北國銀行が「Microsoft Fabric」で切り拓くデータドリブン経営
北國銀行×BIPROGY──データ基盤を自ら育てる金融DXの実践
顧客ニーズの多様化やデジタル化の進展により、金融サービスに変革が求められる中、北國銀行は2021年に国内初となるフルバンキングシステムのクラウド移行を実現した。2025年9月にはデータ利活用プラットフォーム「Microsoft Fabric」(以下、Fabric)の運用を開始。北國銀行の勘定系をはじめとするシステム構築に長年伴走してきたBIPROGYは、当プロジェクトでも検討段階から導入を支援してきた。データ分散や分析手法の属人化といった課題を乗り越えるべく、データを起点に思考し、行動できる文化の醸成を目指す北國銀行。両社のプロジェクトメンバーに話を聞いた。
データ利活用に向けてシステム基盤を整備
――2025年10月に北國銀行とCCIグループという2ブランド体制を発表されました。
村松従来の金融事業だけでは持続的な成長が難しいという認識から、地域金融機関としての役割に加えて、新たな価値を生み出していくために、北國銀行とCCIグループによる2ブランド体制となりました。北國銀行はお客さまに寄り添い、金融サービスをさらに高度化します。CCIグループは、DX支援や業務プロセスの受託(BPO)など、銀行の枠を超えた事業領域を広げ、北陸地区にとどまらず首都圏や海外への展開・発信を強化していくことを目指しています。両ブランドで、地域に根差した金融サービスを磨き続けるとともに、培ってきた顧客本位の姿勢や技術力を生かして新たな領域に挑戦します。
――北國銀行が進めるデータ利活用の取り組みの背景を教えてください。
村松キャッシュレス化の進展や共働き世帯の増加などを背景に生活スタイルが変容し、金融サービスにも柔軟性が求められています。そのため、環境変化に迅速に対応できるシステム基盤を整備することが重要だと考え、2021年にBIPROGYのオープン勘定系システム「BankVision」をベースとしたフルバンキングシステムのクラウド移行を実現しました。Fabricのデータ利活用もその延長線上にある取り組みで、データを収集・分析し、次の事業につなげていくデータドリブン経営の中核を担います。
村松資大氏
藤吉北國銀行さまは、従来から内製化を強く意識しながらシステム・データ基盤の整備を進めてこられた金融機関です。自らオーナーシップを持ち、高い自由度の下でスピード感ある意思決定を行い、経営戦略の実現に直結するIT活用を推進されている点が大きな特徴だと感じています。当初はPaaS基盤の構築を進められましたが、その後、Fabricの導入へとかじを切られた際も、検討から決断までが非常に速く、改めて北國銀行さまの意思決定力と実行力の強さを実感しました。内製化を軸としながらも、環境変化や新たな選択肢を柔軟に取り入れていく姿勢は、北國銀行さまならではの大きな強みだと考えています。
第一営業所長 藤吉祐介
Fabricでデータ利活用の民主化を目指す
――Fabricを選んだ理由を教えてください。
田村データ利活用において、多くの社員が使い続ける基盤として何が最適かを考え、Fabricを採用しました。以前はMicrosoft AzureのIaaSやPaaSを組み合わせて基盤を構築していましたが、ツールごとに操作が異なるため、それぞれのツールを学習しなくてはならないのが負担でした。さらに、データの収集、加工、分析、可視化のプロセスで複数のツールをまたぐ必要があり、分析者にとって扱いやすい環境とは言えませんでした。
それに対し、Fabricは同一のプラットフォーム上で一連の作業を進められるところに利点があります。分析者の負担が軽減され、よりスムーズにデータ活用ができます。さらに、SaaS型のサービスとして提供されているため、基盤の構築・運用にかかる負担を抑えつつ、データや利用者、権限を統合的に管理しやすい点も評価しました。金融機関としてデータを安全かつ適切に活用していくうえで、セキュリティやガバナンスを意識した運用設計につなげやすいことも重要なポイントでした。
田村一希氏
大村現場の営業などに利用を促すマーケティング部門の立場から見ると、Fabric導入前は分析に必要なデータを都度集めたり、システム部門に依頼したりと、分析を始めるまでのハードルが高く、特定の担当者に依存しがちな状況でした。導入によってデータにアクセスしやすくなれば、「自分で分析を始めてみよう」と思う社員が増えるはずだと思いました。そうした環境整備の観点からも意味のある選択だったと感じています。
大村武弥氏
OneLakeをはじめとする統合的なデータ管理機能により、組織内でのデータ共有・活用を進めやすくなる。
分析やレポート作成を支援するAIのCopilotも搭載している
育てる前提で進めるデータ基盤構築
――Fabricの導入から運用開始までに、どのような苦労がありましたか。
大村Fabricが登場して間もないタイミングで採用したため、公開情報や導入事例が限られており、当初は手探りの状態でした。ツールの使い方を学びながら、使いやすい基盤をどう設計するか、適切なパイプラインをどう構築するかを1つひとつ検討し、試行錯誤を重ねました。
