グローバルブランドが日本で根付くには? フライングタイガー事業再生の裏側

CEO松山氏が語るブーム、停滞、変革の10年と今後の挑戦

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「new EARTH この星と生き続けるために」をテーマに開催した「BIPROGY FORUM 2024」(2024年6月6~7日、約2400人が来場)。2日目の特別講演では、日本で「フライングタイガー コペンハーゲン(以下、フライングタイガー)」を運営するZebra Japan株式会社代表取締役CEOの松山恭子氏が登壇した。デンマーク発の生活雑貨専門店フライングタイガーは、ヨーロッパを中心に34カ国約900店舗を展開。現在は、ファミリー層をメインターゲットに遊び心のあるアイテムを販売している。講演では、(1)日本上陸後の大ブームとその後の停滞期を振り返りつつ、(2)どのような構造改革を実施し再躍進を遂げたのか、(3)グローバルブランドが日本に根付くために取り組むべきことは何かなどが語られた。松山氏が描く今後のビジョンと共に紹介していきたい。

ヘッドライン

ブーム、停滞、そして変革――フライングタイガー日本上陸の10年

デンマーク発の雑貨チェーン「フライングタイガー」は、現在日本では53店舗を展開しており、2022年に10周年を迎えました。振り返ると、その道は決して平坦ではありませんでした。私自身は2017年に参画し、2019年のCEO就任前後からさまざまなチャレンジに取り組んできました。私たちのこの10年の歩みは、大きく3つのフェーズに整理できます。「大ブーム期」「停滞期」「変革期」です。

写真:松山恭子氏
Zebra Japan株式会社 代表取締役CEO
松山恭子 氏

まずは、「大ブーム期」です。新しいものが海外から取り入れられると瞬く間に大人気になる様子は、日本ではよく目にする光景です。フライングタイガーもその例に漏れません。

1号店の大阪・アメリカ村ストア(2012年)、2号店の東京・表参道ストア(2013年)がオープンした際には、行列が絶えない日々が続き、想像以上のブームが到来しました。例えば、アメリカ村ストアではオープンから3日間でお店の商品が空になり、その後2カ月間は商品を仕入れてもすぐに完売。入荷、即完売、休業、入荷……のループを繰り返していました。

数多くのメディアでも大々的に取り上げられ、そのブームに乗る形で2015年には24店舗にまで規模を拡大することができました。

日本上陸当初の店舗の様子

写真:大阪、東京のオープン時の様子
大阪、東京ともにオープン時は行列をなす大ブームに。
その様子はメディアでも多く取り上げられた(資料:フライングタイガー)

その後、ブームが落ち着き、「停滞期」がやってきます。若年層の離反や、「選ぶ楽しさ」を重視し過ぎた大きな店舗サイズが客数に見合わない状況に陥りました。ブームを前提としたビジネスモデルは、売り上げが下がった途端にうまくいかなくなります。当社も例外ではなく、2016年には初の退店も経験します。

今考えれば、ブランドの本質的価値を伝えきれていなかった点が停滞につながったと思います。私はこの時期にフライングタイガーの一員になりました。当時の悔しさはよく覚えています。

2018年からは、ブームを超えて“本当の意味で”日本市場に受け入れられるための「変革期」が始まりました。そこで、5つの見直しを図りました。1つ目は、姿勢の見直しです。当時、日本には約20店舗しかない中、独自に行ったブランド調査によれば、約4割の認知度がありました。しかし、裏を返せば半数以上はフライングタイガーを知らない、ということです。

知っていたとしても、本当の価値を理解してくださっている方は少ないと感じました。これを踏まえ、「フライングタイガーは北欧・デンマーク生まれのブランドで、遊び心があり、生活をより豊かにするようなアイテムを豊富に取りそろえている」ことを、メディアや店舗などで丁寧に語っていきました。

2017年当時のブランド浸透状況

グラフ:2017年当時のブランド浸透状況
ブランドを認知している人の中でも、詳細に認知している人は10%減る結果に。
こうした結果を受け、ブランドについての発信を強化することを決めたという(資料:フライングタイガー)

