企業データを「AI-Ready」に変える、新たな取り組み
BIPROGYとEAGLYSが提携、「Data&AI Innovation Lab」を始動
AI技術は急速に進化しており、企業内に蓄積された膨大なデータをAIで活用できれば、極めて大きな価値を生み出す可能性があるだろう。しかし現状では、データの整備やAI活用に向けた準備が不十分で、「AI-Ready(AIを活用できる状態)」になっていないケースが少なくない。こうした課題を克服し、データとAIのさらなる活用を目指して、BIPROGYは2025年8月、EAGLYS(イーグリス)と資本業務提携を締結した。共同サービス開発「Data&AI Innovation Lab」では、EAGLYSのデータ整備やAIエージェント技術を活用し、企業が蓄積したデータを活用可能な形に変換することで、企業のDX推進やAI活用を支援している。EAGLYSとBIPROGYが今後の展開を語った。
企業におけるデータ整備の現状
――企業におけるデータやAI活用の現状と課題について教えてください。
脇森AIの社会実装に必要な要素は3つあります。高度なアルゴリズム、半導体や電力を含む計算リソース、AIに知識を与えるためのデータです。過去十数年の間に、ディープラーニング(深層学習)をはじめとするアルゴリズムは大きな進展を遂げました。計算リソースはGAFAMなどの巨大テック企業が取り合っている状態です。残るデータはどうか。今、多くのAIはネット上に公開されているデータを学習していますが、企業内にはAIがアクセスしていない膨大な情報があります。一部の企業内データはAIの学習に使われていますが、まだ始まったばかりです。データがAIに読み込ませるのに適した「AI-Ready」な状態になっていないのです。
今林データは存在していても、例えば社内やサプライチェーンで分散・非統一のまま保管されているなどしてAIを活用できる状態に整備されていない場合と、そもそもデータ化されていない場合の、2つのAI-Readyでないケースがあります。後者は暗黙知が多く、形式知化されていないことが多いです。工場現場などにおける「匠の技」はその典型例で、オフィスでも属人的業務が至る所にあります。こうした知見は形式知化しなければ、AIに与えることができません。今後、AIがビジネスの前提になると考えれば、企業にとってデータ整備は切実な課題です。
――EAGLYSの事業概要と強みを聞かせてください。
今林EAGLYSはAIとAIセキュリティーの領域を中心に事業を展開する研究開発型のスタートアップです。市場では業務/現場レベルで使える専門的・高精度なAIが求められていますが、AIの導入はPoC止まりで本格導入まで至らないケースが多くみられます。AIエージェント構築を成功に導くポイントは、データ整備と考えます。EAGLYSは、2021年以降、データ整備への取り組みを本格化させ、その知見と経験を生かしながら生成AI関連の事業を拡大してきました。具体的には「MINING AI」というソリューションを提供し、企業の潜在データの活用支援を進めています。われわれは重工業や保険などの分野で、個社独自の生成AI構築プロジェクトを成功させています。
――成功を支えた要因は何ですか。
今林EAGLYSは社員の約7割がエンジニアで、そのうち3割が博士号を取得しており、クリエイティブなソリューションのアイデアを生み出す強力な人材を有しています。そこで当社は、先進的な技術とそれを体感できるインターフェースのモジュール開発を先行投資としてまず実施し、生成AIプロジェクトに取り組みました。その結果、お客さまも具体的な導入イメージをつかむことができ、生成AIサービスをスピーディに構築できたことが、成功の要因であると考えています。
両社の強みを生かす「Data&AI Innovation Lab」
――AI活用とデータ整備の分野で、EAGLYSとBIPROGYが資本業務提携した背景をお話しください。
藤田BIPROGYは経営方針(2024-2026)における重要な柱の1つとして、新たな収益基盤の確立を掲げています。特に注力する新市場の開発において、大きな役割を担うのが私たちのビジネスクリエーション部門です。主な対象は製造、金融、小売、社会インフラの4分野。当社の厚い顧客基盤のあるこれらの分野に対して、AIなどを活用した新しいアプローチで価値提案できないかと議論を重ねてきました。一方、EAGLYSは工場などの現場に入り込み、AIを含む先端技術を活用して多くの業務変革をサポートしています。私たちとは異なるアプローチでの実績があります。BIPROGYがEAGLYSと手を組むことで実現するサービスがあると見込み、提携に至りました。
