さくらさくみらいとmierunが挑む伴走型保育DX

データ利活用で目指す、保育園職員と保護者が「パートナー」になる未来

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人手不足と高い業務負荷が課題となっている保育業界。BIPROGYは2022年4月に保育園と保護者のコミュニケーションツール「mierun(みえるん)」をリリースし、保育の現場を支援してきた。mierunは今、保育園89施設を運営する株式会社さくらさくみらいへの導入を通じて新たなフェーズを迎えている。リリース以来最大規模となった今回のサービス提供と伴走支援の背景にはどのようなストーリーがあったのか。両社が共有する思い、そして未来像とは。さくらさくみらいでICT活用を推進する前島寛子氏、北嶋幸恵氏と、BIPROGYのmierun運営チームが語り合った。

ヘッドライン

保育園職員、保護者の負担や不安に寄り添い、スムーズなサービス導入を実現

――まずは皆さんの業務内容や、現在取り組んでいることについて教えてください。

前島私は2020年にさくらさくみらいに入社し、WEB・マーケティングユニットでWEBサイト管理関連とマーケティング業務などを担当していました。2~3年前からは、紙の連絡帳の電子化をはじめとする保育園のICT化を担うグループ会社、みらいパレットの代表取締役も兼務しています。

写真: 前島氏
株式会社さくらさくみらい
WEB・マーケティングユニット マネージャー
兼 株式会社みらいパレット 代表取締役社長
前島寛子 氏

北嶋2023年4月にさくらさくみらいに入社しました。去年の秋ごろからICT化プロジェクトに参加し、主にmierunのサービスを社内展開するフェーズを担当しました。前職では学校向けのICT関連サービスを企画開発する仕事に携わり、先生向けのレクチャーも実施していました。今回はその経験を保育士をはじめとする園の職員へのアプリ活用に向けた指導に生かすことができました。

写真: 北嶋氏
株式会社さくらさくみらい
WEB・マーケティングユニット
北嶋幸恵 氏
※取材当日はリモートで参加

廣瀬mierunの立ち上げから携わり、プロダクトマネージャーを務めています。mierunは、僕自身が子育てしやすい社会づくりに関心があったことから、育児に関する社会課題の解決ができないかと考え、営業の河本と企画しました。その後プロジェクト化して、2022年4月に正式リリースしました(参考:子育てしやすい社会の実現へ「mierun」で一歩を踏み出す)。

実は去年から第2子の育休取得のため一時的にプロジェクトから抜け、今年の6月末に戻ってきたところです。

写真: 廣瀬
BIPROGY株式会社
プラットフォームサービス本部 DXアクセラレーション部
アジャイル推進室 主任
廣瀬賢太郎

水野私はBIPROGYのアジャイル推進室に所属しています。アジャイルをはじめとするプロダクト開発の新たな手法を会社の中で広める業務を行うとともに、その知見を生かしながら自分たちでも開発チームをつくり、社内のシステム開発支援もしています。

mierunについては、開発時にエンジニアリーダーとして関わった後は一度プロジェクトから離れたのですが、廣瀬が2度目の育休に入るタイミングでまたチームに加わり、実行フェーズを担当してきました。開発はサービスをいかに自分事として捉えるかが大事です。私は子どもがおらず、保育業界にも育児にも詳しくないために最初は不安もありました。しかし、育児に詳しい廣瀬と育休前に会話を重ね、前島さん、北嶋さんとも密にコミュニケーションをとらせていただいたことで、プロジェクトを円滑に進めることができたと思っています。

写真: 水野
BIPROGY株式会社
デジタルエンジニアリング本部 プロダクト技術部
アジャイル推進室
水野達也

河本営業担当として企画段階からmierunに携わっており、今はマーケティングやセールスを担当しています。私が所属する営業組織が掲げるパーパスに、「ウェルビーイング~健康な体、健康な心、健康な社会づくりに貢献するために私たちは存在します~」という言葉があります。mierunはそのパーパス実現につながるサービスだと思います。社会価値の創出を視野に入れ、プロジェクトに取り組んでいます。

写真: 河本
BIPROGY株式会社
サービスイノベーション事業部 ビジネス三部第二営業所第二グループ
河本あかり

――さくらさくみらいさまはこれまで、どのようなDXを進めてこられたのでしょうか。また、その取り組みの中で課題となっていた点があれば教えてください。

前島私が2020年に入社した当時、すでに保育関連のICTツールは存在しており、当社でもいくつか導入していました。しかし個別最適にとどまってしまい、作業や担当ごとにツールが分断されていて全体を見られる人がおらず、結果的にツールはあるのに使いこなせない状態に陥っていました。そのため、全体最適化するためにツールを選んでいく、あるいは本当に必要な機能は何かを見極めて選定していくことが必要だと感じました。

その中でも、一番遅れていたのが連絡帳の電子化です。園の職員からは「手書きの方が温かみがある」との意見が多く、電子化に抵抗感を持つ人が多かったんです。一方で、保護者の方からは電子化のリクエストが増え、それにより少しずつ社内のムードも変わったのがこの3~4年だったかと思います。

