ここにしかない体験を。北海道ボールパークFビレッジが目指す未来の街づくり

鼎談:「世界がまだ見ぬボールパーク」へ。共創が生む新たなコミュニティの在り方

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北海道北広島市で「世界がまだ見ぬボールパーク」づくりに向けたプロジェクトが進行中だ。新たな球場だけではなく、数十年後を見据え、ボールパークを起点として居住や子育てを支える都市機能を有した「Fビレッジ」という街をつくる――。この第一歩として、2023年3月に新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」とそのランドマークとなる「TOWER 11(タワー・イレブン)」がオープンした。ホテルや温浴施設などを備えたTOWER 11開業の舞台裏や、Fビレッジの未来像について、構想をリードするファイターズ スポーツ&エンターテイメント ファシリティ&ディベロップメント部の小川太郎氏(TOWER 11総支配人)、TOWER 11の運営を担うSQUEEZE(スクイーズ)代表取締役社長 CEOの舘林真一氏という2人のキーパーソンと、BIPROGYの齊藤昇が鼎談を行った。(以下、敬称略)

ヘッドライン

地域とともに歩む新しい街、「北海道ボールパークFビレッジ」

齊藤2023年3月に新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」がオープンしました。球場周辺では、「北海道ボールパークFビレッジ」の整備が進んでいますね。この中では、球場を中心とした多様な施設が展開されます。エリア開発を主導するファイターズ スポーツ&エンターテイメントの小川さんに、Fビレッジ構想の全体像についてお聞きします。

写真:小川氏
株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント
事業統轄本部 企画統括部
ファシリティ&ディベロップメント部 部長 小川太郎氏

小川日本ハムファイターズは2004年に東京から北海道に移転し、北海道日本ハムファイターズが誕生しました。札幌ドームを借りてゲームを開催していましたが、さらなる将来成長のためには球団と球場を一体運営する必要があると考え、自前の球場づくりを検討しました。やるからには、長期的な目線で街づくりに貢献したい――。私たちは当初からこう考えて道内の候補地を探しました。最終的に北広島市を選定しましたが、決め手はまず敷地。Fビレッジ全体で32ha、球場だけなら6つほど入る広い敷地を北広島市から借りています。立地面でも、この場所は北海道の玄関口とも言える新千歳空港と札幌の中間地点にあたり、多様な機能を持つ施設を開発・拡充することができる高いポテンシャルがあります。

齊藤当初からスタジアムの開発・運営だけではなく、 街づくりを構想していたのでしょうか。

小川はい。私がFビレッジに関わるようになったのは、候補地選定を進めていた2017年ごろです。当時から、経営層は街づくりを考えていました。もちろん、自分たちだけでできるとは思っていません。対等な関係をベースにパートナーや、テナントといった事業者を巻き込み、北広島市とも協力しながら街づくりを進めていく。私自身もこうした考え方に共感しています。

齊藤街づくりとなると相当大きな投資が必要ですね。

小川ええ、ですがその経済効果も大きい。スポーツマーケティングの最先端を行く米国では球場単体ではなく、街づくりを目指す方向性が近年目立ちます。スポーツのもたらす価値や雰囲気が周辺エリアに波及していく、こうしたアプローチによる地域づくりの有効性は多くの国々で広く認識されつつあるように思います。

齊藤経済効果については、現時点でどのように見込んでいるのでしょうか。

写真:齊藤
BIPROGY株式会社
代表取締役 専務執行役員CMO 齊藤昇

小川Fビレッジには民間資金だけでなく、北広島市の財政資金、国からの補助金も投入されています。したがって、できるだけ定量的に効果を可視化する必要があると考え、北広島市の持つ情報も用いて経済効果を算定しました。準備段階の2018年から開業10年目まで、15年間の経済効果は北広島市と周辺地域を合わせて8400億円。そこには定住人口や交流人口の増加、事業機会増加などの効果が含まれます。また、市や道、国に対しての税収効果は271億円。この過程で北広島市の税収は77億円程度押し上げられる見込みです。国や自治体が投じた資金は、開業10年以内に税収として戻ってくることが期待できます。

誰もが楽しめる空間づくり。試合のない日もホテル平均稼働率は95%

齊藤フィールドを見下ろせる位置に「TOWER 11」があります。ホテルや球場内温泉、球場内サウナなどもあり、野球観戦だけでなくさまざまな楽しみ方ができる施設です。その誕生経緯についてうかがいます。

小川ホテルや温浴施設について、最初はテナントの募集を考えました。多くの専門事業者が興味を示してくれたのですが、プロの目にはどうしても「不確か」「リスクが大きい」と見えてしまうようです。「試合のある日はよいが、それ以外の日の稼働が読めない」ということです。

