

また、生命科学分野の研究では、人の生理的メカニズム、ものごとの感じ方や認知の仕方の解明などが基礎になることから、これからの社会で重要さが増す「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味し、「幸福」や「幸福感」と訳されることもある)」の実現まで、幅広く取り組む。パーソナリティを解明する研究では、日本科学未来館と共同のオープンラボとして、においの好き嫌いと、年代・性別・出身地・行動の傾向など人のさまざまな特性との関係を調査している。ウェルビーイング研究では、「常に前向きな気持ちを抱ける」「身体状態を把握し改善する」「他者と分かり合うための気づきが得られる」「ともに成長できるようなコミュニティを見つける」「達成感を分かち合える」「夢中になれることを見つける」といったことに役立つ技術の開発を目指している。

そして、人や社会に向き合う社会デザイン研究では、産業が持続的に発展していく仕組みを念頭に、観光マーケティングや未来洞察などに取り組んでいる。観光マーケティングでは、観光振興策を考える人がデータに基づいて意思決定しやすくなるための研究を行っている。現在、中国地方を中心に5県にまたがる範囲で、人の移動や滞在状況の実態をIoTセンサーや携帯電話データから収集し、観光スポットの来客実態を精度高く分析することで、マーケティングに活用する実験が進行中だ。また、高度なデータ分析スキルを持たない人でも示唆を得やすいデータの見せ方についても研究課題にしている。

さらに、これらの研究活動を支え、未来を展望し技術を俯瞰して、マネジメントしていく活動がある。特定の技術領域にフォーカスするのではなく全体を俯瞰し、技術ロードマップの整理などを通じて、総研の研究マネジメントだけでなく日本ユニシス全体の技術戦略につなげている。

日本ユニシス総合技術研究所が目指す姿

画像:日本ユニシス総合技術研究所が目指す姿
日本ユニシス総合技術研究所は、「先端技術に向き合う」「人や社会に向き合う」を軸に、未来を展望し社会課題解決に資する技術をマネジメントするため現在進行形で挑み続けている

ところで、人に関わるさまざまな情報を利用した研究開発、サービス展開が加速し、人や社会に与える影響が大きくなる中、企業には、倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)に配慮することが、強く求められるようになった。こうした観点から、2019年、日本ユニシスは、「責任ある研究とイノベーション(Responsible Research and Innovation)」の要請に応えつつ研究を推進するため、研究倫理の諮問機関として「日本ユニシス生命科学研究倫理審査委員会」を設置した。「2021年度は社内に向けて倫理の啓発イベントを行い、社員から大きな反響がありました」と香林はいう。

自らを高め「つながる」活動でさらなる進化を目指す

先端技術に向き合う研究、人・社会に向き合う研究に取り組んでいる総研は、自らを強化しつつ、「つながる」「つなげる」ことでさらなる高みを目指している。

研究者の強化は、内部人財の育成と専門性の高い外部人財の採用が両輪になっている。内部人財の育成では、研究員の博士号取得や、研究員が知見を広め後進を育てる「私塾」といった取り組みを続けている。2021年には、研究員が国立研究開発法人理化学研究所に出向する機会に恵まれ、研究連携と研究員育成の両面で新たな一歩となった。外部人財の採用では、情報通信分野ではない博士号取得者や、倫理の専門家を迎え、総研の活動に幅と厚みが増している。

先端技術研究に取り組む上では、海外動向をキャッチするアンテナがものをいう。新たな動きは海外で始まることも多い。総研は、アカデミアが集結している米国ボストンなどに拠点を持つグループ企業の「NUL System Services Corporation(NSSC、2022年4月から「BIPROGY USA, Inc.」)」と連携して海外研究グループとのネットワーク構築に着手。現在は具体的な提携先を探索しているという。また、先端技術研究の加速のため、国内外を問わず共同研究先の開拓を進めている。

写真:香林愛子

人・社会に向き合う研究では、前述した中国地方での実証実験のほか、国立大学医学部付属病院とのスマートホスピタルの共同研究の話が進んでいるという。この共同研究は、現場に入り込んでの観察と、社会変化などを織り込んだ10年後のありたい姿の展望を両輪に、病院や地域と伴走しながら、描いたコンセプトを実現していく取り組みになる。「これまでの研究を連携させ、より社会実装のイメージを強く持って、フィールドと対話していきます」と意気込みを見せる。

香林は「研究畑」の出身でない自らを「つなぐ役割」と位置づけている。総研が持つ個々の技術をつなぎ、研究成果をビジネスにつなぎ、さらに研究活動を社会につなぐプロデューサー役に徹するのだという。また、個々の研究員や成果だけでなく、総研全体の存在感を高めていくことも大切だと考えている。「10年前に想像できなかった今があるのは、総研が育ててくれた技術があればこそ、と言われるような存在でありたい」と語る。魅力ある総研には、魅力ある研究者が集まるに違いない。マーケティングの見識を持つ香林のもと、先端技術研究を社会実装につなげようとしている総研がどんな活躍をみせるのか。総研の新たな展開に期待したい。

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