木村2024年1月からPoCを開始し、その後設計に取り組み、開発環境、テスト環境、本番環境を段階的に整備しました。従来のようにPaaSを組み合わせて構築する場合と比べ、Fabricは1つのプラットフォームを前提に設計できるため、構成がシンプルで扱いやすい基盤であることを実感しました。Microsoftからの支援も受けながら新しい技術に向き合い、段階的に形にしていったプロジェクトでした。IT業界ではベンダーが構築し、お客さまが確認する進め方が一般的ですが、北國銀行さまとは以前から両社一体となってプロジェクトに取り組んできました。今回も各フェーズで密にコミュニケーションを取り、双方で意思決定を重ねながら進めていきました。
上席スペシャリスト 木村隆洋
平田北國銀行さまはデータ連携用のパイプラインや機械学習モデルをご自身で構築されており、強い内製力をお持ちです。従来のAzure IaaSやPaaSの組み合わせからFabricへの移行という大きな決断も、技術的な理解を踏まえた上で意思決定されており、エンジニアである私たちはそのようなお客さまの力を円滑に発揮していただくべくご支援できるようプロジェクトに取り組みました。
データ技術部 データ利活用室 担当マネージャ
平田好史
田村プロジェクト全体として重視したのは、基盤導入を担うシステム部とマーケティング部との対話でした。北國銀行には部門や立場に関係なくフラットに議論する文化があります。今回も忌憚なく意見を交わすことでスムーズに進められました。導入をゴールとするのではなく、「自分たちで育てる」という認識の下に、今も次のステップに向けた検討を続けています。
村松大切にしたのは単なるコスト削減といった短期的なROIではなく、将来の価値創出につながる基盤となるかどうかということでした。そのため完成形をあらかじめ固定せず、探索しながら育てていくアプローチを取りました。私たちの課題や目指す方向を深く理解してくれるBIPROGYが伴走してくれたことは、大きな支えになりました。
泉田我々がFabricを他社に提案する際に「事例はあるか」と聞かれることが多いのですが、当初はまだ事例がありませんでした。北國銀行さまが先陣を切って取り組まれたことは、業界全体にとっても大きな意味を持つ実績になったと感じています。
プロダクトマネジメント部 ITプラットフォーム企画室 データ基盤サービス課
泉田優介
――運用開始後の成果を教えてください。
大村これまで各事業部でのKPI集計や各種レポート作成はExcelによる手作業が中心で、中には1本のレポート作成に10時間を要するケースもありました。Fabric導入後はこうした作業が大幅に削減され、レポートによっては70~80%程度の作業時間の削減につながっています。顧客管理システムのデータも取り込めるようになり、法人営業の交渉履歴や案件ステータスなどもレポートとして共有できるため、営業現場で日常的に活用されています。
さらに、分析や集計のロジックが可視化されたことも大きな成果です。Excel作業では他者に見えなかった加工手順がパイプラインやクエリといった形で処理の流れとして可視化され、履歴が残るようになりました。引き継ぐ側が「データがどのように加工されて最終レポートになったのか」というプロセスを理解しやすくなり、属人的だった業務を組織の資産に変えていける手応えを感じています。
データ利活用を組織の力に。AIによる高度化も見据える
――今後の展望を聞かせてください。
大村これから重要になるのは、データ活用ができる人材を増やすことです。現在は各業務領域の本部が自発的に取り組んでいますが、より多くの社員がデータを使って考え、業務を行っていけるよう、育成を進めるとともに、活用の裾野を広げていきたいと考えています。
Fabric上で扱うデータの幅も拡充していきたいと考えています。データの活用領域が広がれば、その先にAIの活用も見えてきます。単なる業務効率化にとどまらず、データから新たな気づきを得て、お客さまへの価値提供につなげていきたい。将来的には、データ基盤上でAIが示唆を返す環境の実現を目指しています。
田村Fabricの大きな特長は、市民開発者に寄り添った基盤であることです。現在は各アイテムに搭載されたCopilotの活用によって、専門知識がなくても自然言語でデータに問い合わせてインサイトを得られます。データを統合的に管理し、ガバナンスを利かせながら活用しやすい形に整備できる点も、今後のAI活用を見据えた基盤づくりに有効だと考えています。中長期的には、AIエージェントが自律的にデータを分析し、意思決定に役立つ情報を提供する環境を目指していきたいと考えています。
平田Fabricのデータエージェントは、AIエージェントの中でも比較的容易に利用できる機能です。テーブルを作成し、利用するデータを指定すれば、対話形式で操作するだけで社内の業務関連インサイトを引き出すことができ、AI活用拡大に対して有効な機能であると考えます。
泉田AIを誰もが活用できるようにするという観点では、Copilot StudioやMicrosoft FoundryとFabricの連携によって、自分たちのデータを基にしたAIアシスタントを誰もが活用できる環境が整いつつあります。データやファクトを基に意思決定する文化を組織に根付かせ、企業価値の向上につなげる取り組みをともに進めていきたいと考えています。




