金融の変化を、次のチャンスへ
オンチェーン化とボーダーレス化が進む時代への備え
金融の世界が大きく変わろうとしている。鍵となるのは通貨のデジタル化だ。デジタル化によって決済の形態やスピードは一変し、金融サービスのあり方そのものも変わっていく。その変化は、AIの普及によってさらに加速していく。ビジネスを取り巻く環境の急速な変化は、金融機関にとって脅威にも映る。だが同時に、大きなチャンスでもある。この変化をどう捉えれば、新しい波をチャンスに変えることができるのだろうか。
「BIPROGY FORUM 2026」では、「新しい金融の波をチャンスに変える」と題したセッションが行われた。麗澤大学名誉教授の中島真志氏、Translink Capital Principalの高橋さつき氏、BIPROGY ファイナンシャルサービス部門 執行役員の渡邊弘巳が登壇。グッドウェイ代表取締役社長の藤野宙志氏がモデレーターを務め、AI前提社会とデジタル通貨の進展がもたらす金融機関の新たな可能性について、それぞれの立場から語り合った。(本文中敬称略)
金融業界で起きている、本質的な変化
藤野昨今AIの急速な普及とともに、金融にも新しい波が来ています。デジタル化によって金融には新たな可能性が広がっていますが、この現状をどう捉えればよいのでしょうか。
代表取締役社長 藤野宙志氏
中島決済システムを研究している立場から見ると、通貨のデジタル化には「暗号資産」「ステーブルコイン」「トークン化預金」「CBDC」という4つの類型があります。発行主体が中央銀行か民間銀行かノンバンクか、そして法定通貨に対して価格がどれだけ変動するか。この2軸で、それぞれの性格が分かれます。
米国では2025年7月にGENIUS法が成立し、ステーブルコインの制度整備と活用機運が高まっています。リアルの世界で利用する流れになっていますが、何に使うのかが重要です。これまで店舗などでの支払いに使われる場面はごく限定的でしたが、今後はクロスボーダー送金、リテール決済、デジタル証券の決済といった用途が考えられています。
もう1つの注目テーマはトークン化預金です。JPモルガン・チェースでは、預金をブロックチェーン上で扱う仕組みを展開しており、24時間の即時決済を可能にしました。ドルに加え、ユーロ、ポンド、円など複数通貨への対応も広がっています。
CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)については、国際決済銀行(BIS)の調査で、回答した中央銀行の9割超が何らかの取り組みを進めていると答えました。ECB(European Central Bank:欧州中央銀行)は、関連法制が整うことを前提に、2029年中のデジタルユーロ発行に向けた準備を進めています。
証券についてもトークン化が進んでいます。株式や債券、MMFといった従来の有価証券をブロックチェーン上で発行することで、小口化や24時間取引といったメリットが生まれています。通貨、証券共に、デジタル化は今後さらに進んでいくでしょう。
中島真志氏
藤野海外の最前線ではデジタル通貨にどんな変化が起きているのでしょう。高橋さんはどのように捉えていらっしゃいますか。
高橋金融のデジタル化は既定路線で、銀行の役割は変わると見ています。地銀や信用金庫にとっては千載一遇のチャンスと言えるでしょう。特にステーブルコインは単なる決済手段を超えて、新たな金融インフラへと進化しているところに本質的な意義があります。
ポイントは、お金と送金・決済などのルールを同じスマートコントラクト上で自動実行できる「プログラマビリティ」と、お金と金融サービスを自由に組み合わせられる「コンポーザビリティ」にあります。オンチェーン上(ブロックチェーン上で取引や資産管理を行う仕組み)では、規制面はともかく運用面での金融サービス業の垣根がなくなり、競争は激化していきます。
実際に2025年7月のGENIUS法の成立によって大手金融機関がステーブルコインへの参入を始め、2026年にはその動きがさらに加速しています。対象はミッドマーケット(中堅企業市場)へと広がり、海外送金、フィンテック企業への決済・換金機能の提供、地域企業の財務管理支援、余剰資産の運用、実物資産のトークン化などに使われています。既存サービスの上で活用されるのではなく、バックエンドの仕組み自体が変わっていくでしょう。
Principal 高橋さつき氏
藤野金融サービスの機能が要素分解され、オンチェーン化される中で、BIPROGYはどんな役割を果たそうとしているのでしょうか。
渡邊当社はメインフレーム時代から現在まで、金融を取り巻くテクノロジーの革新をお客さまと共に体験してきました。ステーブルコインの活用など新たなデジタル金融へとシフトする中で、未来の金融機関は課題解決型のサービス業へと変わり、さらに価値創造型のサービス業になっていくと見ています。
