情報の流動性が、次の挑戦を生む──信頼のエコシステムを広げる「THE CHAIN」
キャナルベンチャーズが描く、挑戦が循環する未来
スタートアップと出会う場は、すでに数多くある。ならば、いま必要なのは何か──。
BIPROGYグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、スタートアップへの直接投資とVC(ベンチャーキャピタル)ファンドへの出資を行うキャナルベンチャーズ株式会社(CVL)は、単なる出会いにとどまらない対話の場をつくっている。それが、同社が主催するミートアップイベント「THE CHAIN」だ。
2026年5月28日に開かれた第3回には、VC、CVC・事業会社をはじめ、さまざまな立場の関係者が参集した。異なる立場の人たちが知見や未来への仮説を持ち寄り、信頼を育んでいく。その関係性の中で情報が動き出し、次の挑戦が生まれていく循環を、CVLはどのように育もうとしているのか。主催者であるCVL代表取締役CEOの松岡亮介に話を聞いた。
VCとCVC・事業会社が交わる「THE CHAIN」
ベルサール半蔵門で開催された第3回「THE CHAIN」には、VCとCVC・事業会社の関係者が集い、会場の各所で活発な対話が交わされた。プログラムの中心となったのは、VCが投資哲学や支援スタンス、注目領域などを語る「VCピッチ」だ。参加者は各社の投資仮説やスタートアップ支援に対する考え方に触れながら、自社の事業探索や新たな連携の可能性について理解を深めた。
また、パネルディスカッションにはCVL代表取締役CEOの松岡亮介と、みずほフィナンシャルグループ執行役員CBDOの中馬和彦氏が登壇。オープンイノベーションが広がるなか、その先にある新産業創造を見据え、スタートアップ、VC、CVC・事業会社がそれぞれどのような役割を果たすべきかについて議論を交わした。
続くVCピッチには、ジェネシア・ベンチャーズをはじめとする国内外を代表するVCが登壇し、それぞれの投資方針やスタートアップ支援への考え方を紹介した。参加者は熱心にメモを取りながら聞き入り、続く交流会でも、VCとCVC・事業会社の立場を超えた活発な意見交換が各所で行われ、新たな共創の起点となる出会いが生まれていた。
では、なぜCVLはこうした「出会いの場」を自らつくり続けているのか。その狙いを主催者である松岡に聞いた。
つなぐだけでなく、投資環境の対話を開く
——THE CHAINを立ち上げた背景をお聞かせください。
2010年ごろから本格的に増えていったCVCですが、私自身は、日本のCVCの広がりを大きく3つのフェーズで捉えています。
第1フェーズは、SaaSをはじめとするデジタルサービスの隆盛を見据え、デジタル系企業がCVC設立を切り開いた2010年ごろからのCVC黎明期。第2フェーズは2015年ごろから、企業が「脱自前主義」を掲げ、両利きの経営を実践する手段としてCVCを活用する動きが広がった時期です。そして2020年以降は、社会インフラを担う企業も含め、本業そのものの変革や、その先の新たな産業創出にCVCを活用する第3フェーズに入っていると捉えています。
CVCに求められる役割が変わるなか、スタートアップとの接点の持ち方も変わってきました。第1・第2フェーズでは、新しいスタートアップを見つけ、接点をつくることが主な目的でした。しかし今では、そのための手段はすでに多様に存在しています。今重要なのは、そこから先です。異なる立場の人たちが知見や未来への仮説を持ち寄り、新しい事業や産業をどうつくっていくのかを議論する。そうした場が必要になっています。
そうしたニーズの変化を捉えて始めたのが、THE CHAINです。単に新しいスタートアップ企業と出会う場ではなく、VC、CVC・事業会社、スタートアップなど異なる立場の人たちが、産業や社会の未来について議論できる場にしたいと考えました。
その背景には、BIPROGYグループが長年、業種・業界を横断してさまざまな企業や社会の課題解決に関わってきたことがあります。一つの企業や業界の中だけで完結するのではなく、異なる産業やプレーヤーと関わり、それぞれの知見を掛け合わせながら課題に向き合っていく。そうした取り組み方や関わり方は、ある意味で私たちが受け継いできた遺伝子のようなものだと思っています。
代表取締役CEO 松岡亮介
米国では、マイクロベンチャーキャピタルという専門特化したVCが、自社の世界観や投資方針をスタートアップに伝える小規模なピッチイベントを、定常的に行っています。日本でもそういう活動があれば投資環境の対話がより活性化すると考え、VCが登壇して自社の特性や活動内容を伝えるイベントを立ち上げました。
