縄文の叡智に学ぶ! イノベーションとサステナブル社会のつくり方

“超絶まちづくり”を実現する縄文型ビジネスの思考フレーム

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「with/afterコロナ時代」に対応するとともに、持続可能社会の実現に向けた新たなイノベーション創出がまさに求められている。本稿では、こうした課題意識のもと2020年9月30日に開催された日本ユニシスのウェビナーの模様を紹介したい。話題書籍『最強の縄文型ビジネス』(日本経済新聞出版社、2019年)の著者であり、ビジネスプロデューサーとして全国各地で「超絶まちづくり」を仕掛ける谷中修吾氏を招き、日本ユニシス代表取締役専務執行役員 CMO・CSO・CCOの齊藤昇との対談が行われた(テーマは「縄文型ビジネスに学ぶイノベーション創出~サステナブル経営への道」)。SDGsやサステナブルな社会の実現にはどのような視点が求められるのか。そのヒントとなる「縄文型ビジネス」のポイントについて2人が熱く語り合った。(以下、敬称略)

人と自然の持ち味を生かしたまちづくりを目指す

齊藤 私が谷中さんに出会ったのは約3年前、静岡で開かれた地方創生をテーマにしたイベントでのことでした。谷中さんは多方面でご活躍中ですが、日本全国のさまざまな地域で地方創生事業をプロデュースし、海外でも地域づくりに参画するなど一貫して「まちづくり」に注力されていますね。

谷中 ありがとうございます。突き抜けたアイデアを事業化するビジネスプロデューサーとして活動しています。特に、まちづくり分野の事業開発に力を入れていまして、企業や官公庁などと新規事業を手がけてきました。直近ですと、農林水産省の農山漁村アイデアソン「農村インポッシブル」を立ち上げたのはその一例です。事業開発で大事にしているのは、実務のディテールまで、まずは自分で手を動かしてやってみること。クリエイティブ面も含めて、自分でやります。例えば、米国発のスポーツアパレル「アンダーアーマー」の日本での事業展開には1990年代から関わってきましたが、多くのCMやPVの制作に参画して、そのナレーションも私が担当しています。このようなマーケティング実務の知見を広く伝えるために、オンラインで授業を行うBBT(ビジネス・ブレークスルー)大学でビジネス教育にも力を入れています。

写真:ビジネスプロデューサー/クリエイティブディレクター BBT大学 グローバル経営学科長・教授/BBT大学大学院 MBA 教授 谷中修吾氏
ビジネスプロデューサー/クリエイティブディレクター
BBT大学 グローバル経営学科長・教授/BBT大学大学院 MBA 教授
谷中修吾氏

齊藤 まちづくりへの関心を、どのように育んできたのですか。

谷中 私は静岡県湖西市の出身で、浜名湖周辺に広がる田園風景の中で育ちました。しかし、子供の頃、地元の工業地帯が広がって、どんどん自然が失われていく姿を間近で見て、「人と自然の持ち味を生かした『まち』をつくりたい」と思うようになりました。そのビジョンを実現するには専門的なスキルが必要で、私が思いついたのは、「事業を立ち上げる」「立ち上げた事業を人に伝える」「事業の担い手を育てる」という3つの分野のスキル。これらの専門技能を習得するために、クリエーターとして、NPO/NGOマーケティングディレクターとして、外資系の戦略コンサルティング会社の戦略コンサルタントとしてビジネス経験を重ねました。一番やりたい「まちづくり」に取り組むために、3つの分野で約30種類の専門技能を自分にインストール(習得)してきたというのが私のバックグラウンドです。

齊藤 日本ユニシスグループもさまざまな形でまちづくりに関わってきました。谷中さんは「超絶まちづくり」をキーワードにしていますが、これについてもぜひお聞かせください。

写真:日本ユニシス株式会社 代表取締役専務執行役員 CMO・CSO・CCO 兼 キャナルベンチャーズ株式会社 取締役 齊藤 昇
日本ユニシス株式会社
代表取締役専務執行役員 CMO・CSO・CCO 兼
キャナルベンチャーズ株式会社 取締役
齊藤 昇

