AI時代に求められる問う力、感じる力の価値
宮田裕章氏×齊藤昇が語る、多様性を豊かさの源泉にする社会のあり方
社会的価値創出に取り組むBIPROGYグループは、2026年7月に東京で「BIPROGY FORUM 2026」を開催した。基調講演では、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏が登壇。続いて、BIPROGY代表取締役社長 CEOの齊藤昇と宮田氏の対談が行われた。第四次産業革命ともいわれる(歴史の転換点ともいわれる)AIの急速な進化は個人、組織、社会にどのような影響をもたらしているのか。その大きな潮流の中で、私たちはどのような未来を描いていくのか。多様性を源泉とする新たな豊かさ、AI時代に問う力、感じる力を磨くことの意味──深い思索に裏打ちされた未来へのビジョンが語られた。
「最大多数の最大幸福」から「最大多様の最大幸福」へ
2025年4月から10月まで開催された大阪・関西万博。この万博でテーマ事業プロデューサーの一人を務めたのが、宮田裕章氏である。宮田氏が手掛けたのは、テーマ事業「いのちを響き合わせる」のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」。ここで宮田氏が掲げたキーコンセプトが「最大多様の最大幸福」だ。
「農業革命以後、農地の拡大は豊かさに直結しました。リーダーになったのは、土地を広げる人でした。産業革命の後にはさまざまな産業が出現し、豊かさをもたらす経済的なエコシステムをつくる人がリーダーになりました」と宮田氏は話す。
宮田裕章氏
そして情報革命以降は、スティーブ・ジョブズのような人物が英雄視されるようになった。では、AIが社会に浸透するこれからの時代、私たちはどのような豊かさを目指すべきだろうか。宮田氏が提示するキーワードは多様性である。
「これまでの社会は、最大多数に目を向けることはできても、そこから外れる人たちへの支援は十分とはいえませんでした。しかし、テクノロジーを活用することで、より広範で適切な支援が実現しつつあります。多様性を多様なまま受け入れた上で、機能する社会を構築することが可能になりつつあるのです」(宮田氏)
例えば、マイナンバー制度を基盤とするデータ連携は途上にあるが、すでに動き始めている領域もある。乳幼児健診データはその1つだ。「出生時からの体重を定期的に計測すれば、子どもの成長をたどることができ、数カ月後の体重を予測することも可能です。予測値と実測値に隔たりがあれば、何らかの問題が起きている可能性を捉えられます。栄養状態や家庭の状況といった背景要因に気づき、行政の支援につなげる手がかりになり得るでしょう」と宮田氏は説明する。
同じ夕日を見て、心に映る景色は違っていい
これまでの社会では、コスト面の制約から最大多数への配慮を優先せざるを得なかった。社会制度の設計上、やむを得ない選択だったといえるかもしれない。だが、テクノロジーの進展により、個別に対応するコストは大きく下がりつつある。そういった時代には、最大多様の最大幸福を目指すべきではないか──宮田氏はそう考えている。
「万博のBetter Co-Beingパビリオンでは、多様な個々人が響き合う中から生まれる新たな豊かさを提示しました。来場者は、約400本のサンキャッチャーが光を受けて生む虹色の輝きを目にします。多くの文化で、虹は『希望』や『祝福』、『つながり』の象徴とされてきました。そこに『新しい豊かさ』を重ねることもできるのではないかと考えたのです」(宮田氏)
一人ひとりが見ている虹は、立つ位置や目の高さによって、微妙に形が異なる。それでも、同じ空間を共有する人たちが同じ虹を見上げる。その光景こそ、宮田氏の描く未来像に重なるものだ。
万博で圧倒的な存在感を放った大屋根リング。そこで目にした光景は、今も宮田氏の心に残っている。ここにも「最大多様の最大幸福」につながるヒントがあった。
「大屋根リングから望む夕日は本当に美しかった。たくさんの来場者が同じ夕日を眺めていましたが、心に映った景色はそれぞれ違ったはずです。それでも、皆が同じ夕日を見て感動し、ポジティブな気持ちになったのだと思います。AI時代、私たちはそうした感覚を土台にした社会のあり方を考えるべきではないでしょうか。多様性を多様なまま、違いそのものを豊かさの源泉にできるかどうか。今の社会にとって、それは非常に大きな問いだと思います」と宮田氏は語った。
宮田氏の講演の後、BIPROGYの齊藤昇が登壇。ここから対談に移った。
AIは、社会的価値と経済的価値のトレードオフという課題を解けるか
齊藤人々の暮らしとビジネスに、AIが本格的に浸透しつつあります。宮田先生は、この変化をどう見ていますか。
代表取締役社長 CEO
齊藤昇
宮田文明の転換点の本番が来たと感じています。AIという新たな中核技術がやってきて、人の仕事や、既存のビジネス、社会のすべての概念を溶かし始めました。だからこそ、今、私たち一人ひとりが新たな未来を考える必要があります。
