「バックキャスティング」でサステナブルな未来を描く

BIPROGYの現在地と未来のありたい姿――Vision2030とSDGsのその先へ

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持続可能な社会の実現に向けて世界的に関心が高まるサステナビリティ経営。BIPROGYグループでは、2050年を見据えた「環境長期ビジョン 2050」を公表し、指針として「Vision2030」を策定している。これは2050年の「ありたい姿」から逆算して、そこに至るシナリオを導く「バックキャスティング」の発想から生まれたビジョンだ。「BIPROGY FORUM 2022」(2022年6月)では、広く社会全体の動きを見渡しつつ、その中にグループをどのように位置づけ、未来社会の創造に向けて歩みを進めて行くのかを課題意識として「サステナビリティ対談」が行われた。この分野に深い専門性を持ちBIPROGY社外取締役を務める薗田綾子氏と、BIPROGY取締役専務執行役員の葛谷幸司が語り合った。

ヘッドライン

「SDGsに取り組んでいない」企業が過半数

葛谷1988年にクレアンを創業した薗田さんは、CSRやESG、SDGsなどの視点からさまざまな企業・自治体をサポートしてこられました。2015年からはBIPROGYの社外取締役として、アドバイスや提言をいただいています。

写真:葛谷幸司
BIPROGY株式会社
取締役 専務執行役員 CSO 葛谷幸司

薗田事業を立ち上げた当初は、どの企業においても「環境対策=コスト」という意識が強く、経営者のマインドが変わるまでにはかなり時間を要しました。しかし、今では投資家の多くがESGを意識していますし、サステナビリティ経営を掲げる企業も増えています。

葛谷私自身も10年前を振り返ると、環境や社会への視点は不十分でした。近年は多くの企業の姿勢が変わりつつあると思っていたのですが、実態は必ずしもそうではないようです。例えば、2021年のある調査によると「SDGsに積極的」という企業は約40%ですが、一方で「SDGsに取り組んでいない」という企業が50%超という状況です。過半数の企業がSDGsに取り組んでいない現状は、私にとってショッキングなものでした。

薗田ビジネス分野では推進が遅いのですが、今では、SDGsは教育指導要領にも入っていますし、若い世代の意識も高い。彼ら彼女らはSDGsを「自分たちの未来の問題」と捉えています。先ほどの過半数の企業の意識がこれからも変わらないとすれば、若者たちはそのような企業を就職や商品購入の選択肢に入れなくなるでしょう。

葛谷確かに、私の周辺を見てもZ世代のSDGsへの意識は高いです。ただ、社内の課題意識が必ずしも高いとはいえない現状もあります。そこで、マインドを全社的に底上げするため、各拠点で対話活動に力を入れている段階です。改めて、企業にサステナビリティ経営が求められる理由、背景などを説明していただけないでしょうか。

環境という基礎の上に社会、そして経済・企業がある

写真:薗田綾子氏
株式会社クレアン 代表取締役
BIPROGY株式会社 取締役(社外取締役)
薗田綾子氏

薗田2022年は、世界的なシンクタンクであるローマクラブが「成長の限界」(1972年)を発表して50年の節目を迎えます。経済成長や環境破壊がこのまま続けば、地球はそれを支えられなくなると、警鐘を鳴らしたレポートです。当時は多くの批判や反発がありました。「地球は有限」という発想そのものが、受け入れ難かったのです。半世紀を経て、こうした発想は一般化しつつあります。科学的な知見や分析も深まっています。例えば、スウェーデンの環境学者であるヨハン・ロックストローム氏は「プラネタリー・バウンダリー」の概念を用いて、地球というシステムの限界点を知る必要がある、と述べています。特に限界点が迫っている分野は、生物多様性が失われていく生物圏の完全性の変化や、地球上の自然環境を形づくる多様な循環に影響を与える肥料や農薬などの海洋流出によるリスクを指摘しています。世界経済フォーラムにおいても、今後10年を見据えたグローバルリスクトップ10のうち、深刻な上位3項目として気候変動、異常気象、生物多様性の喪失が挙げられています。

