柔軟な働き方を実現する「デジタルワークスペース」の可能性
日本マイクロソフトとともに展望するリモートワークを取り入れたハイブリッドな働き方
日本ユニシスは「Technology Foresight」を掲げ、ICTをはじめとするテクノロジーの視点で5~10年先の未来像とその実現可能性を示している。本稿はその一環として「クラウドを活用した事業継続」や「デジタルワークスペースの実現」に向けた取り組みを紹介したい。2020年、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から多くの企業がリモートワークに踏み出した。しかし、コロナ禍が長引くにつれ緊急事態宣言下にあっても社内手続きに伴う出社の必要性などに迫られ、混雑する通勤電車を見かけるシーンが増えているように思う。ニューノーマル時代の中で、リモートワークなどを活用した働き方は今後どのように変化し、クラウド活用やデジタルワークスペースはいかに進化するのだろうか。そのヒントを知る日本マイクロソフトの岸裕子氏を迎え、日本ユニシス担当者とともに展望してみたい。
パンデミックを契機に変化した
リモートワークへの企業認識
2020年の新型コロナ禍による緊急事態宣言に際して大きくクローズアップされたのがリモートワークだ。感染拡大防止のために政府は出社を3割程度に抑え、リモートワークに切り替えることなどを多くの企業に要請した。リモートワークはそれまでも働き方改革の切り札として推奨されてきたものの、広範な普及には至っていなかった。その状況が「外出自粛」を余儀なくされたことで大きく変わった。
日本マイクロソフトのセキュリティビジネス本部プロダクトマーケティングマネージャーの岸裕子氏は「大企業では、2~3年ほど前からリモートワークの準備が進められていました。しかし、新型コロナの影響で中小企業などもリモートワークにシフトし、同時にさまざまなデバイスからアクセス可能なクラウド活用も広がりました。これは、弊社CEOも述べている通り『2年間で起こり得る変化が2カ月間に凝縮された』ようなスピード感です」と変化の大きさを語る。
「Microsoft 365」の利用状況推移からも、その急激な変化を読み取ることができるという。また、コラボレーションツール「Microsoft Teams」のグローバル利用者数は、パンデミックの影響による月間2億5000万人(2021年7月時点)まで増えている。新型コロナの感染拡大以前より6倍近い大幅な増加である。コロナ以前、リモートワークは何らかの困難を抱える働き手に向けた措置と見られていた側面が強い、と岸氏は分析する。例えば、子育てや介護などのため、出社した状態でフルタイム勤務が難しい状況にある人たちに向けた福利厚生の一環として制度が整備され、一般社員利用を制限する企業が多かった。こうした状況が大きく様変わりしたのだ。新型コロナ禍を契機にリモートワークは広く市民権を得たとも言えるだろう。
「多くの企業がリモートワークを体験したことは、従業員それぞれが自分に合った働き方を考えるきっかけになりました。さらに重要なのは、リモートワークを『事業継続のために必要な手段』として位置づける企業が増えたことです。地震や風水害などが多い災害大国・日本においては職場以外の場所であったとしても、一人ひとりが柔軟に働くことができる環境を用意することが必要だと多くの企業が気づき始めています」
事業継続性とビジネス面でのプラスαを両立
日本マイクロソフトがリモートワークを重視したきっかけは、2011年3月の東日本大震災だったという。交通機関が止まって社員が出社できない中でも、コラボレーションツールを活用しながらリモートワークで事業継続を図った。こうした経験を生かしながら2016年5月にはリモートワーク導入にあたって存在した社内的な制約を全て取り払い、生産性向上につなげてきた。