多くのスタートアップとコミュニケーションをとっているVCや、産業を支えてきたCVC・事業会社、そして専門領域を持って挑戦しているスタートアップに、BIPROGYグループがハブとなってお声がけをする。それぞれが違うものを見ているからこそ、一堂に会して議論を深めることに意味があると考えています。
情報の流動性を高めたい
——運営側としてどんな成果が生まれることを期待しているのでしょうか。
一番の思いは、「情報の流動性を高めたい」ということです。VCは多くのスタートアップと対話を重ね、幅広い情報を収集しています。そこから各産業の10年後、20年後の将来像を見据えて投資をしています。その知見をTHE CHAINの参加者と共有し合うことで、自分たちのネクストステージを切り開くヒントや気付きを得てほしいと思っています。
ただ、VCから情報を得るだけが目的ではありません。VC、CVC・事業会社、スタートアップでは見ている未来や時間軸が異なるからこそ、互いの視点に触れることで新たな気付きが得られるのです。
ポイントは、どの業界にもイノベーションのジレンマが生じ得ますし、これまでとは異なる非連続な成長を目指す局面があります。そういうときに、自分たちと同じ業界、同じ立場から見える情報だけでは、既存の延長線上から抜け出しにくいことがあります。だからこそ、異なる場所から未来を見ている人たちも情報源にする。VCとの対話も、その一つです。
日本の投資環境も大きく変わってきました。これまではSaaSに代表されるような、事業の成長性や再現性を見極める投資判断が多かった一方で、今はディープテックのように、テクノロジーそのものへの評価に併せ、長期的な視座で将来の社会インフラになり得るかを見極めて投資するケースが増えています。そうした10年後の変化を見据え、自らの投資仮説として言語化しているVCは、私たちにとっても非常に重要な存在です。
当社は2026年8月現在、24本のVCファンドに出資し、常時50社ほどのVCとのコミュニケーションパイプを持っています。CVCとしては突出した数だと思いますが、これは、幅広い業種のお客さまと向き合うBIPROGYグループにとって、各産業が将来どう変わっていくのかを理解することが重要と考え、取り組んだ結果です。
一方で、BIPROGYグループが産業の現場で培ってきた知見も、VCやスタートアップにとって価値ある情報になり得ます。異なる立場の視点や仮説を結び付けることが、新たな可能性につながると考えています。産業同士の境界が変化し、新たな連携や再編が起こるなか、その動向をいち早く捉えるために私たちはVCとの対話を重ねてきました。そうして積み上げてきた関係性を、自社の技術を確保するためだけで終わらせず、それぞれが持つ知見や情報が循環するエコシステムの醸成につなげていきたい。社会課題の解決や新たな産業の創出に向けて、さまざまな立場の人たちが一緒に取り組める環境をつくっていく──そう考えることが、BIPROGYグループのアイデンティティーです。
次の挑戦を生む循環をつくる
——BIPROGYグループが推進する「デジタルコモンズを通じた価値創出」の考え方と、THE CHAINには共通する部分があるのでしょうか。
もちろん、そうです。まず第一歩としては、CVLが掲げる「挑戦が、挑戦を、つむぐ社会。」というビジョンを具現化する取り組みです。最初の挑戦が次の挑戦を生み、仲間とのつながりをつくり、社会の変革につながっていく。変革に挑み続けることが、新たな成長とイノベーションの原動力になると信じています。
ここで重要なのは、一度きりの出会いで終わらせず、情報交換、協業、成果共有が次の出会いを呼ぶ循環をつくることです。その循環を支える土台が、信頼だと思っています。信頼があるからこそ情報や知見が共有され、新しい連携や挑戦が生まれる。そしてその成果が、さらに信頼を育てていくのです。私たちは、そうした循環が生まれている状態をエコシステムとして捉えています。
短期的には直接的な収益に結び付きにくい活動ですが、中長期的には、このエコシステムを醸成し、その循環が自律的に動く状態をつくることが、BIPROGYグループが掲げる「デジタルコモンズを通じた価値創出」にもつながっていくと考えています。
THE CHAINには行政の方や大学の先生にも来ていただき、スタートアップ・エコシステムを充実させるための政策や、地方の技術をどう世界に羽ばたかせるかといった議論を交わすこともあります。こうした話はCVCや事業会社の活動展開にもつながりますし、VCの投資思想もブラッシュアップされるなど、異なる立場の人たちが影響し合うことで、循環がより豊かになっていきます。
