農林水産業を支え、食と地域の発展に貢献することをミッションとする農林中央金庫。時代の変遷に対応し、農林水産業の持続的成長と社会への新たな価値提供を実現すべく進化を続けている。日本ユニシスのオープン勘定系システム「BankVision」採用もその取り組みの1つだ。WindowsベースのフルバンキングシステムであるBankVisionは、すでに地方銀行での導入が進んでいるものの、全国展開する金融機関での導入は初となる(2020年9月に本格稼働を開始)。その狙いはどこにあり、どのような効果を期待しているのか。プロジェクトを円滑に進められたポイントや将来の展望など、農林中央金庫、日本ユニシス双方の関係者に話を聞いた。
時代への即応と「農林水産業を支える」使命を果たすため
勘定系システムを一新
――BankVisionの導入背景にはどのような課題があったのでしょうか。
吉田 当金庫は、JAバンクやJFマリンバンクなどの金融業務を通じ、さまざまな金融機能を全国に提供するとともに海外での投資ビジネスも展開しています。その意味で、食と地域の発展に貢献するという使命の実現とグローバルな事業活動を担う「グローカル」企業です。しかし、国内の金融市場は人口動態の変化や都市部への人口集中、低金利などの環境変化を背景に、これまでの業務領域だけでは持続的な成長が難しい状況です。さらにニューノーマル時代では、強みとしていた対面での営業活動に頼ることもできなくなりました。そこで求められるのが、既存金融業務の合理化・効率化による現場力と収益力の強化です。そのために、デジタルビジネスへの対応も見据えた未来志向の業務革新を推進しています。同時に、他社との提携による業務拡大も視野に入れています。「この実現のためにはどのようなシステムの在り方が必要なのか」という視点から十分な議論・検討を重ねてきました。
半場 私たちには「グローカルな存在としてJAバンクやJFマリンバンクをサポートし、地域の食や農業に関わるビジネスのサプライチェーンを支える」使命があります。その1つ1つのビジネスシーンにおいては、多様な業務特性があります。それらを踏まえ、システム部門としていかにスピード感をもって対応していくかが強く問われていました。
――どのようなプロセスで検討されてきたのでしょうか。
松嶋 「次期勘定系をどうするか」という検討を始めたのは、2015年度の第2四半期からです。当初、システムレスポンスなどの課題を解消するために「アプリケーションは既存のままで最新のインフラに載せ替えよう」と考えました。その点を鑑みつつ、これまで勘定系システムなどで30年以上の付き合いがある日本ユニシスと月1回くらいのペースでミーティングを行っていました。しかし、インフラ刷新だけでも相当な開発案件になります。同時並行でパッケージ利用も検討したところ、BankVisionならシステム面では旧システムと同等以上、業務フィット率も7割以上であることが分かり、思い切ってパッケージの利用にかじを切りました。半年ほど検討した後、当金庫内で了承が得られ、翌年からはピックアップした業務機能のフィット&ギャップを検証する予備検討のフェーズに入っていきました。
BankVisionがもたらす新たな金融システム像
――BankVisionの特長はどのような点にあるのでしょうか。
永島 日本では、1967年に初のオンラインバンキングシステムが稼働しました。そこから約半世紀の時を経て、Windowsで稼働するフルバンキングシステムBankVisionが誕生・稼働したのが2007年。背景には、1990年代から始まったオープン化への対応があります。ICTの役割が変化し、「業務の効率化」から「意思決定や事業拡大支援」に向けた期待が高まったことで金融系システムにも柔軟性や多様性、迅速性が求められるようになりました。こうした潮流の中、2003年に百五銀行とマイクロソフトとの3社提携によってWindowsで稼働するフルバンキングシステムの構築を発表したのですが、当時は「勘定系をフルオープンで構築などできるのだろうか」と世の中からは懐疑的に見られていました。しかし、2007年に無事稼働し、その後システムを採用する金融機関も増加し、農林中央金庫さまで11金融機関目の稼働となりました。また、全国展開する金融機関としては農林中央金庫さまが初の事例です。現在では、BankVisionをコアにFintech企業や多様な業種・業態のプレーヤーとの連携が広がり、さまざまなビジネスエコシステムが形成されています。
佐々木 金融機関では他業態に先駆けてシステム化が進められていました。従来は、機密性・堅牢性を高めるために、技術的・環境的にもクローズドなシステム、データセンター、ネットワークが揃った構築が主でしたが、時代が進みスピーディーかつ柔軟な対応が必要となりオープン化が求められるようになりました。本システムは、マイクロソフトのWindows ServerとSQL Serverを基盤としたオープン勘定系システムで、開発環境の一部にはマイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム Microsoft Azureを採用しています。システム運用は、当社が提供する共同アウトソーシングセンターを利用します。今回は、オンプレミスでの導入となりますが、次のステップはインフラレベルでのクラウドであるIaaS(Infrastructure as a Service)、その先にはさらに他社との連携がしやすいPaaS(Platform as a Service)へと進んでいくものと考えます。クラウド対応のBankVisionが北國銀行さまで稼働しますので、技術的対応は可能な状況になってきています。
プロジェクト成功のカギは
明確なコンセプト共有と強い信頼関係
――大規模システムのリニューアルを進める上での工夫はどのような点にあったのでしょうか。
