私の本棚 第11回

認知科学

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初心者必読の本から上級者向けの本、「座右の書」などを推薦者のコメントとともにご紹介するコーナー。第11回のテーマは、「認知科学」です。価値ある一冊に巡り合う一助となれば幸いです。

写真:斉藤功樹
今回の推薦者
総合技術研究所 情報デザイン室
主任研究員
斉藤功樹

推薦者コメント

「今のあなたの心を説明してください」と言われたら、答えに窮するのではと思います。というのも、意識している心の動きもあれば、そうでない動きもあるからです。例えば、「赤」の色を答えてください。こう問われたとき、赤の文字が青色で示されていたら、無意識に漢字からイメージされる「あか」と色から想起される「あお」で迷いが生じます。その他にも、泣いている人をみてもらい泣きしたり(ミラーニューロンの働き)、自然物が人の顔に見えて恐怖を感じたり(シミュラクラ現象)と心はさまざまに反応します。こうした働きを解き明かそうとする学問が「認知科学」であり、近年注目を集める“人間らしいAI”の開発にも役に立つ可能性があるとされます。人間は少ない情報からも学習が可能ですが、ChatGPTなどは大規模な訓練データを必要とします。この点、将来的に認知科学の応用によって人間らしいAI開発の扉が開かれ、ドラえもんのような感情豊かなロボットと共に暮らす未来が実現するかもしれません。今回は、そんな認知科学の世界を知ることができる入門書をご紹介します。

本を読むときに何が起きているのか
ことばとビジュアルの間、目と頭の間

書評書影画像:本を読むときに何が起きているのか

“百聞は一見にしかず”ということで、「本を読むときに自分の心がどのように変化しているのか」をまずは感じていただきたい。本書では、人の「読む」という認知活動に焦点を当て、本を読むときに何がおこっているのかを問いつつ、その変化を実際に感じさせる構成となっている。例えば、文字だけではなく随所に挿絵がされ、ある種アートの様相を呈し、読書を通じて無意識に起こっている感覚の変化を読者に問いかける。この創意工夫によって、ページを繰るごとに、今まで感じたことのないような不思議な読書体験が得られるだろう。気軽に読み進められ、気分転換にもなるのでぜひ読んでいただきたい。

[著]ピーター・メンデルサンド(著)、山本貴光(解説)、細谷由依子(訳)
[出版社]フィルムアート社
[発行年月]2015年6月

教養としての認知科学

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本書は、「知性とはどのような働きか」の理解を深められる一冊。「人がどのように記憶し、処理し、思考しているのか」についてさまざまな実験結果と得られた知見が示され、また知性を理論的に説明する上での重要な要素として「表象」が紹介されている。この表象とは、頭の中で構築する世界(イメージ)のようなものを想像してほしい。マグカップが目の前にあるとき、それに手を伸ばして中身を飲むことができるのは、マグカップとそれを飲むという一連の流れが表象として頭の中にあるからだと考えられる。ただし、著者も述べるように表象に対しては賛否両論があるため、1つの考えとして理解していただければと思う。本書の後半では、「人がどう考えるのか」という思考のクセを紹介している。人がどのように推論しているのか、一般的には「経験則」などと表現されるヒューリスティックをどのように活用・思考しているかなどが解説されている。本書は全編を通じ、多様な実験結果を基にしている。このため、より具体的な事例を通じて人の知性についての理解を深められる。人の知性の巧みさとそのはかなさを知ることのできる書籍として、ぜひお勧めしたい。

[著]鈴木宏昭
[出版社]東京大学出版会
[発行年月]2016年1月

心と脳――認知科学入門

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人の心とは何か。それを認知科学がどのように解き明かそうとしてきたのか。そして、認知科学の進化によって未来はどのように描かれていくのか。本書はその先端をひも解いた一冊だ。認知科学は、学際領域といわれ、さまざまな学問(心理学、人工知能、脳科学など)が集まり、その研究分野も多種多様に及んでいる。執筆者の安西祐一郎氏は、日本の認知科学の第一人者として学究を深めてきた。その研鑽の粋が余すところなく本書にちりばめられている。認知科学の世界が網羅的かつ俯瞰的にまとめられているだけでなく、氏の膨大な知見が惜しみなく凝縮されている。一方で、新書サイズの書籍であるため気軽に読め、本格的な入門書としても優れている。事実、本書に関連する文献だけで約250に及んでいる。

[著]安西祐一郎
[出版社]岩波書店
[発行年月]2011年9月

プロフィール

斉藤功樹(さいとう こうき)
2009年、システムエンジニアとしてBIPROGY(旧:日本ユニシス)に入社し、金融機関向けシステムの構築・保守を主に担当。2013年に総合技術研究所へ異動し、ビッグデータ分析基盤、衛星データの活用(JAXA公募案件)を経て、現在は視線と文書理解に関する研究に従事。2021年に博士号(知識科学)を取得。

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