キャッシュレスをつなぐデジタルマネー基盤「doreca」が目指す未来図

デジタルマネーをもっと自由に、もっと便利に。シームレスなキャッシュレス体験を提供

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日本におけるキャッシュレス決済比率は諸外国に比べて低いとされるが、現在は政府の支援策などによって拡大しつつある。その1つとして、2023年4月からは、企業が従業員給与をスマートフォン決済アプリなどのデジタルマネー口座宛てに支払う「給与のデジタル払い」も可能となる。これに呼応するように多種多様なデジタルマネーが登場し、若い世代を中心に複数のアカウントを所有する利用者も増えている。キャッシュレス化が急速に進む中、BIPROGYは価値交換基盤サービス「doreca(ドレカ)」の提供をスタート。「シームレスに、キャッシュレスを。」をコンセプトにした本サービスは、BtoC、BtoE(Business to Employee)の支払いをデジタルマネー化する「ダイレクトオンラインチャージ」、異なるデジタルマネーの残高を即時に相互交換する「デジタルバリュー交換」の2つの軸で展開する。doreca誕生の背景や開発経緯、将来展望について開発チームのメンバーに話を聞いた。

ヘッドライン

企業やユーザーの抱えるデジタルマネーの多様な課題を解決したい

利便性の高さから普及が進むキャッシュレス決済。資金決済法の規制緩和による決済事業者の新規参入が大幅に増加し、巷には「○○ペイ」と呼ばれるような、さまざまなデジタルマネーが続々と登場している。例えば、キャッシュレス消費者還元事業やマイナポイント事業、2023年4月に控えるデジタル払い給与の解禁など、国をあげた施策も相次ぎ、キャッシュレス決済を推進する機運は一層高まっている。

その一角として、各決済事業者による利用者のチャージ金額増加を図る動きが活発化している。そこでBIPROGYが需要を見込んだのが、チャージに関するゲートウェイサービスだ。戦略事業推進第二本部事業推進一部の大岩亮彦はこう話す。

写真:大岩亮彦
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部事業推進一部
事業開発プロジェクト 大岩亮彦

「デジタル給与の解禁を控え、今後複数のデジタルマネーへの送金を求める企業の増加が予測されます。その際、企業にとって、個々の決済事業者と接続することは大きな負担になります。決済時における複数のデジタルマネーを一元化するゲートウェイサービスはすでに存在していましたが、同様にチャージに関するゲートウェイサービスにも需要があると考えました。一方で利用者からはデジタルマネーの種類が増えたことで、『ICカードやアプリに少しずつチャージ額が残ってしまう』『複数の電子マネーを使い分けるのが面倒』『チャージに手間がかかる』といった声が上がっていました。このように企業や利用者がそれぞれ感じる課題を解決し、“シームレスなキャッシュレス体験”を提供するため、『doreca』の開発に着手しました」

dorecaは、「ダイレクトオンラインチャージ」と「デジタルバリュー交換」の2つの事業を軸に展開する。ダイレクトオンラインチャージ事業は、企業と複数の決済事業者をつなぐことで、さまざまなBtoC、BtoEの支払いをデジタルマネーで行うサービスだ。銀行口座を介すことなく、ダイレクトに利用者個人のデジタルマネーアカウントにオンラインチャージができる。すでに損害保険金のデジタルマネー払いや、業務委託報酬におけるデジタルマネー払いなどの取り組みを進めている。今後は、デジタル給与の支払いを検討する企業なども取引先として視野に入る。

「doreca」の全体像(イメージ)

図:「doreca」の全体像(イメージ)

「dorecaをハブとすることで、企業は複数の決済事業者との接続にかかる開発コストや工数の削減が見込めます。競合による類似サービスも見受けられますが、精算業務の代行まで行える点が、競合比較した際の強みと捉えています」(大岩)

