a storyteller ~情熱の原点~ 第2回 ライター 竹田ダニエル氏

絶望だらけの現代に、Z世代当事者として社会への違和感を書き続ける

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さまざまな分野で意欲的に挑戦を続けるイノベーターやクリエーターたち。革新を起こし時代をリードする彼らを突き動かす原動力や原体験とは――。その核心に迫る「a storyteller~情熱の原点~」。第2回は、「カルチャー×アイデンティティー×社会」をテーマに、独自の視点からZ世代の思いを発信する新進気鋭のライター、竹田ダニエル氏に話を伺った。「Z世代」という言葉は、日本では突如現れた言葉のように捉えられがちだ。それがいつしか、経営課題やSDGsなどの観点と絡めて語られるようになった。しかし私たちは、そのキーワードの登場背景や、どのような考えをもつ世代なのかという問いに、きちんと向き合ってきたのだろうか? 今後、Z世代が中心になって社会を動かす中で、私たちは、彼・彼女らとどのように向き合い、何を学ぶべきなのだろうか。

ヘッドライン

執筆業は副業。専業ではないからこそ思いの丈を語れる

――竹田さんは多彩なメディアにて執筆活動を行い、文芸誌『群像』での連載を書籍化した『世界と私のA to Z』はベストセラーになりました。今、大きな注目を集めている竹田さんですが、ライターの活動を専門的に行っているわけではないそうですね。

竹田本業は大学院生です。授業を受けたり、自分で研究をしたり、学部生に授業を教えていますが、アメリカの場合は大学院生でも「インストラクター」や「リサーチャー」としてお給料をもらえます。また、アメリカは学生でも社会人でも、学業や仕事の外で何か他の活動を行うのがごく普通のスタイルです。その方が、1つの仕事だけに専業で取り組むよりもバランスがとれた生活を実践でき、ワークライフバランスが保てていると考えられがちです。

イラスト:竹田ダニエル氏
ライター 竹田ダニエル氏

私は大学3年生の時にビジネススクールでミュージックビジネスの授業を履修したことをきっかけに、そのプロジェクトで実際のアーティストのマネジメントを担当することになりました。日本のレーベルと契約し、コンサルタントとしての仕事を1年間続けました。その後、大学を卒業し、2020年からは執筆活動も行うようになりました。一番最初に『現代ビジネス』から「Z世代と音楽とメンタルヘルスとコロナについて書いて欲しい」という依頼がきて、その記事がバズったのがきっかけでその他の媒体からも依頼をいただくようになりました。秋ごろには講談社が発行する文芸誌『群像』の編集者から声をかけられたのがきっかけで、アメリカのZ世代に関する連載を持たせてもらうようになりました。「カリフォルニア出身・在住でアジア系アメリカ人の竹田さんなら、バックグラウンド的におもしろいことが書けるのでは」というオファーをもらうことが多いです。

私は「自分が意義を感じることを書きたい」と当初から思っていました。今はそれが実現できていると思います。執筆の仕事が副業だから、というのが大きな理由だと実感しています。もし執筆が本業なら、生活のために意にそぐわない依頼でも引き受けなくてはならない。それは音楽の仕事でも同じです。アーティストエージェントの仕事を今も継続していますが、それを専門でやったら、好きではないアーティストも担当しなければならない。いいものを出し続けるためには、個人的には本業ではないからこそできることが増えると考えています。

――著書『世界と私のA to Z』はZ世代である竹田さんが、SNS、音楽、映画、食、ファッションなどあらゆる面からアメリカと日本の今のカルチャーを読み解く内容です。竹田さんは日本でのZ世代という言葉の使われ方や捉えられ方に違和感があるとおっしゃっています。