2つ目は、ターゲットの見直しです。それまで明確なターゲティングを行っていませんでしたが、お客さまと密な意思疎通を図るにはターゲット設定が必要と感じ、改めて調査を実施しました。すると、フライングタイガーは“若者のブランド”という一般的なイメージに反し、小さなお子さまのいるファミリー層の利用が多いことが分かりました。そこで、30代~40代のファミリー層をターゲットに設定し、キッチン用品や文具、パーティー用品を強化しました。加えて、おもちゃなどの家族で楽しめる商品を強化したり、ファミリーで参加できるイベントを開催したりするようになりました。

3つ目は、出店の見直しです。店舗面積を大きくしすぎたことを反省し、家族での購買体験を重視するため、ショッピングモールに集中的に出店することを決めました。現在では約9割がショッピングモール内の店舗です。また、認知を広げ、出店前にエリアごとの親和性を調査するためにも、定期的にポップアップストアを出すようになりました。

4つ目は、商品カテゴリを日本向けに見直したこと。実は停滞期はコロナ禍と重なってしまい、店舗を休業せざるを得なくなりました。その際、ファンからのご要望に応えて通信販売をスタートしたのです。しかし、今までメインで打ち出していた本国から入ってくる新商品が、コロナ禍で入荷できない状況に。そこで、定番商品を「おうち時間お楽しみセット」のように新しい切り口に再編集して販売したところ、好調な売れ行きとなりました。

元々、本国とのシーズンやニーズのズレも課題だったので、この成功体験をきっかけに現在では新商品だけにこだわらず、全商品を日本らしく編集し、お客さまに提案する形をとっています。

5つ目は、商品調達の見直しです。これまでは話題になった商品でも売り切れたら終了、再販はありませんでした。そのため、問い合わせがあっても応えられないことがしばしば。これではマーケティングの効率も悪いため、本国に再生産を依頼する「リバイ」を行うことにしました。再販の際にはメディアでもPRを行い、客単価の向上にも寄与しました。リバイの実施は本国のルールに反するもので交渉には時間を要しましたが、結果的には成功事例が評価され、この仕組みはグローバルでも採用されるようになりました。

「飛行機を飛ばしながら組み立てる」再成長期へ

そして、フライングタイガーは“次のフェーズ”に移行するため中期計画を策定し、日本上陸11年目を迎えた2023年からの5年間を「再成長期」と位置付け、2027年頃までに店舗数80店舗を目指しています。この実現に向けて、私たちは「飛行機を飛ばしながら組み立てる勢いで物事を変化させないと世の中のスピード感に追いつけないのではないか」と考えています。

中期計画には「豊かな“未来”は、豊かな“今”の積み重ねの先にあります。フライングタイガーならではの使命を果たし続けます。」とのビジョンを盛り込み、具体的に4つの項目を定めました。

まず1つ目は、「だれでも、いつでも、どこからでも」気軽にアクセスできる身近なブランドを目指すことです。本国とも協議し、私たちの特徴でもある、お客さまに店内を周遊してもらうための、迷路のような一方通行の店内設計をあえて採用しない小型店や、ショップインショップ(大型店の売り場内に、比較的小規模の独立した店舗形態の売り場を設置すること)の形態に挑戦し始めています。同時に、店舗スタッフの教育プログラムを整備しながら出店を加速しています。

次に2つ目。それは、商品、売り場、情報、スタッフの4者が織りなす、「圧倒的ワクワク体験」を提供するブランドへの成長です。近年のベストセラー商品である「寝たままメガネ」のような、遊び心とチャレンジのある商品を創出したり、日本のシーズンに合った商品を作ってもらえたりするよう本国との調整を続けています。

写真:松山恭子氏
松山氏が着用しているのはフライングタイガーのヒットアイテム「寝たままメガネ」。
メガネの中に鏡が仕込まれており、寝転んだ状態でもお腹の上に立てた本が読める仕組みになっている。同ブランドらしい遊び心が光る商品だ

