地方銀行の未来を担う「データ活用人材」を発掘せよ!

地銀DXの要、データドリブン経営を進めるポイントとは?

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利用者の利便性向上や新たな体験価値の提供を目指して、全国の地方銀行ではDXに取り組んでいる。そこで、今重要性を増しているのが、地域データを活用した「データドリブン経営」と新サービスを生み出せる「データ活用人材」の登用だ。BIPROGYでは 、地銀各社に勘定系システムやデータ活用プラットフォームを提供するとともに、データ活用人材の発掘と育成支援を行っている。2023年10月から2024年1月にかけては、金融機関のデータ活用を支援する「一般社団法人 金融データ活用推進協会(以下、FDUA)」などと協力して「BIPROGYデータ活用チャレンジ」を実施。各種の研修やコンペティションを通じ、地銀内でのデータ活用の機運醸成とデータ分析の内製化に必要なスキルアップを図った。今回は、FDUAの岡田拓郎氏、永山恒彦氏、小泉亘氏をゲストに迎え、「BIPROGYデータ活用チャレンジ」の概要やコンペティションの表彰式の模様を交えつつ、「地方銀行のデータ活用のカギはどこにあるのか」をテーマに考察を深めたい。

ヘッドライン

地銀が対応すべき経営課題として存在感を増す「データ活用」

――一般社団法人 金融データ活用推進協会(以下、FDUA)では、金融機関のデータ活用を支援していますが、地銀をはじめとした金融業界ではどのような変化が起きているのでしょうか。

写真:岡田拓郎氏
一般社団法人 金融データ活用推進協会
代表理事 岡田拓郎氏

岡田金融業界では、これまでもFinTechなどのテクノロジー活用を進めてきましたが、この1年で特に大きく環境が変わりました。DX推進の手段の1つであった「データ活用」が重要性を増してきたのです。その背景には、生成AIの登場があります。生成AIは金融業界にとって破壊的なインパクトをもたらす可能性があり、「本格的にデータ活用に踏み出さないと生き残っていけない」という認識が広がりつつあります。

金融機関は、他業種にはない豊富なデータを持っています。例えば、氏名や住所、年齢、性別、家族情報などの属性データから取引情報、預金、支払い情報など多岐にわたります。これまでは、データという“宝”をどのように生かすのか各金融機関で本気度に差がありましたが、今では経営層も現場担当者も危機感を持って取り組む姿が目立ち始めました。少子高齢化や人口減少などの地域課題に直面する地銀でも、生成AIをはじめとした先端技術の登場・普及によって「地銀の持つデータを活用してお客さまの課題解決を図ろう」とする機運が着実に浸透している印象です。

――変化を受けてどのような動きが活発化しているのでしょうか。

岡田例えば、人材育成の分野では、経営層がデータ活用人材の重要性に着目するようになりました。このため、その素養を身に着けてもらうべく行員に対してFDUAの主催するプログラミング・コンペティションへの参加を促すようになりました。私たちは単にデータ活用人材を育成するだけではなく、未来を担う人材を発掘することにも力を入れています。

――FDUAでは、幅広い金融機関向けに「金融データ活用チャレンジ」も開催していますね。

写真:永山恒彦氏
一般社団法人 金融データ活用推進協会
データコンペ委員会 委員長 永山恒彦氏

永山当協会は、金融業界全体のデータ活用水準を引き上げるために金融機関の実務目線から生成AIやデータ活用の推進に取り組み、2023年から「金融データ活用チャレンジ」と題したデータ分析コンペティションを行ってきました。2回目となる今回のチャレンジは「Japan FinTech Week」の連携イベントとして開催し、金融機関所属のプログラミング初学者を多数含む1562名が参加しました。参加者層の裾野拡大からも金融機関全体としてデータ活用に対する関心の広がりが伺えます。チャレンジの締めくくりには表彰式を開き、優秀な個人やチームのノウハウを共有すると共に、参加者間のネットワーキングも促進しています。その狙いは大きく2つ。金融機関においてデータ活用人材を増やしたいという思いと、未来を担う学生たちに金融業界の魅力を発信したいという思いからです。

写真:小泉亘氏
一般社団法人 金融データ活用推進協会
事務局 次長 小泉亘氏

小泉金融データ活用チャレンジの他にも、FDUAは「データ活用で何ができるのか」を広く知ってもらうために多様な企業・団体が交流する機会を提供しています。実際にデータを活用して分析することで、思いもしなかったことができることが分かると、皆さんのデータ活用に対する関心や向き合い方も変わるからです。

