オリエンタルランド(OLC)グループとBIPROGYグループはさまざまなレベルで、新たな価値創造に向けた取り組みを進めている。例えば、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の「オリエンタルランド・イノベーションズ(OLI)」とBIPROGYグループの「キャナルベンチャーズ(CVL)」は、よりよい社会の創造に向け、協働してスタートアップの発掘や投資活動などの面で緊密な交流を図りながら双方の価値拡大に努めてきた。そして、今後のさらなるオープンイノベーションに向けて、2024年5月にはOLC、OLI、BIPROGY、CVLの4社で最先端技術やトレンドが集積するシリコンバレーを視察。今回は、シリコンバレーの現在と、4社の訪米メンバーが得たオープンイノベーションのヒントやこれからの共創に向けた展望を聞いた。
信頼を礎に、さまざまな場面で共創を実現
――まず読者理解の観点から、オリエンタルランド(OLC)グループとBIPROGYグループはどのような形で共創を実現してきたのかをお聞かせください。
麻畠BIPROGYさまには、各種のシステム開発だけでなく、日本ユニシス時代から30年以上にわたって東京ディズニーランド®の「東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード・ドリームライツ」のスポンサーとしてパークを支えていただいています。誰もが知る軽快な音楽とともに、愛すべきたくさんのディズニーキャラクターたちと無数の美しい光に包まれながら夢のようなひとときを楽しめるこのパレードは、パークの夜を代表するエンターテイメントであり、ゲストの皆さんにハピネスを提供する重要な要素です。また、2001年からは東京ディズニーシー®のオフィシャルスポンサーでもあり、本当にさまざまな形で共創を進める重要なビジネスパートナーとなっています(参考「進化し続けるディズニーブランドの原動力」)。
齊藤麻畠さんは元々エンターテイメントの責任者でしたね。ゲストにハピネスを提供するというパークの世界観や思いは、社会課題の解決を通じて「人と環境にやさしい社会づくりに貢献する」という当社グループの理念に共通しています。早くからスポンサーをさせていただいていることを誇りに思います。また、御社の片山雄一さんにはユーザー会であるBIPROGY研究会の会長を長年務めていただき、BIPROGYのユーザーグループをまとめる重要な役割を担っていただきました。その意味でも感謝しかありません(参考「対談:「ユニシス研究会」――ユーザー企業が主導する人財育成の場」)。
そして、「東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード・ドリームライツ」は当社のブランディングにおいても重要な意味を持ち、この点でもOLCは大切なパートナーです。2022年、私たちがBIPROGYに社名変更した非常にエポックなタイミングには、社名の7色にちなんだ素晴らしいスポンサーフロートの演出で花を添えていただきました。初めて見せていただいた瞬間の感動は今でも鮮明によみがえります。
――2020年の「オリエンタルランド・イノベーションズ(OLI)」設立に際しても、両社グループでは緊密な情報交換があったとお聞きしています。
豊福OLIは、オリエンタルランドグループの新規事業創出を目的として、2020年6月に設立しました。設立の背景としては、舞浜一極集中のリスクを回避するために、新型コロナウイルス感染症流行以前から検討を進めてきたもので、テーマパークの事業によらずとも一本立ちした事業を創出することを目的としています。また、「他社と共創していく道も作りたい」との想いから、CVCという手段を提案し、設立しました。ただし、いざ設立したものの、具体的にどういった組織をつくり、どのような活動をするのか――。これらの試行錯誤の段階から、すでにベンチャー投資に知見のある「キャナルベンチャーズ(CVL)」さまに助言をいただき、活動を進めてきました。今ではお互いに出資先を紹介し合うような関係で、過去には実際に共同出資を行ったスタートアップもあります。
齊藤OLCさまから「CVCを設立したい」とのご相談を受けた際に、「CVLであれば何かお力添えできるかも知れない」と考えて豊福さんに私たちの取り組みを紹介しました。両社グループに信頼の礎があったことで、自然な流れで協力関係が築けたのだと思います。
新しいことが起こり続ける街・シリコンバレーの視察へ
――2024年5月には4社合同でシリコンバレーを1週間ほど訪問されました。その経緯や狙いについてお聞かせください。
麻畠私は、2024年4月に新規事業による価値創造を目指すCVC事業の担当役員に就任しました。先ほど話題に上がりましたが、元々はエンターテイメントの責任者でしたので、これまでとの違いに戸惑う面がありました。「マインドチェンジが必要」と考えていた折に、弊社社長の吉田と齊藤さんとの会食に同席する機会をいただきました。視察はそれがきっかけです。その場で、齊藤さんからCVCの社会的意義や面白さを紹介いただきました。「実際にシリコンバレーを見に行きませんか」との提案をいただき、1週間後には視察が決定していました。
