Break Through! 第二章 挑み続ける心が未来を拓く:BIPROGYバドミントンチーム/第5回 五十嵐有紗・志田千陽(再春館製薬所)ペア

所属を超えてペア結成。ライバルから最高のパートナーへ

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バドミントンで世界の頂点を目指す選手たちの「挑戦」と「成長」の軌跡をつづる本企画。第5回に登場するのは、2025年9月にペアを結成した五十嵐有紗(いがらし ありさ)選手・志田千陽(しだ ちはる)選手(再春館製薬所)です。これまでそれぞれの場所で数々の勝利を積み重ねてきた2人が、ついに同じコートに立つこととなり、この決断に国内外から大きな期待が寄せられています。小学生の頃からライバルであり、友達であり、互いに力を合わせるパートナーとなった2人。ペア結成の経緯や「世界一」という共通の目標に向かって走り出した今の想いを伺います(2025年12月取材)。

Profile

五十嵐有紗(いがらし ありさ)
1996年8月1日生まれ。北海道岩見沢市出身。陸上選手だった両親の勧めで小学校1年生からバドミントンを始める。
福島県立富岡高校卒。2015年日本ユニシス(現BIPROGY)入社。渡辺勇大との“ワタガシペア“で混合ダブルス 東京2020(2021年)、パリ2024五輪で2大会連続の銅メダル獲得。
パリ2024五輪後に女子ダブルスへ転向。2025年9月、志田千陽(再春館製薬所)と新たに女子ダブルスペアを結成。2025年全日本総合選手権大会初制覇。世界ランキング17位(2026年2月24日時点)。2026年日本代表。
志田千陽(しだ ちはる)
1997年4月29日生まれ。秋田県八郎潟町出身。6歳のときに3歳年上の姉の影響でバドミントンを始める。
青森山田高校卒。2016年再春館製薬所入社。高校時代からペアを組む松山奈未との女子ダブルス“シダマツペア“で世界の舞台で活躍し、パリ2024五輪銅メダル獲得。2025年8月、「世界選手権」を最後にペアを解消。同年9月より五十嵐有紗と新ペアを結成し、2025年全日本総合選手権大会優勝。世界ランキング17位(2026年2月24日時点)。2026年日本代表。

「世界一」を目指し、所属チームを超えてペアを結成

――ペア結成のきっかけを教えてください。

志田2024年のパリ大会後、「世界のトップに立ちたい」という気持ちがより強くなりました。当時のパートナーとは前向きな形でペアを解消しまして新しいパートナーを探していたとき、混合ダブルスから女子ダブルスに転向した五十嵐選手の新しいパートナーもまだ決まっていなかったので、私から声を掛けました。世界一を目指すなら、誰と組むかは競技人生を左右する選択になります。だからこそ、「本当に自分が五十嵐選手を引っ張れるのか」という不安もありました。でも、迷いよりも“この人となら世界一を目指せる”という確信の方が大きかったんです。

五十嵐正直、「私でいいのかな」という気持ちはありました。でも、志田選手が覚悟を持って声を掛けてくれた。その気持ちに応えたいと思ったし、私自身も「世界の頂点を目指したい」という思いが強くなりました。

写真: 五十嵐有紗選手
BIPROGYバドミントンチーム
五十嵐有紗選手

――所属チームが異なりますが、もともとお知り合いだったのでしょうか。

志田小学生の頃から大会で何度も対戦してきました。あの頃は“ライバル”というより、“同じ場所で必死に頑張っている仲間”という感覚が強かったです。年齢は1歳違いますが、ナショナルチームでも一緒に練習する機会が多くて、お互いのプレーの特徴や性格も自然と分かっていきました。五十嵐選手は小さい頃から前衛のセンスがずば抜けていて、ネット前でのタッチや判断が本当にうまいんです。私は後衛でスピードを武器にしてきたタイプなので、“もし組んだら、絶対に良いペアになるだろうな”と、実はずっと思っていました。

写真: 志田千陽選手
再春館製薬所バドミントンチーム
志田千陽選手

五十嵐私も小学生の頃から志田選手のことは“強い選手だな”という印象がありました。ナショナルチームで一緒に練習するようになってからは、“この人は本当に努力の人だな”と感じるようになりました。合宿や大会で顔を合わせるたびに、自然とお互いの成長を感じ合ってきたというか、言葉にしなくても分かり合える部分があったと思います。だから今回声を掛けてもらったとき、「昔から知っている彼女となら、きっと世界を目指せる」とすぐに思えました。

――五十嵐選手は混合ダブルスから女子ダブルスへ転向されましたが、何か大きな違いはありますか?

