子育てしやすい社会の実現へ「mierun」で一歩を踏み出す

「みえるとわかる。わかるとかわる。」保育の見える化で保育士・保護者の笑顔を守りたい

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近年、保育業界が深刻な人材不足に陥っている。一因とされるのが、保育士の業務負担の重さだ。「仕事量が多い」「労働時間が長い」といった点が指摘されることも多く、厚生労働省は資格保有者の勤務環境改善に力を入れている。さらに、コロナ禍によって保育士と保護者の意思疎通が難しくなるという課題も生じた。これらの解決に向けてBIPROGYは2022年4月、保育園と保護者のコミュニケーションツール「mierun」の提供をスタート。本サービスは、スマホアプリを使った連絡帳機能などを実装し、利用者の使いやすさに配慮した「見える化」に重点を置いた開発がなされている。mierun開発の背景やサービスの普及を通じて目指す社会像について、企画開発担当者の河本あかりと廣瀬賢太郎にその思いを聞いた。

ヘッドライン

保育士の声を拾い上げ誕生した連絡帳アプリ

「mierun(ミエルン)」の提供開始以前から、BIPROGYは保育支援に向けた取り組みを行っている。その1つがクラウドサービス「ChiReaff Space(チャイリーフスペース)」だ。2015年にリリースされた本サービスは園児の出欠や請求管理の負荷軽減はもちろんのこと、効率的かつ効果的な保育の計画記録を実現し、多くの保育事業者、保育士たちに利用されてきた。

実績を積み重ねる過程で、「事務手続きの煩雑さ」や「イベントの準備」といった外部からは見えにくい保育士が抱える膨大な業務量も見えてきた。「利用者から『保育士の業務負担を軽減したい』との声が多数寄せられました」と語るのはサービスイノベーション事業部の河本あかりだ。

河本は、入社当時からChiReaff Space開発に関わり、これまでに100以上の保育施設とコンタクトしてきた。同様の要望が複数の施設から伝えられた、と振り返る。要望が特に多かったのは、保育士と保護者が日々やりとりする「連絡帳」だ。連絡帳は園や家庭での子どもの様子や健康・発達状態などを知る重要なツールだが、手書きによる連絡帳の記入作業は、保育士と保護者双方において負担に感じる人も少なくはないという。

河本あかり

BIPROGY株式会社
サービスイノベーション事業部 ビジネス四部 第一営業所3G
河本あかり

「例えば、30人のクラスで遠足に行くと保育士は遠足についての全く同じ文章を30回も書くことになります。『それだけで昼食時間がなくなってしまう』との話も聞きました。また、以前なら送迎時に保護者の方と直接話す機会がありましたが、コロナ禍以降は送迎時にゆっくり話すこともできなくなり、新しい形のコミュニケーションを実現する必要が出てきました。こうした背景が、連絡帳アプリを企画するきっかけになりました」

2022年4月にリリースしたmierun。その大きな特長は、日々のやりとりを“見える化”することで保育士と保護者のコミュニケーションを円滑なものとして相互理解を深める点だ。急な欠席や遅刻などの連絡のほか、毎日の連絡事項の記入を効率化するさまざまな工夫がシステムデザインやUI(ユーザーインタフェース)の側面からも凝らされている。

保育士アプリ画面と保護者アプリ画面の相互連絡帳送付イメージ
保育士、保護者それぞれのアプリ画面の例。保護者は直感的に、かつ片手で記入できるプルダウン式の選択肢で簡単に入力ができる

河本と共に開発を担当するプラットフォームサービス本部の廣瀬賢太郎は「保育士の負担を軽減するための使い勝手は徹底的に研究しました」と語る。何度も保育現場に足を運び、実際業務の細部まで注意深く観察してアプリを作り込んでいった。

廣瀬賢太郎

BIPROGY株式会社
プラットフォームサービス本部
DXアクセラレーション部
アジャイル推進室一課
廣瀬賢太郎

「フィールドワークの当初は、各業務に要する時間をストップウォッチで計測し、業務量の可視化から取り組みました。子どもたちを公園に連れていく道中の見守りのような負担の見えにくい業務もあります。これらも含めて、あらゆる業務を洗い出しました。その上で、ICT活用によって軽減すべき負担は連絡帳の記入と判断し、プロトタイプを作成しました。実証実験では大幅な時間短縮につながることも分かりました」と廣瀬は説明する。

