AIの進化を捉え、日本企業はいかに変革を加速するか

シリコンバレーの2つの地殻変動と、これからの競争戦略

読了時間: 
画像:TOP画像

AIの進化は業務効率化にとどまらず、企業の事業モデルや組織のあり方まで変え始めている。この変化をいち早く捉え、AIを前提に経営や組織を再設計できるかどうかが、今後の企業競争力を左右する。「すべてはこの星で 生き続けるために ─想像を超えた AI社会へ─」をテーマに開催された「BIPROGY FORUM 2026」では、米国シリコンバレーで進む技術やビジネスの変化を手掛かりに、日本企業の変革を考えるセッションが行われた。Translink Capitalの大谷俊哉氏、BIPROGYの永島直史が登壇し、モデレーターを同社の津端智代が務めた。BIPROGYが北米CVCを通じて描くグローバル共創戦略、AIとステーブルコインをめぐる潮流などについて、議論を交わした。

北米CVCの目的は、投資リターンだけではない

津端まずは永島より、BIPROGYグループのオープンイノベーションの歩みをご紹介します。

永島私たちのオープンイノベーションへの挑戦は、2015年にスタートアップエコシステムとの接点を築くところから始まりました。2017年には、グループのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)であるキャナルベンチャーズを設立。同じ頃、Translink Capitalさまと出会いました。その後、連携を深め、2025年に北米CVCファンドを共同で設立しました。

写真: 永島直史
BIPROGY株式会社
常務執行役員 CMO
永島直史

目的は、投資リターンだけではありません。世界の先端技術や市場動向をいち早く把握し、日本のお客さまの事業変革につなげるとともに、将来の北米市場での事業機会創出に向けたパートナーネットワークを構築することを目指しています。重点的な投資対象は、ファイナンシャル、リテール、モビリティ、エネルギー、OT(※)インフラの5つの領域と、その根幹を支えるAIです。

  • OT:Operational Technology(オペレーショナルテクノロジー)の略。交通やライフラインなどの社会インフラにおいて、必要な製品や設備、システムを最適に動かすための制御や運用技術を指すことが多い

オープンイノベーション活動を始めた当時、これほど急激にAIが進化するとは想像していませんでした。こうした変化を先んじて捉えるには、最先端の技術トレンドが集まるシリコンバレーに深く飛び込み、関係性を築くことが欠かせません。現地の技術や知見を素早く吸収し、国内のお客さまに還元していきたいと考えています。

AIとステーブルコインが起こす「地殻変動」

津端シリコンバレーで見えているトレンドについて、大谷さまに伺います。

大谷Translink Capitalは2006年、日本、韓国、台湾の出身者によって創業しました。現在は中国にも拠点を設け、アジア各地域の出身者で構成される多国籍な組織となっています。東アジアの大手企業とシリコンバレーのスタートアップを結び、戦略策定からビジネス機会の提供まで一気通貫で支援しながら、投資リターンも追求する。この両立にこだわって活動してきました。

写真: 大谷俊哉 氏
Translink Capital, Co-Founder and Managing Director
大谷俊哉 氏

大谷この2~3年、シリコンバレーでは2つの「地殻変動」が起きています。1つはAIの進化、もう1つはステーブルコインを軸としたweb3の潮流です。AIがビジネスのあり方を変え、ステーブルコインが取引基盤を変える。この2つが絡み合い、変化のスピードは5倍、10倍になっていると感じています。

特にステーブルコインはすでに決済基盤として市民権を得ていて、今後さらに導入が進んでいくと感じています。単に決済手段の多様化という話だけでなく、企業間取引や海外送金、サプライチェーン取引のスピードを加速させるでしょう。ステーブルコインの技術は新たな金融インフラとして捉える必要があります。

永島国内でも、大手銀行によるステーブルコインの共同発行に向けた取り組みが始まっています。こうした動きは、AI社会の進展とどのように関係しているのでしょうか。

大谷AIエージェントが人に代わって取引を行う「エージェンティックコマース」を実現するには、AIが自律的に扱える決済の仕組みが欠かせません。海外送金でも、ステーブルコインへの置き換えによって手数料を大きく下げられるケースが出てきています。AIとステーブルコインは、別々の潮流に見えて、実は深く関係しているのです。

もう一方の地殻変動であるAIの進化に目を向けると、エンタープライズ領域では、SAPやSalesforceに代表されるSystems of Record(記録のシステム)から、Systems of Intelligence(知のシステム)へのシフトが起きています。後者では、システムが人間の知見を蓄積し、それを基にAIエージェントが各業務システムと連携して動きます。最終的な判断を人間が担う点は変わりませんが、人がシステムと接する場面は大きく変わります。

