「Live kit」の活用で広がる「ワイン×ライブコマース」の可能性
ソムリエとBIPROGYが創る「新たなファンコミュニティ」のあり方
コロナ禍を経て、ライブ配信とECを組み合わせたライブコマースに期待が集まっている。BIPROGYでも2021年からこの新たな販売手法のプラットフォームとして「Live kit」を提供し、ノウハウを蓄積してきた。そして、ポストコロナの時代を迎えた今、Live kitは新たな段階へと進化を遂げようとしている。その好例となるのが、“ワイン業界の革命児”と言われる株式会社ソムリエによる活用方法だ。同社はライブコマースを「ファンコミュニティ醸成の場」と捉えてユニークな取り組みを続けている。今回は、株式会社ソムリエ 代表取締役の守川 敏氏と同社でライブコマースの運営を担う般若雄飛氏、BIPROGY Live kitチームの柳沢博一の鼎談から、ライブコマースを通じ、販売者とお客さま、そしてお客さま同士にまで拡大するコミュニケーションの可能性を考えてみたい。
ワイン業界での飛躍を目指す改革の一環として、ライブコマースを導入
――株式会社ソムリエはワイン事業と飲食事業の2軸でビジネス展開されています。その事業変遷について教えてください。
守川ワイン事業そのものは、飲食事業と不動産事業を展開する株式会社トゥエンティーワンコミュニティの一部として1996年にスタートしました。私がワイン好きだったのでワインのECショップを立ち上げたのですが、当初はうまくいかずに「社長が趣味で始めたビジネス」と見られがちでした。
その後、2009年に現在の本社ビル(六本木)取得をきっかけに「改めて本腰を入れよう」と考え、“ワインと食の総合ビル”というコンセプトに基づいて店舗ビルの装いを新たにしました。併せて、それまでのワイン輸入販売とECショップの運営に加えて飲食事業も立ち上げ、各店舗を次々とオープンさせていきました。
2023年11月には、ワイン事業の拡大に伴ってトゥエンティーワンコミュニティから分社化し、株式会社ソムリエを設立しました。現在、ソムリエが運営する飲食店は、ワインショップに加えて、イタリアンレストラン「Sakura」、高級和牛レストラン「六花」、ブーランジェリー「ラトリエ・デュ・パン」、パティスリー「ココ・アンジュ」と多岐にわたっています。
――分社化した時に「4年後の株式上場を目指す」とメディアで語られていましたね。
守川上場を目指すことを掲げたのは、ある種の企業戦略です。元々当社はB2CのECショップに特化したビジネスモデルで、比較的のんびりとした社風でした。しかし、それではワイン業界や飲食業界の中で飛び抜けた業績を達成できません。そこで上場を目標に掲げて業務改革に取り組んできたのです。
「4年」としたのは、最短でも上場までに4年はかかると考えたからです。そのために人事や総務など管理部門の体制を整え、飲食店向けのB2Bビジネスを拡大するために営業担当者を増員し、マーケティングも強化してきました。その一環としてライブコマースを位置付けています。大手インポーターと比べて細やかな営業活動ができる点も強みにB2Bビジネスのシェアは拡大し、業績は急速に伸びています。今後も毎年30名ペースで営業担当者の採用を続けていく予定です。
初めてのライブコマースへの挑戦。手厚いサポート体制のおかげで安心できた
――BIPROGYとの取り組みはどのように始まったのでしょうか。また、どのような点が経営課題となっていたのでしょうか。
般若コロナ禍が大きな転換点でした。飲食店の売上が激減し、B2B販売を行う当社も大きな影響を受けました。しかし、そうした状況下でも業績を維持できている取引先がありました。その店は、ライブコマースをうまく活用していたのです。
「業績に貢献できるのであれば試してみる価値はある」と考え、当社でもやってみようと思いました。そして、EC事業部で楽天市場店の運営を担当していた私が中心となりライブコマースの配信サービスを片っ端から調べました。そこで見つけたのがBIPROGYの「Live kit」です。こちらから問い合わせをしたことで、お付き合いが始まりました。
――Live kit選択の決め手はどんなところにあったのでしょうか。