例えば、食事内容を書き込む欄を「献立表通り」というデフォルト設定にしただけでも数分の短縮になる。献立表はアプリ内で簡単にチェックすることができ、変更や連絡事項があったときだけ個別に書き込めるようになっている。

保護者側の入力方法にも工夫を凝らし、短時間で記入できるよう選択式に。そして、入力項目に表示する選択肢も厳選した。重視したのは、子どもを抱いたまま、ちょっとした台所仕事をしながらなど、慌ただしい育児環境下でも「片手で」「選択画面のボタンを押すだけ」で入力できる点だ。要望の多かった「入力途中で中断しても自動保存され、後から続きを入力できる機能」も盛り込んだ。まとまった時間を確保することが難しく、突発的にスマホから目を離す場面も多い育児において、この機能は有用だ。

実は廣瀬自身が、今まさに保育園に通うわが子を育児中だ。1年間の育児休業を取得した経験もあり、さらには保育士資格も有している。彼自身の経験や背景も開発に寄与する部分は大きいだろう。「子育て中の親たちから見ると必要と思う機能ばかりです。開発メンバーには私も含めて子育て中の者もいて、当事者目線での意見交換を行っています。育児未経験のメンバーともニュースや話題を日々共有し、チーム全体で課題を捉えています」と語る。

「みえるとわかる。わかるとかわる。」という言葉に込めた思い

実は、すでに多数の連絡帳アプリが存在している。その意味でmierunは後発だ。だが、短い期間でアップデート可能なアジャイル(小規模な実装とテストを繰り返し短期間で開発を進める手法)環境を整備し、高い技術力ときめ細かな対応でほかにはない強みを発揮する。

「既存のアプリユーザーにヒアリングを実施したところ、保育士が『カレンダー機能が欲しい』と要望しても1年以上改善されない例がありました。これに対し、迅速な改善が可能なmierunはカレンダー機能の拡充も他の機能の開発と並行で調整し、2週間で対応しました」と廣瀬。最近では、園ブログへのリンク機能を付与し、mierunアプリから簡単に園の情報を共有できるようにした。このほか、アンケートの外部リンク挿入や自動翻訳システムによる多言語対応(対応言語は100カ国語以上)、保育士間のメモの共有機能といった改善要求にも対応している。

保育士の悩みの種は、保護者とのやりとりばかりに限らない。保護者からは見えにくい業務の1つに、園外の組織に提出する書類の作成がある。管轄自治体や法人本部といった組織への書類作成・提出はそれだけで膨大な作業量だ。組織間のやりとりを可視化できれば、効率化と現場負担の軽減につながる。加えて、「新型コロナウイルス対応においても連絡帳アプリのニーズは増している」と河本は話す。例えば、陽性者が出た際にクラス閉鎖を周知するための連絡経路の確保やスピード感などは大きな課題となっている。アプリがなければ、クラスの各家庭に電話して伝える必要がある。これらを軽減できる点は大きなメリットだ。さらに、緊急連絡をアプリで一斉送信できるといっても、仮に保護者が連絡内容を確認できなければ園児が登園する可能性がある。その対策として必ず保育士が1人出勤して備える例もあったという。そこでmierunでは、連絡事項が全ての保護者に読まれたかどうかが分かる機能も備えた。

「保育に関わるそれぞれの主体の動きや事柄を見える化することで、より良い循環を実現します。そんな思いを込めて、『みえるとわかる。わかるとかわる。』というキャッチコピーを作りました」と河本。廣瀬も「見えることが目的ではありません。その先にある行動変容を目指したサービスです」と言葉を重ねる。

細かな気遣いの全ては、保育士の負担軽減というメインテーマに基づいている。「開発のコンセプトは『保育士が薦めたくなる連絡帳アプリ』」、と廣瀬が話すように、保育士の負担軽減を第一の目的として保育士目線を重視したおかげで、保育士たちからの評判は上々だ。

mierunのサービスイメージ
mierunのサービスイメージ。保護者、保育園に加えて法人本部や自治体、そしてアプリ開発者をmierunがつなぎ、課題の可視化、解決を目指す

