サステナビリティERP導入によるGX推進を、価値創出につなげるニフコの合理的な取り組み

Excel管理から脱却し、属人化を解消。収集したデータを競争力強化に生かす

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「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」が策定を進めている日本独自のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用義務化が現実味を帯びる中、BIPROGYはBooost株式会社と資本業務提携を結び、サステナビリティERP「booost Sustainability」の提供を開始した。工業用プラスチックファスナーの世界的メーカーである株式会社ニフコも、グローバルスタンダードにいち早く対応するため、本システムを導入し、排出量データ収集の効率化とデータ管理の属人化解消に向けた合理的な取り組みを本格化させ、価値創出や競争力強化につながるサステナビリティ経営を目指している。今回は、ニフコ執行役員/ESG推進室長の村田憲彦氏をゲストに迎え、BIPROGYのシステムエンジニアとしてシステム導入を支援した中原和洋と、サステナビリティ経営推進を担い、ニフコのプロジェクト推進の中で村田氏と意見交換を続けてきた澤英惠が、導入の背景やプロジェクトの歩み、収集したデータを企業価値向上につなげるGX(グリーントランスフォーメーション)推進の“本質”について語り合った。

迫る「サステナビリティ情報開示義務化」と「第三者保証」へのシフト──データ収集・管理体制の構築が急務に

――まず、企業にとってGX対応の重要性が高まっている背景を教えてください。

現在、サステナビリティに関する情報について、国際的に開示基準の整備が進むとともに、開示内容を第三者が検証・保証する枠組みの確立に向けた議論が進展しています。日本においては、2027年3月期以降、一定の上場企業を対象に、SSBJが策定する国際基準整合のサステナビリティ開示基準に基づくサステナビリティ情報の開示が、有価証券報告書において段階的に義務付けられる見込みです。加えて、EU企業やEU域内に一定規模の子会社や事業を有する日本企業に対しては、すでにCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応が求められています。特に重要なのは、「いかに正確かつ効率的に実施するか」であると考えています。今後はサステナビリティ情報が外部から検証されることを前提にデータの正確性を担保する証跡管理や内部統制の仕組みを計画的に整備していくことが求められます。CO₂排出量の算定・開示についても、もはや「実施するか否か」の議論ではなく、開示情報に対する第三者保証への対応も含めて、「いかに正確かつ効率的に実施するか」という実行・高度化のフェーズに入っていると考えます。

――ニフコとして、こうしたGX対応をどう捉えていますか。

写真:村田憲彦氏
株式会社ニフコ
執行役員/ESG推進室長 村田憲彦氏

村田GXの重要性はもちろん認識したうえで、開示すること自体を目的とするのではなく、事業の強みや競争力にどう結びつけるかを第一義として対応を進めています。一方で、私たちのような製造業にとって、GXは容易ではなく、DXですら道半ばというのが実情です。この点には大きな課題を感じていました。

――ニフコは、省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)の特定事業者──一定規模以上のエネルギーを使用する事業者として国への報告義務を負う企業──と伺いました。これまでCO₂排出量の管理はどのように行われていたのでしょうか。

村田ここ数年は私が作成したExcelマクロを用いて運用していました。しかし、PCのOSやExcelのバージョン更新のたびに修正が必要となるうえ、独自の構造で作り込んでいるため他の担当者への引き継ぎが難しく、結果として管理が属人化している状況でした。

写真:澤英惠
BIPROGY株式会社 サステナビリティ経営推進部
環境・社会事業統合室 室長 澤英惠
(所属は2026年3月取材当時のもの)

BIPROGYも「booost GX」を導入する以前は、データベース機能と入力・管理機能を併せ持つ独自インベントリーシステムをExcelで自社開発し、CO₂排出量の算定・管理を実施していました。省エネ法の対応においては、主にエネルギー使用量の集計が中心でしたが、国際基準であるGHGプロトコルに基づく算定では、電力使用量のCO₂排出量への換算が求められます。