般若他のサービスと比較しても、Live kitの方が断然使いやすい印象でした。何よりも大きなポイントは、顧客データの集め方が当社の業態に合っていたことです。基本的に、他のサービスは商品の登録から決済までをサービス内で行い、受注データのみを当社が受け取り、商品を発送するものでした。Live kitもその方法を選択できますが、「お客さまが配信画面から直接当社の公式通販サイトに遷移し、注文、決済していただく」という点に魅力を感じました。
例えば、ライブ配信を視聴してくれたお客さまが、購入に際して別のサービスで決済すると、当社はお客さまの決済情報を保全することがかないません。お客さまのデータは私たちにとって宝であり、マーケティング施策の高度化のためにも決済情報は特に自分たちが持っていたいデータと考えています。Live kitであれば、この課題を解決する方法が明瞭で何よりのメリットでした。
また料金体系の面でもトライしやすい上に、初めてライブコマースに取り組む私たちを丁寧にサポートしてくれたことも決め手の1つです。複数サービスの比較検討のために資料請求をすると、デモ配信のサービスを提供してくれて、手ぶれ補正カメラやワイヤレスマイクなど高品質な動画を配信するのに必要な高価な機材も貸し出してくれました。大変頼もしかったですね。
――実際にLive kitを利用した感想をお聞かせください。
般若こういうサービスの多くは、契約後は「ご自由に設定して使ってください」と放置されてしまうイメージを持っていたのですが、Live kitは全く違いました。配信画面で分からないことがあり、問い合わせるとその都度親身に対応してくれました。何より感激したのが、初めてライブ配信をした時です。配信終了後まで、サポートの方が配信の現場で待機してくれていたのです。手探り状態で取り組んでいたので当初は不安もあったのですが、安心して配信することができました。
柳沢配信が終わった後はベンダー視点ではなく、一視聴者としての視点から次に向けた課題をまとめて、簡単なレポートを提供しています。私はこれまでもBIPROGYでB2C商材を担当してきたため、知見を生かしたフィードバックを盛り込ませていただいています。ライブコマースは配信するコンテンツだけで完結するものではなく、次のアクションにつながるPDCAを回しながら改善してこそ、その真価を発揮するものです。レポートにはそのためのアドバイスも盛り込んでいます。
般若レポートはフル活用しています。社内向けのグループLINEにはレポートにあった報告や提案も多く投稿しています。レポートには良かったところだけではなく、悪かった点、改善するべき点まで率直に指摘されているのが有難い点です。
Live kitが担うのは「ファンコミュニティ醸成」の役割
――これまでの手応えをお聞かせください。
般若2023年9月にトライアルプランを利用して初めてのライブ配信をしてから、これまでに計8回のライブ配信をしています(2024年9月時点)。初めは配信ごとに契約する単発のプランだったのですが、2024年1月からは5回パックのプランに移行しました。
楽天市場店の運営担当でソムリエ資格を持つ私が台本を作って、当日参加する社内メンバーを募り、お客さまへはメルマガで開催を呼び掛けてライブ配信に臨んでいます。お客さまと一緒にリアルタイムでワインを楽しむ忘年会や新年会の配信も企画、実施しました。
守川「ライブコマースをやりたい」という提案を般若から受けた時には、本当に売上につながるのか、正直疑問はありました。しかし、忘年会のライブ配信を視聴者として観ていて「これは本質的に通販とは違う。売上を上げることより、この活動を通してお客さまとコミュニケーションの場を持てることが重要なんだ」と気付きました。ワインをリアルタイムで一緒に楽しむことで、私たちとお客さまだけでなく、お客さま同士のコミュニケーションも生まれています。
配信のための費用や時間、手間は少なからずかかりますが、ファンコミュニティをつくることで新規のファンを獲得するだけではなく、既存のお客さまともより深くつながることができています。こうしたファンコミュニティの活動はブランディングの一環であり、将来的には業績にも大きく貢献してくれるはずです。般若を中心に配信を盛り上げてくれているおかげで、最近では社内のメンバーまでライブ配信を楽しみにしているんですよ(笑)。