そして3つ目は、「サステナビリティ」です。ブランド発祥地のデンマークは2022年の国別SDGs達成度ランキング2位のサステナ先進国です。その知恵を取り入れ、FSC認証のついた紙製品やリサイクルのプラスチック素材を使用したり、パッケージのプラスチックを極限まで減らしたりと、エココンシャスな取り組みを、フライングタイガーらしく楽しみながら実践しています。また、デンマークはダイバーシティ先進国でもあります。その姿勢にならって、LGBTQ+コミュニティーのサポートも行っています。

最後の4つ目は、お客さまやパートナーとの距離が近く、新しいことを「DIT(Do It Together)できるブランドへ」の成長。この点は最近、特に心掛けています。私たちのパートナーは、社員はもちろん、取引先の方や物流に携わる方、そしてお客さまなど、少しでも関わりのある方全員が当てはまると考えています。パートナー全員がフライングタイガーを好きになってほしいとの思いから、お客さま向けにはコロナ禍で中止していたイベントの復活や、店内にコミュニティースペースを設置するなど、地域に根付くストア運営を進めています。また、ビジネスパートナーに対しては、ブランドの価値観の共有やコラボレーションを推進しています。

グローバルブランドを日本に定着させ、成長を持続させるためのチャレンジ

フライングタイガーは、2028年までにアジアを中心にヨーロッパ以外で1000店舗を超える出店を計画しています。こうした中で、現在私たちが最も気にかけているのは、フライングタイガーを日本に定着させ、成長を持続させられるかどうかです。外資系のブランドが日本に進出したものの、いつの間にか撤退しているケースは多くあります。その理由として、ローカルの事情を十分に加味できなかったことが挙げられると考えています。日本の市場はヨーロッパとは異なる点も多いのです。私もさまざまな面で本国と協議、交渉をしたことで、ローカルとグローバルのバランスが求められるステージに来ていると実感しています。

日本に合わせた商品展開は必須です。一方で、国際的企業としてお店のフォーマットやオペレーションなどの運用の仕組みは本国と合わせていく必要があります。異なる文化や習慣、シーズナリティー、競争環境を前提に、グローバルとのWin-Win関係の構築を目指していきます。

Zebra Japanとして今後必要になるのは、常に変化する課題に対して、ゼロベースで柔軟に向き合い、より良い組織文化を醸成していくことだと考えています。先日、私から社内のメンバーに5つのお願いごとをしました。私がラグビー好きということもあり、体育会系のような部分もありますが(笑)、ご紹介します。

  • 課題は常に生まれてくるもので、かつ変わるものだと覚悟する。
  • 市場を知るのは自分たちだ! という自負をもって対等に課題に向かい、妥協しない。
  • これからどうなっていくか? いきたいか? の絵を描く! An Invitation to a Richer Future
  • 経営判断は全員の責任で。One Team! One for All, All for One
  • 最後は熱量で決まる! 辛くても楽しくても笑って取り組む!
  • 課題は常に生まれてくるもので、かつ変わるものだと覚悟する。
  • 市場を知るのは自分たちだ! という自負をもって対等に課題に向かい、妥協しない。
  • これからどうなっていくか? いきたいか? の絵を描く! An Invitation to a Richer Future
  • 経営判断は全員の責任で。One Team! One for All, All for One
  • 最後は熱量で決まる! 辛くても楽しくても笑って取り組む!

最後に私の座右の銘をお伝えします。「渦の中心で、笑って仕事をする」です。

写真:松山恭子氏

苦しいときでも楽しいときでも、笑顔は力をくれるものです。そして、フライングタイガーには、難しい局面でさえも笑顔で乗り切れるメンバーがそろっています。メンバー全員で渦を巻いて、笑いながら仕事をしていれば、何か面白いことが起きるはずです。今後もさまざまな環境の変化に直面すると思いますが、楽しみながら進んでいきたいと思います。

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