突き抜けたアイデアから始まる
「超絶まちづくり」

谷中 日本全国の地方創生に関わる中で、まちづくりのソーシャルスタートアップには「必勝パターン」があることに気がつきました。イノベーターは、それを実践している。一方、地域づくりの現場で頑張っている人の多くは、その必勝パターンを知らずにビジネス面で困っている。そこで、まちづくりのイノベーターが実践している成功のノウハウを“超絶まちづくり”と定義し、それを社会にシェアしたいと思い、地方創生イノベータープラットフォーム「INSPIRE(インスパイア)」を立ち上げました。この活動を通じて検証したのは、事業の生み出し方には2つのスタンスがあるということです。「問題解決型」と「価値創造型」。前者は社会課題の把握から入る、大企業が得意なやり方です。一方、多くのイノベーターが実践しているのは、明らかに後者でした。この「価値創造型」は、突き抜けたアイデアからスタートし、それによって解決される社会課題を事後的にひも付けするのです。「やりたいから、やる」「面白いから、やる」というワクワク感を持って、どんどん周囲を巻き込んでいく。そして、結果的に地域課題の解決にもつなげていきます。

画像:2020年9月30日に実施されたウェビナーの一幕(1)
2020年9月30日に実施されたウェビナーの一幕(1)

齊藤 アイデアで周囲を引っ張るイノベーターは、もともと地域の中にいるものなのでしょうか。それとも何らかの刺激を受けて、イノベーターになっていくのでしょうか。

谷中 実は、本来は誰しも、イノベーターの素質を持っています。ただし、多くの場合、社会に植え付けられた固定観念が影響して、自分で自分の素質を抑え込んでしまっています。そのような中で、自分自身のワクワクを解放できているのが、面白い人。面白い人って、どの地域にもいます。しかも、類は友を呼ぶ法則で、面白い人の周りには面白い人が集まります。そして、面白い人たちが一緒にいることで、どんどんお互いのワクワクが解放され、イノベーターになるのです。

齊藤 そういう人たちが集まり、刺激し合えるような場が重要ですね。

谷中 そう思います。さらに言うと、場の「熱量」が重要です。この熱量が臨界点を超えると、自然に人が集まり、何かが始まります。まちづくりで活躍するイノベーターたちの実践ノウハウを発信する場を創り、社会をインスパイアするプラットフォームを実現したい。それが、「超絶まちづくりの集合知」を広く社会にシェアするために立ち上げたINSPIREなのです。現在は、国内最大級の地方創生イノベータープラットフォームとして活動を広げています。

齊藤 素晴らしいですね。日本ユニシスグループも中期経営計画の中で「スマートタウン」を注力分野の1つに位置づけています。そのキーワードは「ワクワクする未来へ」です。スマートタウンという場に注目し、エネルギーやモビリティといった課題解決を目指しています。例えば長野県や熊本県において自治体や地元企業、大学やスタートアップなどと連携しながら生活者ファーストの共感型社会づくりを進めています。そのほかにも全国各地でデジタルの力を生かしながら、地域を支えるエコシステムづくりを進めています。こうした取り組みのベースにあるのは、人と人との関係であり、共感ですね。強い共感があれば、「この人と一緒にチャレンジしたい」と思う人が集まるでしょう。ただ、地域の人たちを巻き込みながら「超絶」のレベルに持って行くのは容易ではないとも感じます。

画像:2020年9月30日に実施されたウェビナーの一幕(2)
2020年9月30日に実施されたウェビナーの一幕(2)

谷中 当たり前のことですが、活動は楽しくないと続きません。ワクワク感をいかに起動するかが、キモだと思います。重要なのは、やはり人です。まちづくりでは、「誰が、何をやりたいのか」が決定的な意味を持ちます。戦略や計画からスタートするのではなく、個人の「やりたいこと」からスタートする。やりたいことなので、エネルギーも湧いてくるし、楽しめる。さらに情熱を持って継続できる。そういう人の周りには、自然と仲間も集まってきます。やりたいことを、まず始める。そして、その活動を戦略の中に“後付け”で編集していくことが、持続可能なまちづくりを実現するためのカギだと思います。

齊藤 「何をやりたいかが出発点」というお話は、とても共感します。私は社内の投資委員会などにも関わっています。投資判断では、どうしても事業性や成長性に目が向かいがちです。しかし、リーダーが本当にやりたいと思っているのかどうか、そこの熱意については注意深く見極めるようにしています。熱意があれば、少々の困難があってもへこたれません。周囲には、同じくらいの熱意を持った仲間が集まってきます。