葛谷現在、政治家や経済人を含む社会のリーダーの多くが危機意識を高めていますね。

薗田はい。GAFAをはじめ世界のトップ企業が、すでに何らかの形でSDGsに向けた具体的な動きを始めています。このままでは、事業継続が難しくなるからです。

葛谷2019年に日本を襲った台風15号と19号による被害は甚大なものでした。特に、19号による経済損失は、同年の世界最高額に達したと報じられています。

薗田米国では2005年のハリケーン・カトリーナ以降、企業のSDGsへの意識が大きく高まったとされます。自然災害の例でも分かるように、地球環境は人間のすべての活動の土台。地球環境の上に私たちの社会が存在し、その基盤の上で経済・企業活動が成り立ちます。この3層構造を改めて意識する必要があります。もちろん、企業にとっては足元の業績も、社員への給料の支払いも重要です。しかし、中長期的に捉えれば、地球環境が破綻に向かえば社会や経済の維持は不可能なのです。

企業の持続可能性を高めるために必要な共通認識

企業の持続可能性を高めるために必要な共通認識
「SDGsの17ゴールのベースは地球環境。その上に社会があり、さらに、社会の中で経済が成り立っている」と薗田氏は強調する

「未来のありたい姿」を起点に「今、何をすべきか」を考える

葛谷2020年、BIPROGYグループは2050年を見据えた「環境長期ビジョン 2050」を公表しました。お客さまやパートナーとともに社会課題を解決する企業として、社会的な責務を果たし、さらなる成長につなげていきたい。事業活動そのものの環境負荷を減らし、事業活動を通じた環境負荷低減に貢献したいと考えています。

薗田超長期の視点が重要ですね。「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」という国際研究組織によると、日本のSDGs達成度は世界163カ国中19位。特に遅れているのが、ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)、ゴール12(つくる責任、つかう責任)、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)、ゴール14(海の豊かさを守ろう)、ゴール15(陸の豊かさも守ろう)です。いずれにしてもやるべきことは多く残されていると感じますね。

葛谷ええ。私たちは企業としてのパーパスも再定義するとともに、「Vision2030」を策定し、その実現に向けた活動に現在進行形で取り組んでいます。2030年の「ありたい姿」を定義し、中期目標を基礎に短期目標を定め、さらに現在の姿とのギャップを認識し目標達成への行動に移しています。これは、現在の延長線に未来を描くのではなく、未来の姿からの逆算によって発想し行動する「バックキャスティング」の考え方です。その実践のため、BIPROGYグループでは「事業成長におけるマテリアリティ(自社にとっての重要課題)」と「事業成長を支える基盤となるマテリアリティ」を明示し、それぞれのテーマについてKPIを設定して具体的な活動を推進しています。

BIPROGYグループのマテリアリティ

BIPROGYグループのマテリアリティ
BIPROGYグループでは、経営の長期ビジョンに対応し、10年先の未来を展望した「事業成長におけるマテリアリティ」と「事業成長を支える基盤となるマテリアリティ」を明示している

薗田すでに事業で取り組みつつありますが、具体的な事例を紹介していただけますでしょうか。

葛谷レジリエンスとゼロエミッション、リジェネラティブ(再生、回生)という3つの社会インパクトを道しるべに、「働く・暮らし」と「デジタル・セキュリティー」「グリーンエネルギー」「交通モビリティ」「医療・教育」という5つの領域を強化しています。具体的な取り組みの1つ目が、インフラのメンテナンスに用いる「Dr.Bridge」。橋梁やトンネルなどの劣化状況を写真データからAIが診断し、点検作業の効率化や災害防止に効果を発揮しています。

薗田高度成長期に建設されたインフラの劣化は深刻な社会課題です。点検が不十分な状況が続くと大きな事故につながる可能性もあるだけに、人の生命を守るという点からも社会的インパクトの大きな取り組みですね。

葛谷2つ目が、モビリティの領域における持続可能なエネルギー社会の実現に向けた試みです。10年以上前から、「smart oasis」というEV/PHV向けの充電インフラサービスを展開してきました。これにカーシェア関連のサービス群を組み合わせ、モビリティサービスのプラットフォームを構築すべく試行錯誤を重ねています。3つ目の事例が「KIINNOX(キイノクス)」です。パンデミックを受けて輸入木材の不足が顕在化したことは記憶に新しいと思います。日本の国土の3分の2を森林が占めているものの、国内利用される木材の6~7割は輸入材なのです。こうした背景もあり、近年は、不動産業界なども国産木材の活用に注力しています。本プロジェクトでは、森林の価値を高めるとともに、森林に関わる事業者や働き手を豊かにする仕組みづくりを目指しています。地球環境保全や地域経済活性化につながる取り組みです。

