2022年4月1日に「BIPROGY」へと生まれ変わる日本ユニシス。「ダイバーシティ&インクルージョン」に表出されるように多様性を重視し、「ビジネスエコシステム」の進化系である「デジタルコモンズ」の実現に向け、挑戦を続けていく。では、担い手たる社員たちはこの変革をどのように受け止めているのか。社名変更を目前に社員と日本ユニシス代表取締役社長の平岡昭良が座談会を通じて語り合った。参加者それぞれが抱く、BIPROGYに対する期待や不安、率直な疑問や思いを忌憚なく社長に投げかけることで、より鮮明なBIPROGY像が描き出された。
BIPROGYのブランド価値は
一人ひとりの行動がつくりだす
北田 まずBIPROGYへの社名変更についてお伺いします。社名変更の際にはメールやWEBのドメイン変更などの費用がかかりますし、今の社名に慣れ親しんできた社員も多数います。平岡社長は社名変更による効果をどのようにお考えでしょうか。
平岡 社名変更ではシステム変更や印刷物、社名プレート変更などの各種コストも生じます。しかし、それら以上に、30数年間をかけて培った「日本ユニシス」ブランド以上の価値を得られるかが重要です。かなり悩みました。ですが、社名でお客さまの信頼を得ているわけではありません。社員一人ひとりの仕事ぶりなどが評価されて形成されたものが、私たちの価値です。また、ご承知の通り既存社名はグローバルでは使いにくい事情もありましたし(参考「『BIPROGY』に込めた思いと未来社会への展望」)、「ICTの老舗」という少々“お堅い”イメージもありました。社名変更を通じて枠組みを取り払い、お客さまや社会からの視点を変えられるなら、計り知れない価値がそこにあります。後は、自らの行動で見せていくだけです。4月以降、「BIPROGYらしい」と言われることに意欲的に挑戦することが新ブランド形成の原動力になると考えています。
北田 社名変更の意義や期待の大きさがよくわかりました。しかし、社会人経験も浅い私は、今後のキャリアについて悩むことも多いです。BIPROGYとして歩みを進めるにあたって、社員一人ひとりにはどんなことに挑戦してほしいと感じていますか。
平岡 北田さんが入社した2021年度の入社式は、オンラインでの実施でしたね。入社式で伝えた2つのメッセージを改めてお話しします。1つ目が「must、want to、hope to」。会社に入ると「must(やらねばならない仕事)」が増え、それらと向き合うことで仕事力が鍛えられます。ここから「want to(やりたい仕事)」を持つことで成長する。さらに「hope to(会社や社会をこう変えたい)」を抱いて羽ばたいてほしい。「want to」「hope to」へ成長するカギが、もう1つのメッセージ「成功のKPIは失敗の数」です。「少し背伸びしなければ届かない事柄に挑戦し、次につながる失敗を数多く重ねてほしい」との意味合いです。こうした失敗は、繰り返すたびに人を成長させます。知らず知らずのうちに自分でも驚くほど高い領域まで手が届くようになるかもしれない。だからたくさん失敗してほしいのです。
北田 最近は、「自分から何かを生み出したい」という意欲も高まり、会社のアイデアソンに出場しました(参考「社内外のメンバーで『チーム』をつくり社会課題解決にチャレンジ!」)。入賞はできなかったのですが、その内容を課内で発表したところ興味を持ってもらえたので、一緒に活動してくれる方を探そうと考えています。失敗を恐れずに、頑張ってみたいと思います!
