「共創」でサステナブルな地球環境と社会を実現する

住友林業、農林中央金庫とともにエコシステムで挑む社会課題解決

画像:TOP画像

社会におけるサステナビリティへの関心の高まりと同時に、さまざまな社会課題の顕在化やステークホルダーの価値観シフトに伴い、企業においてもサステナビリティの実現は重要な経営課題になっている。自社におけるサステナビリティを、事業活動を通じていかに実現していけばよいのだろうか。2023年6月8日、9日に開催された「BIPROGY FORUM 2023」では、住友林業、農林中央金庫、2社の事例をもとに、サステナビリティ鼎談を実施。住友林業の川田辰己氏、農林中央金庫の北林太郎氏、BIPROGYの葛谷幸司がその実現に向けたポイントを語り合った。サステナビリティ経営における企業の課題、そして将来的な課題解決のヒントをお届けしたい。(以下、敬称略)

ヘッドライン

主軸事業にサステナブルな視点を取り入れ環境課題解決へ

葛谷本日は、「環境への取り組み」「共創」「人的資本経営」という3つの観点でお話を伺っていきます。

まずは環境への取り組みについてお聞きします。当社の長年のお客さまである両社さまとも、自社の事業継続の観点と、特に重要である社会課題の解決に寄与していくという観点の両面から、持続可能な地球環境に向けた取り組みに特に力を入れられているのが共通点です。

写真:葛谷幸司
BIPROGY株式会社 取締役専務執行役員CSO
葛谷幸司

川田住友林業は、森林経営、木材建材の流通、国内外での住宅・建築などの事業を主に手掛けています。木には、生長過程でCO2を吸収し、さらに炭素を固定する機能があります。2030年に向けた長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では、事業方針の1つに「森と木の価値を最大限に活かしたサーキュラーバイオエコノミーの確立」を掲げ、持続可能な森林経営に欠かせない苗木の生産や建築のCO2削減等に取り組んでいます。木を植え、育て、伐採、再植林し、製材して建築に用いる。これらはすべて当社が担う事業サイクルです。そして、その木造建築物の多くは最終的には解体して燃やすことになります。それらを事業の1つであるバイオマス発電のエネルギー源に使っています。これら一連のバリューチェーンを「住友林業のウッドサイクル」と称し、この循環によって環境に貢献していきます。

写真:川田辰己氏
住友林業株式会社 取締役 専務執行役員
川田辰己氏

北林農林中央金庫は、農林水産業の協同組合組織を基盤に国内外で活動している金融機関です。農協、漁協、森林組合等、全国の協同組合組織の皆さまから、約111兆円のお金をお預かりしています。リテールビジネス、食農ビジネス、投資ビジネスが当金庫の3本柱。農林水産業を育み、その先にある食と暮らしの豊かな未来を目指すべく、各事業を推進しています。われわれが取り組むべき課題は、地球温暖化、食料安全保障、森林資源の管理・活用等が中心になりますが、これらは社会課題とイコールです。事業を通じて積極的に貢献していきたいと考えています。

写真:北林太郎氏
農林中央金庫 理事 兼 常務執行役員
北林太郎氏

葛谷ありがとうございます。では次に、今後10年間のグローバルリスクとして挙げられている気候変動や自然災害、生物多様性の保全などをテーマに、もう少し詳しく両社のお取り組みを伺えますでしょうか。

川田住友林業グループにおける温室効果ガス総排出量の96%を占めるのはスコープ3(※)です。その約6割にあたるのが「販売した製品の使用」、つまり住宅の居住時です。ここを解消するために、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」を推進しています。次世代断熱性能、省エネ設備機器、太陽光発電や蓄電池の装備を組み合わせることで、家で消費するエネルギーを正味ゼロ以下にするのがZEHです。新築戸建て住宅におけるZEH受注比率は今年に入って80%を超えており、今後は90%台を目指していきます。

※スコープ3…製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄の過程において排出される温室効果ガスの量(サプライチェーン排出量)のこと

葛谷森と木を活かしたカーボンニュートラルの実現がその先にあろうかと思います。この課題解決に至るポイントは何でしょうか。

川田弊社は1890年代から持続可能な森林経営を続けています。木を育て、自然の中でCO2と資源のバランスを取っていく。われわれがこれまで取り組んできた営みをさらに拡充していくことが、その課題の効率的な解決手段になるのではないかと考えています。

