旅の検索・予約・管理から旅行中の情報収集までをシームレスに完結する「ANA X TaaSプラットフォーム」
快適な旅行体験をスマホ1つで。画期的な新サービス誕生の舞台裏
コロナ禍の収束が近づくにつれて「旅をする楽しみ」が戻ってきた。他方で、旅のニーズは変化している。従来は航空券や宿泊がセットになったパッケージツアーが主流だったが、最近では商品を比較検討して好みのものを単品で購入する形にシフトしている。この需要に応えるため、ANAグループで旅行事業などを担うANA X株式会社では、旅に関する一連の行動をスマートフォンで完結できる「TaaS(Travel as a Service/タース)プラットフォーム」を構築した。また、移動などでためたマイルを旅行中はもちろん、日常の買い物といった幅広いシーンで利用できるよう仕組みを整え、ユーザーの利便性向上を図っている。今回は、ANA Xと構築を支援したBIPROGYそれぞれの担当者が、共創までの経緯や現在の取り組み状況、今後の展望を語り合った。
“非航空事業”強化を背景に誕生した「TaaSプラットフォーム」
――まずは導入として、皆さまのプロジェクト内での役割を教えてください。
前田2022年8月にANA Xに入社し、同年9月から今回のプロジェクトに携わっています。前職も大手BtoC企業で、IT開発を担当していたので、それらの知見も生かしながら、約2年にわたってANA X側のプロジェクトマネージャーという立場で本件を進めてきました。
大槻プロジェクトでは、TaaSプラットフォームで提供するサービスの企画を中心に担い、全体の意思決定にも携わりました。これまでは、グループ会社で営業やコールセンターなどの業務に携わった後、旅行事業全体の統括業務や、中・長期的な戦略策定も担当してきました。
斉藤最初のご提案時から2023年度まで、BIPROGY側のプロジェクトリーダーとして開発を担当し、要件定義や設計、品質管理や進捗管理など全体を統括する役割を担いました。2024年度からは主にサービスの安定稼働や運用保守、改善、サービス内容の拡大における開発を担当しています。
竹房今回のプロジェクトには、営業としてご提案時から携わっています。2024年4月にTaaSプラットフォーム構想が報道発表されてからは、さらなるサービス拡大に向けて、日々ANA Xさまと密にコミュニケーションを図りながら業務を進めています。
――次に、TaaSプラットフォーム開発の背景として航空業界やANAグループ全体のビジネス概況を教えていただけますか。
大槻ANAグループに限らず、航空業界はコロナ禍で人々の移動が止まったことで業績が落ち込みました。私たちも主力事業である航空事業縮小やビジネスモデルの大変革に迫られ、改めて突き付けられたのが「航空事業は外部環境に影響を受けやすい」という課題です。
そこで、コロナ禍収束の兆しが見えた2023年度からの中期経営計画には、航空事業を再び拡大させる一方で、外部環境に左右されにくい「ノンエア=非航空」事業にも力を入れ、航空事業と非航空事業の間でユーザーの回遊を促す戦略を打ち出しています。その中で、ANA XはANAグループが持つ顧客データという資産を有効活用し、TaaS事業を推進する役割を担っています。
ノンエア事業としては、移動などでためたマイルを日常生活で広く利用できる世界を目指しています。例えば、2022年10月に「ANAマイレージクラブアプリ」をリニューアルし、アプリ内で決済サービス「ANA Pay」を利用可能にしました。ANA Payは、ANAカードなどのクレジットカードでのチャージでマイルが貯まる他、貯まったマイルをチャージして買い物などに使えるようにすることで利便性を高めています。
また、オンラインショッピングサイト「ANA Mall」では、マイルで買い物ができ、ANA独自商品の他、外部企業と連携して魅力的な商品を取り扱っています。パートナー企業のショップを含めたANA Mall全店舗でマイルが貯まり、こうした取り組みはECモールとして全国に先駆けたものです。非日常の体験である旅行はもちろん、日常の生活シーンに根差しながらマイルが貯まり、さらに旅行そのものにも利用できる点は他にはない私たちの強みだと思っています。