竹田まず、アメリカでは生まれた年代によって、「ベビーブーマー世代(1946~64年の生まれ)」「X世代(60年代半ば~80年ぐらいの生まれ)」「ミレニアル世代(80年代~90年代半ばの生まれ)」「Z世代(90年代後半~2010年代頃の生まれ)」と分類しています。これらは約15年間隔で分類し、連続性が重要になってきます。各世代の特徴や傾向を研究・分析しようという風潮がアメリカでは強いのも、この連続性の中から社会の変化が見えてくるからです。

私は1997年の生まれなので、Z世代とミレニアル世代の中間点くらいにいます。幼かった時に黒人大統領が誕生し、同性婚が合法化。9.11やリーマンショックなどの社会を揺るがす大きな事件があり、自分は直接的な被害者ではありませんが、親世代が強い影響を受けている。そしてZ世代は中学生や高校生、大学生等の時にコロナウイルスの世界的流行を経験。コミュニケーション能力や社交性が発達する時期に、人と距離を置く生活を強いられたわけです。これは、Z世代を語るうえでものすごく重要な要素。私も大学を卒業する年にコロナ禍となり、精神的に大きな影響を受けました。こうした背景をしっかりと研究・分析することで、Z世代の全体的な特徴や傾向、そして社会全体の変化が見えてきます。

書影:『世界と私のA to Z/竹田ダニエル』
文芸誌『群像(講談社)』での連載時から大きな話題を呼んだエッセイを一冊にまとめた、
竹田ダニエル氏による1冊目の著書
『世界と私のA to Z/竹田ダニエル(講談社)』

でも、日本ではアメリカのようにこれまでの世代の傾向を分析するのではなく、そしてミレニアル世代との連続性などを語ることなく、突然「Z世代」という言葉がひとり歩きし始めてしまった。「なぜ、Z世代はこういう行動を起こすのか」という、社会背景的な部分が抜け落ちているように感じます。

結果として、広告代理店やメディアによって作られた「社会に革命を起こす先進的なデジタルネイティブたち」、あるいは「政治に関心がなく、インスタ映えばかりを気にしている」といった表層的なイメージが広く流布することになった。なので、Z世代の当事者たちとして忌憚なく言えば、「上の世代が私たちを勝手にブランディングし、自分たちに都合のいいように扱っている……」と感じる人も多いと思います。

――竹田さんはその偏見や誤解、違和感を取り除こうとしているのでしょうか。

竹田私はただ、アメリカの若者のリアルについて書いています。現在の資本主義社会を見ていると、権力をもつ人たちが「正しい」、「頭がいい」、「物事を丁寧に考えている」ということでは、決してない。それはアメリカも日本も同じです。私はその社会に違和感をもった人の話をしているだけ。例えば、アーティストのビリー・アイリッシュ(※1)や環境活動家のグレタ・トゥーンベリ(※2)などがどんな思想をもち、どういった行動をして、その言動がどのように社会的に評価されるかを観察・分析し、伝えることを大事にしています。

  • ※12001年生まれ、アメリカのアーティスト。人権意識や差別反対など社会的なメッセージを表明し続けている点でも注目されている。虚無感や孤独をテーマとした曲が多く、竹田氏はその存在を「Z世代が抱く絶望の鏡写し」と表現している。
  • ※22003年、スウェーデン生まれの環境運動家。15歳で気候変動問題のための学校ストライキを行い、議会前で抗議活動をする。2018年には国連気候変動会議で演説するなど、環境に関わる活動家として世界的に注目を集める。

だから、私はオピニオンリーダーではないし、「Z世代の代弁者」でもない。周りの人に対して教育や啓蒙を行う存在ではないし、なるつもりもありません。でも、上の世代は「Z世代の代弁者」として取り上げ、「大人が見たいZ世代のステレオタイプ」を作り上げる。Z世代の特徴は多様な価値観です。それなのに、分かりやすさを求めてZ世代を“代表する”意見を欲しがるんですよ。それって、おかしな話ですよね。

