鼎談:SDGsを軸に未来の事業を考える(後編)

妄想力を発揮し、バックキャストで社会課題の解決に貢献する

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2015年、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が国連で採択された。SDGsでは17の目標と169のターゲットが設定されている。いずれも世界的な課題であり、社会全体で取り組むべきテーマだ。最近は、SDGsへの共感と積極的な姿勢を表明する企業も増えつつある。こうした世界的な動きをどのように捉えるべきか。前編に引き続き、SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院教授 蟹江憲史氏と、CSRコンサルティング会社クレアン代表取締役で日本ユニシス取締役(社外取締役)の薗田綾子、そして日本ユニシス代表取締役社長の平岡昭良が語り合った。(以下、敬称略)

>> 前編はこちら

社会に貢献する目標を掲げ
イノベーションの機運をつくる

平岡 SDGsに沿って「この社会課題を解決して、こういう世の中を目指す」と宣言し、世の中をよりよくする目標を打ち出す。企業の真剣な姿勢が伝われば、社内外に共感の輪が広がり、イノベーションへの機運も盛り上がる。それが結果として、企業の持続的な成長にもつながる――というような考え方で、SDGsを捉えることができそうですね。

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 教授
蟹江憲史氏

蟹江 まさにその通りだと思います。例えば、IoTやロボティクスといった新しいテクノロジーを上手に使えば、物流のコストを抑えることができます。それはエネルギー消費の削減をはじめ、効率的な社会づくりに貢献するとともに、イノベーションを実現した企業の持続的な成長にも資するはずです。

平岡 当社が10年ほど前から取り組んでいる、EV関連のプロジェクトを紹介しましょう。EVの充電スタンドを全国各地に設置し、それをネットワークでつなぐというものです。クリーンな社会を目指すのであれば、充電する電気が化石燃料由来ではやや物足りない。そこで、台風に負けない風力発電にチャレンジしているスタートアップを支援するとともに、太陽光や風力などの小規模発電をバーチャルに統合し、1つの発電所として効率的に分配する仕組みの研究も行っています。

蟹江 ぜひとも実現してもらいたいですね。日本の台風でも発電できる設備ができれば、世界のたいていの場所で強風に耐えることができるでしょう。米国の人には「ハリケーンでも大丈夫」と言えば、すぐに理解してくれるはずです。もう1つ、注目したいのはデータです。充電スタンドや発電設備をネットワークでつなぐことで、膨大なデータが生まれます。そのデータは新規ビジネス創出につながるかもしれません。加えて、誰の目にも分かる形で事業のサステナビリティを示すこともできるでしょう。SDGsに基づく目標に向かう上でも、データは極めて重要です。

長期スパンの取り組みで
いかにモチベーションを維持するか

日本ユニシス株式会社
代表取締役社長
平岡昭良

平岡 私たちもデータを非常に重要と考えています。将来的には、充電スタンドや発電設備からネットワーク経由で取得したデータを、他の多様なデータと統合して全体最適化を実現するといったことも可能になるでしょう。例えば、太陽光発電や風力発電のデータは、気象データと組み合わせれば新しい価値につながるかもしれません。ただ、それが持続的なビジネスに成長するまでには10年、またはそれ以上の時間がかかると思います。

蟹江 SDGsの長期的な目標に対して、熱意を維持し続けるのは大変だと思います。ただ、少なくとも投資家の態度は変わりつつあります。社会に貢献する事業、そこにコミットメントを宣言する企業に対して、長期的な視点で投資しようという機運が急速に高まっています。

平岡 その一方で、社員のモチベーションをいかに持続させるか。ビジネスが花開くまでに長い時間がかかると、途中で疑問を感じてしまう社員も出てくるでしょう。実は、スタートアップと一緒に取り組んでいる“台風発電”のプロジェクトでは、なかなか成果が見えてこなかったため、社員から撤退を検討してはどうかというリポートが上がってきました。私は「スタートアップのビジョンに共鳴して応援しようと決めたプロジェクトだから、損得だけでは判断できない。もう一度考えてみてほしい」と言いました。その後、担当者は外部のプレーヤーを巻き込んで、クリエーティブな発想で新しいスキームを提案。期待以上のリカバリーを見せてくれました。

