自身の努力とチーム力でさらなる技の高みを“切り拓く”BIPROGYバドミントンチーム。選手たちが自身の想いや信念について熱く語る本企画。その第3回目に登場するのは、2024年シーズンの初戦となった「マレーシアオープン2024」で初優勝を果たしたバドミントン混合ダブルスの渡辺勇大・東野有紗ペア。「ワタガシペア」の愛称で知られる2人。中学時代からペアを組み、戦い続けてきました。試合の最中でも最適な連携を目指して綿密なコミュニケーションを図り、戦局を変えていくことでも有名です。ワタガシペアは普段からどのような心掛けをして、その連携を強めているのでしょうか。その秘訣とともに2024年の大舞台に向けた意気込みを取材しました。
「相手の立場で考えて」ベストなコミュニケーションをとる
――ワタガシペアはプレーの中でよく声をかけ合っているのが印象的です。チーム力を高めるために決めているルールや工夫はありますか?
東野心掛けているのは、何かを伝える時に相手の気持ちを考えること。勇大くんもそれができているから、お互いにいい関係でいられると思います。「いつ、こんな話をしよう」というルールは特に定めていません。決めない方がうまくいくのかなと思っています。
渡辺やっぱり人と人なので、細かい気遣いも大事だと思いますし、自分が疲れているから声かけをしない、ということはありません。2人でつくり上げていくのがダブルスなので、自分が少し無理をしてでもチームのプラスになるなら声をかけます。逆に先輩から声をかけてもらうこともたくさんあるので、支え合いが大事かなと思います。
プレー中でもアップ時でも、相手の調子は分かります。たとえ相手が疲れていると感じても、そこから「どうやったら勝ちにつなげられるか」を考えていかなくてはなりません。だから、自分もうまくいかない部分を素直に伝えています。強力なチームメイトでいてもらうためにも、自分の弱い部分を共有するのは大事なことです。
東野私も思ったことは素直に話しています。ただ、伝えるタイミングは気を付けています。例えば、試合前のアップで調子が少し悪かったりするなどはお互いに分かるのですが、試合直前に「今日疲れているんだよね?」と話して、試合に向かう意気込みに水を差すことはしません。今話すべきこと、言わない方がいいことは意識しています。そのタイミングがお互いに合っているから、けんかにもなりません。
渡辺チームなので、一方通行にならないことはとても大事です。「こうした方がいい」とか「これが正解」と決めつけることはしません。「自分はこう思う」と意見を提案しながら、「あなたはどう思う?」と聞くようにしています。チームは自分1人だけの目線で動いても絶対にうまくいきません。自分のストレスだけを解消するのではなく、チーム全体のストレスをなくすためにベストな方法を常に考え抜くことが大切です。
暗黙の了解も、言葉にすることでより強く共感できる
――長くダブルスを組んできた中で、苦労された局面はありますか? またそれをどのように乗り越えたのでしょうか?
東野中学生の時からペアを組んでいるのですが、最初はうまくコミュニケーションを取れていませんでした。試合でも、お互いの技術に頼った“あうんの呼吸”だけで乗り切っていたのですが、次第に勝てなくなりました。「どのように意思疎通を図ればよいのだろう……。難しいな」と悩む日々の中、2018年にマレーシアから専任コーチが来日してコミュニケーションの大切さを教えてくれたんです。コーチを交えて3人で会話する時間をつくり、経験が蓄積する中で徐々に2人でも会話の大切さを意識できるようになりました。
渡辺その時に、お互いに「こう思っているだろうな」という暗黙の了解のようなことも、言葉にするとさらに共通認識が高まることを実感しました。それをきっかけに練習中からコミュニケーションをこまめにとる習慣が身に付いていったので、すごくありがたかったですね。
東野一番つらかったのは、東京オリンピックの出場レース直前に足首を捻挫してしまったこと。あまりケガをしない方なのですが、大事な時にケガをしてしまって。1つの大会をムダにしてしまう焦りと、勇大くんに迷惑をかけてしまうことの申し訳なさでいっぱいでした。でも、その時に勇大くんが「大丈夫だよ、待ってるから」と言ってくれて、その言葉にすごく救われてリハビリを頑張ろうと前向きになれました。
渡辺僕はケガが多い方なので、待たせてしまう気持ちはすごくよく分かるんです。自分がケガをした時は、先輩は文句も言わずに待っていてくれるので、1日も早く戻ろうという気持ちになります。
――混合ダブルスの魅力はどこにありますか?