“絶望的状況”でもアメリカ人は声をあげ続ける

――多様な価値観をもつZ世代ですが、時代背景や戦争、重大事件などによって全体的な傾向は形成されていると感じます。その傾向を見た場合、アメリカのZ世代と日本のZ世代の違いをどのように分析されていますか。

竹田アメリカも日本も、状況は“絶望的”です。環境破壊による温暖化、広がり続ける格差――。そして、日本では現役世代2人で、高齢者1人を支えている。今のZ世代は老後に年金を十分にもらえるわけじゃない。というより、退職後に年金をもらえるかどうかさえ不透明です。アメリカも日本も、Z世代の未来に「希望がある」とはなかなか捉えにくい状況です。

格差の観点で見れば、アメリカは日本以上にあからさまです。大前提として、国のシステムが大資本に有利な形で硬直化していることや、加えて社会的なセーフティーネットなどがあまり機能していない側面があります。

例えば、健康保険はうまく機能していないし、病院に行ったら、診察料だけでもとんでもない大金がかかる。とてもじゃないが救急医療や定期検診を利用できない、といった状況の人が多いです。また、有色人種や貧困層が多い地域では、歴史的かつ制度的な差別によって、例えば石油開発などによって地域一帯が汚染されるなど、政治の差別によって人体に影響が出てしまうことによって、「差別や格差を身体的に実感する」ような社会です。

ただ、アメリカでは「最悪な状況も自分たちの手で変えられる」と子どもの頃から教えられる。黙っていたらどうにもならない、というより、「声をあげないと生きていけない」んです。だから、ストライキが頻発する。資本主義に搾取されている労働者がメッセージを発するわけです。

アメリカでは日本の総裁選と異なり、大統領選に全国民が投票できる。選挙戦は政治の中枢ではなく、ローカルから始まります。自分の利益を守るためには、誰が大統領になるべきかについて、自分の1票で何かが変わるはずだから意思を示さなければならない。大統領選があることは、アメリカ人の政治的関心の高さに影響していると思います。

一方、日本の場合は何をやっても変わらない、どの政権になっても何も変わらないとの絶望感を感じやすい人が多いと思います。政治に対して関心がなく、諦めてしまっている人が多いといわれますが、それは教育や制度から考えると必然的な要素もあります。そして、「調和を大事にする」ことを幼い頃から教えられ、和を乱す人が「悪」とされる傾向は、例えば、課題意識をもちストライキを起こす人に対して、「今の時代にストライキなんてダサい。迷惑なだけ」と嘲笑、冷笑する姿勢に表れる。与党に批判的な政党に対しても「文句ばっかり言っている」と非難する。それらが、与党に対するけん制や、暴走を止めるためのカウンターパートとして存在している党なのに、です。

大人に嫌われることや、調和を乱すことは、必ずしも悪いことじゃない。多様な価値観とは、そういうものであるはずです。

例えば、「大人に嫌われたくなかったら、そんな話し方じゃダメだよ」という趣旨の“指摘”を受けることがよくあるように感じます。また、日本は年功序列型社会であることに加えて、急速な少子高齢化が進んでいる。こうした時代の空気感の中で、Z世代を含む若者たちは、「自分たちよりも数で上回る『大人』に気に入られないとうまくやっていけない」と心のどこかで感じている、と語る人も多い。この問題は根深いと思います。

また、環境破壊などの社会課題の解決に向けて行動する人を冷遇する傾向があります。「そこまで怒ることじゃない」と言って。時々、Z世代で「強い言葉」を発する人も出てきますが、それも大抵は大人ウケする範疇です。上の世代がシナリオとして描いている「Z世代は社会的意識が高い」程度の枠に収まり、大人に嫌われるようなことはしないのが日本で「大人に重宝されるZ世代」だと感じます。「連帯」と「抵抗」の間には、若者たちの当事者の視点で変化を求めつつ、大人がそれに賛同して協力できるような風潮が必要になってきます。