――2024年4月に構想を発表したTaaSプラットフォームについて、その特徴や目指す世界観を教えていただけますか。
前田TaaSプラットフォームは、さまざまな旅の素材(ホテルやレンタカー、アクティビティの手配など)の検索・予約・管理がスマートフォン1つでシームレスに完結できるサービスです。開発背景には、「マイルで生活できる世界を実現する。そのためにインターネット上で人々の回遊を促す」という目的があります。
「マイルで生活できる世界」の概念図
旅行業界もデジタル化が進む中でトレンドが変化し、従来のパッケージツアー購入型から、安価な旅の素材を比較検討し単品で購入するスタイルへとシフトしています。この潮流を踏まえ、「ユーザーがよりストレスなく旅行を計画し、マイルがためやすくなるような基盤を構築する」との観点から実現したのが本サービスです。3月には報道発表に先駆けてホテル予約サービスを、7月にはレンタカー予約サービスを実装しました。今後も予約可能なサービス範囲を広げていきます。
「ANA X TaaSプラットフォーム」構想(イメージ)
斉藤この構想を伺ったときは、とても先見性のある事業だと感じました。ANA Xさまが自社で仕入れたホテルや商品などをPR・販売するだけでなく、外部企業と連携した販売にシフトする点、そして航空事業に依存しないビジネスを目指すという点が画期的でした。
BIPROGYとしては、ANAさまの既存基盤システムを横展開することで低コストかつ短納期構築が可能になると考えました。TaaSプラットフォームの開発コンセプトに、「スピード」「シンプル」「アジリティ」を掲げられたこともあり、「私たちなら実現できる」との強い意気込みでご提案しました。ANA Xさまとダイレクトに開発に取り組む形でしたので、これまで以上に現場の声を聞きながら一緒にシステムを構築していける、という高揚感もありました。
竹房私もTaaSプラットフォームは今の旅行者のニーズにマッチしていると感じました。また、ANAグループさまの商品は高品質なものが多く、高級なイメージがこれまではあったのですが、若年層にも人気のある企業との連携で顧客層が広がるのではないかと可能性を感じました。
大槻基本的に当社はANAの飛行機の就航地やその周辺地域のシティ、ビジネス、リゾートホテルの取扱いをメインとしています。そのため、就航地以外の地域におけるホテルの品ぞろえは不足しておりましたので、例えば国内で熱海や鬼怒川に泊まりたいなどのニーズに応えることができていませんでした。この課題については、OTA(※)他社の力を借りることで品ぞろえを増やし、ユーザーのニーズに応えることができるようになりました。
※OTA:Online Travel Agentの略。インターネット上のみで取引を行う旅行会社を指す。
複数のベンダーがワンチームとなりスピード感を重視した開発を実現
――TaaSプラットフォームの構築に当たり、BIPROGYをパートナーに選ばれた理由をお聞かせください。
前田今回のシステムでは、「アクセスがどれだけ増えても耐えられる可用性」を最も重視し、ユーザー目線の開発も強く意識しています。現状のユーザーアクセス動向について綿密な調査も行い、「スマートフォンでいかに使いやすいシステムにするか」が大きな焦点でした。BIPROGYの提案は、規模感やコストの他、スピードとシンプルさ、アジリティの面でこれらの点に最もマッチし、一緒にディスカッションしながら進めていけると感じたのも決め手でした。
実際、BIPROGYはマルチベンダー体制によるアジャイル開発でかつてないスピード感に対応してくれました。加えて、スピードだけでなく、品質も担保するために細心の注意も払いました。こうした開発環境の中で予定通りの期間でリリースできたことに、改めて感謝しています。
大槻当時は本当に目まぐるしいスピードでした。開発スピードを維持するためには、携わるメンバー間で同じスピードの意思決定が必要です。そのため、あらゆる方面から剛速球が飛んできて、“アザだらけ”になっていましたね(笑)。自分が決めるものは少しでも早く決断し、上司に決裁を仰ぐものは至急情報共有を図る――。自分の判断の遅れによりローンチを遅らせるわけにはいかないと思い、とにかく必死でした。