東野私、これまでバドミントンをやめようと思ったことがないんです。勇大くんと混合ダブルスを組んでから、もともと純粋に好きだったバドミントンが一層楽しいと思えるようになって。その気持ちが、この道を走り続ける原動力なのかなと思っています。
渡辺男女で組むことによる得意不得意の違いが混合ダブルスの面白さだと思います。ただ強い球を打てばいい、というものではなく、相手を崩すための戦略の幅が広いんですよね。同性ペアよりも駆け引きの数が多いのかなと感じます。ちなみに、僕はやめたいと思ったことは数えきれません(苦笑)。でも、僕にはバドミントンしかないし、やめてしまったら何も残らない。そう信じて体が動かなくなるその日まで続けたいと思っています。
――お互いのすてきだなと思うところをぜひ教えてください
東野勇大くんはサバサバしていてハッキリものを言ってくれるので、相談しやすいんですよね。相談した時にすごくポジティブかつ明快に「とりあえずやってみよう」「今のはこうした方がいいよ」と言ってくれる。勇大くんの性格にはいつも助けられています。
渡辺先輩は裏表がない。僕はどちらかというと感情の上下が激しいタイプなので、コートの中でその感情を収めてくれるというか、一定にしてくれるんです。感情のコントロールは勝つために大事な要素なので、とても助かっています。
2人で支え合って世界一を目指す
――BIPROGYバドミントンチームの魅力を教えてください。
渡辺常に上を目指す選手たちと、レベルの高いスタッフがいるチームなので、世界一を目指すにはとてもいい環境です。代表戦に入るとチームで練習する時間こそ少なくはなりますが、世界で活躍する選手が増えれば、後輩たちにもここでプレーしたいと思ってもらえる。そんな好循環が生まれるのではないかと思っています。
ただ、チームとはいえバドミントンはやはり個人競技です。自分がどうなりたいのか、常に向き合う必要があります。僕は後輩たちに言葉で何かを伝える機会は少ないですが、僕の姿を見てもっと上を目指したいと思ってもらえたらいいですね。そう思えるのは、僕も同じように先輩の姿を見てきた結果に、今があると思っているからです。
東野先輩もスタッフもとても魅力的で素晴らしい人ばかりなので、自分が上を目指すためにこのチームを選んでよかったと思っています。社内には社員の有志によって結成された後援会「バドの会」があって、試合を見に来てくれたり「いつも応援してるよ」と声をかけてくれたり。社員の皆さんの応援も、頑張るための力の源になっています。
――今、力を入れて取り組んでいる課題は何ですか?
渡辺僕はコンディショニングが一番の課題です。ケガをして練習をストップするとまた振り出しに戻ってしまうので、練習内容を調整しながら自分のコンディションを整えることに注力しています。
東野レシーブが弱いので、それを永遠の課題として取り組んでいます。試合では「絶対に相手の女性選手には負けない」と思ってプレーしています。少しできたなと思っても、練習をやめてしまうと振り出しに戻ってしまう。課題克服のためにも、ひたすら練習を続けるしかないと思っています。
――バドミントン人生を支えてくれている人や言葉はありますか?
東野私は母の勧めでバドミントンを始めて、それ以来ずっと母は私を応援してくれています。その存在が一番の支えです。五輪に一番連れていきたい人も、母。そのためにも頑張りたいなと思っています。
渡辺僕はそういうの、ないですね……。尊敬する選手はたくさんいますが、誰か1人というのも難しいですし、何にすがるわけでもなくやってきたので。逆にそれがいいのかなと思います。自分の道を進んできたから今があるのかな、と。だからこれからも自分自身が目指す道へ信念を持って進むだけだと思っています。ゲン担ぎもしないし、音楽もほとんど聞かないんですよ。
東野私は音楽を聴くタイプです。三代目J SOUL BROTHERSの登坂広臣さんが好きなんです!
渡辺それ、よく言ってるよね(笑)。
――今後の意気込みを教えてください。
渡辺レース中盤になって、コンスタントにいい成績を残すことができているのも、2人で支え合って貪欲に勝ちを取りにいけているからだと思っています。こういった結果の残し方は僕らが目指すところであり、一方でなかなかできないことでもあるので、すごくよいシーズンを過ごせている実感があります。まだまだレースは続きますし、やはりパリ五輪では金メダルが欲しい。さらなるステップアップのために支え合っていきたいと思います。
東野勇大くんが言ってくれたように、コンスタントに結果を残し続けられるよう戦い抜いていきたいです。アジア大会で銀メダルをとれたので、この勢いでパリ五輪に臨みたいですね。そのためにも大きなケガをしないようにコンディションを整えて、元気な姿で世界の舞台に立ちたいと思います。
Profile
- 渡辺勇大(わたなべゆうた)
- 1997年6月13日生まれ。東京都杉並区出身。バドミントン選手だった父の勧めで小学校1年生からバドミントンを始める。福島県立富岡高校卒。2016年日本ユニシス(現BIPROGY)入社。東野有紗との混合ダブルスで2021年開催の東京2020オリンピックで混合ダブルス日本勢初の銅メダルを獲得。同大会では、遠藤大由との男子ダブルスでも5位入賞を果たした。
- 東野有紗(ひがしのありさ)
- 1996年8月1日生まれ。北海道岩見沢市出身。陸上選手だった両親の勧めで小学校1年生からバドミントンを始める。福島県立富岡高校卒。2015年日本ユニシス(現BIPROGY)入社。2018年、渡辺勇大との混合ダブルスで権威ある全英オープン2018で日本人初優勝。2021年開催の東京2020オリンピックで銅メダル獲得。2022年には混合ダブルスで日本人初の世界ランキング1位となる。
関連リンク
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