計画的に管理する「弥生人」、
自然と共存共生する「縄文人」

齊藤 さて今回のメインテーマは「縄文型ビジネス」ですが、実は、そこにはまちづくりとも通底するものがあるように思います。谷中さんの著書『最強の縄文型ビジネス』は昨年上梓され、ベストセラーとなりました。縄文型ビジネスと聞いて、正直なところよく分からなかったのですが、本を読んでみると「なるほど!」と腹落ちする考察が満載です。まず、谷中さんが縄文時代に着目した理由をお聞かせください。

谷中 戦略コンサルタントとして現場にいた時代は、管理型経営のど真ん中で仕事をしていました。日本の大企業で働く人たちも同じでしょう。しかし、この管理型経営に疑問を感じたときにふと、「こういうやり方って、いつ始まったんだろう」と思い、歴史を分析すると弥生時代の稲作にたどり着きました。弥生人は稲作にリソースを集中投下し、計画的な食糧生産を試みました。食料生産の安定とともに次第に貧富の格差が生まれ、近隣の村々との間では場所や水をめぐる争いが繰り返されました。さらに個人が勝手に動くと困るので、村のルールも生まれました。現在で言う、コンプライアンスです。これらが今に続く「計画的」で「競争的」な弥生型のビジネススタイルです。

齊藤 確かに、今の時代と共通するものが多いですね。

谷中 弥生時代にルーツを持つ管理型経営が世の中を発展させたことは確かですが、「現代ビジネスは弥生型に傾倒し過ぎていないか」と感じます。これを是正するヒントは、人と自然が共生していた縄文時代にあります。私は約15年前に青森県の三内丸山遺跡に訪れた時、「私たちが忘れている大切な何かがここにある」という強烈なインスピレーションがありました。これを機に、「現代ビジネスには、縄文の思想哲学が欠落しているのでないか」と考えるようになりました。

例えば、縄文人は、魚や肉、木の実など、多種多様な食料を調達して生活を営んでいました。いわば、多様なビジネスモデルをもって直感的に動いていました。遠方の村々とも交易ネットワークを構築してつながり、ステークホルダーと協調・協業する姿勢を大切にしています。その中で、自然に感謝する姿勢を持ちつつ、既成概念に捉われないクリエイティビティを発揮しています。ユニークな縄文土器や土偶などは、まさにそれらを象徴していますね。

このように、縄文型には、「直感的」かつ「協調的」にして、「自由な発想」で物事を表現し、常に「感謝する」という4つの特徴があります。「自然との共存共生」という縄文の思想哲学に着目し、企業が地球と共存共生しながらサステナブルな事業経営を行うという「縄文型ビジネス」のスイッチを入れることこそ、現代ビジネスに必要なのではないか。そんな気づきが本を書いたきっかけです。

ビジネスの創造性とサステナブル経営に
縄文の叡智を生かす

齊藤 多くの大企業は弥生型のビジネスを長く続けてきて、そこに成功体験を持っています。それが「脱弥生」を難しくしているのかもしれません。しかし、環境変化が激しい時代、あるいはイノベーションが求められる時代には、従来どおりの管理型発想では対応できなくなっています。その打開のために重要なポイントは、持続可能性と共存共栄を大切にする姿勢にあると感じます。これは縄文型が重視する視点とリンクします。「交易ネットワーク」と「協業」という視点も新鮮で、やはり縄文型とつながります。私自身、日本ユニシスの中でシリコンバレーのスタートアップとの協業やベンチャー企業への投資などを始めとしたオープンイノベーションを進めてきました。また経団連スタートアップ委員会の企画部会長を務めており、そこでは大企業とスタートアップが出会うネットワーキングイベントを定期的に開催して新しい息吹の創発に力を入れてきました。こうした場を通じて、スタートアップはチャンスを広げ、大企業側でもイノベーションの機運を盛り上げてもらいたいと思っています。新しいやり方や自由な発想を生み出す、あるいはSDGsに取り組む上でも縄文型の発想には多くのヒントがありそうです。

谷中 経団連のような企業プラットフォームが旗を振っていただければ、大きな広がりが期待できると思います。

齊藤 大企業には弥生型育ちの人が多く、逆に、スタートアップには縄文型マインドが主流。とすれば、両方を混ぜ合わせることで、面白い化学反応やイノベーションが起きるのではないかと期待しています。経団連での取り組みもそうですが、当社におけるスタートアップとの協業背景にもそんな思いがあります。

谷中 素晴らしい取り組みですね。考古学の研究では、縄文時代は、1万年以上も続いた時代であることが分かっています。縄文が終焉を迎えたきっかけは、大陸から稲作文化が到来したこと。縄文時代が始まって、弥生時代に移行するまで1万年余り。これほど長い間、1つの時代が続いたのは、自然との共存共生という思想哲学が極めてサステナブルであったことを物語っていると感じます。