齊藤CVCとしてすでに多様な取り組みを進めていることもあり、シリコンバレーの魅力を知っていただきたいと思ってお誘いしました(参考「鼎談:スタートアップから学び、お客さまと共に未来を創る」)。麻畠さんから「ぜひ!」とお返事いただいたので、すぐにアレンジしました。
――訪問先のピックアップには、BIPROGYグループならではの視点や人脈が生かされているかと思います。どのような点が選定のポイントとなったのでしょうか。
松岡シリコンバレーは、“新しいこと”が起きる街であり、スタートアップ投資を考える上では重要な場所です。今回、ツアーをアレンジする際に重視したのは、最新トレンドのピックアップだけでなく、「日本企業が現地でどのように活躍しているのか」「現地のスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)が日本企業に対してどんな期待感を持っているのか」を肌で感じてもらうことでした。
また、特に実現したかったことの1つは、現地で浸透している「ピックルボール」の体験です。これはテニスと卓球、そしてバドミントンを組み合わせたようなラケットスポーツです。手軽にできることもあって、シリコンバレーでは試合への飛び入り参加によって、起業家と投資家間の新しい人脈づくりのきっかけになっています。CVLの投資先である現地VC「Incubate Fund US」の野津一樹さんの紹介でご案内することができ、交流の幅を広げることを体感できました。
津端今回の視察の大きな目的は、OLCグループの新規事業創出活動の一環として、CVC活動の成功に向けた知見を得ることでした。この観点から、先駆的に投資活動やスタートアップとの協業を推進しているVCやCVCとの対話を通じて今後のスタートアップ共創活動のヒントを得ることに力点を置いて具体的な訪問先を考え抜きました。
最初に訪問したのは、世界最大級のアクセラレーター/VCである「Plug and Play」です。イノベーションプラットフォームとして、スタートアップへの投資のみならず、スタートアップと大企業のよりよい共創のために、業界テーマ特化型のアクセラレーターという形で、スタートアップ、大企業が共創できるような環境を作っています。それらを見ていただいた上でさまざまな企業を訪問しました。
――具体的にはどのような企業を訪問したのでしょうか。
津端先ほどお話ししたPlug and Playの他、VC、CVC、スタートアップなどを複数社訪問しました。視察では、各社の出資前後の取り組み、事業開発支援における共通点や特長などについて具体的にご覧いただけたかと思います。
取り組み方の特長としては、例えば、事業開発と投資を一体にしたモデルを特徴とするVCであったり、業界特化型のアクセラレータープログラムという形でスタートアップと大企業の共創環境を特徴とするVCであったり、また、先ほど紹介したIncubate Fund USの野津さんはXoogler(Google出身者)のコミュニティをリードしながら特にスピード感を持って活動されています。この他、OLCの本業との相乗効果も考えられる生成AIを活用したマーケットリサーチを提供するスタートアップや、セキュリティカメラ映像をAIでリアルタイム分析するソリューションを提供するスタートアップを訪問することにしました。
シリコンバレー視察の様子
齊藤Plug and Playでシリコンバレーの全体感を持っていただき、その上で特色ある個別企業を視察できるようアレンジしました。1週間という限られた時間の中で、現地の雰囲気や文化も感じていただけるように心掛けました。
――視察を通じて、どのような学びが得られたのでしょうか。
豊福訪問をしたスタートアップのマーケティング調査の仕方や、セキュリティの考え方はとても斬新なものでした。生成AIの使い方も感心させられました。すでにOLCの関係部署につないで検討してもらっています。また、今回、シリコンバレーで1週間ほどBIPROGYグループの皆さんと一緒に過ごす機会を通じて、CVLさまから生成AIの活用方法やVCに対する問いかけの仕方などを学べたことも個人的には大きな収穫でした。
何より、スタートアップの聖地であるシリコンバレーの人材の豊富さや、“目に見えないエネルギーの強さ”を肌で感じ取ることができたのが一番印象に残りました。熱意を持った人材が密度高く集積しているからこそ、人と人との交流の中で頻度高くビジネス関係が構築されることも現地ならではだと感じました。例えば、子どもたちのネットワークから入り、その親御さんも含めたバーベキューを開き、交流する中で投資先を見つけるとの話も聞きました。また、ピックルボールも貴重な経験でした。野津さんは、投資前に投資先候補と必ずプレーすると聞きました。実際体験してみて「相手と息が合うか」「空気感が似ているか」などを見抜く場面として有意義であることも確かにと頷けます。