Z世代が選ぶのは「自分の倫理観とマッチする」企業

――近年、若い世代は消費活動や就職活動を「投票」と捉え、「企業を選ぶ」姿勢を表すようになっていると感じます。Z世代から選ばれる企業になるためには、どうすればいいのでしょうか。

竹田まず、「その企業がどうありたいか」を明確にすべきです。企業が何を目指し、行動していくか。倫理観ある若者に選ばれたいなら、まずは企業が正しい倫理観をもつことが必要になりますよね。そうすることで、倫理観を人生や消費の指針にしている人が集まってくるはずです。

日本でもアメリカでも、Z世代の傾向として、そして資本主義に何かしらの限界を感じている中で、「たくさん働いて大金を稼いでやろう」という意識は決して高くはないと感じます。それよりも自分が仕事の中で何かしらの社会貢献を果たし、少しでもより良い未来をつくることを目指す人は増えている。その場で自分が人として成長できるかも、重視されています。人生にお金以外の意義を付加していけるか、自分が納得できるかが大切にされつつあります。

実際のところアメリカの労働者の間では、会社に対する誠意や忠誠心はほとんどありません。会社は資本を使って労働力を搾取し、労働者には適正な見返りがかえってこない。そうなれば、当然の結果として、労働者側も会社から搾取してやろうとの思いが強くなります。1年働いて次の会社に行こう、と思うことも自然です。たとえX(旧Twitter)やAppleといった超有名企業に就職しても、いつクビを切られるか分からないんですから、やりがいをもって働くのは難しい。1つの企業で社会人としての30年間を生きていける社会では、もはやなくなったんです。その思考は日本でも共通認識になってきているように感じます。

読者の期待や感謝、社会的意義の「実感」がモチベーションになる

――竹田さんの著書『世界と私のA to Z』の続編として、2023年9月に続編『#Z世代的価値観』が刊行されました。精力的に執筆や発信を続ける「情熱の原点」はどこにあるのでしょうか。

竹田執筆活動を始めた当初は、高いモチベーションがありました。「今、私が感じていることは今しか書くことができない。だから、書こう」と。「この媒体で書きたい」とか「この人に会って話をしたい」とか活動の源になるような目標がたくさんありました。でもそれらの目標は、会いたい「誰か」や載りたい「雑誌」など自分の外にある価値に依存していて、達成してしまうと執筆意欲が維持できなくなる。外的要因からモチベーションを得ることを重視してしまうと、目標がかなった時に虚無感が生まれてしまいます。

これはもしかすると卑劣なのかもしれないけど、モチベーションを継続させるために必要なのは、読者からの期待や感謝を受け取ったり、自分自身が活動に社会的意義を感じたり、といった実感を自分の「中」に得られることではないかと。感謝されるために原稿を書いているわけではないですが、やってよかったとは思えますから。

『世界と私のA to Z』は、読者一人ひとりが意見をもって読んでくれているのが特徴的で。SNSなどで感想をくださる方が多いんですが、受け身の「感想」ではなく、みなさん自分の「意見」を伝えてくれるんです。自分も本や音楽、映画などに強く影響を受けてきて、そうしたコンテンツを享受することに生きがいを感じてきたので、その重要性はすごく分かる。私の書くものとの出会いによって、読者に何かしらのポジティブな変化が起きればうれしいですね。

書影:『#Z世代的価値観/竹田ダニエル』
竹田ダニエル氏による2冊目の著書。
2022年~2023年のトレンドや出来事を、Z世代と社会の観点から分析する
(2023年9月28日発売)
『#Z世代的価値観/竹田ダニエル(講談社)』
  • この取材は2023年8月に実施しました
  • インタビューの内容は登壇者の見解であり、BIPROGYグループの見解を示すものではありません

Profile

竹田ダニエル(たけだ・だにえる)
1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。ライターとしては「アメリカ事情・カルチャー・アイデンティティー×社会」をテーマに執筆。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」受賞。著書に『世界と私のA to Z』、その続編となる『#Z世代的価値観』。

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