“LISTEN”:聴き合うことが組織と個人の力を解き放つ

多様性を力に変え、イノベーションを生み出す組織が持つ「聴く」力

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持続可能な社会創造に向けた決意を発信し、デジタルコモンズの実現によってボーダーレスに新たな価値の創出を目指すBIPROGYグループ。その実現に向け、「BIPROGY FORUM 2022」の基調講演では、ベストセラー『LISTEN』(日経BP、2021年)の監訳でも話題を集める篠田真貴子氏(エール取締役)が登壇。「受け身の組織から挑戦が生まれる組織へ ~多様な個人の力を解き放つ“LISTEN”~」と題した講演を実施。続くパネルディスカッションでは、ジャーナリストの福島敦子氏をモデレーターに迎え、篠田氏とBIPROGY 代表取締役社長の平岡昭良が語り合った。今回は、講演の模様とともに議論を通じて得られた「聴く」を起点にした組織の力を高めるためのヒントをお届けしたい。(以下、敬称略)

ヘッドライン

「聴く」姿勢が対話の在り方を変え、組織力を高める

写真:篠田真貴子氏
エール株式会社
取締役 篠田真貴子氏

今回は「聴く」ことの重要性をお話ししたいと思います。私が所属するエールは「組織と人の関係」をテーマに、聴くことを通じて企業で働く個人の力を引き出し、それらを組織変革へとつなげる支援を行っています。昨年出版した書籍『LISTEN』は7万部を超えて読んでいただき、関心の高まりを実感しています。また、多様なジャンルのプロフェッショナルから学べる音声メディア「VOOX」においても聴くことの大切さを発信しています。

では、「聴く」とはどのようなことでしょうか。コミュニケーションはよく「キャッチボール」に例えられます。キャッチボールを深く楽しむには、投げる人、捕る人双方の技量も必要ですが、ボールの受け取り方、つまり「聴き手の在り方」が重要です。この点に意識を向けてみましょう。

「きく」には2つの姿勢があります。それは「聞く(with Judgement)」と「聴く(without Judgement)」です。前者は「話し手自身」に関心が向きます。つまり、話し手が相手に話題を投げ、相手から返答された内容が話し手自身の思いや判断と合致するかが焦点となります。一方、後者は自分の考えを一旦留保して「相手の関心事」に関心を向ける点に大きな違いがあります。この姿勢でコミュニケーションを図るためのカギとなるのが、好奇心です。「他者の考えや感情、話には驚きがあり、学びがある」ことをベースにした対話 によって多様な意見や視点に共感できます。

組織として考えた場合、相互に聴き合うことを通じて、言葉になっていなかった思考や感情が言語化され、個人と組織の潜在能力を解き放ち、高いパフォーマンスを発揮することにつながります。また、聴き合う文化の醸成によってさまざまな価値観の相手と安心して話すことができるようになり、心理的安全性が高まることで新たなアイデアも生まれやすくなります。例えば、世界的なプラットフォーマーの調査では、パフォーマンスの高いチームの特徴として、メンバー間の話す量が均等で、相手が伝えようとする意図を汲むために非言語コミュニケーションに敏感である点が示唆されています。

「聴く」ことが生む組織変革のイメージ

図:「聴く」ことが生む組織変革のイメージ

私たちのクライアント企業でも、あるプログラムを実施しました。200人程度の部署において、50人には週1回30分、自分自身の思いを「じっくり話す」などの形で取り組んでもらい、残りの人は普段の業務を続けてもらうものです。すると、プログラムに参加した従業員50人のエンゲージメントスコアがぐんと上がったのです。業務の仕方も内容も客観的には変わっていません。しかし、自分の話を聴いてもらう機会があった50人は、自分も気づかなかった思いや価値観が言語化され、自己理解が進みました。この過程を通じて自身の価値観と企業理念や事業戦略がフィットし、エンゲージメントが高まったと考えられます。