同社とアライアンス関係を結び、さまざまなソリューション提供を図ってきた日本ユニシスグループも、2017年頃から東京オリンピック・パラリンピックに向けてリモートワーク環境の整備を図ってきた。こうした背景の中で、コロナ禍対応の一環としてMicrosoft 365を全社レベルで採用。2020年9月にはグループ約1万名で利用するなど社員一人ひとりの柔軟な働き方を実現するための取り組みとしてシフトしてきた(参考「ニューノーマル時代に加速する「人と組織」のパラダイムシフト」)。Techマーケ&デザイン企画部 プロダクト企画室 クラウド企画課の藤山章江は「当初、オリンピック・パラリンピック対応のために推進されたリモートワーク環境(※)は、コロナ禍を通じて大きく変化したと感じます。実際にリモートワーク中心の生活を経験して、働き方を自由に選択できるようになりました。全社レベルで在宅勤務が可能となり、仕事と子育ての両立が実現しやすくなるなど日々の暮らしに大きくプラスになっています」とその意義を語る。
※日本ユニシスグループは、東京オリンピック・パラリンピックを見据えた「テレワーク・デイズ」(主催は総務省などの中央省庁、東京都、各関係団体。2017年からスタート)の取り組みに主体的に参画してきた。選手村のある東京臨海部の混雑回避とともにテレワークの推進によって働き方改革の実現もその狙いとなっている。
実際に働き方は大きく変わった。サポートサービス本部 DXサポート部 DX適用技術一室の上甲紗千子(じょうこう さちこ)は「出社する従業員は全社で約3割です。今はリモートワーク中心で仕事が進められています」と現状を話す。開発ルームで行われていた開発プロジェクトも、シンクライアントなどを活用してテレワークで進められている。「鍵を使って扉を開けて、認証して入室するデータセンターに通うのとは大きく違います。システムトラブルなどの事態にも在宅で対応ができるなど利便性が向上しました」と続ける。
会議もリモート形式で進められるようになり、ディスカッションのプロセスもリモート化した。メリットがあるのは社内だけではない。社外とのやり取りにも利点がある。開発案件が進む遠距離の顧客とも頻繁に連絡が取れるようになり、ビジネスチャンスが広がっているという。藤山は「システムはAzure上にあるので、物理的な場所を考える必要はありません。いつでもどこでも、どんなデバイスからでもアクセスできます。メンテナンスや更新が不要になることでシステム管理の負担が軽減し、また従量課金でコストが最適化されているのも企業にとって大きな魅力です」と働きやすさとコストの両面におけるリモートワークのポイントを強調する。
一方、日々の自社システム運用に手一杯で、デジタルワークスペースの実現に二の足を踏む企業の担当者も多い。こうした企業にこそクラウドを利用してほしい、と上甲は語る。「クラウド利用によって場所や時間に縛られるような業務負担から解放されるメリットもあります。IT活用を受け身に捉えるのではなく、ビジネスの発展のために機能させていただきたい。そのために、こうした悩みを抱える企業にも受け入れられるアプローチをしていくことも私たちの役目だと考えています」。
「ゼロトラスト」の採用でセキュリティを担保する
クラウド利用に際して、セキュリティの心配はないのだろうか。「仕組み全体を見直すことでセキュリティ強化は可能です。一人ひとりの柔軟な働き方の実現が求められている今、ITに対する考え方を変えるべき段階にあると思います。クラウドの利便性とセキュリティを相反するものとして捉えるのではなく、クラウドサービスの利用をセキュリティ強化のきっかけにしてもらえれば」と上甲は語る。
当初、日本ユニシスにおいてもVPNを利用する形でセキュリティを担保していた。その後、Microsoft 365の導入によって「ゼロトラスト」を確立し、セキュリティ強化に成功した。ゼロトラストとは、アクセスの都度、デバイスと人を確認することでセキュリティを担保する仕組みだ。岸氏は「現在は、セキュリティをネットワークで守る時代ではありません。侵害を前提に考えることが重要です。そのためのアプローチがゼロトラスト。当社はEMSやE5というセキュリティのソリューションを提供するとともに、IDベースのゼロトラストモデルを作るツールも提供しています」と語る。
藤山は「ゼロトラスト環境を整備したことによって、VPNを介さないアプリケーションの利用が増え、業務上のストレスが軽減されました」と実感を話す。日本ユニシスでは、こうした自社の取り組みの中で蓄積したノウハウを生かし、セキュア環境の中で自由にデータを活用できる「デジタルワークスペース」の実現に向け、クラウド活用支援サービス「CLOUDForesight」を展開している。加えてリモートワーク環境の安心・安全をサポートする「Microsoft 365向け導入支援サービス」の提供も2020年12月16日からスタートしている。