薗田木材は燃やさない限りCO2を固定してくれますし、内装や家具などに使えば精神的なリラックス効果もあると思います。環境保全以外のメリットも含め訴求できるといいですね。

葛谷KIINNOXでは、どの程度のCO2を固定したかを示す証書も発行します。取り組みを通じて木材利用への関心を呼び起こしていきたいと考えています。4つ目の事例はソーシャルアクションプラットフォーム「BE+CAUS」です。SDGsに取り組む企業と生活者、社会貢献活動を行うNPOなどをつなげる仕組みです。社会的なテーマに賛同する小売り・メーカーを募り、生活者がキャンペーンにエントリーして対象商品を購入すると、一定額がNPOなどに寄付される仕組みです。テーマはさまざまで海洋プラスチックゴミ問題への対策のほか、こども食堂支援などでも実績があります。

薗田いずれも切実なテーマです。こども食堂については、実際に足を運ぶまでの心理的なハードルの高さが指摘されることがあります。黄色信号のこどもたちにとっても行きやすくするための工夫として、こども食堂で楽しめるコンテンツを制作するといった観点からも、デジタル分野でできることがあるかもしれません。

写真:葛谷と薗田氏

ダイバーシティ&インクルージョンの実践に向けて

葛谷最後の事例として、「女性のためのデジタルサードプレイス」を紹介します。これは生きづらさを抱える女性に寄り添い、女性の活躍する社会構造づくりを目指すものです。例えば、日本ではいまだに話題自体がタブー視されがちな「PMS(月経前症候群)」や「更年期障害」などの悩みにおいて、誰かの経験が別の誰かの悩みの解決策になるかもしれないとの発想を起点にした取り組みです。マッチメイクをはじめ、デジタルコミュニティーを通じてさまざまな悩みや困りごとを解決していきます。トライアルは社内有志による活動からスタートしましたが、三井グループ様からも賛同をいただき、企画からPoCへの移行段階を迎えています。今後、フェムテック、フェムケアのプレーヤーとの連携も視野に入れています。

薗田日本におけるジェンダーへの取り組みの遅れは、以前から指摘されてきました。2021年のジェンダーギャップ指数は156カ国中120位(世界経済フォーラム)。特に、政治や経済の分野で活躍する女性が少ない点が課題視されています。最近はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という言葉が広く使われるようになりましたが、多様性を担保するだけでなく、多様な人たちが個性を発揮して活躍できるように「包摂」することが重要です。

※編集部注:世界経済フォーラムは2022年7月13日に「ジェンダーギャップ指数2022」を発表。日本は今回調査対象となった世界146カ国中116位だった。

葛谷BIPROGYグループにおいても、女性管理職比率の向上は大きなテーマです。まずは、社員の男女比を50対50に近づけるべく取り組みを進め、2021年における女性の新入社員の採用比率が51%になりました。今後、5~10年を経て女性管理職比率もかなり高まるのではないかと期待しています。

薗田楽しみですね。女性がいきいきと働ける環境づくりは、社会全体の課題であるとともに、それぞれの企業でなすべきことも多い。BIPROGYグループが他社の参考になるような成功体験を多く生み出すことを、私も期待しています。

葛谷企業のサステナビリティの実現においては、環境や社会のベースに企業は成り立っていることを前提としながらも、並行して経営成績を上げることも大前提となります。しかし、経営成績ばかりにとらわれていては次世代に選ばれない企業となってしまいます。今後、企業のサステナビリティの実現に向けて従業員や顧客、利用者、消費者のマインドセットをそれぞれに高められるよう取り組み、持続可能な企業を目指したいと考えています。

写真:葛谷と薗田氏

薗田そうですね。そのためにもバックキャスティングの考え方は重要です。未来の「ありたい理想の姿」から逆転の発想転換を行い、今できることから取り組むことが大切です。こうした思考の中で、未来社会のシーズやウォンツも取り込んだ新しいソリューションも生まれるかもしれません。

葛谷SDGsもバックキャスティングによる目標設定です。これが実現できれば、企業経営も変わり、投資家からもいっそう注目される存在になるでしょう。本日の対談を通してあらためて、みなさんと一緒に、サステナブルな未来を実現していきたいと思いました。本日はどうもありがとうございました。

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