最後に、聴くことについて、私自身もそうですが、過去には「聴く=従う」という誤解がありました。上司の言うことを聴く、部下の話を聴くことは、「相手の要望を飲み込む受動的な行為」と感じていたのです。しかし、「聴く」と「従う」は別です。十分に相手の話を聴いた上で、「なるほど、私はまったく違う考えなのですけれど」と話題をつなげ、コミュニケーションを深めることもできます。聴く側の姿勢次第で、対話をより有意義なものに変えることが可能です。そのためには、幅広い視点や多様な考え方への理解が不可欠。聴くことは知性の現れであり、知的体力が試される営みとも言えるのです。 

企業パーパスの実現には「浸透」ではなく「共感」が必要

福島先ほどの篠田さんのご講演で、「聴く」ことの重要性を伺ってきました。それでは平岡社長にお伺いします。BIPROGYは「Foresight in sight」を掲げて、先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出し、持続可能な社会や社会的価値の創出を目指しています。組織変革の観点から、「聴くこと」をどのように受け止めましたか。

写真:福島敦子氏
ジャーナリスト
福島敦子氏

平岡BIPROGYは、社会的価値と経済的価値の両立を可能にして社会課題解決を目指す「デジタルコモンズ」の実現に取り組んでいます。デジタルコモンズは、スタンフォード大学のマイケル・シャンクス教授と2年間以上にわたって議論を深めてきました。これはデジタルの力によって有形・無形の資産を「見える化」「見せる化」し、新たな価値が付加・創出されたコンテンツなどを「共有財」として集約・共同管理するものです。先日もシャンクス教授とディスカッションを行いました。彼が「誰が」「何を」「どのように」と次々に聴き、私が語った内容をホワイトボードにまとめていってくれました。シャンクス教授との対話によって、私自身も気づかなかった部分を含めて思考が体系化されました。これは聴いてもらえることの力を実感した体験でした。素晴らしい聴き手が話を受け止めてくれることで、自分の中の多様性に気づくとともに思考が具体的にまとまっていったのです。今回の篠田さんのご講演にも感銘を受け、聴くことをより深く組織変革のカギとして捉えていきたいと感じました。

写真:平岡昭良
BIPROGY株式会社
代表取締役社長 平岡昭良

福島これまで日本企業は、「社員の個性を生かす」よりも、抑えて統制された企業をつくる傾向にありました。企業を取り巻く環境も複雑化し、明確な答えが見えにくい今、日本の企業の在り方には限界があるのではと感じています。篠田さんはどうお考えでしょうか。

篠田時代を超えた唯一の正解はないと思います。過去は大量生産品を安価に供給することに付加価値がある時代で、個性が出ないことが適していました。個性が出てしまうと、品質のばらつきにもつながるからです。しかし、現代は一人ひとりのニーズが違う。「聴く」ことで、社員の多様性を引き出し、新たなアイデアや価値を生み出して力に変えていくことが求められていると感じます。

福島BIPROGYでは、組織変革に向けてどのような取り組みを実践してきたのでしょうか。

平岡コーチング文化の醸成に向けた研修実施や、1on1の時間を取る「ユアタイム」の仕組みを取り入れました。コーチング研修は延べ720人が受講し、ユアタイムは約25%超の組織長が導入しています。先ほどの話に加えて、聴くことに関して印象的な出来事がありました。社名変更や目指す未来像について、役員と社員がフラットに会話することができる対話会を開いたのです。グラフィックレコーディングで発言を記録したのですが、参加者は最初「社員の言うことなんて聴いてくれない」と冷めた状況でした。ところが対話を進めると、BIPROGYに変わるワクワク感や思いをみんなが語るようになりました。今後の展望を社長がいくら力説しても、社員には腹落ち感がありません。しかし、聴き合う場を用意して社員それぞれが自分の思いを持って対話をすることで、未来に向けた一人ひとりのさまざまな思いが表れてきました。聴くことにはこんな効果があるのだと、強く実感しました。

福島近年、企業の存在意義を意味する「パーパス」を示す企業は増えました。その中で、多くの企業が「社員にパーパスが浸透しているのか」「共感して自分ごとにできているのか」という点に関心を持っています。BIPROGYの対話会は、パーパスを共有する具体的な取り組みだと感じました。