五十嵐同じダブルスでも求められる役割が違うので、練習メニューが大きく変わりました。混合ダブルスでは基本的に前衛で、ここぞというときにスピードを出して動いていましたが、女子ダブルスでは試合の流れで後衛に回ることが頻繁にありますし、長いラリーへの対応力や持久力も必要です。だから、女子ダブルスに転向して最初の1~2週間は、本当にきつかったです。後衛のポジションからひたすらアタックし続ける練習は、体力的にも精神的にも限界ギリギリで、「なんでこんなにできないんだろう」って落ち込む日もありました。でも、逃げずに向き合い続けていたら、ある日ふっと「あ、いけるかもしれない」と思えた瞬間があって。あの感覚は今でも忘れられません。

写真: 五十嵐有紗選手

全日本総合選手権大会でペア初タイトルを狙う

――今シーズンの目標を教えてください。

志田全日本総合での優勝です。結成したばかりで、ペアでの練習時間も試合数も少ないのですが、この数カ月で勝つための課題は明確に見えてきました。優勝は不可能ではないと思っています。

五十嵐私は全日本総合の混合ダブルスでは優勝したことがありますが、女子ダブルスではまだ一度も経験していません。2024年は別の選手とパートナーを組んで出場しましたが、結果はシダマツ(志田・松山)ペアに敗れて準優勝でした。今年こそは優勝して志田選手と日本一になりたいです。

  • 編集部注:本取材後に行われた「第79回全日本総合バドミントン選手権大会」(2025年12月25日~12月30日開催)において、女子ダブルスで五十嵐有紗・志田千陽ペアが初優勝しました。
    https://www.biprogy.com/badminton/result/260106_alljapan.html

――ご自身のプレーの強みと、その強みをペアとしてどのように生かしていきたいと考えていますか。

五十嵐男子選手と組む混合ダブルスで鍛えたスピードやレシーブ力が強みです。ゲーム展開の読みも得意なので、1つ先のプレーを想定しながら志田選手が捉えやすい球を出すことができれば、ペアとしての攻撃力を高められると思います。

志田どんな球が来ても諦めない、どんな体勢でも返す、どんな状況でも臆せず攻める。そういった泥臭さが自分の強みだと思っています。後ろで粘ってラリーを切らさず、五十嵐選手のジャンピングスマッシュやネット前でのプレーにつなげていきたいです。

写真: 志田千陽選手

――志田選手が所属する再春館製薬所は熊本が拠点、五十嵐選手が所属するBIPROGYは東京が拠点です。練習はどのようにされていますか。

志田自分がBIPROGYの練習に参加させてもらうことが多いです。五十嵐選手と一緒に練習できる時間はそう多くありませんが、それぞれがしっかり練習を積み重ねていれば結果はついてくると思っています。

――BIPROGYの練習に参加してみていかがですか。

志田チームによって練習が全然違うと感じました。BIPROGYは短期集中でテーマを絞って取り組む練習が多く、再春館は歴史あるチームとしての積み重ねがある。それぞれに良さがあって、それぞれに難しさもあります。BIPROGYには男子のトップ選手もそろっているので、練習に参加しながら学ばせていただくことも多いです。

五十嵐違う環境で練習しているからこそ、互いに持ち寄れるものがあると思っています。所属を超えて組むのは簡単じゃないけれど、その分だけペアとしての可能性が広がると感じています。

――一緒に練習できる時間が限られている中で、どのような工夫をされていますか。

五十嵐コミュニケーションをしっかり取るようにしています。練習前に課題について話し合ったり、練習しながら「こういうことを考えながらやってみよう」と声を掛け合ったりしています。

写真: 五十嵐有紗選手と志田千陽選手

――日々の練習を積み重ねる上での原動力は何ですか。

五十嵐「大切な人のために頑張りたい」という思いです。家族やパートナーの志田選手など支えてくださる方々のために努力し続けていきたいと思っています。

志田自分の原動力は、「世界のトップに立つ」という目標と、「悔しい」という気持ちです。国際大会などで多くの方に応援していただく中で、「強い選手」として認められたいという思いが強くなりました。パリ大会のような大きな試合で注目していただけるようになって一層そう感じました。だから、練習を積んで結果で示していきたいです。

「試合を楽しむ」「妥協しない」強さを生み出す2人の信念

――試合当日に高いパフォーマンスを発揮するため、どのようなことを大切にされていますか。

志田心身のコンディションを整えることです。練習の量が自信につながるタイプなので、緊張したときに出やすいミスは練習で何度も確認して、不安を残さず試合に臨むようにしています。

五十嵐自分もコンディションを整えることを意識しています。特に、年齢を重ねるにつれて食事の内容が体調に影響を及ぼすように感じることが多くなったため、今は食生活に気を配るようになりました。