デジタルバリュー交換事業は、個人利用者向けのサービスだ。dorecaで接続している複数のデジタルマネー間の残高やポイントを、好きなタイミングで相互に移行することができるようなサービスを考えておりデジタルマネー間の垣根をなくすことで個人利用での利便性を高め、キャッシュレス決済普及の一助となることを目指している。

開発初期である2018年頃までは、さまざまなデジタルマネーの個人間送金を行うプラットフォームとして構想が練られていたが、時代と人々の行動変容に合わせて、ダイレクトオンラインチャージとデジタルバリュー交換という現在の事業内容にピボットした。dorecaというネーミングは、当時の開発担当者やデザイナーが“さまざまなデジタルマネーを「どれでも」交換できる”という意味合いで決定したもの。

大岩は、「企業から個人へのお金の移動も担うプラットフォームサービスに昇華しましたが、コンセプトは企画初期から一貫しているので、現在の内容にもdorecaの名前がしっくりくると感じます。誰もが普段口にする“どれか”という言葉を採用したことで、利用者に親しみやすさを感じてほしい、との願いも込めています」と続ける。

写真:「doreca」のロゴマーク
印象的なロゴマークには、“自分の好きなデジタルマネーを「えらぶ」”というサービスの特徴をカード型のシンボルで表現している。「手軽に気持ち良く」というコンセプトに沿い、重なり合う2枚のカードはハート形にも見えるよう角度や位置が調整されている

シームレスなキャッシュレス体験を具体化

プロジェクトマネージャーを務めるプロダクトサービス第一本部サービスビジネス部一室一課の倉澤義之は「サービスリリースにあたり、障害時の迅速なフォロー体制確立など適切な運用と利用者の負荷軽減の2点について、特に留意しました」と語る。モックアップ(試作)の開発とテストを何度も繰り返し、最終段階ではきわめて本番に近い形での実証実験が行われた。

写真:倉澤義之
BIPROGY株式会社
プロダクトサービス第一本部サービスビジネス部一室一課
担当マネージャー 倉澤義之

「お金を扱うサービスのため、当然ですが一切のミスは許されません。利用者に取り返しのつかない損害を与えることのないよう、万全の体制で運用することを最優先に考えていました。また、利用者が複数のデジタルマネーアカウントを所有する場合、各パートナーで何度も設定する手間があっては負担となります。こうした利用者の利便性を前提としたシステム側の運用時の注意点をイメージするため、モックアップをつくってはテストを繰り返し、担当デザイナーと“シームレスなキャッシュレス体験”を具体化していきました」と倉澤は説明する。

2020年5月には、給与前払いサービスの国内大手である株式会社きらぼし銀行、きらぼしテック株式会社において、「LINE Pay かんたん送金サービス」を利用したデジタルマネー受け取りの実証実験が行われた。接続状態を確かめる実験ではあったが、当時は企業から電子マネーで給与を受け取るサービス自体に需要がどこまであるのかは未知数。そのニーズを確かめる側面もあった。大岩は「実証実験では大きなトラブルもなく、想定よりも多くの方に利用していただけました。『確かなニーズはある』と実感でき、混乱もなくスムーズに利用していただけたことがうれしかったです」と補足する。

デジタルマネー化の障壁を取り除き利便性向上と利用拡大を促進

2023年4月のデジタル給与払いの本格参入を見据え、dorecaは2022年12月に「全銀協規定フォーマット(全国銀行協会連合会が定める、銀行や企業間で振込依頼や口座振替を行う際のデータ伝送を行うためのフォーマット)」に準拠した送金機能の提供を開始した。

戦略事業推進第二本部事業推進一部の後藤由佳は「デジタル給与の受け取りについてアンケートを実施したところ、『約30%の方が希望する』という結果が出たことも、事業の後押しとなった」と話す。