篠田対話会の取り組みは素晴らしいですね。というのも、「パーパスを浸透させる」という発想に私は違和感があるためです。企業が示すパーパスのどういった部分・価値観に共感を覚えるのかは個人の自由です。重要なのは、上から浸透させるのではなく、「一人ひとりの価値観と会社の価値観がどのようにつながるか」をお互いが見つけ合うこと。パーパスを打ち立てた後、経営層には社員一人ひとりの価値観とのつながりをどのように図っていくのかが問われているのではないかと思います。

福島多様な個の力を生かして、組織の力にするために、経営層やマネージャーに求められることも変わってきているのでしょうか。

篠田ええ。経営環境の変化がものすごいスピードで起きています。例えば経営方針も、ある部門がすべて作るのは無理があります。3年計画、5年計画といっても、スピード感がある世の中では計画通りになるとは限りません。現場の人たちが、経営の意図は理解した上でその場で自律的に対応を判断できる組織がないと、スピーディーな環境変化についていけないのではないでしょうか。

平岡これまでの企業経営では、「PDCA(Plan-Do-Check-Action)」の循環が求められてきました。しかし、環境変化の激しい中でPlanをすべての大前提に捉えてよいのか、との認識も広まりつつあります。つまり、Planを柔軟に考え、環境や状況を観察しながら変化していく「OODA(Observe-Orient-Decide-Act)」をループさせる組織が必要です。 その実現にあたっては、対話を通じた心理的安全性と自律性の担保と共に人事制度として「ROLES(ロールズ)」施策を実施しています。これは会社が定義した役割(ロール)もありますが、自分のロールを自身の課題意識に基づいて設定してもいいのです。複数の役割を持ち、実践していくことで、個人自身の中の多様性を育む取り組みです。

デジタルコモンズの実現も「聴き合う」ことから

福島「BIPROGYらしさ」という意味で、デジタルコモンズについてもお話を伺いたいと思います。

平岡実現に向けては、お客さまが持つ課題を1つずつ解決することで、その先が展望されると考えています。つまり、「お客さまの持続的成長への貢献(For Customer)を起点に、その課題解決を多様な視点・方法の組み合わせでアプローチしていくと、社会課題の解決につながる(For Society)」ということです。私たちだけでなく、こうした取り組みは始まっていると思います。感動や共感を呼ぶ感性価値と目指す未来に向けた志を一致させれば、いずれデジタルコモンズの価値を広く提供していけると思います。皆さんにはチャレンジを一緒にしませんかとお声掛けしたいと思います。

福島多種多様なステークホルダーが、経験やアセットを組み合わせて課題を解決していく、公共性が高い取り組みですね。

篠田デジタルコモンズの構想は何度聴いてもワクワクします。多種多様な団体や企業の皆さんの思いやアセットが組み合わさって価値を生み出します。これは過去の日本の「系列」と比べると、もっと柔軟性のある取り組みだと感じます。ここでも「聴く」能力が求められるはず。デジタルコモンズの中でも、多様なステークホルダーが関わることで、同じ言葉でも異なった意味で使用されるケースも想定されるからです。聴き合うことが、デジタルコモンズの実現に向けても符合すると思います。

福島「聴く」ことをきっかけにお話をしてきました。最後に、未来の企業が目指す姿について、お二方からご意見をいただきたいと思います。

写真:篠田氏と平岡
BIPROGY FORUM(2022年6月)での1コマ

篠田経営が決めた方針、パーパスでも戦略でも、これを社内に「下ろす」「伝達する」ではなく、対話し、社員の意見に耳を傾けることで、一人ひとりに納得してもらう体制が必要だと思います。社員に「どう?」と聴きにいける経営体質へと変換ができた企業から、未来型の企業への転換ができると思います。

平岡企業の未来の姿はまだ分かりませんが、私たちとしてはデジタルコモンズを一緒に作りたいと考えています。それを形成するには、「ミーティングコモンズ」「ラーニングコモンズ」「ナレッジコモンズ」の過程が必要です。ミーティングコモンズで、なぜ社会課題が生まれるかを徹底的に議論し、ラーニングコモンズでは皆さんとBIPROGYのアセットで課題が解決できないか、足りないものは何かを学び、最後に社会実装のナレッジに変えていく取り組みです。聴く力を持ちながら、デジタルコモンズを通して見えてくる未来の企業の姿を提案し続けていきたいと思います。

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