読書離れの時代に、社員の学びをどう支えるか

企業向け電子図書館「デジタルコンテンツライブラリー」の挑戦

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2010年に始まったBIPROGYの公共図書館向けの「電子図書館サービス」。この仕組みをベースに、企業向けのサービスとして「デジタルコンテンツライブラリー」が2025年にスタートした。これは、デジタルで本(電子書籍)を貸し出すという、従来の電子図書館の機能を拡張させ、企業ニーズに応じて社員が自律的に学べる読書環境をクラウドで提供するもの。サービスの随所に「電子図書館サービス」で培われた多様なノウハウが生かされている。今、人的資本経営の実現に向けて、リスキリングの機会を確保したいと考える企業は増加傾向にある。読書離れが鮮明になる中で、そうした企業ニーズに応え、企業戦略に沿った専門書やビジネス基礎力を高めるための読書機会をマルチデバイス対応で柔軟に設計できることは本サービスの大きな強みだ。今回は、プロジェクトに携わるBIPROGYの川本拓広と脇田優にサービスへの思いとこれからの期待を聞いた。

電子図書館の進化が企業教育へ広がる

変化の激しい時代を背景に、キャリアの自律とスキルアップを目的とした個人の「学び直し」(新しい職務のための「リスキリング」を含む)に対する関心が急速に高まっている。こうした流れは、2022年に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」などで指摘されてきた「日本企業の社員教育への投資は海外企業に比べて少ない」という状況にも変化をもたらし始めている。サービスイノベーション事業部 ビジネス二部 第二営業所の川本拓広はこう分析する。

「近年、働き方の価値観が多様化し、これまでの主流であった『1つの会社で定年まで働く』という考え方よりも、自身のスキルを高めながら主体的にキャリアを築こうという傾向が強まっていると感じます。こうした中で、変化の激しい時代を乗り切り、新たな価値創出につなげていくためにも企業と個人の双方にとってリスキリング(企業が必要とする新しいスキル獲得)や学び直し(個人のキャリアアップ)の機会確保がより重要になっています」

写真: 川本拓広
BIPROGY株式会社
サービスイノベーション事業部 ビジネス二部
第二営業所 川本拓広

また、人材不足に悩む企業は増えており、離職率の抑制や優秀な人材の確保には、社員の学びを促し、社員自身が成長を実感できる環境づくりが欠かせない。人的資本経営への関心も高まっている。投資が不十分と見なされれば資本市場での評価低下につながりかねない。日本では2023年3月期決算から、上場企業約4000社を対象に有価証券報告書での人的資本情報開示が義務化された。

図: 企業が抱える人財育成の課題(一例)を示す3分割の図。左は『学びの多様化』で、学び手段は増えたが選び方や活用が難しいことを説明。中央は『読書機会の減少』で、読書するが文化庁調査では月に1冊も読まない社会人が6割以上と説明。右は『企業の学び支援不足』で、企業の提供機会には限界があり、個人任せでは自律的に学ぶ人と学ばない人の差が出ることを説明。

では、どうやって社員一人ひとりの学びの環境を整えるか。BIPROGYが着目したのは「書籍」だ。これまでBIPROGYでは、来館しなくてもネットを使ってデジタル化した本(電子書籍)を読めるシステムとして「電子図書館サービス」を提供し、学校や自治体に導入してきた。

「『電子図書館サービス』は大日本印刷(DNP)とBIPROGYを中心に複数社のコラボレーションによって2010年にスタートし、2014年には利便性向上のためのリニューアルを実施しました。図書館に足を運びにくい方や開館時間に利用できないビジネスパーソンでも、気軽に電子書籍を読める環境をつくりたい。そんな思いがプロジェクト発足のきっかけです」と川本は語る。

図: 『デジタルコンテンツライブラリー』が誕生するまでを示す年表。2010年に電子図書館サービス開始(公共向け)、2014年にサービス提供開始リニューアル・機能向上、2019年に導入館数200館突破とWebアクセシビリティ強化、2020年に貸出実績255%増、2022年に導入300館突破と児童書・雑誌対応、2023年に利用者6,000万人突破・自治体だけでなく企業向け電子図書館サービス提供開始、2024年に導入館400館突破・国内総人口の56%が利用可能、2025年に労働組合/企業向けサービスを電子図書館サービスからデジタルコンテンツライブラリーへ。右端に『目指すビジョンや実装想定の機能を端的に記載』とある。

2023年からは、公共分野だけでなく、企業向けにも提供の裾野を広げていった。2025年には、「デジタルコンテンツライブラリー」として銘打ち民間企業/労働組合向けに本格的な提供を開始した。

「デジタルコンテンツライブラリー」や「電子図書館サービス」の大きな強みはクラウドサービスとして企業や団体の環境などに柔軟に対応可能な点だ。例えば、WindowsやmacOS、iOS、Androidに対応し、PC・タブレット・スマホなどマルチデバイスで利用できる。取引出版社は368社、国内17万5000タイトル、海外250万タイトルをそろえ、電子雑誌も豊富だ。テキストを音声で読み上げる機能もあり、散歩しながら「耳で聴く読書」も可能だ。

2025年4月現在、全国1718自治体のうち400以上が導入し、人口カバー率は57%(※)に達する。特に2020年のコロナ禍以降、閉館する図書館が増える中で住民の読書ニーズに応えるため導入が急増した。大学や学校への導入も急速に広がっている。

  • 採用する自治体の総人口の合計による理論値
図: 『電子図書館サービス』の導入実績(主に公共分野)を示す積み上げ棒グラフ。14年度から25年度にかけて導入館数が一貫して増加。内訳は自治体(濃青)と学校(私立学校、淡青)で、20年度以降に大きく伸長し、25年度には合計約800館、うち自治体約400館・学校約400館に達している。
「電子図書館サービス」は、2014年のサービス提供開始以降、導入数を伸ばしており、
2025年4月時点で419/1,718自治体が採用している(当社調べ)