この換算に用いる排出係数は、電力メニューや地域、適用時期によって異なるため、設定値の変更が必要となります。また、制度変更・プロトコル変更などへの対応も必要だと考えます。こうした運用は多くの企業にとっても、おそらく相応の実務負荷を伴うものであると考えます。

中原同様の課題は多くの企業からお聞きします。拠点数が多い場合は、各拠点からExcelファイルを回収して集計する作業だけでも膨大な手間がかかります。第三者保証への対応が求められる中で、「このままExcel管理を続けて問題ないのか」という懸念の声は非常に多いですね。

サポート体制が決め手となったシステム選定

――サステナビリティERP「booost Sustainability」について説明をお願いします。

写真:中原和洋
BIPROGY株式会社 プロダクトサービス本部 第四部
グリーンテック・サービス室 室長 中原和洋

中原「booost Sustainability」は、ESG情報を収集・管理し、各種制度に沿って開示できるプラットフォームで、収集したデータを経営に生かすための分析機能も備えています。複数のモジュールで構成されており、その1つが「booost GX」です。環境分野のデータ収集から開示・分析をサポートするモジュールで、ニフコさまにはこちらを導入いただきました。

「booost Sustainability」システム全体像

図版:booost Sustainabilityのシステム全体像。データ収集/分析/管理、データ開示/第三者保証、データドリブンな意思決定の3領域と、グローバルデータ基盤で構成される。データ収集/分析/管理にはbooost ESG(環境・社会・ガバナンスのデータ管理)、booost GX(CO₂排出量管理)、booost Supplier(SupplierのESG情報収集)、booost Energy(CO₂フリー電力の調達・供給)、booost PCF(製品カーボンフットプリントの精緻算定)、booost Regulation(複雑な開示基準のテンプレート化)の6項目。データ開示/第三者保証にはbooost Disclosure(グローバル基準の報告/開示、レポーティングの一括管理・出力)、booost Audit(第三者保証プロセスの最適化)。データドリブンな意思決定にはbooost Intelligence(企業価値向上に向けた分析・課題抽出)、booost Impact(財務情報との連携)。グローバルデータ基盤はbooost Data Governance(バリューチェーン全体からのデータ収集可能、グローバルIT統制)が担う。
「booost Sustainability」は、サステナビリティ報告及びサステナビリティ関連財務報告に関するグループ連結の基幹業務全域をカバーするプラットフォーム。ニフコでは、まずGHGプロトコルに従ってScope1、2、3(カテゴリ1-15)のCO₂排出量の算定・可視化に対応した「booost GX」を導入している

――数あるシステムの中から、なぜ「booost GX」を選ばれたのでしょうか。

村田国内外を問わず、主要なシステムはほぼ全て比較検討しました。ただ、データを入力してCO₂排出量を算出するという基本機能はどれも同等で、アウトプットに大きな差はありませんでした。その中で特に重視したのは、サポート体制です。社内リソースが限られているため、導入から運用まで伴走してくれるパートナーが必要でした。

当初はBooost社から直接提案をいただきましたが、継続的なサポート体制という観点で慎重に検討していました。そのタイミングで、BIPROGYがBooost社に資本参加していることを知り、「BIPROGYがサポートに入るなら、ぜひ採用したい」と伝えて導入に至りました。BIPROGYとはもともと協業の実績があったため、安心して決断できました。

中原ありがとうございます。ご提案では、「正確さ」「速さ」「広さ」「属人化の解消」という4つの観点をお伝えしました。具体的には、証跡管理や承認フローによるデータの正確性担保、集計時間の効率化、グローバル連結やサプライチェーンへの拡張性、そして属人化の防止です。