齊藤「価値の詰まった社会を創る」というミッションを掲げるSQUEEZE(※1)はホテルDXのリーディングカンパニーであり、BIPROGYグループのCVCであるキャナルベンチャーズの出資先スタートアップでもあります。小川さんのおっしゃる不確かさもあった中で、SQUEEZEはFビレッジの構想段階からTOWER 11に携わっていますね。その参画経緯についてお聞かせください。

※1 株式会社SQUEEZE(スクイーズ)…「空間と時間の可能性を広げるプラットフォームになる」ことをビジョンに掲げ、現在は主に自社ホテル運営やクラウド運営ソリューションの提供を通し、ホテル業界のDX化を推進している

写真:舘林氏
株式会社SQUEEZE
代表取締役社長CEO 舘林真一氏

舘林2021年12月にファイターズ スポーツ&エンターテイメントと業務提携し、「どのような施設をつくるか」「どのようなビジネス形態が適しているか」などの議論に加わるパートナーという立場で参画しました。決め手は、Fビレッジの描く未来に共感したこと、そして、新たなフィールドでお客さまがワクワクするようなホテル体験を創造していきたいとの気持ちからです。多様な案を検討した結果、部屋数を絞って広めの部屋を用意し、子ども連れのファミリー層にも対応できるプランに落ち着きました。それが希少性を生み出し、温泉やサウナとのシナジーも相まってTOWER 11の価値を高めています。

小川TOWER 11の開業以来、収益面でも順調に推移しています。意思を持ってやり切れば自ずと結果はついてくる。日々、その思いを強くしています。

舘林開業して数カ月ですが、その1つの成果として現状では試合日は満室、試合のない日を含めた客室の稼働率は平均95%で推移しています。

齊藤素晴らしいですね。Fビレッジ全体の魅力が多くの人たちを惹きつける。球場だけでは、ホテル事業は成立しなかったかもしれませんね。

舘林そう思います。TOWER 11の取り組みだけではなく、Fビレッジで行われたサマーイベントなどの催しによる交流人口の創出も重要です。さまざまなエンターテイメントとの相乗効果で、現在のような実績につながっています。

齊藤球場内の温泉というアイデアも面白いですね。

小川設計会社への依頼前から、温泉を掘ることは決めていました。背景には、温泉やサウナを含めて、球場以外にも「さまざまなコミュニティをつくりたい」「生活者とのタッチポイントをできるだけ増やそう」との発想があります。多くの人が集まればコミュニティは成長し、文化が行き交う場所になります。また、温泉がある球場は世界的に前例がありません。世界で初めてのことをやりたいなという気持ちもありました。

写真:エスコンフィールドHOKKAIDO
2023年3月にオープンした北海道日本ハムファイターズの本拠地、エスコンフィールドHOKKAIDO。高さ16m×横幅86mという世界最大級の大型ビジョンを2台備える。国内初の開閉式屋根付きの天然芝球場であり、併設するTOWER 11の客室や温浴施設から野球観戦が可能。フィールドを見渡しながら楽しめる、ここでしか飲めないクラフトビール醸造レストランをはじめとした魅力ある飲食店も約50店舗が出展し、来場者の心をつかんでやまない
写真:Fビレッジの核となる新球場
Fビレッジの核となる新球場。その周辺には宿泊施設や分譲マンション、認定こども園、地形を生かした子ども向けの遊び場、北海道の基幹産業である農業を手軽に学べる農業学習施設なども整いつつあり、“小さな街”が確かに形成され始めている。今後も空間づくりは進められ、「野球好きのみならず楽しめる空間」「子どもから大人・高齢者まで幅広い年齢層において居心地のよい空間」が深化していくという

「コロナ禍は明ける」。その思いを貫いたFビレッジの準備期間

齊藤Fビレッジは2023年3月の開業ですから、その準備期間はコロナ禍と重なりました。最初の緊急事態宣言は2020年4月。翌月の着工に向けて準備が進む中、いろいろなところに影響が及んだと思います。

小川確かに影響はありましたが、大きな混乱なく乗り切ることができました。もしコロナ禍が1年早ければ、着工前だったのでプロジェクトの延期や休止も議論になっていたかもしれません。逆に1年遅れだったら、収束の兆しもなかったはずで、開業初年度は無観客試合を余儀なくされていたでしょう。当然、その影響はTOWER 11にも及んでいたはずです。