地銀を横断したコミュニティを作り、データ活用人材を発掘・育成していく

――BIPROGYとしては、地銀のデータ活用をめぐる動きをどのように見ているのでしょうか。

写真:中藤裕
BIPROGY株式会社 ファイナンシャルサービス
第三事業部 営業三部 第一営業所所長 中藤裕

中藤豊富なデータを持ちながらも、「投資対効果がはっきり見えない」「社内にデータ活用のノウハウを持った人材がいるのか分からない」などの理由から、地銀が本格的にデータ活用に踏み出せない状況をもどかしく見ていました。人材確保の面では、経営層と現場に認識のギャップがあり、データ活用そのものについても銀行によって差があるように感じていました。

それが、現在は「データを生かしてどのようにお客さまの課題解決を図れるのか」という方向に風向きが変わったと感じています。こうした背景も踏まえ、2022年4月からは「データ活用プラットフォーム」の提供を開始しました。今回、さらに一歩を踏み出すため社内での協力も仰ぎながら「BIPROGYデータ活用チャレンジ」を開催し、地銀のデータ活用人材の発掘と育成支援により深く力を入れていくことにしました。

「BIPROGYデータ活用チャレンジ」の概要

「BIPROGYデータ活用チャレンジ」の概要図
写真:柴谷智之
BIPROGY株式会社 ファイナンシャルサービス第三事業部
営業三部 S-BITS企画室 柴谷智之

柴谷地銀のビジネスモデルは、金融業務だけでなく地元企業への各種コンサルティングやDX支援を通じて地域活性化を図るスタイルへ変化しています。そこでは、地銀の持つ多様なデータの活用がカギです。当社がデータをお預かりして分析することもできますが、それでは現場ニーズとの乖離が生まれるかも知れません。地域特性を熟知して、業務を理解している地銀自らがデータを分析できるようになることが地域の持続的な成長につながります。そこで、私たちは今回の取り組みをはじめとして地銀のデータ活用人材の育成をしっかり支援していくスタンスをとっています。地銀が地元企業の各種コンサルティング活動を行う上でもデータ活用人材が大きな役割を果たすと考えています。

――「BIPROGYデータ活用チャレンジ」 の具体的な取り組みについて教えてください。

柴谷今回は、私たちが提供する勘定系システム「BankVision」利用行(6行38名※)を対象として実施しました。地銀のデータ活用人材の発掘と育成を目的に、プログラミング研修やその成果を競うコンペティションなどを行いました。初学者も多かったので、いきなりプログラミングを行うのではなく、まずスキルアップのためにノーコード開発のメニューを提供してデータ活用の有効性を理解するところから学んでいただきました。

  • BIPROGYデータ活用チャレンジへの参加行は、山梨中央銀行、スルガ銀行、大垣共立銀行、紀陽銀行、佐賀銀行、鹿児島銀行の6行

研修プログラムとしては、10月から3か月間にわたってeラーニングと集合研修を併用してスキルアップを図り、12月から2024年1月にかけてコンペティションを開催しました。コンペティション期間中は交流会を開催し、データ活用の各種取り組みや課題を共有しました。これらを通じて、各地銀を横断したデータ活用人材のコミュニティを形成でき、作成したAIモデルも共有できたことは大きな成果だったと思います。

「BIPROGYデータ活用チャレンジ」表彰式の様子

写真:「BIPROGYデータ活用チャレンジ」表彰式の様子
2024年1月12日に実施された「BIPROGYデータ活用チャレンジ」の表彰式。「カードローン契約見込み先の抽出」をテーマに、取引情報や顧客情報などの顧客データを用いて、カードローンを契約する確率が高い顧客を抽出するAIモデルを作成する形でコンペティションが行われた

――「BIPROGYデータ活用チャレンジ」ではどのような点が特に印象的でしたか?

写真:横田賀恵
BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AIサービス部
RINZAサービス室長 横田賀恵

横田コンペティションでは、私たちが提供するコンペ用のデータを基礎にカードローンを契約する確率が高い顧客を抽出するAIモデルを構築し、顧客リストを作っていただきました。作成に際しては、ノーコードでAIモデルを構築可能な「Azure Machine Learning デザイナー」を用いています。表彰では、「ビジネス視点でデータを捉え、業務で生かすにはどうしたら良いか」をより具体的に突き詰めたチームが優秀な成績を収めました。普段、私自身はデータサイエンティストとして多くの事例を見ますが、現場を知っているからこその発想には本当に感心させられました。

岡田今回の取り組みを通じて、改めて地銀の可能性を感じました。地銀には 、「地域を活性化させたい」という志を持った人が入行しています。地銀出身の私自身も大切にしている思いでもあります。今回のコンペティションでは、横田さんのおっしゃるようにとても素晴らしい成果が得られました。また、先ほど永山からもありましたが、FDUAのコンペティションでも、参加者同士のコミュニティ交流が自身の所属する金融機関などの課題解決につながっているとの声を聞きます。BIPROGYが、地銀のビジネスパートナーとしてコンペティションを主催し、コミュニティを形成していることには価値があります。全ての地銀が参加するべきだと思うくらいです。

