2005年2月17日の開港以来、中部国際空港(以下、セントレア)は、安全・安心で利便性の高い空港サービスを実現すべく、日々の運営業務に取り組んでいる。そこで中心的な役割を担っているのが「セントレア・オペレーション・センター(COC)」である。成田、関西、仙台、福岡など民営化空港のモデルケースとなっているCOCは、空港島内で発生するあらゆる事案に関する情報を集約し、的確な指揮・指令を行うため、従来のホワイトボードに代わるリアルタイムの情報共有基盤として「災害ネット」を導入し、その体制を強化した。
アナログな手段に頼っていた情報伝達・共有の見直しが急務
セントレアは2018年11月、航空業界の世界的格付け会社である英国SKYTRAX社から最高位の格付け「5スターエアポート」を、昨年に続き2回連続で獲得した。また、ボーイング787初号機の展示をメインとした複合商業施設「FLIGHT OF DREAMS」が2018年10月12日にオープンし、2019年にはLCC(格安航空会社)向け新ターミナルビルの供用開始を予定するなど、セントレアはさらに大きく発展・成長していく過程にある。
このセントレアの“司令塔”として空港運用の中心的な役割を担っているのが「セントレア・オペレーション・センター(COC)」だ。中部国際空港株式会社 空港運用本部 COC部長坂紀廣氏は、「日常の空港運用から自然災害への対応、交通障害が起きた際の情報提供や案内、イベントなどで混雑した施設内の誘導、事件・事故などイレギュラー発生時の救助・緊急対応、関連部署の取りまとめに至るまで、空港島全体のコントロールをCOCが行っています」と説明する。
ただ、そこで問題となっていたのが、空港内における情報伝達・共有の仕組みだった。「以前は何らかの事案が起こった際に、空港内各所からCOCに寄せられる情報をメンバーが順次ホワイトボードに書き記し、現場写真を印刷して張り出していくという極めてアナログな手段に頼っていました。こうした情報を電子化して集約し、COCのみならず、関連部署の担当者がより迅速にアクセスできる仕組みが求められていました」と、中部国際空港株式会社 空港運用本部 COC マネージャー 村井勝氏は語る。
ホワイトボードに列挙していた事案をそのままの形で電子化
この課題の解決策を探るべく2017年に訪れた「危機管理産業展(RISCON TOKYO)」で、村井氏の目に留まったのが、日本ユニシスのクロノロジー型危機管理情報共有システム「災害ネット」だった。クロノロジー(時系列)に沿って記録するだけで、今、何が起きているのかをリアルタイムに把握できる情報収集・共有ツールで、「これまでホワイトボードに列挙していた文字情報や画像を、ほぼそのままの形でシステムに入力でき、さらに動画や音声まで簡単に取り込める点に魅力を感じました」と村井氏は話す。同氏の報告を受けた坂氏もまた、「いかに高機能であっても複雑なツールは、いざというときに使いこなすことができません。その意味でも災害ネットはCOCの業務に“うってつけ”と感じました」と語る。
こうしてセントレアは、災害ネットのPoC(Proof of Concept)に乗り出した。
特に導入効果を期待したのが、台風のように災害の影響が長期間に及ぶケースだった。「台風の場合、事前準備から、直撃を受けたときの対策、通過したあとの復旧・回復まで、ホワイトボードには何枚にもわたる情報があふれるため、それらを人力でさばくのは至難の業です。そうした情報を災害ネットに集約すれば、過去に登録した事案の続報が入ってきたときにも簡単に情報を追加できたり、未解決のまま残っている課題を洗い出したりすることが可能になり、COCの業務を大幅に効率化できると考えました」と、中部国際空港情報通信株式会社 システム運用部 運用総括グループ グループリーダー 田島茂樹氏は語る。
実際、2018年の台風21号の襲来時には、甚大な被害を受けて一時閉鎖を余儀なくされた関西国際空港から多くの外国人観光客がセントレアに殺到し、ターミナルが大混雑するという事案が発生した。「繁忙期の約1.5倍もの外国人観光客が一気にセントレアに集中したのです。しかも、それらのお客さまの多くは入国後の観光ルートを含め、通常のセントレアのお客さまとは全く異なるニーズをお持ちでした。そんな中でも大きな混乱を起こすことなく無事に応対できたのは、まさに災害ネットにあらゆる情報が集約できていたおかげです」と村井氏は振り返る。
業務日誌を災害ネットに移行し
サービス改善のPDCAを回す
このようなPoCを経て大きな手応えをつかんだセントレアは、2018年10月に災害ネットを正式に導入し、本格的な運用を開始した。運用の基本方針は「日常的な空港運用の幅広い業務で活用していくこと」だ。
「そもそも災害はそれほど頻繁に起こるわけではなく、より重要なのは日々の小さな課題も“見える化”して共有し、PDCAサイクルを全員で回しながら、空港全体としてのサービスを改善していくことにあります。さらに言えば、そうやって日常的に使い込んでこそ、災害時に大きな効果を発揮させることができます」と坂氏は語る。
具体的には、空港運用の業務日誌を災害ネットに移行していく計画だ。「例えば、空港内の施設に破損を発見した場合なども、その箇所をデジカメで撮るだけでなく、原因や課題、復旧作業の進捗などを災害ネットに上げていく予定です。災害ネットはクラウドを通じてどこからでも閲覧できるため、従来のように担当部門に個別にメールを送るまでもなく、引き継ぎ前の交代要員から経営陣に至るまで、全ての関係者がすぐさまその情報を共有することが可能になります」と村井氏は語る。
災害ネットは、元来の災害情報管理という概念を超え、「現場に負担をかけないリアルタイムな情報共有基盤」として、セントレアの日々の運用業務に深く浸透しつつある。
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