斉藤ユーザー目線というお話がありましたが、開発の中で大きなポイントの1つになったのは検索の仕組みです。開発チーム一丸となってユーザーがいかにストレスなく検索できるかに注力して設計しました。その上で、開発スピードを維持する必要もありました。前田さんには、「すぐに取り入れるもの」「リリース後に導入するもの」など迅速にご判断いただきながら最適な形で開発できたと感じています。今回は、前田さんを中心にワンチームとなり、ユーザー起点の開発に携わるという貴重な経験をすることができました。
竹房TaaSプラットフォームは一般消費者向けのサービスです。私自身は営業担当として、計画通り開発が進められるように支援させていただいておりました。加えて、旅行好きな一人の消費者でもあるので、ユーザー目線で「これがあったらうれしい」「こんな機能があったら便利」など今後ANA Xさまと一緒にアイデアを出していけたらと思っております。
斉藤今プロジェクトを振り返って、スピード感をもって臨むことができた要因としては、チーム内の活発な意思疎通があったと思います。毎日、昼会として最低30分はチームで打ち合わせをしていました。また、レスポンスのしやすいチャットツールに絞り、他のベンダーさんも含めて前田さんを中心にオープンなコミュニケーションが行われました。ANA Xさまの動きも見えたので、そろそろ開発側に要件が来るな、と心構えができました。
前田クローズドなコミュニケーションだと属人化するので、お金の部分以外は極力オープンにすることを心掛けました。ベンダーさんのスケジュール遅延への指摘などもオープンだったので、それを見ている他のベンダーさんも同時にピリっとさせてしまったかもしれませんが(笑)。適度な緊張感の高さも、スピードにつながったと思います。
「生まれたて」のプラットフォームを共に大きく育てていく
――TaaSプラットフォームプロジェクトを通して今後目指す未来像について、お聞かせください。
前田これまでの当社の課題は、顧客とのタッチポイントが少なかったことでした。ホテル、レンタカーの予約機能に続き、今後さらにタッチポイントを増やしていきたいと思っています。品ぞろえの豊富さをぜひ多くのユーザーに知っていただき、マイルが旅行と日常生活の両方で使える利便性の向上を図っていかなければと考えています。現状、マイルをアプリ決済に使えるのは当社にしかない仕組みです。その他、細かな決済の仕組みもBIPROGYに協力していただきながら、その強みを拡充していく予定です。
大槻これまでは旅行の予約、つまりタビマエ領域を主要ドメインとしており、タビナカ、タビアトはカバーできていなかったのですが、これからは予定を決めずに旅行に行ったり、旅先で天候の影響などで予定が変わったりした時などにもTaaSプラットフォームを使っていただけるよう、タビナカもカバーできるような仕組みを作っていけたらと考えています。さらに、思い出のシェアや次の旅行の予約など、タビアトにもサービスをつなげ、旅行関連消費を網羅できることが理想です。
また、ユーザーデータが旅行だけでなく日常の買い物も含めて蓄積されていきますので、そのデータを積極的に活用しながら、より充実したサービスの提供に向けた顧客接点を増やしていきたいと思います。
斉藤TaaSプラットフォームプロジェクトは、「小さく生んで大きく育てる」とのコンセプトで始まりました。現段階は、まさにまだ「生まれたばかり」。これから大きく育てていく段階です。継続的にサービスを充実させていくために、一緒に考えながらサービスを育てていけるような共創パートナーになりたいと思います。
竹房当社としては、いちベンダーとしてではなく、ANA Xさまのビジネスを共に発展させていけるようなパートナーとしてご支援できたらいいなと思っています。TaaSプラットフォームはANA経済圏の拡大に寄与するものでもあります。サービスや商材を持続的に進化させ、サプライヤーと共存共栄となるプラットフォームにしていきたいです。そのために、われわれからもユーザー目線でTaaSの将来像を考え、TaaSプラットフォームと親和性の高そうな連携先、サプライヤーをご提案するなど、BIPROGYが持つアセットをいかにTaaSプラットフォームに生かしていけるかを考え、今後も共に歩んでいきたいです。