——運営側としてイベントを盛り上げるための策などを考えていますか。
派手な演出でイベントを盛り上げるというより、異なる立場の参加者同士に、偶然の出会いや対話が生まれやすいプログラムを設計することを意識しています。VC、CVC・事業会社、行政、大学などは、それぞれが異なる立場から産業や社会のこれからを見ています。VCは投資を通じてさまざまな技術や事業の可能性を見ている一方、CVC・事業会社は自社のアセットや産業の現場で培った知見を生かしながら、新しい事業や価値を生み出そうとしている。行政には政策から見える社会課題があり、大学には研究や技術から見える未来があります。見ている時間軸も、持っている情報も、課題へのアプローチも違う。だからこそ、それぞれの知見や仮説を持ち寄ることで、自分たちだけでは見えていなかった変化や可能性に気付き、新しい価値につながっていくのだと思います。
人との出会いや偶然の発見、いわゆる「セレンディピティ」がイノベーションの源泉だといわれますが、THE CHAINではまさにそういうことが起きています。それを促すために、パネルディスカッションや、事業会社の立場からスピーチしていただくセッションを実施しています。これからも参加者の希望も聞きながら新しいプログラムをデザインしていきたいと思います。
信頼のエコシステムで挑戦を生み出す
——参加者はどのように集めているのでしょうか。
200名を目安に完全招待制で参加していただき、毎回異なる登壇者を迎えています。大切にしているのは、信頼関係が構築できることです。信頼関係があれば、情報の流動性は自然に高まります。そのために開催の趣旨をきちんと伝えて、ご理解いただいた上で参加してもらっています。
イベントを開催すること自体が目的ではありません。信頼をベースに、情報や知見が循環するエコシステムを醸成することが目的です。ベースになっているのは、BIPROGYグループとして培ってきた活動の積み重ねです。BIPROGYは、特定の一つの業界の中だけで事業をしてきた会社ではありません。業種・業界を横断し、さまざまなお客さまやパートナーと長く関係を築きながら、一社だけでは解けない課題に一緒に向き合ってきました。異なる立場の人たちと信頼関係をつくり、その知見を掛け合わせていく。そうした関わり方自体が、私たちの遺伝子として受け継がれていると思っています。THE CHAINも、その延長線上にある取り組みです。
先行きが不透明な時代にあって、一社だけでできることには限界があります。BIPROGYが「デジタルコモンズを通じた価値創出」を掲げているのもそのためです。信頼をベースとしたエコシステムの中で、さまざまな知見や変化を取り込みながら、自らの事業を進化させ、持続的な成長につなげていく。そして、そこで得たものを次の事業や新たな挑戦につなぎ、さらにエコシステムへ還元していく。そうした循環をつくっていきたいと考えています。
——現在の手応えと今後の展開についてお聞かせください。
THE CHAINを3回開催して情報の流動性が高まっていることを肌で感じられました。最初の一歩は踏み出せたと思います。これから目指していきたいのは、THE CHAINというイベントそのものを大きくすることではありません。VC、CVC・事業会社、スタートアップ、行政、大学など、それぞれの立場の人が持つ知見やネットワーク、資金、技術が、信頼をベースに行き交い、そこから継続的に新しい連携や挑戦が生まれていく。まずは、そうしたエコシステムを醸成していきたいと考えています。
そして、そのエコシステムが成熟すると、やがて循環そのものが自律的に動き始めるのだと思います。特定の誰かが一つひとつの関係をつながなくても、参加する人たちが自らつながり、それぞれの知見やアセットを持ち寄りながら新しい価値を生み出していく。私たちは、それがデジタルコモンズに近い状態として捉えています。
THE CHAINは、その状態をつくるための一つのきっかけです。ここで生まれた信頼を起点に情報が流れ、新しい関係や挑戦が生まれる。その循環がTHE CHAINという場を超えて自律的に回り始め、私たちが介在しなくても新しい価値創造につながっていく。そこまで広がっていくことが、私たちの目指している姿です。
一つの挑戦が、誰かの次の挑戦のきっかけになり、その挑戦がさらに別の挑戦を生む。そうした循環が自律的に続いていく社会こそ、私たちが掲げる「挑戦が、挑戦を、つむぐ社会。」なのだと思っています。