経営の後押しと社員の主体性が学びを促す

先ほども触れたが、「電子図書館サービス」の基盤となるシステムとノウハウを生かし、2025年からは企業向けの「デジタルコンテンツライブラリー」の提供が始まった。機能は「電子図書館サービス」とほぼ同じだが、市販される本や雑誌以外に、業務マニュアルなど社内資料も格納できる。サービスイノベーション事業部 ビジネス二部 第二営業所の脇田優はこう説明する。

「読書離れが進んでいることは社会課題の1つです。紙かデジタルかを問わず、文書・文章(書き言葉)は重要なコミュニケーション手段。社員一人ひとりの読書体験が乏しければ、文章力や読解力にも影響します」

写真: 脇田優
BIPROGY株式会社
サービスイノベーション事業部 ビジネス二部
第二営業所 脇田優

文化庁の2023年度「国語に関する世論調査」では、1カ月に読む本の冊数を「読まない」と答えた人が6割を超え、年々増加している。文書・文章が重要なコミュニケーション手段である企業活動において、社員の読書体験の乏しさが文章力や読解力に影響し、ひいては業務の質の低下や知識基盤の弱体化につながりかねない。脇田はこの現状に「企業も危機感を募らせています」と語る。では、どう課題を乗り越えるか。

図: 1カ月に読む本の冊数(全体)を示す横棒グラフ。読まない62.6%、1~2冊27.6%、3~4冊6.0%、5~6冊1.5%、7冊以上1.8%、無回答0.5%。
出所:文化庁 令和5年度「国語に関する世論調査」

脇田は次のように続ける。「アプローチには大きく2つの方法が考えられます。1つはトップダウンのアプローチ。必要な知識を得るためにこの本を読んでもらえるとうれしいというメッセージを発信する方法です。もう1つは企業が機会を提供することで内発的動機付けを促すという考え方です。例えば『将来こういうことをやりたい。そのためにこの分野の知識が必要だ』と考える人が自然に本を読む環境を、企業が用意するのです」

自分の仕事や将来のために学ぶ。新しい知識に触れる楽しさを感じれば、読書は習慣化する。企業には、その学びを支える環境づくりが求められる。

「人には知りたい、学びたいと思うタイミングがあります。そのときすぐ学べる環境が重要です。動画教材、Web情報など手段は多様ですが、その中で書籍はそれらと比較して、知識を体系的に提供し、深い思考力や読解力を養うという点で高い価値があると考えています」と脇田は言う。

電子書籍が育む「学び合う企業文化」

「デジタルコンテンツライブラリー」の特徴は、企業ごとに選定したコンテンツを、いつでもどこでも閲覧できる点にある。その結果、社員は自らの関心やキャリアに応じて学習を進めることが可能となり、組織全体として知識基盤の強化につながる。

さらに、時間や場所の制約を受けずに利用できるため、研修やセミナーへの参加が難しい社員にとっても学習機会を確保できる点が大きな利点である。これにより、学習格差の是正、人材育成の効率化、そして企業の持続的成長への寄与が期待されている。なお、導入期間はおよそ1カ月だが、最も時間を要するのは登録する書籍の選定プロセスであり、これが短縮できれば、より早くサービス利用を開始することも可能だという。

デジタルコンテンツライブラリーの概要

図: 企業向けサービス『デジタルコンテンツライブラリー』の概要図。電子書籍や独自コンテンツを社員がいつでもどこでも閲覧できる企業向けデジタル図書館サービスと説明。ポイントは『企業ごとの方針に合わせた選定』『時間・場所を問わない学習』。中央の機能は、コンテンツ選定機能、コンテンツ抽出返却機能、ユーザーごとID管理、独自コンテンツ掲載機能。左側の人事部門・経営企画・会社方針などの入力を受け、右側の社員への読書機会提供や学習・仕事の成果の社内展開につながることを示している。

「企業によって選ぶ本は異なります。自社の方向性に合うタイトルをそろえてライブラリーを作る。多くは50~100冊ほどで始め、段階的に増やしていきます。少な過ぎると『読みたい本がない』と感じて利用されなくなるため、初期選定は非常に重要です」と脇田は語る。そのために、社員から「どんな本を置いてほしいか」と意見を募る企業もあるという。

またある企業では、人材育成ロードマップを策定し、部門ごとに必要な資格やスキルアップの道筋を示すといった施策に、デジタルコンテンツライブラリーを取り入れ、社員が互いに学び合う文化づくりを進めている。定期的な読書会やおすすめ本の紹介を通じて学びを広げる、研修内容を深める書籍を提案する、など運用面でも工夫している。

このサービスは自治体向けの「電子図書館サービス」として始まり、10年以上を経て進化を続けてきた。自治体・学校で実績を積み重ねてきた中で、機能やコンテンツは充実し、より使いやすくなっている。「本を読む文化を取り戻したい。このサービスを通じて、もっと多くの人が本に親しむ社会をつくりたい」と川本は語る。脇田も「企業は新事業創出や人材ポートフォリオの見直しを進めています。社員は忙しい日々を送っていますが、読書体験は必ず仕事に役立つと信じています」と強調する。

読書離れが進む今、川本と脇田は「デジタルコンテンツライブラリー」を、企業のリスキリングの機会確保や社員が互いに学び合う文化の醸成を通じて、人材育成と持続的な成長を支えるプラットフォームとして、さらに磨き上げていく。

写真: 脇田と川本
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