廣瀬はプロジェクト開始当時から、「ベテラン保育士さんも親しみが持てるアプリ」を意識していたと強調する。連絡帳のデジタル化には、ベテラン保育士ほど「手書きのぬくもりを大切にしたい」との意見も多かったからだ。また、デジタルに疎く、アプリ利用に積極的になれないといった声も少なくなかった。

開発チームは、何度も現場に足を運んでヒアリングを行い、デジタルに不慣れなベテラン保育士の意見も取り入れながら細部を作り込んだ。近年見られる「モダンなUI」と呼ばれるデザインを確認してもらいながら「これはどうですか? 使えそうですか?」と問いかけ、不安や抵抗が見られる場合には、あえてモダンなUIを利用しないカスタマイズなども行った。

さらに「この辺が少し分かりにくい……」と要望された部分の改善を重ねる中で「これならできる!」との声をもらう場面が増えてきた。これらを踏まえ、実際に操作にかかる時間を計測。改善前後を比較すると2~3分ほど操作時間が短くなると分かり、こうした過程を丁寧に積み重ねた。

「保育士さんの中には『子どもたちのために手作りしてあげたい』『できる限りのことをしたい』と、優しさゆえに深夜や休日の自宅作業までしてしまう方々もいらっしゃいます。しかし、休憩もなしに頑張り続けるのは難しい。保育士の離職率の高さには、こうした背景もあると感じています。このような保育士さんたちの思いを真摯に受け止めた上で、保育士という仕事の持続可能性を高めていきたい。ですから、ひとくくりに『デジタル化したら便利です』と押し付けるのではなく、保育士さんと私たちの足並みをそろえて進めていくことが大切だと考えています」(廣瀬)

mierunを起点に誰もが子どもを持ちやすい持続可能な社会へ

mierunは、今後ChiReaff Spaceとの連携を視野に入れている。園内の業務管理にフォーカスした同システムと組み合わせることで、見える化をよりスムーズに実現し、より深く課題解決に貢献していきたいからだ。さらなる将来像について河本は、「例えば、保育園は自治体との関わりが大きい事業。このため保護者は保育園と自治体それぞれに書類提出を行う必要があります。こうした負担軽減に向けて自治体にも働きかけていければ」と話し、こう続ける。

「社内には、教育や医療を専門とするスペシャリスト集団もいます。横展開での連携によってさらなる適用領域も見えてくるはず。さらに、近年注目を集めている発達に関わる取り組みも一層推進できればと考えています。今後、一人ひとりの子どもの個性を尊重した教育がますます重要になると予測されます。こうした中で、私たちの連絡帳アプリを通して園児の発達の様子を共有することが子どもの個性の尊重につながればと願っています」

一方、廣瀬は、保護者としての立場も踏まえて期待と今後に向けた思いを語る。

「子どもが小さいと予防接種や出生時記録などの医療情報を記入することが何度もあります。これらがアプリと連動する仕組みを構築していきたいですね。将来はmierunが電子母子手帳になることが理想です。そうなれば、より広範な方々の課題解決に向けて利用可能なサービスになるはずです。また、私自身の使命は、『誰もが子どもを持ちやすい、持続可能な社会を実現する』ことだと考えています。子育て支援サービスの充実に向けたシステム開発などを通じて、保育士・保護者双方の負担を軽減し、保育園に預けやすい環境の整備に貢献することは、その実現に向けた方法の1つです。中長期的には、教育全般に資する取り組みにも挑戦していきたい。少子化は世界規模の社会課題です。いわば世界最先端の少子高齢化国家である日本から、mierunを起点とした取り組みを通し社会課題の解決に貢献していきたいと考えています」

現代の日本では核家族化が進み、かつ、子育て世帯の多くは共働き世帯だ。育児にあてられる各種リソースも少なく、育児のハードルは多く、高い。「子どもを産み、育てやすい社会」の実現に向けた社会課題は山積しているが、当事者意識を持って課題解決に向き合う河本、廣瀬をはじめとするmierun開発メンバーの挑戦は、子どもを持つ、また、持ちたいと思う人々にとって新たな光となり得るだろう。進化し続けるmierunの今後に期待したい。

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