データ活用人材が伸び伸びと育つ環境整備は、経営層の役割

――地銀のデータ活用をさらに推進していくために必要な視点とはどのようなものでしょうか。

岡田経営層の意識やマネジメントの在り方がさらに進化する必要性を感じています。これまで、地銀も含めた金融業界は業務の経験値が高い人が上位の職位に就く「年功序列」の傾向にありました。しかし、データ活用や生成AIをビジネスに駆使する世界では、デジタルネイティブ世代でもある20~30代が優秀だったりするケースもままあります。だからこそ、 経営層の役割は、若い人が力を発揮しやすいような組織の改編や、人材配置、予算確保、キャリアパスの整備などを進めていくことではないでしょうか。

写真:綿林寛資
BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AI事業推進部
ビジネス企画室長 綿林寛資

綿林全国の地銀では、徐々にデータ活用や各種サービス開発・運用の内製化に向けた取り組みが始まっています。ただ、人事異動などでデータ活用の実践が途切れてしまうケースも見られます。データ活用人材が育つ「実践の場を確保する」という意味では、これまで“当たり前”と考えられてきたジョブローテーション制度にも課題があると考えています。今後は、専門人材が育つためのキャリアパスも必要になるでしょう。

小泉その意味でも、経営層が自らDXやITトレンド、リテラシーのキャッチアップを図り、トップダウンで人材育成を進めていく姿勢が重要になります。「BIPROGYデータ活用チャレンジ」を通じて、地銀の中でもデータ活用に関心を持つ方が広く存在していることが分かりました。まず経営層が現状を見直すことから始め、その上で社員にスキルアップを求めていくのが成果につながるのではないかと思います。

岡田今回の取り組みの大きな特色は、データ活用人材の発掘・育成はもちろんですが、地銀横断でコミュニティの醸成を図った点にあります。経営層にはこうした社外との交流の重要性を認識してほしいと感じます。自行以外のコミュニティに参加して交流することで、普段得られない気づきを得ることができ、課題を共有することには大きな価値があります。それがデータドリブン経営の実践に向けた自行の課題解決の近道にもなるはずです。

――今後はどんな展開をお考えでしょうか。

横田データ活用は、経営を良い方向にする手段の1つであり、その目的は「意思決定力の強化」です。この発想から見たとき「誰もが身に付けるべき素養の1つ」とも言えます。BIPROGYとしては、その裾野を広げるべく「組織としてデータ活用人材をどのように発掘・育成していくのか」という視点からの支援もしていきたいと考えています。

綿林地銀同士が課題を共有し、解決のヒントを探ることは大変有効です。お互いに情報交換していきたいとのお気持ちもあるかと思います。こうした横の連携の拡充も支援していきます。

柴谷今回の取り組みでは、日々お客さまと交流する地銀の現場の方たちにもデータ活用のプロセスを学んでいただきました。初学者の方もいましたが、熱心に学ばれ、ゼロからプログラムを組んでいます。今後は、こうした現場をよく知るデータ活用人材のスキルアップが重要な視点です。そのご支援をさらに拡充していきたいと考えています。

中藤今、地方は消費需要だけでなく、人材供給も不足している状態です。データ活用で生産性を向上させていくことは喫緊の課題です。今後は、実際のビジネスに応用させる力やスキルを高めるためのコンペティションの企画や、参加行さまを弊社勘定系システムの利用行さま以外にも拡げるなど、その規模も拡大していきたいと思います。また、データ活用人材コミュニティのさらなる展開を通じ、そこで生まれた成果を共有化して地銀のデータ活用を支援していきます。

永山FDUAとしては、各種の取り組みを通じてさらなる人材発掘・育成に取り組んでいきます。冒頭にもありましたが、生成AIの登場によって金融機関を取り巻く環境は大きく変化し、今後もデータ活用人材に対する期待や需要がより高まると考えているからです。

小泉発掘したデータ活用人材の力を金融機関や企業の課題解決に生かすには、未来を見据えたキャリアパスの構築やIT環境の整備が必要ですが、まだ不十分だと感じています。そのためのさまざまな取り組みを継続していきたいと考えています。

岡田その第一歩としても、データ活用チャレンジを引き続きBIPROGYと一緒に盛り上げていきたいと考えています。将来的には、この挑戦が「金融データ活用甲子園」と言われる存在として世の中の興味・関心を集めるような取り組みに育つことが私の夢です。表彰されたらニューヒーローとして注目され、地元で何十年も自慢できるくらいになれれば、埋もれているデータ活用人材にスポットが当たり、データ活用がどんどん広がると思います。

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