上甲は「全てを一気にクラウドに移行するのは難しいのが現状です。教科書的にはいきません。自社で活用してきたノウハウとSIerとしての経験を生かしながら、ハイブリッドでできるところから手を付けて、アーキテクチャー全体を再構築する支援をしていきます」と意欲を見せる。それを受け岸氏は「日本ユニシスは金融業界などセキュリティをより重視し、クラウドに抵抗があるようなお客さまの業務内容に深い理解をお持ちです。こうした企業に向けた最適なモデルの提案についても、ぜひ知見をシェアしていただけたらと思っています」と期待を寄せる。
新サービスがもたらす
新しい価値やメリットを伝えたい
実は、セキュリティ以外にもデジタルワークスペースによるリモートワークには、ある懸念材料がある。それがコミュニケーション上の課題だ。リモートワークにシフトする企業とそうではない企業が二極化する要因の1つにも「コミュニケーション不足が発生することで業績に悪影響が出るのではないか」といった不安があるという。日本マイクロソフトでは、この点を鑑み、リモートワーク導入後の働き方の変化を把握する調査を実施。「Work Trend Index」として2021年3月21日に公開している。調査によると日本の労働者の35%が「仕事でより社会的な孤立感を感じている」という。これは世界平均の27%より8ポイントも高い。
この点について藤山は、「リモートワークではコミュニケーションの取り方が対面とは違ってくる」と語る。確かにリモートワーク下でのコミュニケーション不足が孤立感につながる可能性は高い。孤立感の高さは、組織へのエンゲージメント低下の要因にもなり得る。エンゲージメントの低下によって従業員の自主的行動が減少すれば、業績低下にも結びつくだろう。
エンゲージメント低下を素早く察知し、対策を講じるための措置の1つが労働状況の可視化だ。そうした状況にあっては、Microsoft 365の利用状況から組織や個人の生産性を分析する「Viva Insights(旧Workplace Analytics)」が役立つという。岸氏は「当社もViva Insightsによって、日本法人の従業員の生産性が世界に比べて低いことが分かり、改善策を講じました」と語る。同社では「ミーティングを5名以下でセットする」、「ミーティング時間は30分とする」など具体的な改善策を実施して生産性向上を図っている。この点に加えて注目が集まっているリモートワーク実施上の課題が、疲労感とストレスだ。自宅で仕事をできるが故に際限がなくなり、長時間労働となったりするケースも多い。その原因を明らかにするべく、日本マイクロソフトでは脳波の活動についての調査も実施。各種の原因や対応策などを踏まえ、ソリューションをさらにバージョンアップさせていくという。
こうした点を踏まえ、上甲は「新サービスには導入するだけの良さがあります。例えば、メール主体のコミュニケーションの在り方からコラボレーションツールを用いたチャットに切り替えるときには少し抵抗がありました。しかし、結果的に情報共有の迅速化が実現しつつあります。今後も日本マイクロソフトとの共創の中で、それらのメリットを分かりやすく伝えていきたい」と思いを語る。また、自身も2人の子を持つ親である藤山は、「いつでもどこでも場所や時間を問わずに働けることは、自分の時間の使い方の裁量が広がります。同時に何が一番効率的で生産性の向上につながるのかを常に考え、上手に技術を取り入れながら柔軟な働き方を実現することが必要です。自分自身の経験なども踏まえ、そのための支援をしていければと考えています」と続ける。
最後に岸氏は「今後は日本の各企業も、リモートワークを取り入れたハイブリッドな働き方が主流になるでしょう。そのような展望の中、自宅か会社の二択だけでなくいつでもどこでも働けるような『デジタルワークスペース』という選択肢を持つことは事業継続やビジネススピードの観点でも必要になってくるでしょう。当社では今後も、リモートワークを支援する新しい価値を提供していきます。ご期待ください」と意気込みを語った。