インバウンド需要が急拡大したこともあり、サービス態勢が十分に整っていない分野も少なくない。こうした課題を解消することで、より大きなチャンスを手にすることができる。日本ユニシスは旅マエ、旅ナカなどの各段階で、パートナー各社と連携してインバウンドビジネス創出に向け新たな取り組みをスタートさせた。
旅マエから旅ナカ、旅アトの好循環をつくる
2016年の訪日外国人の数は約2400万人に達し、2017年はこれを上回るペースで推移している。インバウンド消費は2016年で3.7兆円を超え自動車部品や鉄鋼などの主要輸出品目を凌駕する規模に達しており、観光業界のみならず、日本の様々な業界にとってインバウンド需要は大きなビジネスチャンスを提供している。
こうした中で、インバウンドビジネスに改めて向き合おうとの機運が高まっている。外国人への対応を見直し、課題を1つずつクリアすることで、より大きな成果を収穫することができるはずだ。
日本ユニシス 執行役員
CSV開発機構理事
八田泰秀
「供給側はともすれば、いいものを押し付けようとしがちです。そうではなく、旅行者の目線に立って、『何のために日本に来たいのか』、『何を求めているのか』といったことを考えることが重要」と語るのは、日本ユニシスの八田泰秀である。
顧客視点で考える際、カスタマージャーニーがよく用いられる。ジャーニーの各段階で、顧客にはどんな困りごとがあるのか、何を求めているのかを考えるというアプローチだ。訪日客を対象にした場合、「プレ旅マエ」→「旅マエ」→「旅ナカ」→「旅アト」という流れがある。旅アトの感想にSNSなどに投稿して、旅行を検討中の誰かに影響を与える場合も多い。一連のサイクルを好循環させることが、インバウンド需要のさらなる拡大につながる。
「プレ旅マエと旅マエでは、外国人にとって魅力ある旅行の企画づくり、的確な媒体でのプロモーションなどがポイント。旅ナカでは、旅行者の予定外の要求や行動への対応力、ニーズとのアンマッチの解消などが求められます。旅アトではポジティブなSNSの拡散が重要ですが、その前提は旅ナカでの好印象でしょう。好印象を与えることができれば、帰国後の越境ECなどの需要喚起にもつながります」と八田は言う。
中国圏へのプロモーションをシネアドを中心に展開する
インバウンドビジネスの創出に向けて、様々な企業が知恵を絞っている。その一例が、一般社団法人CSV開発機構によるチャレンジだ。CSV開発機構には日本を代表する数々の企業が名を連ねており、日本ユニシスも参画。新しい発想で旅マエから旅ナカ、旅アトまでをトータルにサポートしようとの取り組みが進行中で、日本ユニシスは中国圏でのプロモーション、戦略立案に生かすためのデータ収集などを担っている。
日本ユニシスの注力分野の1つが、旅マエ段階での働きかけである。日本に興味を感じてもらい、訪問へのきっかけをつくる。それがすべての出発点だ。「知らない」「興味がない」の状態のままでは、何も起こらない。そこで、日本ユニシスが注目したのが中国圏でのシネアドである。
「旅マエのプロモーション手法としてはSNSやフリーペーパーも重要ですが、特に中国圏ではシネアドの効果が高いと考えています。中国のシネアド市場は世界1位で伸び率も高い。巨大スクリーンと迫力あるサウンドで長尺CMを展開できること、集中して見てもらえることなど、シネアドには様々なメリットがあります」と八田は説明する。
日本ユニシスは中国本土で非常に大きなシェアを誇るシネマコンプレックスと連携、1億人を超える年間来場者へのアクセス経路の活用が可能であり、このチャネルを生かして、今後インバウンド需要に訴える映像コンテンツを中国圏などで展開する予定だ。
コミュニケーションと決済
訪日客の困りごとを解消する
旅ナカ段階での取り組みとしては、「WaviSaviNavi」がある。これは、外国人旅行者とのコミュニケーションをスムーズに行うためのアプリ。食べ方の作法から各メニューの内容などを複数言語で案内するというものだ。
「板前さんはそれぞれの料理にこだわりがあると思いますが、それを外国人に伝えるのは大変です。これを使えば料理の説明だけでなく、こだわりなども伝えることができる。外国人が初めての料理をメニューで見たとき、よく分からなければ注文しないという反応が普通でしょう。WaviSaviNaviは、こうした課題の解消にもつながります。店舗オペレーションの効率化だけでなく、売上アップも期待できます」と八田は話す。
日本ユニシスはスマートな決済に向けた取り組みも行っている。それが、「スマホマルチ決済&周遊パスサービス」である。
「スマホアプリだけで地域の観光を楽しめる、いわばご当地チケットです。中国で一般的なAlipay決済にも対応。店舗に専用端末は不要で、スマホさえあれば決済することができます」と八田は説明する。すでに山陰地域で実証実験が始まっており、8月末には熊本県でも開始する予定。日本ユニシスは同様のサービスプラットフォームを様々な地域の事業者に向けて提供していく考えだ。
Alipayのサービスプロバイダーとして、日本ユニシスグループにキャナルペイメントサービスを設立した。ヤマダ電機や髙島屋、ドン・キホーテ、成田国際空港、ローソンなどの各社、各店舗に決済サービスを提供している。
インバウンド需要が急激に高まったこともあり、国内のサービス態勢にはまだまだ改善の余地が大きい。言い換えれば、埋もれているチャンスも大きい。日本ユニシスは様々な企業とのパートナーシップをベースに、ビジネスチャンスへの挑戦を続けていく考えだ。