写真:後藤由佳
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部事業推進一部
事業開発プロジェクト 後藤由佳

dorecaを介した送金方法は、API連携とファイル連携の2パターンが存在する。ファイル連携の場合は、dorecaが提供する画面に指定フォーマットのファイルをアップロードすることでチャージが可能になる。フォーマットが全銀協規定フォーマットに対応したことで、人事給与事業者(人事給与システムを提供しているシステムベンダー)、導入企業の接続負荷をより軽減。今後さらに企業から個人へのデジタルマネー支払いの加速が期待できる。

現在、dorecaは「au PAY」や「LINE Pay」を接続先として展開する。これらの決済事業者は自社のデジタルマネーが保険金や経費精算金、将来的には給与などの振り込み手段とされることで、利用拡大や新規利用者の獲得を期待する。利用者側も、普段よく使用する電子マネーでお金を受け取ることが可能なため利便性が高まる。実際に各種のSNSでは、キャッシュレスに慣れ親しんでいる若い世代を中心に、「ATMでお金を下ろす必要がなくて便利」「登録が簡単だった」といったコメントが投稿されているという。

写真:後藤由佳
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部事業推進一部
事業開発プロジェクト 筑井康平

さらに、楽天ペイメント株式会社、楽天Edy株式会社は、dorecaの導入に合意しており、2023年春以降、利用者は「楽天ペイ」アプリを通じて「楽天キャッシュ」で受け取ることが可能になる。戦略事業推進第二本部事業推進一部の筑井康平は「dorecaを導入する企業と国内ID数が1億を超える楽天会員がつながることで、さらなる利用拡大に期待したいです」と話す。

価値交換基盤としての充実を図り、シームレスなキャッシュレス社会を目指す

本格的な運用は開始したばかりのdoreca。導入する企業と決済事業者の数を増やし、価値交換基盤として、その力をより充実させることが当面の課題となる。また、現在は一部デジタルマネー間でしか行っていないデジタルバリュー交換についても新バージョンのリリースを目指している。継ぎ目のないデジタルバリュー交換が実現すれば、利用者にとってのメリットが大きいことは間違いない。しかし、決済事業者にとっては、他の事業者にお金を移行されてしまった場合、自社のデジタルマネーの使用機会が減ってしまう。

「dorecaの目標は、デジタルマネーと現金の垣根をなくすことはもちろん、デジタルマネー間の垣根をなくすこと。つまり『デジタルマネーのバリアレス化』です。この点、決済事業者への働きかけが難しい部分と感じますが、プラットフォームとして各種機能やそのベネフィットを充実させることで、ネットワーク効果が高まります。各決済事業者には参入メリットに目を向けてもらいながら、社会全体のキャッシュレス化促進に向けて、共に歩みを進めていきたいです」と倉澤は展望を話す。

この課題をクリアするためには、dorecaの認知度向上もカギとなるだろう。直近では、「ララPay」の発行元であるきらぼしテック主催のもと、「『ララPay』×『au PAY』チャージキャンペーン第二弾」(2022年12月~2023年2月)を開催した。「ララPay」から「au PAY」に一定額のチャージをするとポイントのキャッシュバックがもらえるキャンペーンで、予想を上回る反響があったという。プロモーションを担当した後藤はこう振り返る。

「実は、2022年9月に同キャンペーンの第一弾を開催しているのですが、今回はより盛り上がりを見せています。キャンペーン中にdorecaの起ち上げ以来、最高チャージ金額をマークし、取り巻く環境が徐々に変わってきていると感じます。ただ、dorecaはあくまで裏側のシステム。前面にアピールし過ぎると利用者の方の混乱を招きかねません。今後もプロモーションを通して認知度向上を図っていきたいですが、まずはプラットフォームとしての利用拡大を図り、そのうえでdorecaという存在の認知を高めていくための施策が必要と感じています」

「知らず知らずの内にみんながdorecaを使っていて、いつの間にか生活に欠かせないサービスとして浸透している社会になってほしい」。開発チームのメンバーはこの思いを胸に、今も確かな歩みを進めている。

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