舘林間一髪のタイミングでしたね。

小川私は「コロナ禍は明ける」と強く信じ、あまり気にしないように仕事に打ち込んでいました。ただ、本音を言えば心配がなかったわけではありません。特に温浴施設については、プロから「収益的には厳しい」と聞いていたからです。ところが、開業後は予想以上の結果が出ていますので、本当にうれしい気持ちで一杯です。

舘林コロナ禍の準備中は、「どうやって三密を回避するか」「コロナ禍を前提にどのようなサービスが提供できるか」など小川さんと何度も議論を重ねました。ただ、2023年初めごろから世の中の雰囲気も明るくなり、開業時期になるとコロナの直接的な影響は薄れていたように感じます。

齊藤TOWER 11ではコロナ禍の影響は回避できたようですが、SQUEEZEの事業そのものは相当のダメージを受けたと思います。2014年設立のスタートアップがさらなる成長を目指していた時期に、突然現れたコロナ禍という壁。どのように乗り越えたのでしょうか。

舘林投資家やパートナーなど、サポートしてくれたみなさんのおかげです。特に、2020年は大変な時期でした。私たちはホテル業界のDXを目指し、テクノロジー活用とホテル運営を事業の柱としていますが、当時はビジネスの8~9割を占めていたインバウンド需要が3~4月の段階で一気になくなりました。すべてをゼロベースで見直し、トップダウンで迅速な意思決定を行う。社員には負担をかけましたが、真摯に支えてくれる部下の思いを大切にしながら事業を継続しています。TOWER 11以外にも26施設のホテルを運営しており、外国人向けの広めの部屋が多いのも特徴です。コロナ禍では、長期滞在や隔離などに利用されました。その他にも、若者の仮同棲プランなど、需要を模索し多様なプランについてスピード感をもって展開しました。運営するホテルは、宿泊運用管理システム の効果もあり、固定費が低いモデルを実現できているため、コロナ禍でも7割ほどの稼働率を維持し、ダメージを抑えることができました。その知見はTOWER 11でも役立っています。

写真:齊藤

ビジョンへの共感をベースに、周囲の人たちを巻き込む

齊藤意思決定のスピードという観点では、ファイターズ スポーツ&エンターテイメントも相当なものですよね。

舘林私はパートナーの1社として見ている立場ですが、これだけ大規模な事業なのに、首脳陣の意思決定がとても速いことに本当に驚かされます。

齊藤意思決定のポイントをぜひ知りたいですね。

小川今、Fビレッジを共創しているのは、舘林さんのように、私たちの示したビジョンや方向性に共感してくれた方々です。“海のものとも山のものとも分からない”。そんな企画段階から、自らリスクを背負って壮大な街づくりの一翼を担ってくれました。Fビレッジの将来に夢を持ち、互いに共感しあえるかどうか――。ここが、決定的に重要なポイントです。この軸を共有しているからこそ、参画パートナー側も迅速な意思決定ができ、お互いが高め合って前に進んでいけるのだと感じます(※2)。

※2 エスコンフィールド内では、道内だけではなくFビレッジの理念に共感した事業者が全国から参画している。例えば、長野県に本社を置く「ヤッホーブルーイング」が出展し、球場内にビール醸造所をつくり新鮮なクラフトビールを提供している

齊藤素晴らしいですね。BIPROGYも「ビジネスエコシステム」、そして「デジタルコモンズ」を掲げ、これまで多くの企業と一緒に新たな挑戦をしてきました。目指す未来の姿を共に見つめ、「共感」を軸にした共創準備に進む。そして、事業の「実行」に際して“社会課題を解決する”との強い思いを、お互いに改めて確立できるかも大きなポイントです。深いレベルで共感を醸成できれば、すんなり実行に踏み出せるケースもある。こうした経験を通じて、共感の重要性について私たちも日々肌で感じています。ファイターズ スポーツ&エンターテイメントの意思決定力も印象的ですね。実際、小川さんご自身としてはどのように感じていますか。

小川経営層のリーダーシップと意思決定力は、日ごろから実感しています。そこには、周囲の意見をしっかり聞く姿勢もあり、その上で判断している安心感があります。私を含め、現場からはさんざん意見を言っていますが(笑)、それが間違っていたとしてもとがめられることはありません。意見が採用されなくとも、経営層がその理由についてきちんと説明してくれるので、納得感を持って仕事を進めることができます。

齊藤なるほど、多くの経営者にとって気づきになりそうです。

前人未踏の領域に挑む:「世界がまだ見ぬボールパーク」へ

齊藤開業から半年以上が経過しましたが、集客などの現状について教えてください。

小川2023年3月に開業し、8月時点でFビレッジの来場者は200万人を突破しました。チケットを購入して試合を観戦する人が120万人強、その他の80万人弱が試合のない日を含めたFビレッジの来場者です。私たちが同年に目指している「試合日に200万人、試合のない日に100万人で合計300万人をFビレッジに呼び込む」という目標に向かって順調に推移しています(同年9月末時点で300万人を突破)。