――mierunのサービス立ち上げから2年がたちました。立ち上げからこれまでの環境の変化や、それに対する機能の改善などがあれば、教えてください。

河本この2年でも、ニーズや優先度は変わってきていると感じます。コロナ禍以前は対面や電話でのコミュニケーションが当たり前でしたが、コロナ禍以降、急激に電子化のニーズが高まりました。例えばコロナ陽性者が出て翌日休園になるなど、緊急の一斉連絡が必要になることもあり、そうした場合に電子連絡帳のお知らせ機能が役に立つとの声は多く上がりました。

一方で、mierun立ち上げ時に既存の電子連絡帳サービスの利用状況を調査した結果、お知らせ機能しか使っていない保育園も多いことが分かりました。さらに調査したところ、その要因は、連絡帳のフォーマットにありました。一律にセットされた様式では、子どもの月齢が進むにつれ、記入したい内容とマッチしなくなっていたのです。そこでmierunは子どもの月齢によって記入内容を変えられるようにするなど、ニーズに合わせて柔軟な機能設計を心掛けました。

保育園職員の方々の負荷を減らすことがこのアプリの重要なミッションです。その実現に向け、リリース後もワークショップを定期的に開催するなどして実際に利用する方々の意見も聞き、多言語対応や、1回の入力で複数人の連絡帳に同じ内容を反映させる機能の追加などをしていきました。さらに、送迎バスの下車確認漏れといった登降園時の事故を防止するためのコミュニケーションも重要と考え登降園管理機能を追加するなど、安心・安全な保育にも微力ながら貢献していると捉えています。

採用の決め手は「データ活用で子育てに関する社会課題を解決する」姿勢への共感

――さくらさくみらいさまが「mierun」を採用した決め手は何だったのでしょうか。mierunに期待した点についても教えてください。

前島当社の役員がmierunのニュースリリースを見たことがきっかけでサービスを知りました。そこに書いてあったことが、当時私たちが思い描いていたことと一致していたんです。私たちが目指していたことは、単なるデジタル化、データ化ではなく、保護者の方と保育園職員のコミュニケーションを見える化し、そのデータを活用して価値のあるものにしていくこと。まさにこの内容がリリースには書かれてあり、「同じ方向を見ている企業さんがいるね」と社内で話したのを覚えています。

その後、他社のサービスもいくつか比較検討しましたが、BIPROGYさんがデータの利活用に最も協力的だったんです。BIPROGYさんは、データを自分たちで抱え込み、自社だけが発展するのではなく、それらを活用し、保育業界の課題や孤独な育児に悩む保護者の方が抱える課題など、社会課題の解決に向けて動いている――。この点に共感したのが一番の決め手となりました。また先行の他社アプリは機能が盛りだくさんで、その分費用もかさみました。BIPROGYさんは本当に必要な機能を過不足なく提供していたのも大きなメリットでしたね。

写真: 取材時の様子

廣瀬園内に情報をとどめたい気持ちもよく分かりますし、そこを売りにするシステムも多いんです。しかしmierunの場合、開発当初から会社のミッションでもある社会課題解決への貢献を実現したい思いもありましたし、近い将来、情報を積極的にシェアしていくことが当たり前の社会になるだろうとも思っていました。そのため、アプリを通じて得たデータはオープンにしましょうとお約束して進めました。

前島とはいえ、既存の自社開発システムとmierunを連携して使いたいという当社の要望もあり、mierun単体で導入するよりもご苦労をおかけしてしまったと思います。

水野そのあたりは円滑にコミュニケーションできていたので、さほど問題はなかったですね。不具合に即対応できる体制も整えていますので、想定内の範囲でした。

アジャイル開発で細かな要望にも素早く対応する

――mierunは細かなアップデートを繰り返している点も特徴的です。なぜ短いスパンで利用者の要望に応え続けられるのでしょうか?

水野柔軟に機能追加ができている理由として、mierunがアジャイル開発を採用している点は大きいと思います。世の中の変化が激しく、法律や行政の仕組みも変わり続ける昨今、機能を柔軟に変更していくことが求められています。要件定義をして設計し、すべてが完成してからリリースする従来のウォーターフォール開発と異なり、アジャイル開発は小さな機能で素早くリリースすることを最優先し、リリース後も改善を重ねます。本当に必要な機能は何か、ユーザー目線で優先順位をつけて取り組むため、リリースまでの時間を短縮できるのです。アプリをリリースして終わりではなく、ユーザーの声を組み込みながらいかに良いものにしていくかが大切です。

廣瀬社会の変化に対応できないサービスは使ってもらえません。実際、世の中のアプリの多くは「なかなか意見が反映されない」「半年前からこの機能が欲しいと要望を出しているのに全然対応してもらえない」などの声が寄せられているんです。mierunはアジャイル開発がうまく機能し、ワークショップなどで出た現場の意見を速やかに反映できた点が、さくらさくみらいさまにもご評価いただけたのかなと思います。