吉田 私がIT部門の責任者に着任したのは2016年のことです。その時点では予備検討が終わり、プロジェクトが立ち上がっていました。そこで重視したのは「システムに業務を合わせる」というコンセプトを徹底することでした。プロジェクトメンバーはもちろん、理事長をはじめとしたトップマネジメント層にもコンセプトを共有し、その姿勢を一貫しています。外為関連のシステムだけはどうしてもパッケージに合わない点もありましたが、それも十分に議論を重ねて路線変更を図っています。もう1つ大切にしたのは「風通しの良さ」です。関係者が多いプロジェクトだけに、情報共有をスムーズにするためにもこの点が重要でした。そこでプロジェクトには、IT統括部門と事務を実行する部門の両方から参画してもらいました。
半場 これまでは予備検討をしても個別のカスタマイズが追加されるケースがありましたが、今回のパッケージ導入は円滑に進めることができました。日本ユニシスと共に進めてきた検討段階で、導入済みの金融機関から情報を得ることや「本当にその機能が必要なのか」という点について事務部門とシステム部門が十分に議論するなど、カスタマイズを抑えるためのアプローチを積極的に取り入れた点が功を奏したと思います。
松嶋 システム部門から見ても、一体感が持てたことが大きかったと感じます。そのための工夫も凝らしました。日本ユニシスからは300人ものメンバーが参画しましたが、最初の4カ月間は双方のリーダー同士がプロジェクトの進め方などについて毎日30分から1時間ほど議論しました。一体感を持てた理由としては、日本ユニシスメンバーの心意気もあったと思います。今回は、パッケージの導入と並行して旧システムの追加開発が進められていました。普通は担当プロジェクトごとに線を引きたがるものですが、日本ユニシスのメンバーにはそれがありませんでした。こうした点を加味し、柔軟にプロジェクトに参加してもらう体制づくりや当金庫で購入した旧システムの解析ツールを広く開放するなどの取り組みも実施しました。データの中身まで見られるようにして、ソースレベルでメンバー同士がキャッチボールできたことも一体感の醸成に役立ちました。
――強い一体感が持てたことが今回の大規模プロジェクトの成功要因ですね。
佐々木 農林中央金庫さまが、明確に開発コンセプト(パッケージ準拠)を徹底され、現行システムや現場事務の情報を開放してくださったことが、大きな成功要因だと考えます。その上で、今回のプロジェクトメンバーには、開発の意義や求められている役割を深く理解してもらい、自律的に動けるようにしていきました。
永島 次期勘定系プロジェクトの遂行における課題を農林中央金庫さまと適宜共有しながら進められたことは大きかったと思います。長きにわたり築いてきた信頼関係が根底にあったからこそです。
吉田 日本ユニシスとは、旧システムの構築も一緒にやっていて、もともと信頼関係ができていたことが今回のベースになっていますね。
松嶋 SEの方たちとの付き合いは私が一番長いのですが、困ったときに手厚くフォローしてくださいます。一人ひとりの心の中に「お客さまの課題解決に寄り添う」という精神が息づいているからだと感じます。
半場 繰り返しになりますが、私たちと日本ユニシスは勘定系システムで30年以上の付き合いがあります。その中で、他社の担当プロジェクトが暗礁に乗り上げた際に立て直してもらったという経験もあります。こうした中で強い信頼関係が培われてきたように思います。
変化する時代の中でも「いのち」を支えるリーディングバンクとして歩み続ける
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
佐々木 農林中央金庫さまと当社は、とても良い関係を構築できていると感じます。今後は、変化し続ける社会を前提に「10年先の業務領域がどうあるべきか」といった点などを相互に情報共有しながら新たな価値の実現を図っていきたいと考えています。また、農林中央金庫さまとの共創の中でBankVisionをさらに洗練されたシステムとして育てていきたいと思います。
永島 BankVisionには、私たちが基幹系分野で長年培った業務やシステムのノウハウに加えて、さまざまな技術が生かされています。その意味において「新しいDNAを持った生命」と捉えています。BankVisionは農林中央金庫さまの事業を円滑化し、新たな価値提供を実現するコアとして多くのステークホルダーをつなぎ、さらに大きな生命体として成長していくでしょう。現在、当社は、パブリッククラウドでのフルバンキングシステム「BankVision on Azure」の稼働に向けたプロジェクトも実施しています。併せて信用・共済・経済事業にて総合サービスを提供するJAグループの強みを活かし、各事業にて保有するデータを相互流通させ、サービス利用者目線にて、新たな顧客価値を創出するという取り組みも進めていきたいと考えております。今後も農林中央金庫さまのサービス向上や進化のお役に立っていきたいと思います。
松嶋 BankVisionは、新しい時代の扉を開く勘定系システムです。その導入・展開を通じて、当金庫のシステム部門の世代交代の道筋も見え始めてきました。システム自体はこの先20年程度は維持されていくと考えています。その中で顧客課題の解決に向け、若い世代がクラウド化やAI活用といった最新技術にも柔軟に対応し、成長してくれることに期待しています。
半場 クラウド化などに取り組む一方で、新しいビジネスを実現することも重要です。今回のBankVision導入はその第一歩です。今後は、Fintechなどのシステムも育て上げて、当金庫の取引先との連携や食農の分野で新しい価値やサービスを提供するインフラとして成長することを期待しています。
吉田 今後は、スピード感や拡張性を重視し、さらに顧客課題の解決に寄与するサービス展開を図っていきたいと考えています。今回はその土台です。日本ユニシスはスマートシティの実現など社会課題の課題解決に取り組んで行かれると思います。それらの動きとも連携し、相乗効果を図りながら「農林水産業と食と地域のくらしを支えるリーディングバンク」としてお客さまの期待に応えていきます。私たちのブランドステートメントは「持てるすべてを『いのち』に向けて。」です。そこには、農林水産業から生まれる「いのち」がたくさんの「いのち」の営みにつながっているのだ、という自負が込められています。私たちはこれからも、持てる力を発揮し、さらなる持続的成長と社会への価値提供を実現して参ります。