葛谷なるほど。御社は332年という非常に長い歴史をお持ちです。先人の取り組みにならいつつ、現代版にアップデートしていく、ということですね。農林中央金庫さまはいかがでしょうか。

北林環境分野における取り組みは、融資取引先へのESGローンや、再生可能エネルギー事業へのプロジェクトファイナンスの取り組み、ESG債・ファンド等への投資、グリーンボンドの発行が挙げられ、これらサステナブルファイナンスの新規実行額は、この2年(2021・22年度)で4.4兆円となっています。さらに、金融機関としての幅広いネットワークを活用しながら、中小規模の農業法人に対してGHG(※)の計測や削減をサポートしたり、サステナビリティ関連の情報提供をしたりと、非金融分野での支援にも力を入れています。

※GHG…Green House Gasの略で、温室効果ガスやその排出量のことを指す

足元でグローバルに関心の高まっている自然資本・生物多様性の分野では、世界銀行が生物多様性の保全の啓発を目的に発行したサステナブル・ディベロップメント・ボンドへの投資等を行っています。また、同じ志を持つ金融機関でアライアンスを組み、取引先へのソリューションの提供を通して、ネイチャーポジティブへの転換に向けた支援等を行っていきたいと考えています。このほか、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」のメンバーとして国際的なルールメイキングにも参加しています。

葛谷金融機関としてはもちろん、さまざまな立場や角度からサステナビリティを推進されていることがよく分かりました。脱炭素、自然資本・生物多様性の対応という観点で重要課題を設定されているとのことですが、どのような点が解決のポイントになるのでしょうか。

写真:葛谷幸司

北林脱炭素については皆さますでに指標・目標をお持ちですので、ソリューションの提供力を高めていくことがポイントです。一方で、自然資本・生物多様性においては、リスクと機会を具体的にイメージできていないケースが多いと感じます。私どももTNFDの活動等を通して知見を獲得しながら、どういったアイデアを実行すべきか早期の段階で示していきたいです。

葛谷BIPROGYの取り組みについても説明させていただきます。CO2排出量削減は企業にとって避けられない課題となっています。当社は、「ICTによる見える化」「エネルギーの削減」「クリーンエネルギーの活用・創エネ」「オフセット」という4つの切り口から、さまざまなソリューションを提供しています。しかし、弊社だけで環境課題を解決することは不可能です。お客さまや協業パートナーさまと一緒に、エコシステムで解決していきたいと考えております。

共創で広がるサステナブルな地球環境・社会に向けた貢献

葛谷次のテーマは共創です。まずは農林中央金庫さまからお取り組みをご紹介いただければと思います。

北林私どもは、国内外を問わず多様な形で各社さまとパートナーシップを組ませていただいています。その特徴を生かし、ステークホルダーの皆さまと世の中をどのように変えていけるかが一番のポイントだと考えています。

「食」と「農」と「くらし」に関わる社会課題解決に向けて開設した、JAグループのイノベーション組織である「AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)」がその一例です。農林中央金庫を含めたJAグループ、パートナー企業さま、農業者の方、行政、大学、複数のラボ、そしてスタートアップの皆さまとともに研究を進めています。その中で、名古屋大学発のベンチャー企業が開発した、高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」について、実際の農地で実証実験を行いました。宙炭は土壌の改良期間を短縮すると同時に、炭素固定を実現して環境に貢献する商品です。実験が可能な地元の農家さまの紹介や、J‐クレジット認証(※)の獲得で取り組みに協力させていただきました。

※J‐クレジット認証…省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。クレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、さまざまな用途に活用が可能である

葛谷素晴らしいですね。カーボンクレジットの認証についてお話がありましたが、注目度は高まっているのでしょうか。ステークホルダー全体で脱炭素社会を目指す上でのポイントもぜひお伺いしたいです。

北林脱炭素の最優先課題は温室効果ガスの排出量を自ら削減することですが、自力で削減しきれない部分がある場合、カーボンクレジットへのニーズが高まります。海外を中心に民間主導のカーボンクレジットが活況を呈しており、国内でも市場の整備が進むなど脱炭素社会の実現に向けた重要な手段のひとつになりつつあります。削減量の「見える化」がこうした動きの後押しになりますので、BIPROGYさまにはぜひ技術的な支援をお願いしたいです。