柳沢「ライブコマースがブランディングにつながる」実感はソムリエさまとの取り組みから教えていただきました。ライブコマースはテレビショッピング的な感覚で捉えられがちですが、著名人を使って視聴者を集めて売上につなげるアプローチだけではうまくいかないと思っています。ソムリエさまが3回目にお客さまと一緒にワインを飲む忘年会を企画したのを観て、「なるほど、これこそライブ配信の醍醐味だ」と思いました。
守川企画にはさまざまな工夫を凝らしています。ディスカウントセールばかりのライブ配信は飽きられてしまいますし、ブランディング面でも良いこととは言えません。この点を意識してプログラムを考えています。
般若楽天市場主催のライブ配信も活用していますが、配信30分の時間制限や楽天ポイントのキャンペーンの一環として実施されるため、こちらはお買い得商品の紹介をメインにするなど、使い分けを意識しています。一方のLive kitの配信では、常連の視聴者さまも増え、私たちスタッフが一所懸命にワインの世界を案内している、その熱意を感じていただくことに重きを置いています。
リアルとデジタルを連携させてお客さまとのコミュニケーションを深める
――Live kitの活用を通じた今後の展望についてお聞かせください。
守川今後長い目で見ると、価格競争のみに優位性を見出す販売手法は限界を迎えるでしょう。販売者の介在価値が重要性を増す一方で、ECショップはページを作り込んでもリアル店舗と違って接客に限界があります。
しかし、ライブコマースであれば、工夫次第でお客さまとのつながりを深めることができます。この点、ライブコマースの真価は「ブランディングとコアなファンづくりにある」と考えています。今後は、ワインの魅力を深く知ってもらうためにYouTube上で実施している世界各国のワイン生産者と日本のお客さまをつなぐライブ配信をLive kitでも実践できるように準備を進めています。これが実現できれば、提供するコンテンツの内容次第で、ワインのさらなる魅力発信だけでなく、集客と売上確保がより充足していくのではと考えています。
ライブコマースは、リアルタイム参加が必須となるだけに、直前告知を行い、より多くの方に気付いていただくことも必要です。今までは、その点での綿密な発信がしっかりできていませんでした。お客さまに気付いていただきやすい、SNSを活用した定期的な告知や直前のアナウンスによって改善していきたいですね。
般若こうした観点から、SNSとの連動も強化していきます。最近、当社に新しく広報部ができ、これまでうまく活用できていなかったSNSの運用強化も模索しています。今後は、ライブコマースとの連動によりインタラクティブな情報を発信して露出を増やし、集客力を高めていきます。併せて、他のお客さま接点も併用して、メルマガ読者には1時間前までに、LINEの登録者には15分前にライブコマースの開始の告知をするようにしています。これもBIPROGYからのアドバイスで始めました。
柳沢考えるだけでなく、実践に移していくその行動力がソムリエさまは本当に素晴らしいと感じます。なぜなら、「売上にダイレクトに反映されない」との理由でライブコマースをやめる企業もあり、それは、本当にもったいないと思うからです。配信中はECショップへ遷移しなかったとしても、後日リアル店舗やECショップで商品を購入する人もいるはずです。ライブ配信が、購買動機はもちろん、ファンづくりのきっかけになる可能性は大いにあります。BIPROGYでは、「どのようなタッチポイントからどれだけ売上に結びついたのか」など、顧客生涯価値(顧客が企業と取引を開始してから終了するまでの全期間で、その顧客が企業にもたらした総利益)を知るためのデータ分析支援なども行っています。
守川心強いです。企業としてのサスティナビリティを高めるためには、コアなファンコミュニティの形成が重要だと強く感じています。ライブコマースには、新たな顧客開拓だけでなく、コミュニティを育てる力となる可能性を感じています。ただ、越えていくべきハードルはまだまだ高いのが現実です。専門スタッフも不足していますし、時間とコストも私たちにとって限られた資源です。スマートに継続していける仕組みづくりもぜひご提案いただけたらうれしいです。今後ともよろしくお願いします。