今林さんをはじめとするEAGLYSのみなさんの「日本を元気にしたい」という熱い思いにも共感しました。技術力の高さはもちろんですが、EAGLYSのパッションに動かされた面もあります。EAGLYSとの協業により、BIPROGY社員のモチベーションも高まると思います。
今林「BIPROGYと一緒に日本を元気にしたい」と本気で思っています。日本を代表する大企業の多くに対して、BIPROGYはさまざまなITサービスを提供してきました。積み上げられた信頼は極めて重要です。大企業でDXやAI活用の成果が次々と生まれれば、日本社会に大きなポジティブインパクトがあります。データ整備とAI活用などの領域で、成功事例を数多く実現していきたいと考えています。
――BIPROGYがこれまで培ってきた業務理解やデータエンジニアリングの知見に加え、EAGLYSとの連携により、データ&AI事業として「Data&AI Innovation Lab」と「Data&AI Solutions」を展開します。
藤田「Data&AI Innovation Lab」では、データを中心とした企業DXの支援、および生成AIの活用を支援するサービスを提供します。ここで得た知財を活用し、ソリューションとしてお客さまに提供していくのが「Data&AI Solutions」の役割になります。この2つのチームは緊密に連携しますが、起点となる前者の活動を加速させるためにも、お客さまの店舗や工場といった現場で得られる知見は欠かせません。
脇森お客さまの価値につながる事例を創出することが重要です。その上で、横展開可能なものを見極めてソリューション化していきます。こうしたプロセスを繰り返すことで、データとAIに関するソリューションが豊かになります。例えば、工場設備などの障害特定や復旧、さまざまな業界で必要な法令チェックなどの領域では、データとAIを活用するソリューションが有望ではないかと思っています。
エンタープライズ領域ではAIとセキュリティーはセット
――BIPROGYの強みはどのように発揮されますか。
脇森私たちは日本社会を支える多くの企業とともに、長年にわたって数々のプロジェクトを遂行してきました。顧客のニーズや現場の課題に向き合いながら、コンサルティングからシステムの設計・開発・運用までをフルサポートする知見を深め、ノウハウを磨いており、AIの実装実績も増えています。これらの蓄積はデータとAIを活用する上でのアドバンテージになると思います。
藤田さらに、どんな困難に直面しても「逃げずにやり遂げる」という姿勢が我々にはあります。EAGLYSと共通するマインドセットです。
今林ディープテック系のスタートアップというとスマートなイメージがあるかもしれませんが、EAGLYSは現場に入り込んで泥臭い作業もいとわないエンジニア集団です。
――EAGLYSのセキュリティー領域での強みを聞かせてください。
今林代表的な例は秘密計算です。データ活用の課題として、企業横断のデータ収集が困難という問題があります。各社とも自社データを他社と共有するのに消極的です。しかし、暗号化したままデータを集めて分析できれば、新たな価値につながるでしょう。それを可能にするのが秘密計算の技術です。例えば、複数の企業が互いのデータ内容を明かさずに共同分析を行うといった活用が考えられます。私たちはAIとセキュリティーを不可分の技術と捉えています。
脇森AI活用に限らず、エンタープライズITを高度化させる上でセキュリティー技術は極めて重要です。EAGLYSの持つセキュリティー技術は今回の提携をもたらした重要な要素だと思います。
――今後の展望を聞かせてください。
藤田AI-Readyのデータ整備は日本企業における大きな課題です。BIPROGYはEAGLYSとの提携を元に突破口を開きます。分散化・個別最適化したデータを全体最適に沿った形で整備し、企業のAI活用とDXを支援します。
今林AIに関する話題がメディアにあふれる中、日本企業の経営者の多くは慎重な姿勢を維持しているように見えます。「もう少し様子を見よう」と考えているのかもしれませんが、積極的なAI投資を続ける海外企業との競争格差が一層拡大する可能性があります。AIの進化とは切り離して、AI-Readyのデータ整備を進めることは可能です。AIがビジネスの根幹を担う時代のために、経営者にはビジネスに生かせるデータ整備とAI活用の準備を進める決断が求められていると思います。
脇森データとAIは企業経営に不可欠かつ競争力の源泉になるでしょう。私たちは技術を通じて日本企業の競争力を強化し、豊かな日本社会づくりに貢献します。