齊藤BIPROGYグループは「Vision2030」の下、2030年、さらにその先を見据えて、社会的価値と経済的価値をいかに両立させるかを考えてきました。両者がトレードオフになる領域があることは確かで、企業として、経済的価値を犠牲にして社会的価値のみを追求することはできません。ただ、AIを使えば、その二者択一を乗り越えられるかもしれないとも感じています。
宮田乗り越えられると思います。先ほど、「最大多数の最大幸福から最大多様の最大幸福へ」と話しました。AI時代、私たちには、今までのグローバルゴールズではなく新しいルールを積極的に打ち出せる可能性があります。多様性を抱えたまま共存し、ともに未来をつくる知恵が求められています。
齊藤行政や企業はこれまで、多様性への対応を絞り込まざるを得ない面がありました。ある程度標準化しなければ、社会を機能させることが難しかったのだと思います。しかし、テクノロジーによって、現実的な別の手段が見えてきました。
宮田コロナ禍では、業種別といった大きなくくりに基づいて支援策が実施されました。もし個々の事業者や個人の状況に応じた支援ができていれば、限られた政策リソースをより有効に使えたかもしれません。今後、社会が同じような事態に直面したとき、マイナンバーカードによる本人確認やAIなどのテクノロジーを活用すれば、少ない資源でより大きな効果を得られるのではないでしょうか。
齊藤違いそのものを豊かさの源泉にするという考え方は、私たちBIPROGYの事業観にも重なります。先ほどの、大屋根リングから望む夕日の話には感銘を受けました。
宮田多様性を多様なまま包み込む社会をいかに構築するか、そして、従来そこにあった価値を振り返りつつどのようにして新たな豊かさを実現するか。私たちにとって大きなチャレンジだと思います。
齊藤2022年4月、当社は日本ユニシスからBIPROGYへと社名を変更しました。BIPROGYの7文字は、光が屈折・反射したときに見える7色の頭文字です。多様な人々が放つ光、個性や強みを響き合わせ、共に未来を照らし、創造するという想いを込めました。さまざまな個性、能力を持った人たちがともに何を目指すのか、どのような幸せを追求するのか、より高次の目的や目標をどう設定すべきか。悩みながらも、進んでいきたいと思っています。
AI時代だからこそ重要な、問う力の磨き方
齊藤今、多くの人たちがAIの上手な活用法を模索していると思います。大事なのは「問い」だといわれます。
宮田問いの重要性はしばしば指摘されます。AIに問いを投げれば素早く答えが出ますが、一方で、間違った問いは間違いを増幅し、そこから導かれる打ち手まで誤らせてしまう。その危うさにも自覚的であるべきでしょう。例えば、企業が優秀な人材を採用したいとAIに相談すれば、AIは過去データを分析して「優秀な人材」を定義し、その定義に合致する採用方法を提案します。出来上がった候補者リストは過去の成功パターンの再生産に近く、企業が「今」求める人材像からは外れてしまうかもしれません。
齊藤適切な問いを見いだすのは容易ではありません。
宮田問う力は一種のセンスです。センスは鍛えにくいといわれ、私たちはこれまで知識やスキルを鍛えようと努力してきました。しかし、これからは逆で、知識・スキルの領域はAIが担うようになり、人はセンスを担う時代になってきています。私は、問う力やセンスは鍛えられると考えています。例えばファッションセンス。最初から服選びが上手な人はいないでしょう。おしゃれといわれる人は、失敗を繰り返しながら服選びのセンスを高めています。問う力も同じです。真剣な問いを繰り返すことで磨けるのです。AIを心地よく使うだけでなく、AIに問い返させるような問いを投げることでセンスを鍛えられます。
齊藤人とAIの付き合い方、そしてAI時代に個人の価値を高める道筋について、お考えを聞かせてください。
宮田青年期の受験勉強を含めて、私たちは多くの時間を知識習得に費やしてきました。他方で、身体感覚を刺激する体験をおろそかにしてきたと思います。AIには代替できない、身体を伴う体験の価値を見直す必要があります。感じる力とその価値が、重要なキーワードになります。個々人が自分の価値を高めるには、違和感に触れる機会を持つこと、自らを取り囲むエコーチェンバーの外に出ることを意識すべきだと思います。
齊藤私もできる限り多様な見方、考え方に触れたいと改めて思います。AIはすでに産業や社会への実装フェーズに入っています。新たな価値を創造する一方で、サイバー攻撃への悪用など新たなリスクも生じています。だからこそ、価値とリスクの両面を見据えて、社会に責任ある形で実装していく必要があります。宮田先生が仰っていたように、激動の時期である今、何をするかがクリティカルに未来に影響を及ぼしていきます。AIを社会に組み入れ、未来をデザインしていく私たちが、常に意識しなければならないことです。多様な人々が幸福を実感できる社会の実現に向けて、BIPROGYはAIを含め、さまざまなプレイヤーと共に未来を輝かせていきます。
- ※BIPROGYグループ各社社員以外による発言内容は各登壇者または所属組織の見解であり、BIPROGYグループ各社の見解を示すものではありません。