その中で当社は25年2月にTranslinkと連携した北米CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドを設立しました。スタートアップとの協業を促進すると同時に、ファイナンシャル部門にWeb3.0の企画専任部署を新設し、Web3.0やステーブルコインのPoCに取り組んでいます。今後はビジネスへの実装を先駆けて手がけていこうと考えています。
執行役員 渡邊弘巳
変化を脅威で終わらせず、ビジネスチャンスに変える
藤野今は何が起きていると捉えるべきでしょうか。
中島オンチェーン化が鍵です。通貨や預金、証券、決済といった金融機能やインフラがブロックチェーン上で扱われるようになり、それによって24時間稼働、超小口取引、プログラマビリティが進み、金融サービスの運用設計の自由度が飛躍的に高まっています。
高橋背景にあるのは規制の明確化です。加えて、新興国の事情もあります。新興国では経済が成長している一方で、通貨は不安定でインフレも進んでいます。その結果、米ドル建てステーブルコインへの需要が高まり、同時に、ドルの国際的な影響力維持と、その裏付け資産となる米国債への需要拡大を後押しする米国の政策動向が相まって、オンチェーン金融が発展しています
ステーブルコイン規制の明確化によって起きてくる変化は3つあります。異業種との垣根が実質的に薄れること、企業のフィンテック化が進むこと、そして金融サービスのグローバル化とボーダーレス化が起きることです。競争が単一の国ではなくグローバルに起きて、再編が進むでしょう。
渡邊オンチェーン化とボーダーレス化が同時に進行する中では、システムの構えを変えないと対応できません。金融機関ではない企業が自社のサービスやアプリ内に決済、預金、融資などの金融機能を組み込むエンベデッドファイナンス(Embedded Finance:組込型金融)が進み、勘定系システムが金融機関の内側に収まらないようになります。
藤野何がチャンスとなるのでしょうか。
高橋米国の新興銀行であるSoFiは、トークン化預金とステーブルコインの両方を提供する取り組みを進めています。双方の弱みを補完し、顧客のロイヤルティー向上と収益の多様化を同時に実現することが狙いです。
トークン化預金は利息が付き預金保険の対象になる一方で、プログラマビリティが低く、動かせる範囲も自行の中に限られます。ステーブルコインはプログラマビリティが高く、どのウォレットにも国境を越えて送れますが、発行者が利息を付けることは認められておらず、預金保険の対象にもなりません。その意味で、2つを併用する二刀流が当たり前になっていくのではないでしょうか。
金融機関にはそこに2つの意味でチャンスがあると考えています。二刀流の世界では、ディストリビューション(顧客にサービスを届けるチャネル)の信頼性と技術力だけでなく実装力が求められます。この両方を備えているのが、地銀や信用金庫です。
中島オンチェーン化でこれまでできなかったことが可能になる点も、チャンスと捉えるべきでしょう。例えば資産を小口化してトークンとして発行したり、数千円単位で金融取引が成立したりします。1分単位で利息を付けるようなリアルタイムの仕組みも可能になり、商品企画の幅も広がります。
渡邊金融機関には2つのチャンスがあります。1つは中島さんご指摘の小口化です。リテールの力を生かしてラストワンマイルを取ることができます。もう1つは待ち時間がなくなることです。お金を瞬時に業務に組み込み、すぐに運用できるようになります。実装のやり方次第で、業務の中にお金が溶け込むことになります。
求められるのは、柔軟性と実装力
藤野日本の金融機関は何から始めるべきでしょうか。
中島どんな変化が起きても対応できるように、柔軟性を確保しておくことが大事です。システムが重いことは致命的です。そうならないために、モジュール化やクラウド化を進めておく必要があるでしょう。
高橋この1年、BIPROGYは米国に足を運び、海外金融機関やTranslinkが紹介するスタートアップ企業との面談を進めてきました。技術がどう進化して、どう採用されていくかを把握するためです。日本の金融機関の皆さんがどうすればよいのかを考える際に、PoCも含めてBIPROGYに相談することをお勧めします。
渡邊世界で金融が変化して、金融機関の価値も変わりつつあります。日本の産業がその変化を成長力や競争力として生かしていくには、ビジネスの中に実装していくことが大事になります。特にトークン化預金とステーブルコインの両方に対応できることが鍵です。AIネーティブの勘定系と、デジタル通貨を支えるインフラの両輪で対応する必要があります。
藤野金融が変われば、産業も変わります。そして、国や都道府県、市区町村においても、地域が持つポテンシャルを引き出す可能性が大きく広がります。グローバルな潮流を積極的に取り込みながら、日本全体に新たな変化をもたらしていくことが、いま求められているのではないでしょうか。
- ※BIPROGYグループ各社社員以外による発言内容は各登壇者または所属組織の見解であり、BIPROGYグループ各社の見解を示すものではありません。