写真:小川氏

齊藤なるほど。先ほど舘林さんからホテルについても好調な数字をお聞きしました。12ある各部屋にはそれぞれユニークなコンセプトがありますね。ぜひその意匠面などで工夫した点などをうかがえますか。

舘林各部屋で個性的な部屋づくりができたのは、小川さんたちのクリエイティビティに対する思いがとても大きいですね。小川さん、ぜひその思いを語っていただければ!

小川分かりました(笑)。まず、TOWER 11の名称はダルビッシュ有投手、大谷翔平選手のファイターズ時代の背番号に由来しています。彼らは私たちにとって特別な存在です。両選手の大きなウォールアートがTOWER 11の1階コンコース側にあり、球場内のランドマークになっています。そして、客室にも「DARVISH & OHTANI」を冠した部屋が2つあり、そこにはサイン入りの貴重なユニフォームを展示しています。他の部屋も、エスコンフィールドの建築イメージを展示した客室や、スポーツ雑誌とコラボレーションするなど野球を切り口にしたさまざまなコンセプトに基づいてデザインしました。また、コンセプトを公開していない部屋もあり、お客さまが何度来ても飽きない工夫をしています。

齊藤ファンにはたまらない仕掛けですね。すべての部屋を制覇したい、何度も宿泊したい、そんな思いにもつながる。お二人は今後、TOWER 11とFビレッジの価値をさらに高めるために何を考えていますか。

写真:エスコンフィールドHOKKAIDO内のワンカット
エスコンフィールドHOKKAIDO内のワンカット。試合日のみならず、試合のない日でもファンの心を惹きつけてやまない仕掛けが各所に施されている

小川ファイターズのファンクラブとは別に、Fビレッジの専用アプリをつくり、ID登録会員を募集しています。両方合わせると、会員数は40万人ほど。アプリユーザーに向けて、これからもっと面白い提案ができるはず。もちろん、会員増に向けた施策にも注力します。

舘林アプリには多くの可能性があります。例えば、パートナーやテナントが連携した新サービスの開発。Fビレッジには建設中の施設も多いので、連携の可能性はさらに広がります。また、常連客を便利な駐車スペースに案内するなどロイヤリティプログラムも考えられるでしょう。データの分析・活用はこれからの段階ですが、データが蓄積していけば便利な新規サービスも開発しやすくなるはずです。

写真:舘林氏

齊藤北海道在住の親戚によると、試合が始まる何時間も前にFビレッジに来ていろいろな施設を回って楽しむそうです。本当にファンの心をつかんでやまない場所になっている。笑顔で話す彼の姿からも伝わってきます。そして、お二人のお話を通じて、今後Fビレッジを訪れるすべての人にとってより魅力的な場所へと進化していく、そんな予感がします。

小川人口減少という大きなトレンドがある中で、ファイターズ・野球のコアなファンだけを追いかけるのでは限界があります。これまで以上にファンが楽しんでもらえる環境整備に注力することを大前提に、さらに門戸を広げ、野球に興味のない層にもFビレッジを楽しんでもらいたい。そのために、幅広い年代の生活者とのタッチポイントを増やしていきたいですね。例えば、グルメフェスやマルシェ、ワークショップなども企画・推進しています。居住空間も整いつつあり、将来的には学びの場なども拡充していきたいと考えています。北広島市とも良好な関係を築けていますので、産学官で協働し、多様な事業者に参画してもらえる仕組みづくりを深めることで、球場と野球以外のコミュニティも醸成されるでしょう。この循環を経て交流人口や関係人口、定住人口の増加にもつなげ、ボールパークを起点とした、次世代が笑顔で生活できる新たな“街づくり”に挑んでいきます。

齊藤そうした活動が、小川さんたちの掲げる「世界がまだ見ぬボールパーク」づくりにつながっていますね。その姿はすでに現れ始めていますが、これからも数々の驚きを届けてくれるでしょう。街づくりというチャレンジングな夢を実現しようとするFビレッジ構想に大いに期待するとともに、BIPROGYグループも積極的に貢献していきたいと感じました。環境面にも配慮した街づくり、デジタル田園都市構想の実現、さらにはデータセンターや関連企業の集積を図る「北海道バレー構想」との接続など、この先の可能性に胸が膨らみます。本日はお2人ともありがとうございました。

写真:鼎談の様子

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