齊藤 なるほど、確かに1万年以上というのはすごいことです。この先は、弥生型に寄りがちな大企業もまた、サステナブルな世界の実現に本気で舵を切ろうとしていますが、やはりここでも縄文の叡智が生きるということでしょうか。

谷中 今後を考える上では、縄文型と弥生型をいかにバランスよく起動させるかが問われています。どちらがいいとか、悪いといった話ではありません。ただ、弥生型に傾倒し続けていては、「地球がもたない」と感じます。コロナ禍はもちろん、世界各地の異常気象などを見ても明らかです。今、多くの企業がSDGsに取り組む機運になっているのは、大変良いことだと思います。

ただし、SDGsは、物事をロジカルに分解して計画を立てる弥生型の発想であるという点には留意が必要です。例えば、「企業内の各部署がSDGsの17の目標のうち、どの番号に取り組むかを示す」といった方法を採る企業も多く見られます。しかし、蓋を開けてみると、企業内の各部署は、会社に対する「予算要求のロジック」や企業上層部に対する「事業正当性のロジック」としてSDGsを“利用”しているだけのケースが多いことも実情です。結果として、現場では、SDGsに取り組んだ先の将来像が見えていません。

大切なのは、資本主義的な弥生型の世界観だけでなく、共存共生に重きを置く縄文型の世界観という2つのエンジンを融合させて、SDGsの取り組みに「魂」を入れることです。縄文の思想哲学があってこそ、初めてSDGsの各種施策は人の心の中で腑に落ちるのではないでしょうか。弥生型と縄文型を上手に組み合わせることで、新たな世界が見えてくると考えています。二項対立で整理すると、「計画的⇔直感的」「競争的⇔協調的」「コンプライアンス⇔フリーダム」「期待オリエンテッド⇔感謝オリエンテッド」。それぞれの強みを融合させる。これを縄文と弥生のツインドライブと呼んでいます。

縄文と弥生の二項対立フレームワーク

画像:縄文と弥生の二項対立フレームワーク
資料:谷中修吾氏

齊藤 キーワードで「感謝」とか「ご縁」はとても大事ですね。ともすると「ビジネスライク」な関係になりがちな世の中ですが、それだけでなく出会いやご縁をつないでいくことで新しい可能性が広がっていく。新しいイノベーションが求められている時代だからこそ、共存共生の価値観に立ち戻るべきなのかもしれませんね。だからこそ、私たちは魅力ある企業となっていくべきだし、実際に少しずつ多様性のある場へと変化しているとも感じます。私たちが取り組む全国各地でのまちづくり活動でも、そんな経験を重ねてきました。縄文型ビジネスからヒントをもらいながら、まちづくりをさらに前進させていきたいと思っています。

谷中 楽しみにしています。ところで、縄文型の発想が大切と言われても、「具体的にどうすればいいのか?」という疑問もあるかと思います。そのためには、日常生活の中で小さな縄文型アクションを実践してみることが有効です。例えば、プライベートで自分が本当に好きなことに全力を注いでいると、ある種の信念や風格が生まれてきて、仕事の場でも自信を持って“突き抜けた提案”を行うことができるようになります。どんな職場でも、意味不明な説得力のある方っていらっしゃいますよね。また、社内外の人的なネットワークを大切にしていると、共感者が増えるだけでなく、不思議と時間差でご縁が自分のビジネスに戻ってくるものなのです。先ほどお話したINSPIREに集まるメンバーは、よい意味での「変わり者」です。彼らに共通しているのは、既成概念にとらわれずに「やりたいこと」をやる、つまり「ワクワク感」を大切にしている点です。このような縄文型DNAは、実は誰の中にもあるものですが、多くの人は会社のルールや世間体を気にして、自分の本当の声を抑え込んでいると思います。縄文型は、それを解放するのです。

齊藤 「朱に交われば赤くなる」という諺にあるように、「ワクワク感」にしたがって縄文型DNAを発揮している人とつながることによって、自分自身も解放されるのかもしれませんね。

谷中 まさにそのとおりです。2020年は、これまで人類が経験したことのない新しい時代にシフトしたと私は感じています。地球規模のターニングポイントに居合わせたことをチャンスと捉え、人と人とのつながりの中で共感しあいながら、楽しく、かつ、新しい価値を創造し続けていきたいと思っています。

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