こうした大きな変化は企業が利用するシステム構造だけでなく、それを提供するシステムベンダーの仕事にも影響を与えます。特定業務に対応する個別のソリューションから、ソフトウェアと導入・運用支援などのサービスを一体で提供するフルスタック型へと、提供モデルも変化しています。システム開発の対価も、人員や時間を基準とする人月型から、お客さまにもたらした成果を基準とする形へ変わっていくでしょう。日本でもお客さまとSIerは、システムを受発注する間柄から、成果をともに生み出すパートナーへ変わっていくと考えています。

AIを前提に変わる企業競争力

津端シリコンバレーでは、AIが提供モデルや対価のあり方まで変えているというお話がありました。組織や事業のレベルでは、具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。

写真: 津端智代
BIPROGY株式会社
グループマーケティング部 アライアンス&投資戦略室 CVCセンター長
津端智代

大谷投資先では、エンジニア数人で年間数十億円を売り上げる企業がすでに現れています。数百人規模の企業でも、開発生産性が30~40%向上し、売り上げが伸びる一方で、技術者数は3年前からほとんど変わっていない例があります。将来は、少人数のチームとAIエージェントで事業を運営する企業も出てくるでしょう。

永島こうした変化は、すでに日本企業でも始まっています。シリコンバレーとのタイムラグは、急速に縮まっていると感じます。これまでは新しい技術が登場すると、SIerやベンダーが検証し、一定の安全性を確認したうえで企業に届ける流れが一般的でした。現在は、企業自身が主体的にリスクを取り、先行導入する動きが加速しています。重要なのは、AIを導入したかどうかではなく、AIを前提に業務や組織を設計できているかどうか。この差が、これからの企業競争力を左右していくと考えています。

大谷その意味では、シリコンバレーの投資家の関心も変わってきています。技術の先進性を訴求する企業より、特定の業界や業務を深く理解し、「その課題をAIでどう解決するか」を示せる企業に投資が向かっています。日本に当てはめれば、業務知識とAIをつなぐSIerが大きな役割を担うと考えています。

AI時代に問われる、人と組織のあり方

津端そうした変革を担う組織や人財には、何が求められるのでしょうか。

永島最先端のAIも、そのまま導入するだけでは日本企業の業務や商習慣に十分には適応しません。業務知識と組み合わせ、企業の競争力や成果に変えていくことが不可欠です。当社は、長年蓄積してきた業務知識と実装力を強みに、さまざまな業種業態ごとに異なる業務を理解し、最適な形でAIを組み込んでいきます。

AIが情報収集や資料作成、分析、コーディングを担うようになるほど、「何を問い、どう判断するか」という人の役割は重みを増します。AIの回答をうのみにせず、評価して活用できる人財を育てること。そして、人とAIが役割を奪い合うのではなく、協働することを前提に、組織や働き方を再設計していくことが必要です。

大谷企業としては、自社の技術にこだわり過ぎず、外部の技術や知見に目を向けることが、より重要になります。シリコンバレーでは近年、非IT企業のシリコンバレー支社へ出向する駐在員が増えており、外部の知見を取り込もうとする動きが広がっています。個人にとっては、AIが浸透する中で、自らどのような価値を生み出していくかが大きな課題です。より高い視座を持ち、創造的な役割を担うための力を身に付けていく必要があります。

永島人財の育成は、当社にとっても重要なテーマです。2030年までに開発生産性を2倍に、全社の業務効率を30%向上させる目標を掲げ、取り組みを進めています。2026年4月には、人財育成やガイドライン整備、現場への適用を推進するAI CoE(AI Center of Excellence)を立ち上げました。これにより、全社でのAI適用への取り組みを横断的に統括し、AI戦略の整合性・品質・実行スピードの確保を目指します。お客さまに変革を提案する以上、私たち自身が先駆けて変革を実践する。また、北米CVCで得た知見を日本企業の業務や社会課題に合わせて「翻訳」し、自ら実践して蓄積したノウハウをお客さまとともに実装していく。それこそが、本セッションで掲げた「AI社会の羅針盤」としてBIPROGYが目指す姿です。

大谷変化の大きな時代は、同時に大きなチャンスの時代でもあります。AIとステーブルコインという2つの潮流が重なり合うこれからの3~5年は、私たちにとっても非常に楽しみな期間です。その期待感をBIPROGYさんと共有しながら、日本市場での成果につなげていきたいと思います。

写真: 対談中の津端、永島、大谷氏
この記事のキーワード

    あわせて読みたい