麻畠順番まで考えて丁寧に訪問先をアレンジしていただいたことで、私にとってマインドチェンジをもたらす有意義な旅となりました。まず世界最大級のアクセラレーターを視察し、多国籍なイノベーション活動を目の当たりにすることでシリコンバレーの空気を肌で感じ、その上で、日米市場を中心にグローバルに活動するVCや最先端の技術をもったスタートアップを訪問することで、スタートアップの環境について構造を捉えながら体感することができました。また、スタンフォード大学では起業家を輩出し続けるイノベーティブな雰囲気が感じられ、何気ない街角のコーヒー店で過ごす時間にもビジネスマッチングがなされる姿を目にするなど、街を歩くだけでエネルギーが感じられて、都市全体が有機的に躍動していることが実感できました。
もう1つ感じたのはBIPROGYグループの風通しの良さです。視察を通じて1週間ほど同じ時間を過ごさせていただきましたが、役職に関係なく意見交換ができることは、組織の発展において大変重要なポイントだと改めて実感し、感銘を受けました。
予測不可能な時代をオープンイノベーションで切り拓いていく
――今回の視察経験をどのように生かしていくのでしょうか。最後に、お一方ずつ今後の展望についてお聞かせください。
豊福シリコンバレーには、数多くの人的ネットワークが張り巡らされていることがわかりました。その環境を体感する中で、国内外関わらずOLIは“選ばれるCVC”になる必要を強く感じました。現在OLIでは、リアルビジネスの強みが活かせるOMO(Online Merges with Offlineの略称。オンラインとオフラインの融合を指す)の領域にフォーカスして取り組みを進めたいと考えていますが、単にリアルとデジタルをつなぐのでは、私たちの強みである人材やホスピタリティが生かしきれないと考えています。我々の強みの生かし方を確立し”選ばれるCVC”へと進化を続けることで、私たちが持つリアルの強さが息づくOMOが実現され、より洗練された体験をお客さまに届けることができるのではないかと期待しています。また、シリコンバレーでは一人ひとりが意思ある「個人」として活躍する姿を間のあたりにしました。OLIとしても、多彩な力を持つ個人が意欲的に活躍できる環境を整え、個人と会社の強みを掛け合わせられるCVCを目指したいと思います。
麻畠今回の視察を通じて「OLCグループらしいオープンイノベーションに挑戦したい」との思いを新たにしました。これまで、私たちは唯一無二の世界観を築きあげてきた自負はありますが、今、事業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした時代の変化に合わせて、変わるべきところは変わるべきで、その実現のカギはオープンイノベーションにあると感じています。豊福が触れたように、私たちの強みの1つは多彩な人材です。OLIを通じてスタートアップとの共創を発展させ、一人ひとりの力を引き出しながらお客さまのさらなるハピネスにつながる新たな価値の創出・提供を進化させていきます。オープンイノベーションを数多く実現されているBIPROGYグループからこれからも色々と学ばせていただき、共創の輪を広げていければと考えています。
津端2017年にBIPROGYグループのCVCであるCVLを立ち上げて以来、スタートアップや国内外のVC、アクセラレーター、大学/研究開発系のインキュベーターなどとの連携を通じ、新事業創出を持続的に行うための情報収集や人財育成、ネットワーク構築活動を推進してきました。スタートアップとの連携が新規事業創出の手段として、社内の理解も広がってきたと思いますし、お客さまとスタートアップとの実証実験や連携検討なども継続的に推進しています。今回の視察でネットワークや人脈を広げ、最先端のトレンドも実感できました。今後も、こうした取り組みを持続し、スタートアップを軸にした新しい事業創出を加速させていきます。
松岡これまでもCVLはBIPROGYグループのCVCとしてさまざまなCVCと交流してきました。これらを基礎に確かな価値創出につなげてきたことで、“選ばれるCVC”に進化しています。その知見を最大限に活用した今回のシリコンバレー視察は、OLCグループとのリレーションシップ強化にもつながりましたので、この点でもCVLの歩みに確かな手応えを感じています。異なるステークホルダーが交流し、新たな価値創出に向けた掛け算ができれば可能性は広がります。これからもCVCの仲間と手を携えて、さらに実りある取り組みを進めて行きます。
齊藤今回、新たな価値創造に向けたエネルギーに満ちたシリコンバレーに、OLCグループの皆さんとご一緒できて色々な気づきをいただきました。OLCグループは、これまでもさまざまな企業との共創や意欲的な取り組みを通じて多くの方々に夢と感動を提供してきました。そして、それらを支える多彩な人的資本も有しています。ここにオープンイノベーションが加わることでさらに強固で魅力ある企業になるでしょう。また、クルーズ船事業のような「あっと驚く」ことにも踏み出し、パークの域を越えて社会にハピネスを提供されようとしています。こうした姿勢を、パートナーとして改めて見習うことは私たちにとって社会課題をエコシステムで解決するための大きなヒントとなり、未来に進むための力となります。今後もBIPROGYグループとして、その挑戦に伴走し、よりよい社会の創造に向けて価値を創出し続けていきたいと思っています。