写真: 志田千陽選手

――2人でプレーする上で、どのように目標を共有し、意識を合わせていますか。

志田ダブルスは2人で戦う競技なので、まずは意識を合わせることが大切だと思っています。前のパートナーとも「ここは絶対に優勝したい」という大会を決め、そのために必要な課題や練習を話し合っていました。五十嵐選手とは「まずは全日本総合で優勝しよう」と話しています。同じ目標を持つことで、互いのモチベーションも高まっていると感じます。

――五十嵐選手は、今後の目標設定についてどのようにお考えですか。

五十嵐自分が選手として活躍できるのはあと3年ほどだと思っています。2026年はどの大会に照準を合わせるのか、志田選手と話し合いながら決めていく予定です。

――ご自身の信念を一言で表現するとしたら、どのような言葉でしょうか。

五十嵐私は「楽しむ」という言葉を大切にしています。ただ楽しくプレーするという意味ではなく、大会の緊張感や相手との駆け引きを楽しむということです。その中で勝ちきれたときが一番うれしいですね。若い頃は結果を残したい気持ちが先走り、うまくいかないこともありましたが、経験を重ねることで試合そのものを楽しむ余裕が持てるようになったと感じています。

写真: 五十嵐有紗選手と志田千陽選手

志田私の信念は「妥協しないこと」「努力すること」です。試合でも練習でも、もっとできたのでは、という思いが残ると、ずっと頭から離れません。少しでも自分に甘えがあったら、トップには立てないと思っています。私は「その日やるべきことをやり切れなかった」と感じると、どうしてもモヤモヤしてしまうんです。練習を終えたときに「今日もやり切った」と思えないと落ち着かないし、翌日に引きずってしまう。だから毎日、自分にできる最大限を出し切ることを大事にしています。自分に厳しくあることは大変ですが、強くなるために努力すること自体が私にとって楽しいので、バドミントンを続けられているのだと思います。

――思うように結果が出ないときはどんなふうに乗り越えていらっしゃいますか。

志田思うように結果が出ないときは、勝ちも負けもなるべくして起きている、と考えるようにしています。最初からうまくいくことなんてないし、良かったところは素直に受け入れて、うまくいかなかった部分は「上に行くための材料(ヒント)」だと思っています。大事なのは、そこでどう向き合うか。落ち込むだけで終わらせず、意味のある時間に変えることを意識しています。でも、パリ大会の準決勝で負けた後の切り替えは、本当に難しかったです。悔しさが大きすぎて頭が真っ白になったんですけど、そこで立ち止まっていたらメダルは取れない。「まだ終わってないよ」って自分に言い聞かせて、無理やり前を向きました。

写真: 志田千陽選手

五十嵐私も準決勝で負けた際は本当に悔しくて。泣きたい思いを飲み込んで気持ちを奮い立たせてすぐに3位決定戦の準備をしなきゃいけない。あの経験は、メダルを取ったという結果以上に、自分を強くしてくれたと思っています。

――多くの方に期待されていると思いますが、プレッシャーとはどのように向き合っていますか。

五十嵐期待していただけるのはとてもうれしいです。あまりプレッシャーを感じないタイプなので、気負わず気楽に取り組めていると思います。

志田五十嵐選手には多くのファンがいて、ペアを組んだばかりの頃は自分への注目度も一気に高まり、「うまくやらなきゃ」と気負っていました。ただ、周囲の期待をどう受け止めるかは自分次第です。今はプレッシャーと受け止めず、「自分を知ってくださる人が増えてうれしい」と前向きに捉えるようにしています。

写真: 五十嵐有紗選手と志田千陽選手

ワールドツアー優勝を目標に「ペアの形」を完成させる

――最後に、ペアとしての今後の意気込みと、応援してくださるファンの皆さまへメッセージをお願いします。

五十嵐今後の課題は、国際大会でのベスト4以上の戦い方です。世界の強いペアには「ここぞというときに頼れる得意パターン」があり、苦しい場面でもそれを軸に得点を重ねています。私たちもそうした引き出しを増やし、リードされても追いつける展開をつくりながら、自分たちの「ペアの形」を完成させていきたいです。2人のローテーションによる緩急のあるプレーに、ぜひ注目していただけるとうれしいです。

志田私たちのペアには大きな可能性があると信じています。まずは全日本総合を制し、2026年のワールドツアーでの優勝を目指しています。SNSなどを通じて応援してくださる皆さまの期待に応えるためにも、目標達成に向けて2人で全力を尽くしていきたいと思います。

写真: 五十嵐有紗選手と志田千陽選手

Break Through!第二章は
今回で終了となります。
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