また、保育の場合は各行政機関への各種申請フォーマットが統一されていない点も、IT活用を妨げる一因となっています。そのため、最初に大まかな前提を作った後は個別に対応していく必要がありました。水野と一緒に行政区のホームページを見ながら、ここは共通化できる、ここは違う、とひたすらにチェックしていきました。あれはなかなか、大変でしたね……。

前島アジャイル開発といっても実際には1年くらいかかるような開発もある中で、BIPROGYさんは本当にスピーディーに対応してくださって、私たちも驚きました。例えば元々登降園の管理は、ラミネート加工したQRコードを各家庭に配り、園で読み込む運用にしていたのですが、光の反射などが原因で読み込めないとの意見が多発しました。それをBIPROGYさんへお伝えすると、3営業日ほどでアプリにQRを表示できるように改善してくれたんです! その対応の早さには本当に感動しましたし、とても助かりました。

北嶋現場にいる保育園職員は普段あまりデジタルツールを使わないので、慣れるまでに時間がかかります。でも、使いづらい点などを伝えたら変えてくれ、自分の声が反映されると分かると、職員の間でも次第にシステムへの親しみや信頼感が生まれていきました。

廣瀬今年7月にはプロジェクトメンバーでさくらさくみらいさんの保育園を見学させていただきました。例えば社内で音声認識の機能があったらいいねと検討していても、実際に保育園の現場に行ってみると、園内がにぎやかでその機能の活用は難しいと分かります。さらにそこで終わらずに「でも、こういうやり方ならできそう」と機能に対する議論が深まるなど、現場に行かなければ得られない気づきが多くありました。

写真: さくらさくみらいが運営する保育園3園で、mierunチームが見学を実施
2024年7月に、さくらさくみらいが運営する保育園3園で、mierunチームが見学を実施した(写真はさくらさくみらい早宮)。mierunの使い勝手や要望についてのヒアリングを始め、実際の保育の現場から多くの気づきを得た

――mierunの導入後、どのような成果がありましたか?

北嶋導入前、各園で起こっている個別の事象は本部にとってはほとんどブラックボックスのような状態で、保護者の方から本部に問い合わせがあっても状況が分からず、対応方法に不安がありました。今はmierunを通して必要な情報を確認できるので、背景を把握した上できちんと対応できるようになったのが一つの大きな成果だと思います。また、mierunの連絡帳機能は片手で入力できることにこだわってつくられています。そのため、紙で書いている時はそれだけに集中していたけれど、mierunなら入力しながら園児を見るなど他のことも並行してできるため、保育士の負荷軽減にも確実につながっていると感じます。

mierunを通し、社会全体で子育てができる未来へ

――今後、さくらさくみらいさまとBIPROGYの両社がmierunを通して目指す未来像についてお聞かせください。

前島保育業界は人手不足が大きな課題になっており、その背景には待遇や働き方など、さまざまな要因があると思います。それでも保育業界で働こうと考える人は、本当に子どもが大好きなんです。子どもが好きで、子どもが中心という考え方は、保育園の職員も保護者の方も同じ。デジタル化して終わりではなく、それによってコミュニケーションが一層密になり、園の職員と保護者の方が一緒に子育てをするパートナーのような関係性を築けていけたらいいなと思います。その第一歩として、mierunによるデータ化まではできました。これからはそれをどう分析、加工して提供すれば私たちが理想とする、社会全体で子育てができる世の中を実現できるのか、考えていきたいと思っています。

私たちは保育事業者として、保護者の方の子育ても、保育の仕事も同じようにラクに楽しくしたいと思っています。それを実現するにはやはりBIPROGYさんの技術力が必要です。今後も私たちが目指す社会をつくるための情報基盤をより良いものにするため、ご協力いただけたらと思います。

北嶋保育園は少しずつDXが進んでいますが、小・中学校に進むとICTを活用した成長の記録は途切れてしまいがちです。私はBIPROGYチームの皆さんが大好きだからこそ、皆さんに期待を込めて、小・中学校にもmierunを展開していってほしいです! 子どもの成長を一貫したデータで見守れたら、うれしいですね。

廣瀬この2年、さくらさくみらいさまと一緒に取り組ませていただいたことで、子育てに関連する社会課題の解像度が上がりました。今後はより本質的な部分にもアプローチしていこうと、さまざまな策を講じました。これまでにないアプローチでのトライも始めています。

データの活用についても少しずつより良い方法が見えてきました。保護者の方々が子どもを産みたい、産んで良かったと思えるように、また子育ての不安を払拭できるように、データ分析や公開を進めていきます。

水野実際に現場で働く保育園職員の方々が、価値があることをやりたいけど不便でできない、効率が悪くてできない、と考えている部分をテクノロジーの力で解決していきたいです。本当に職員の方がやりたいことに注力できるよう、テクノロジーが下支えしていく。mierunを通して、そんな状態を目指していきたいと思います。

河本少子化が進み、今後保育園に求められる役割はますます大きくなると予想されます。mierunがその負担を軽減できるよう貢献し続けられればと思います。BIPROGYはIT企業でありシステム開発を担いますが、それだけではなく、より広く社会の課題に対して価値提供できることはないか、今後も考えていきたいです。

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