BCP対策のニューノーマルを目指す!「災害ネット」の挑戦

日本の災害対策本部をしなやかにする「クロノロジー」開発秘話

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新型コロナウイルス感染症対策は、今後も長期的な取り組みが必要になると予想され、自治体や企業などの災害対策本部には、3密の回避やテレワークを前提にしたニューノーマル時代のBCP対策が求められている。こうした中、日本ユニシスでは、現場で起こる出来事を「クロノロジー(=時系列)」で入力・共有するクラウドサービス「災害ネット」を2020年4月から無償提供するなど、時代に即応した取り組みを加速させている。災害ネット最大の特長は、電話などで受けた情報をホワイトボードに書くように入力するだけですべての情報が時系列で集約され、取りまとめや資料作成時間を大幅に短縮できる点にある。しかし、その開発には困難と試行錯誤の歴史があった。今回は、災害ネット開発の舞台裏と「日本企業の災害現場を強くしたい」という担当者の思いをご紹介したい。

自治体、企業を問わず災害現場で活躍できるシステムを

地震や台風、火山噴火などをはじめとした災害大国・日本。仮に大規模災害が発生した際には、自治体でも企業でも災害対策本部が設置される。災害対策本部では、被害状況の把握やさまざまな資源の確保・分配、対応方針の決定、広報活動、組織・部門間の調整などが行われ、近年は大規模災害の頻発などを背景として非常時に混乱なく情報収集や伝達を行う重要性も高まっている。

今般の新型コロナウイルスの感染拡大は、こうした災害対策本部の在り方に新たな課題を突き付けた。それは、災害対策本部が新型コロナウイルスのクラスターとなることを避けなければならない点だ。これまでの災害対策本部は、主要メンバーが1カ所に集まって司令塔となることを想定していた。しかし、現在はクラスター化を回避するために“3密”を防止しなければならない。新型コロナ禍の終息が見通せないだけに、リモート環境下での「災害対策のニューノーマル」が災害対策本部の課題となっている。

こうした中で期待されているのが、日本ユニシスグループが提供する「災害ネット」だ。緊急時対応に収集した情報を時系列に記録していく「クロノロジー(時系列)」機能によって、今、何が起きているのかをリアルタイム把握できるシンプルな情報共有ツールだ。

「災害ネット」のイメージ

画像:「災害ネット」のイメージ
写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 堀田尋史
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
堀田尋史

日本ユニシス 公共第一事業部 ビジネス三部の堀田尋史は、開発背景をこう語る。

「災害ネット開発にあたって掲げたのは『日本企業の災害対策本部を強くする』というスローガンです。緊急時の災害対策本部は、各地から電話などを通じてさまざまな情報が押し寄せてきます。これらをメモし、ホワイトボードに転記していきます。しかし、錯綜する情報の取りまとめに多くの力を要し、意思決定に向けた十分な時間を割くことが難しい側面があります。そこでクロノロジー機能を活用することで、災害対策の現場に負担をかけずに使ってもらえる仕組みを作り、クラウド型で提供したいと考えました」

実は、日本ユニシスにおける災害対策支援ツール開発には試行錯誤の歴史があった。災害ネットの前身である「SAVEaid(セーブエイド)」の主担当でもあった堀田は、「訓練の現場などで思うように使ってもらえず徹底的に打ちのめされました」と振り返る。開発に着手したのは、さまざまなSaaSが登場し始めた2009年。日本ユニシスとしても世の中に役立つクラウドサービスを提供すべく、防災分野に注目したのがきっかけだ。「当時、大都市圏の自治体に導入されていた総合防災システムの多くは、機能が豊富で複雑な入力が必要だと感じました。そこで機能を絞り込んでクラウド化することでユーザビリティの高いシステムができると考えました」と堀田は続ける。

前身システムの教訓を糧に、「情報入力者ファースト」を重視した災害ネット

この観点からさまざまな災害情報を地図上で共有するプロトタイプを作成し、いくつかのユーザーへのヒアリングを重ねて機能をカスタマイズしていった。

しかし、SAVEaidはバージョンアップのたびに皮肉にも既存総合防災システムと似た“重厚長大”の仕組みになっていたのである。広範な業務フローを組み込み、入力項目も多くなっていたからだ。「地図表示に時間がかかる点やタスク管理面も不評でした。状況確認は結局電話の方が早いし、システマチックにするほど使い勝手も悪くなりました。『面倒だから』と訓練で使われなかったこともありました……」と堀田は悔しさをにじませる。

