巨大企業に勝つ5つの方法――ベストセラー書籍『イノベーションのジレンマ』監修者が伝授

歴史ある大企業の弱点を知り、破壊的イノベーションで成功をつかむ

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歴史ある大企業は、合理的な経営判断を繰り返すことで、ディスラプティブ(破壊的)なイノベーターに打ち負かされてしまうことがよくある。逆の見方をすれば、そこにこそ新規参入企業が成功をつかむチャンスがある。関西学院大学経営戦略研究科副研究科長の玉田俊平太氏が、ディスラプティブ・イノベーションを通じた新規事業創出のあり方について解説した。

イノベーションは技術革新ではなく
「創新普及」と理解すべき

企業価値とイノベーションとは大きく関係している。例えば2019年8月時点での世界の株式時価総額トップ5を見てみると、1位アップル、2位アマゾン・ドット・コム、3位アルファベット(グーグルの持ち株会社)、4位マイクロソフト、5位フェイスブックといった米国企業が並んでいる。いずれもデジタルテクノロジーを用いて、新たな製品(プロダクト)やサービスを幅広く提供したり、新しいやり方(プロセス)で製品やサービスを幅広く提供している企業だ。

関西学院大学
経営戦略研究科 副研究科長
玉田俊平太氏

また、このランキングには顔を出さないが、ウーバーも上場したなら7.5兆円程度の時価総額になると報じられている。同社が打ち出した自動車配車のシェアリングサービスもまた、スマートフォンをベースとした新しいデジタルテクノロジーで、斬新なサービスを実現したものである。ただし、製品やサービスに新規性がありさえすれば何でもイノベーションと言えるかといえばそうではない。玉田氏は、「イノベーションを起こすにはその正しい理解が必要」とし、次のように語る。

「確かにアイデアに新規性があれば特許は取れます。しかし、その新しいアイデアを盛り込んだ製品やサービスが必ず商業的に成功するとは限りません。実際、新しいアイデアが技術的に確立され、さらに商業的な成功に至る確率は16%程度に過ぎないという研究結果もあります。すなわちイノベーションを、単なる技術革新として捉えるのは間違いの元なのです。イノベーションとは、新しい製品やサービス、プロセスのアイデアを新しく産み出すだけでなく、それらを広く普及させるプロセスまで含めた『創新普及』であると理解すべきであり、普及による経済的成功が伴うことこそが企業の経営者にとって重要なのです」

経営の優劣では説明できない
別の力が働いている

そして昨今、注目されているのが「ディスラプティブ(破壊的)」と形容されるタイプのイノベーションだ。市場で大きな力を持った歴史のある企業が、新参のベンチャー企業に打ち負かされるという“下剋上”があらゆる業界で起こっている。

こうした事例に対して、これまでは「将来への投資を怠ったのではないか」「ビジネスプランが貧困だったのではないか」「社内に慢心がはびこっていたのではないか」など「歴史ある大企業の『経営がまずかった』から、新規参入者との競争に負けたのだ」と理由付けがなされることが多かった。しかし、実際には、歴史ある大企業は、既存の顧客に対してより高い満足を提供すべくさまざまな努力をしていたのだ。

「歴史ある大企業が競争に負けた背後では、経営の優劣では説明しきれない、別の力が働いていました」と語る玉田氏によれば、ディスラプティブ・イノベーションとは、既存企業の主要な顧客からみると「一時的に性能が低下する」タイプのイノベーションなのだ。コンピュータ業界でかつて隆盛を誇ったメインフレームがミニコンに凌駕され、さらにそのミニコンもパソコンに淘汰されてしまったのは、その象徴的な事例だ。「最初は『あんなのはオモチャだ』とばかにしていた製品の性能が向上し、ローエンドから市場を侵食し始めてからあわてて巻き返しを図ろうとしても、すでに手遅れ。これがディスラプティブ・イノベーションの怖いところで、気付いたときには新規参入のプレーヤーに太刀打ちできなくなっているのです」と玉田氏は語る。

自社の製品やサービスのスペックが、顧客の大多数のニーズを超えてしまった場合、従来の延長線上での性能向上はもはや付加価値とはならない。まさにそこにディスラプティブ・イノベーションが入り込む隙が生まれるのだ。なお、ディスラプティブ・イノベーションはハイテク企業に固有の現象ではない。「製造業でもサービス業でも、変化の速い業界でも遅い業界でも起こっています」と玉田氏は強調する。

出典:玉田氏の報告資料を基に作成

新規参入者が巨大企業に勝つ 5つの方法とは

逆の見方をすれば、新規参入の企業にとって、歴史ある企業の主要顧客を真正面から奪い取ろうとする戦略を立てたところで勝てるはずがない。ディスラプティブ・イノベーションを起こすことで、はじめて勝機が生まれる。玉田氏は、新規参入企業が巨大企業に勝つために、次の5つの方法を挙げる。

1. 多様なメンバーをチームに集める
多様性こそがイノベーションの価値を高める。
2. 顧客が片付けたがっているジョブを見つける
実績ある競合企業が喜んで無視する、あるいは背を向けるような「破壊」の足がかりを見つける。
3. 「正しく」ブレインストーミングを行う
具体的には「価値判断は後でする」「ワイルドなアイデアを促す」「他の人のアイデアに上乗せする」「数を求める」「1度に1人が話す」「主題に集中する」「可視化する」という7つのルールを実践する。
4. アイデアを選び出す
アイデアの破壊度と自社での実現可能性、見込まれる経済的な利益、その利益に対する確信度を1枚の図にマッピングして評価する。
5. 新しい酒(ディスラプティブ・イノベーション)は、新しい革袋(別組織)に任せる
自社の価値基準と合わない、あるいは、これまでの仕事のやり方には合わないようなビジネスモデルは、独立した別組織を設けるべき。

特に5つめの方法に該当する、別組織に任せることでディスラプティブ・イノベーションを推進している日本企業の例として玉田氏が挙げるのが、ホンダによる小型ビジネスジェットへの参入だ。当然のことながらビジネスジェットは、これまでホンダが主力商品としてきた自動車とは顧客層も違う。技術的なアーキテクチャーにおいてもまったく異なっている。そこでホンダは「新しい革袋」としてホンダエアクラフトという新会社を米国に設立し、米国で設計製造許認可を受け、連邦航空局から型式証明を取得し、米国から販売を始めるという戦略をとった。その後、ホンダは北アメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、東南アジア、中国およびインドに販売サービスネットワークを拡大し、小型ビジネスジェットの市場において世界トップクラスのシェアを獲得することに成功した。

ディスラプティブ・イノベーションに関する理解をさらに深めたい方は、玉田氏の著書『日本のイノベーションのジレンマ』(翔泳社)の一読をお勧めする。ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授からイノベーションのマネジメントを学び、「イノベーションのジレンマ」の監修を務めた玉田氏ならでは、ディスラプティブ・イノベーションの構造・原理・フレームワークを解き明かしている。また、「テレビ」「携帯電話」「カメラ」の各分野におけるイノベーションの歴史と日本企業敗戦の理由、そして最新の理論に基づいた日本企業に対する具体的な処方箋を示しており、変革への重要なヒントを掴むことができるはずだ。

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