松村 私も平岡社長のメッセージにいつも励まされていて、「自分は社内で一番失敗した人間です」という言葉がとても印象的でした。平岡社長のこれまでの失敗経験を教えてください。
平岡 あまりにたくさんの失敗があるので迷いますね(笑)。日本ユニシスには、その歴史に残る赤字経験がありますが、実はその1つを作ったのが私でした。大型プロジェクトにトライして、失敗したのです。ある夜、当時の社長に呼び出されました。身構える私に向かって、社長はこう言いました。「次代を担う経営者を育てるには多くの投資が必要。今回の赤字額では足りないくらいですよ。今後に期待しています」と。とても心に響く言葉でした。損失を与えても勇気づけて次のチャンスを与えてくれる、それが私たちのDNA。だから、この会社ではチャレンジしやすい、失敗を許容しさらなる挑戦を促す土壌があるのです。
松村 確かに「課内の連絡経路の在り方を変えたい」と提案したとき当時の上司はすぐに受け入れて改善してくれました。他の部署の上司も同様でした。この会社には挑戦を後押しするDNAがあると感じます。
「多様性」を推進するポイントは「フォロワーシップ」にある
天野 少し視点を変えて、BIPROGYが「多様性」を重視する理由を質問させてください。私も多様性が重要だと考え、人事部ダイバーシティ推進室の「ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)」タスクフォースに参加しています。複雑な社会課題を検討する上で、視点の乏しい画一的集団では誤った方向に進む可能性があると考えるからです。こう考えるに至った1つの事例があります。アメリカのコロンビア・ビジネス・スクールでは、友人だけで構成された集団と交流のない人を混ぜた集団に分けて、事件の犯人を当てる実験を行ったといいます。結果は他人のいるグループのほうが知り合い同士のグループよりも正答率が数十%高かった。正答率の違いは、友人同士のグループは意見がまとまりやすかった反面、自分たちの意見が正しいと信じ込んで議論の盲点に気づかなかった部分にある、とされています(出典『多様性の科学』マシュー・サイド著)。
拡大解釈かもしれませんが、社内でも同じような事象が起きていると感じます。というのも、社内プレゼンコンクールで多様性の重要性を発表した際、「多様性の重要性は理解しているが、コストをかけてまでやるべきなのか」との質問がありました。時代に即応したビジネス変革を推進すべき局面において、多様性がない組織では多角的な議論がなされず、偏った結論に陥る恐れがあります。そう考えると、コストをかけてでも社内の多様性を高める取り組みを推進するべき、と感じています。
平岡 日本ユニシスグループ役職員の同質性・同調性が一定程度高いのは事実だと思います。それにより離職率が低く、心理的な安全性は高い。しかし、一般に同質性や同調性の高い組織は、認識能力の範囲内で判断の是非を下す「限定合理性」に陥りやすく、自分たちに都合の悪い情報を過小評価する「正常性バイアス」も働きがちです。これらを回避し、変化に柔軟に対応できる組織となる手段として、多様性が求められています。これまでも、社員一人ひとりの行動変容につなげるために一歩ずつ取り組みを重ねてきました(参考「熱論!ニューノーマル時代を生き抜く新しい組織とリーダーシップ」)。今後も、この観点から多様性の確保を図っていきたい。まだまだ道半ばです。
そして、私はその多様性の中心には「フォロワーシップ」があると考えます。例えば、“先駆者”となるファーストペンギンやアーリーアダプターの視点のみから捉えると、リーダーを補佐する人たちは“受け身な存在”として映りがちです。ですが、会社には、日々お客さまの課題に真摯に向き合い、その解決に向けて動く方たちが多くいる。彼らは、ファーストペンギンのアイデアを具体的に実装するために力を貸し、共に未来を志向する仲間たちです。天野さんのような尖ったアイデアを持つ方と力を合わせれば、多角的な課題解決につながっていく。その結果、お客さまにも喜んでもらえてWin-Winにもなる。1つひとつの過程の中で、BIPROGY社員の一人ひとりがフォロワーシップを誇りに変え、そこにある多様性が楽しいものだと感じてもらえたら、私たちに内包する唯一無二の多様性は一気に花開くと思います。
天野 「フォロワーシップ」という在り方は、私も気づいていませんでした。1つひとつの過程を大切にしながら、取り組みを進めることで「BIPROGYとしての多様性」を深めることができると感じました。ところで、私は「社員同士の対話」を通じて、多様性を「自分事」として認識してほしいと思っています。社員の皆さんは現業で忙しく、なかなか対話の機会を設けることが叶いません。1つの方法として、全社的な対話の時間を作るなど、ある程度、上から働きかける方法があると思うのですが、いかがでしょうか。
