ビジネスの“局地戦”でリーダーを育てる変革プロジェクトの作り方

良質な修羅場こそがDXを推進するためのリーダーシップを育む

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デジタルトランスフォーメーション(DX)などの変革を進めたいが、それを任せられる人材がいないというのが、多くの経営幹部の悩みである。今の日本企業に必要なのは、一人のカリスマではない。仕事の内容に応じて全員が日替わりでリーダーシップを発揮することで、成果を出していくことが必要となる。そうした人材育成を進める上での課題とその解決方法について、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社バイスプレジデントの白川克が解説した。

「泥臭い変革の連続」が
DXと呼ばれるものの実態

ビジネス体質を作り変える際に不足しているのは、多岐にわたる分野の知識を持ち、力量を兼ね備え、圧倒的なカリスマで皆を導いていくようなリーダーではない。

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社
バイスプレジデント
白川克

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 バイスプレジデントの白川克は、「スーパーマンを求めるのは、もうやめませんか?」と問題を提起する。そして、「日本企業で深刻に不足しているのは、『局地戦でのリーダーシップ』とも呼ぶべき力です」と強調する。

白川が事例として紹介するのは、同社が支援したある生命保険会社における営業端末更改プロジェクトである。「各部署がそれぞれ企画した営業職員向けのソフトウェアを、専用端末やタブレットに詰め込んで渡す」という、これまでのスタンスを徹底的に反省するところから始まったものである。その結果、「端末を通じて、営業職員とその先のお客さま一人ひとりの体験を一貫してコーディネートしていく」というコンセプトにたどり着き、現在はそれに基づいた変革を推進中である。

興味深いのは、このコンセプトをプロジェクトメンバー全員で合意した途端、それぞれの部署で芋づる式に「変えるべきこと」が出現したことだ。例えば保険事務の部門では「自社の専門家がいかに効率よく入力できるか」を重視していたのが、「お客さまが入力するのを営業職員が横でサポートするために、どんな入力画面、教育、マニュアルが必要なのか」を求めるようになる価値観のシフトが起きた。また、商品を担当する部門でも、従来のように端末上に電子カタログを載せておけばよいとするのではなく、「お客さまの状況に合わせて、最適な保険選びをどうナビゲートするか」を考えるようになった。

そうなると、これまで当然だと思ってきた組織の役割分担まで見直しが必要となる。次から次へと課題が湧き上がってくるが、今までと違うことをやろうとしているのだから、これもある意味当然である。こうした課題を一つ一つ粘り強く解決しながら行っている“泥臭い変革”こそが、世間でDXと呼ばれているものの実態なのだ。そして、そうした泥臭い変革を成し遂げるには、至るところでリーダーシップを持った人材が必要になる。

「DXのような変革を企業レベルで進めるには、『やってみてダメなら軌道修正』『それぞれの専門家が現場で都度判断』といった取り組みを手探りで進めるしかありません」と白川は説明する。いわば本陣からの指示命令が行き届かない中での合戦に近い。これを戦い抜けるかどうかが、「局地戦でのリーダーシップ」の育成にかかっているわけだ。

変革プロジェクトを成し遂げる
リーダーが育つ6つのTIPS

では、変革のための局地戦を戦えるリーダーが育つプロジェクトを、どうすれば作ることができることができるだろうか。何かコツのようなものはあるのだろうか。

結論として白川は、「良質の修羅場を作り、放り込むことです」と説く。プロジェクトの打ち上げ会などでは、しばしば武勇伝が飛び出す。「海外の現地法人を買収したのはいいが、実は中身はめちゃくちゃで、そこに一人放り込まれて……」といった類の話だ。変革プロジェクトの中心を担ったリーダーはこういう修羅場を経験していることが多く、その体験こそが自分のキャリアのポイントになったと振り返る。

こうした観点から白川が、リーダーが育つプロジェクトを作るために示すのが、次の6つのTIPSである。

1つ目は「安全な場を作る」。泥沼の修羅場ではなく、心理的な安全性が担保された良質の修羅場がリーダーを育てるのだ。

2つ目は「1枚をみんなで作る」。最初に徹底的に議論し、「真っ先にやるもの」と「大事だが後回しにすべきもの」を明確に分けたうえで全員が各自の意見を出し、コンセプトを1枚にまとめる。リーダーシップに必須の主体性を引き出すためにこれを行う。

3つ目は「ファシリテーションをたたき込む」。変革プロジェクトの阻害要因の半分以上はコミュニケーションの失敗である。したがってコミュニケーションを促進するためにも、論点を整理しながらスピーディーに議論を行うべきである。

4つ目は「トレーニングはJust in Timeで行う」。変革プロジェクトの進展に合わせ、必要なスキルを習得する。必要を感じ、体験しないと人は学べない。

5つ目は「自己振り返りの公開」。変革プロジェクトを走りながら、例えば直近の1週間に学んだこと、気づいたこと、疑問・質問・要望などの振り返りをメンバー間でお互いに交換する。一人の気づきが変革プロジェクト全体に伝搬し、省察効果や学ぶ力が高いメンバーが全員を引き上げる効果を生み出す。

6つ目は「見えると、自主的に動く」。変革プロジェクトの状況を常に見える化する。これによりプロジェクトに対して全員の頭が回り始める。何よりも大事なのはメンバーの自主性を育てることであり、まず考えさせて、表現させて、ブラッシュアップしていく。

そして、この6つのTIPSのベースにあるのが「Have Fun!(変革プロジェクトは楽しくやることが大事)」という考え方だ。「働きがいを感じると、人を巻き込めるようになり、コミュニケーションがよくなり、あと一歩踏み込んで考えるようになり、しんどい時にも踏ん張ることができます」と白川は強調する。大変な変革プロジェクトだからこそ仕事は楽しくあるべきで、それが最大の成功要因となっていくのである。

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