SAVEaidリリース後、堀田は2011年に発生した東日本大震災なども経験した。こうした災害対策や訓練の現場で目の当たりにしたのが職員たちの置かれた状況だ。

「例えば、台風が来ると自治体には400~500件程度の情報が入ります。これらを紙と電話を頼りにホワイトボードに書き出し、情報を整理していきます。緊急時ですから情報も輻輳し、事実確認に時間を要するなど非効率も起きてくる。皆が疲弊しきっていました。『何とかしたい』そんな思いが私の焦りをさらに強くしていきました」

堀田にとってチャンスとなったのが、横須賀市の防災システム構築案件である。その提案依頼書に記されていたのが、時系列で情報を管理する「クロノロジー」だった。苦い経験を積み、現場で本当に必要とされる仕組みを模索し続けた堀田。「これしかない」と気づかされたという。

「同市の担当係長さんから『災害時の情報共有システムは簡易でないと使われない』とアドバイスをいただき、はっとしたのを強く覚えています。クロノロジーを技術面から磨き上げ、『今度こそユーザビリティの高い仕組みを構築する』と思いを新たにしました」と当時を振り返る。災害ネットは、横須賀市と共同で取り組んだ防災システム構築で培ったノウハウをベースに開発が進み、2015年にリリースを開始。その最大の特長は、ホワイトボードに情報や写真を時系列で共有できる点にある。

「災害ネット」開発への流れ

画像:「災害ネット」開発への流れ

「開発過程では、『あの機能が欲しい』『この表示が必要』との意見も出ましたが、横須賀市の係長さんが都度『それは不要』『実際には使わない』と判断してくださいました。このため有事の際にも直感的に利用できるとてもシンプルなシステムになりました」(堀田)

写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 角田有希
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
角田有希

2015年の災害ネットリリース時からプロジェクトに携わる日本ユニシス 公共第一事業部 ビジネス三部の角田有希はその手応えをこう話す。

「現在までに約30のお客さまに導入をいただいており、その約9割が民間企業です。私たちもお客さまの災害対策訓練に参加させていただくことがありますが、現場の方々からは『簡単で使いやすい』『とても助かっている』といった声を直接いただき大きなやりがいを感じています。導入後も定期的にお客さまの声をヒアリングし、全社訓練や台風、積雪、交通障害、新型コロナウイルス対応など災害に限らず広くインシデント対応としてご活用いただいています」

災害対策本部では、有事の際に各所から正確な情報を素早く集めて取捨選択し、意思決定者に上申するといった行動を繰り返す。だからこそ起点となる情報入力に携わる人たちが使いやすいシステムである点が重要となる。こうした点を考慮し、災害ネットでは、情報1件あたりの入力時間を可能な限り短くし、現場のスピード感に追いつくことに注力している。

「導入前後の変化として、実際にお客さまから『これまでさまざまな媒体(業務用PCメール、業務用携帯やタブレットのメール、私用携帯のメールやラインなど)でのやり取りがあり、共有に課題があった。しかし、災害ネットによって情報共有が一元的に可能となった』という反響や、『各部署が入力した内容をWEB会議システム上で共有したことで速報性の向上と事務局集約作業の軽減となった』など情報のリアルタイム性が向上したという声を頂戴しています」と続ける角田。こう言葉を重ね、思いを語る。

「入力した情報を簡単に検索したり並べ替えたり、Excel出力できるようにするほか、必要な情報だけを上長や関係部署に対して簡単に共有する仕組みも用意しました。加えて災害ネット上に蓄積された災害時のリアルデータを基に、各社ごとで振り返りを実施するシステム運用も根付き始めています。一例として、『台風19号(2019年)が襲来した際のデータを用いて、各機能の使い分けやシステムの使い方について、反省や課題点を洗い出し、再度研修会を実施した』という声をいただいています。お客さまと共に苦労を重ね、現場の皆さまから学ばせていただいたことは限りなく大きな財産です」と強調する。