平岡 確かに対話は重要です。ぜひ時間を割いてほしい。しかし、参加するかは本人の心の在り方が大切です。「今は仕事が重要」と考える方も、対話が「仕事と同様に重要で楽しそう」と思えば参加します。常務執行役員のころ、若手社員を集めて新規事業などを考える私塾を作りました。時間の使い方も自分たちで考えます。当時、仕事分担の調整を上司に掛け合ってまで参加した方がいたのは私塾が面白かったから。D&Iの浸透にも「色んな人がいると楽しい」と思ってもらうことが大切です。加えて、視野を広く保てる環境が「自分が実現したいことのプラスになる」となれば、皆が魅力を感じます。重要なのは、多くの人が自然とそう思える対話の場を、どうやって作るかです。
天野 自発的に参加したくなるような、心躍る場を作る。こうした視点が重要ですね。
平岡 そうです。世の中にはチームビルディングの方法論やツールがたくさんあります。それらを参考にするといいでしょう。壁にぶつかることがあれば、ぜひ気軽に相談してください。
「フロンティアスピリッツ」で切り拓く
明日のグローバル戦略
花田 私は、世界30カ国超のバックパッカー体験や国際流通に携わった経験を通じて「国際感覚」を大切にしています。今後に際しては、特に海外展開に関心があります。世界を見渡すと、ICT業界は他業種からの「ゲーム・チェンジャー」の登場などもあり熾烈な競争下にあります。「社名変更は積極的な海外展開も見据えて」とのことです。これからの具体的なプランをお聞かせください。
平岡 先ほどお話したように、既存の社名には多くの制限があり、枠内に閉じていては大胆な発想が難しい。既成概念に縛られないボーダーレスな発想は、デジタルコモンズの実現にも必須です。BIPROGYへの社名変更は、多様な社会課題の解決に向け、さらなるイノベーションの実現と持続可能社会の実現に向けたグローバル展開を企図したものです。とはいえ、正直にお伝えします。今後のグローバル戦略については、「白地図」の状態です。ぜひグローバルビジネス部だけでなく、アイデアを持つ全ての人に手を挙げてほしいと思っています。
花田 既に取り組みが進むASEANを中心とした展開を考えているのだろうと思っていました。少し予想外です(汗)。
平岡 「まずはASEANから」と考える人もいるかもしれません。しかし、私はその限りではありません。むしろ枠に縛られず、大胆な発想で取り組んでほしい。グローバル投資単体での損失では会社は傾きません。気負いなく、自由に挑戦してほしいと思います。もちろん、私なりに情報収集を行い、商機を感じる分野もあります。しかし、私自身にはグローバルビジネスの経験が少ない。背景や現状を知らない者が経験軸から評価すれば、限定合理性よりも良くない方向に向かうでしょう。加えて、「やらされ」では成果が出ませんし、志のある仕事にもなりません。現時点では知財やアセットなども十分ではありませんが、「好きなことが存分にできる環境」という意味では最高のフィールドです。海外展開は何色にも染まっていませんから、ぜひ「花田色」に染めてください!
花田 ありがとうございます。社内には、海外進出に対して苦手意識を覚える方も多いと感じます。これまでは国内システムの受注がメインでしたが、今、私が担当するお客さまにも海外展開を意識している企業があります。こうしたお客さまを適切にアシストすることで、海外展開の裾野が思いもかけない形で広がると感じます。数年後には、海外出身の優秀な人たちがBIPROGYに入社して英語による意思疎通が普通にできる環境になるなどが個人的に目指すところです。
平岡 英語を強制するのではなく、「その方が得だ」と思える環境になるといいですね。私も常務時代に、3年半、自費で英会話学校に通いました。流暢ではないけれど現在は「英語は怖くない」と感じます。
花田 グローバル展開について質問したのは、今後の注力エリアを聞き、向かうべき方向性の参考にしようと考えたからです。まさか「自由に挑戦してほしい」と言われると思いませんでした(笑)。しかし、カスタマーファーストでお客さまを支援する形で展開する方法なら、可能性が広く開かれていると感じます。海外拠点においてお客さまの課題解決や困難の改善を図ることが必然的にグローバル展開になるからです。
平岡 私たちの強みであるビジネスエコシステムを作れば、世界中の拠点を作れます。内側のアセットだけを見ると、確かに日本ユニシスにはASEAN7カ国が視野に入ります。しかし、国内ではさまざまなステークホルダーとエコシステムを構築しています。国内47都道府県のうち大多数のサポートサービスを担うのはパートナー企業なのですから、その応用を海外で展開する。既存の仕組みだけを見ていると視野が狭くなりがちです。これまでの枠組みにとらわれず、「志の版図」を大きく広げてください。期待しています。