蟹江 すばらしい事例ですね。私が普段仕事をしているSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)でも同じような話があります。SFCにはAIやIoTなど先端分野の研究者が大勢います。その多くが「いつ物になるのか分からない」「本当に物になるかどうか分からない」テーマに取り組んでいます。世の中をよくしたいと思って研究を続けているのですが、なかなか進捗しない状態が続くと、「この研究をやっていていいのだろうか」と思う時期もあるようです。そんな先端分野の研究者たちが、「一緒にSDGsをやろう」と声をかけてくれました。社会に対してどのような貢献ができるのか、SDGsの枠組みを使って具体的にイメージすることができれば、研究者のモチベーションも上がるだろうという狙いです。

薗田 「こんな世の中をつくりたい」というビジョン、あるいはストーリーが問われているのでしょう。それが具体的でパワフルであれば、本人のやる気アップはもちろん、周囲の人たちを巻き込むこともできる。そのためにSDGsを役立てることもできますね。

バックキャストの発想で
社会課題の解決に貢献する

平岡 SDGsの推進に向けて、当社はいくつかの注力領域を定めました。それぞれの領域で、社会課題を解決していこうと考えています。その際、難しいのがバックキャストの発想です。どうしても、既存ビジネスの延長上で解決できそうなテーマを選んでしまう。先ほどの薗田さんの言葉を借りれば、積み上げ方式です。そのような発想を逆転するのは容易ではないと感じています。

蟹江 組織の中で長く仕事をしてきた社員ほど、既存の仕組みの中で物事を考えがちです。そのような思考の枠組みを一度取り払う必要があるのでしょう。そのためには、前提条件を飛び出して考えるためのトレーニング、あるいは場のようなものが必要だと思います。

日本ユニシス株式会社
取締役(社外取締役)
薗田綾子

薗田 社内での評価やアワードのようなものも効果的かもしれません。例えば、新しい発想やチャレンジに対して社長賞を出すとか。認められたと分かれば、本人はもっと頑張ろうと思うでしょうし、周囲へのポジティブな刺激にもなるはずです。

平岡 先日、新入社員研修で「自分たちが解決したい社会課題は何か、どうやって解決するのか」というお題を出しました。新入社員はそれを全社員に向けて発表したのですが、若い人たちの発想は自由で柔軟ですね。農業の活性化や子育てなどのテーマで、いくつも面白い発表がありました。

蟹江 学生と接していて、私も実感しています。

平岡 前編で少し触れましたが、私たちは「社会課題を解決するビジネスエコシステムビジネスの創出」を目指しています。そして、ビジネスエコシステムを実現するためのビジネスアーキテクチャを定義しました。その最上位にあるのが「Foresight」です。直訳すると「予見力」とか「先見の明」ですが、当社では日本語で「妄想」としています。現状の延長上に未来を描くのではなく、「こんなことができればうれしい」とか「こんな世の中にしたい」という妄想から出発して社会課題の解決に貢献したい。そんな思いからです。

薗田 まさに、未来の骨格からのバックキャストですね。すてきな妄想ストーリーをいかに生み育てるか。あらゆる企業が今、問われていることだと思います。

Profile

蟹江 憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授/国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)シニアリサーチフェロー
1969年生まれ。2000年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院 社会理工学研究科准教授などを経て、2015年より現職。日本政府持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議委員、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構「自治体SDGs指標検討委員会」委員、一般財団法人日本建築センター「建築関連産業とSDGs委員会」委員、内閣府 地方創生推進室「自治体SDGs推進評価・調査検討会」委員などを務めている。
平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。
薗田 綾子(そのだ・あやこ)
日本ユニシス株式会社 取締役(社外取締役)
兵庫県西宮市生まれ。甲南大学文学部社会学科卒業。1988年、女性を中心にしたマーケティング会社クレアンを設立。1995年、日本初のインターネットウィークリーマガジン「ベンチャーマガジン」を立ち上げ、編集長となる。そのころから、本格的に環境・CSRビジネスをスタート。現在は、大阪ガス、セブン&アイ・ホールディングス、三菱電機、明治ホールディングス、ユニ・チャーム、横浜ゴムなど延べ約700社のCSRコンサルティングやCSR報告書の企画制作を支援。特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム(Sus-FJ)事務局長、特定非営利活動法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)理事、環境省チャレンジ25キャンペーン関連事業推進委員会委員などを務める。