お客さま同士をつなぎ
日本企業の災害対策本部を強くしたい

今後に向けた思いをプロジェクトメンバーは次のように語る。

「今なお情報の収集・共有を電話と紙に頼るお客さまは少なくありません。システムをうまく活用することで、余力のできた時間や人員などのリソースを災害対策に振り向けることが可能となります。そこにお客さま同士やステークホルダーとの共助の仕組みを組み合わせ、災害対策本部の持てる力を最大化することが今後のビジョンです。2019年6月には初めてのユーザー情報交換会も開催し、お客さま同士のディスカッションも活発に行われました。新型コロナウイルス対策は、まだまだ気が抜けない状況ですが、2020年の秋冬以降もオンラインの形でこうしたイベントや交流活動を継続していきたいと考えています」(角田)

写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 伊藤佐知
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
伊藤佐知
写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 水野花梨
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
水野花梨

「災害ネットのコンセプトどおり『災害対策本部を強くする』ことが、結果として事業スピードを上げ、災害大国である日本全体の強靭化につながると信じています。災害ネットを通じ、お客さまがこれまで意識していなかった課題にも気づきを与えることで、BCPの精度を高めていく支援を行っていきます。そして、1つのお客さまの成功体験がきっかけとなって、周りのお客さまにも広がっていくといった形で、世の中に広く災害ネットを浸透させていければと思います」(日本ユニシス 公共第一事業部 ビジネス三部 伊藤佐知)

「災害ネットの担当になったのは今年の6月で、まだ2カ月半ほどの経験しかありません。しかし、さまざまなお客さまと応対する中で、災害対策をはじめとするBCPへの危機意識の高まりを感じています。新型コロナウイルスの対応にも追われて従来のような動きが取れない中で、クロノロジーの考え方を普及させることで、お客さまの課題解決に向けて積極的に働きかけていきたいと思います」(日本ユニシス公共第一事業部 ビジネス三部 水野花梨)

こうしたメンバーの声を受けて堀田もこう意欲を示す。

「『自分たちにできることを精一杯やることが社会課題の解決につながる』という思いが、私たちの原動力となっています。災害ネットを1つのハブとして安全・安心の社会を築くべく、さらに技術を磨き、ノウハウを蓄積してサービスに還元していきます」

写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 伊藤佐知
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
伊藤佐知

「災害ネットのコンセプトどおり『災害対策本部を強くする』ことが、結果として事業スピードを上げ、災害大国である日本全体の強靭化につながると信じています。災害ネットを通じ、お客さまがこれまで意識していなかった課題にも気づきを与えることで、BCPの精度を高めていく支援を行っていきます。そして、1つのお客さまの成功体験がきっかけとなって、周りのお客さまにも広がっていくといった形で、世の中に広く災害ネットを浸透させていければと思います」(日本ユニシス 公共第一事業部 ビジネス三部 伊藤佐知)

写真:日本ユニシス株式会社 公共第一事業部 ビジネス三部 水野花梨
日本ユニシス株式会社
公共第一事業部 ビジネス三部
水野花梨

「災害ネットの担当になったのは今年の6月で、まだ2カ月半ほどの経験しかありません。しかし、さまざまなお客さまと応対する中で、災害対策をはじめとするBCPへの危機意識の高まりを感じています。新型コロナウイルスの対応にも追われて従来のような動きが取れない中で、クロノロジーの考え方を普及させることで、お客さまの課題解決に向けて積極的に働きかけていきたいと思います」(日本ユニシス公共第一事業部 ビジネス三部 水野花梨)

こうしたメンバーの声を受けて堀田もこう意欲を示す。

「『自分たちにできることを精一杯やることが社会課題の解決につながる』という思いが、私たちの原動力となっています。災害ネットを1つのハブとして安全・安心の社会を築くべく、さらに技術を磨き、ノウハウを蓄積してサービスに還元していきます」

なお、日本ユニシスは新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、2020年4月27日から行ってきた災害ネットの無償提供の追加実施を決定。9月末に無償提供の追加実施は終了するものの、今後もより多くのお客さまのレジリエントな体制づくりを支援していく。

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