イノベーションの実現は
周囲を巻き込み、つなげる力が大切
松村 私からはコミュニティ活動について質問させてください。2020年7月から1~3年目の社員を中心に「若手イノベーションコミュニティ」活動をしています。きっかけは、リモート主体で働く中で同期たちとの交流不足にもどかしさを感じたからです。交流会や新機軸のアイデア出しが主な活動ですが、今後は、多様なつながりも作りたいと考えています。
平岡 よい取り組みですね。BIPROGYでは、「デジタルコモンズ」の実現に向けたプロセスとして、「ミーティングコモンズ」「ラーニングコモンズ」「ナレッジコモンズ」という3段階のコミュニティ形成と、そこでの議論の進化(深化)を考えています。起点となるミーティングコモンズでは、社会課題に関する背景などを徹底議論します。スタートアップや大企業を問わず、社内外のあらゆる人財が集います。立場や利害関係を超えた議論を通じて課題の本質を明らかにしつつ、共通認識を形づくることが目的です。ラーニングコモンズでは、得られた知見を集めて解決のヒントを考え、共に学びます。最後に、具体的な解決策に落とし込み、蓄積するナレッジコモンズへと至ります。これらが循環し、発展することでデジタルコモンズが形成されます。そして、コミュニティに参加した多様なステークホルダーのエコシステムを結集して社会課題の解決が図られていく。そんな仕組みをBIPROGYは創出します。具体的なアクションも進めています。松村さんたちには、その仕組みをぜひ利用してほしい。このコミュニティなら社内外を問わない多様性が生まれます。参加者は志の高い人たちばかりなのでワクワクすると思いますよ。
松村 日本ユニシスはスタートアップ企業とのオープンイノベーションが盛んだと思っていましたが、大企業同士のつながりもあるのですね。
平岡 もちろんです。そして、私自身のつながりも潤沢ですよ。大手企業のトップが集まる勉強会や中央官庁の官房長クラスとの意見交換会など交流の場は数多くあります。ただし、こうした場は相手も求めていなければ成立しません。松村さんの若手コミュニティも、皆が求め合うから成立しているのです。
松村 私もつながりを広げていきたいと思います。しかし、多くの層をどのように巻き込むかが課題です。
平岡 若手コミュニティの活性化を目指すなら、会社のことをよく知っていて、応援してくれそうな人に相談してみてください。相手の心をくすぐるように相談してみる。巻き込まれた様子を見ていた周囲も影響を受けて、徐々に皆が応援者になるはずです。そのヒントとして、ぜひ「行動科学」を学んでみてください。「行動変容のきっかけはモチベーション」などと言われがちですが、実は「少しの心がけ次第」と気づくはず。先ほどの話で言えば、「松村は自分を相談相手に選んだ」というだけでも、批判的だった人が協力的になってくれたりするものです。周りの人を味方にするための学びも大切な要素です。
そして、行動変容を求める際に注意すべきなのは「今やっていることを否定しない」こと。例えば、「従来のやり方で仕事をしてきたから今の地位がある」と自負する層に、頭ごなしに「それを変えろ」と否定すれば抵抗勢力となる。成功体験を持つ人ほどそれは顕著です。また、一気にやり方を変えるなら、それは変革ではなく「革命」。お互いに譲れないのだから対立するしかない。そうではなく、まずは“先駆者”が自走可能な環境を作ることが肝要です。数%のファーストペンギンから始まって、次に20%程度のアーリーアダプターが出てきたら、その先はフォロワーの力で大きな変化のうねりへとつながります。この会社もファーストペンギンやアーリーアダプターが増えてきました。多数であるフォロワーを力に変えて、私たちらしい変革を目指してほしいと思います。
松村 いつも応援してくれる同期もいます。私も「くすぐり型」の相談をするようにしてみます。行動科学も積極的に学んで自分の武器にしていきたいと思います! 今日はありがとうございました。
平岡 こちらこそ、皆さんの考えや悩みを聞いて話し合う、とても有意義な時間になりました。今日の対話で得られた気づきを、ぜひ行動に移してみてください。その際には「BIPROGYらしく」を意識してほしい。皆さん一人ひとりが「Purpose、Principles」や「Vision2030」に則った行動をすれば、自然にBIPROGYらしくなる。そんな皆さんの姿を見た人たちも影響を受けて行動が変わってくるので、身構えたブランディングも必要なくなります。「皆さんの行動がブランド価値」だということを認識して、一緒にBIPROGYらしさを作っていきましょう。