葛谷ありがとうございます。弊社ではすでに、CO2削減量の「見える化」について取り組んでおります。非化石証書の調達・管理業務をデジタル化した「Re:lvis(リルビス)」というサービスです。企業が即座にすべてのエネルギーをクリーンエネルギーに切り替えることは難しいです。その代わりに、非化石証書などの環境価値によるオフセットをデジタルの力でより効率的に行うことで、着実に社会のカーボンニュートラルを目指すサービスです。今後はGHG排出量算定ツールなどを他のシステムとも連携させていく想定です。続いて、住友林業さまの共創の取り組みをご紹介ください。

川田われわれのビジネスでは、川上から川下まで非常に長いサプライチェーンの中でいかに脱炭素社会が実現できるかという点が重要だと考えています。その前提の下、前述の建物の脱炭素化に取り組んでいます。まずは「この建物のライフサイクルでどれだけCO2が排出されるのか」、この点をCADのデータ等を踏まえて「見える化」するソフトウェアを導入しました。各部材をつくるときにどのくらいのCO2が発生しているのか、というデータも必要になりますが、こちらはあえて各部材メーカーの皆さまに自社の製品のCO2排出量の認証を取っていただく方向で働きかけています。サプライチェーン全体で意識が変化しますし、CO2削減に向けた共創につながると考えています。

葛谷まさに当社が実現したいソリューションを展開されていると感じました。当社でも森林・木材の特性を生かしてカーボンニュートラルを目指す、「キイノクス プロジェクト」を行っています。山で木を伐採してから家が建つまでのサプライチェーンを「見える化」してほしい、というお客さまのご要望から始まり、木材の流通プラットフォームやVRを活用した住宅展示システムの構築、さらには国産木材を使ったオフィス向け什器の販売等、多角的な取り組みに発展しています。

写真:北林氏と川田氏と葛谷

人財育成を軸に持続的成長を図る

葛谷最後のテーマは、人的資本経営です。労働人口の減少が自明な中、人財の確保や育成は企業にとって大きな課題であり、事業戦略と連動した人財戦略を進めていくことが求められています。当社はタレントマネジメントシステムの構築・運用を進め、人財の見える化を図るとともに、個に向けてスキルアップの支援をしています。かつてITビジネスは人月ビジネスと呼ばれてきましたが、当社は現在、非人月系ビジネスの拡大、ビジネスモデルの変革を進めています。そのためには、個がビジネスをプロデュースする力をつけることが必要であると考えており、そうした人財の育成に力を入れています。

川田住友林業における人的資本については、外部と内部それぞれの課題があります。外部では、建築に欠かせない大工の担い手不足が課題です。特に、建築分野は2024年から労働規制が強化されます。最新技術の導入でいかに効率化を図れるかがポイントですが、工場生産と違って現場での施工は効率化が難しい面があり、打ち手を検討しているところです。

内部でいうと、この10年でわれわれのビジネスには大きな変化があり、海外でのオペレーションが急拡大しています。海外で活躍できる人財の確保も重要になってくるでしょう。若い方ほど転職に対する抵抗は低いと耳にしますし、日本社会全体でも人財の流動化が進んでいます。組織の中できちんと人財育成をして、若い時からどんどん活躍してもらうための制度の整備が必須だと思っています。

葛谷住友林業さまは直近の利益の約8割が海外事業と伺っています。グローバル人財確保と人事制度の両輪で進めていくのですね。農林中央金庫さまはいかがでしょうか。

北林これまでの説明の通り、金融機関の業務はお金をお預かりして、それをご融資するだけではありません。国内外のサステナビリティ関連事業の支援や、自然資本・生物多様性への対応を進めていく上でも、より高い専門性を求められていると感じます。その観点を踏まえ、人事制度の改正・運用を図っているところです。経営戦略と合わせた人的資本経営への挑戦はまだ始まったばかりですが、特に、未来を担う若手社員にはわれわれの意図やメッセージをしっかり伝えていきたいです。

葛谷サステナビリティ経営は一部の社員の意識が高いだけでは成し得ません。当社内でも、マテリアリティの浸透度を調査したところ、約3割がまだ理解できていないとの結果も出ています。若手を含め次世代を担う社員一人ひとりの感度をいかに上げていくかが、今後の持続的成長を図る上での共通課題ですね。今後もエコシステムを軸に連携を取り合い共創し、サステナブルな未来の実現に向けた歩みを進めていきましょう。

関連リンク