村田4つのポイントは、まさに私たちが抱えていた課題そのものでした。従来のExcel管理では、グローバル拠点からのデータ収集にExcelファイルのいわば“数珠つなぎ”で対応していたため、精査まで含めると半年近くの期間を要していました。また、変更履歴が追跡できる仕組みの下でデータを管理することの必要性も、強く感じていました。

BIPROGYの導入支援の在り方

図版:booost Sustainabilityの導入支援体制の図解。システム導入フェーズと、システム運用フェーズの2段構成。システム導入フェーズでは、個別SEサービス(お客さまの周辺他システムとの連携などご要望に合わせてSEサービスを提供)と、オンボーディングサービス(booost sustainabilityの初期登録(マスター・拠点など)の登録支援からお客さまが不安なく操作いただけるまで支援を行う)のサービスを提供。システム運用フェーズでは、サポートサービス(製品の使い方などに関する問合せやトラブル対応、不具合が発生した場合の技術的な対処の支援、環境省認定制度脱炭素アドバイザーが各種注文や申請の受付など最適なサポートを提供)のサービスを提供。
BIPROGYでは「booost Sustainability」を安心して利用してもらえるよう、導入から運用まで一貫してサポートするワンストップサービスを提供している

中原システム化による正確性の担保は、大きなメリットです。第三者保証では外部の監査機関がデータの正確性や信頼性を担保するためのデータ統制(ガバナンス)の状況を検証しますが、Excelでは過去の修正履歴が追えなくなるケースがあります。システムであれば変更履歴が記録され、承認フローも明確に残ります。

村田そして何より、以前から最大の課題と感じていたのが属人化の解消です。現場の誰もが迷わず入力でき、引き継ぎも容易なシステムでなければ、継続的な運用は成り立ちません。属人化の解消は、先送りできない喫緊の課題でした。

ニフコが手掛ける樹脂製品の一例

写真:樹脂製品の一例その1。黒色のパーツが青い布の上に並べられている。 写真:樹脂製品の一例その2。白い枠状の大型パーツとホース状のパーツが青い布の上に並べられている。 写真:樹脂製品の一例その3。透明なカップに色とりどりの小型パーツが収納されている。
ニフコは工業用プラスチックファスナーの製造・販売を目的に1967年に創業。世界15カ国・地域に40の工場を有し、高い技術力と「小さな気づきと技術をつなぎ、心地よい生活と持続可能な社会を創造する」というパーパスのもと、自動車向け部品から日常生活を支える製品まで幅広く展開している

伴走型のサポートで現場に根ざした運用を実現

――導入後、オンボーディング支援はどのように進めたのでしょうか。

中原業務フローやデータ収集・報告プロセスを詳細にヒアリングすることから始めました。その上で、「どの拠点から始めるか」「どのデータを優先するか」といった実装計画をお客さまと共に策定し、欧州、韓国、日本の主要拠点で先行導入を進めました。導入工程で最も重要なのはお客さまの現場業務を、booost GXのシステム設定・運用に適切に落とし込むための整理です。拠点ごとに入力項目は異なり、不要な項目が残っていると入力ミスの原因にもなります。「どう設定すれば現場が迷わず使えるか」を担当者と丁寧に詰めながら、入力項目や運用ルールを整理しました。

村田カスタマイズは行わず標準機能を活用する方針で進めていたため、設定・運用の範囲内で柔軟に対応いただけました。また、韓国語でのサポートも大変助かりました。ニフコにとって韓国は排出量の多い重要拠点ですが、英語以外の言語対応は社内では難しいのが実情です。その点までカバーいただけたことは、導入を円滑に進める上で大きな力になりました。

――導入後の効果について教えてください。

村田本格的な効果測定はこれからが本番です。ただ、各拠点のデータ入力は順調に進んでおり、社内でも「なぜ今GX対応が必要なのか」を考えるきっかけになっていると感じています。当初は現場の担当者がデータを入力するだけの権限設定でしたが、自拠点の排出量の推移を自ら確認できるように権限を変更しました。自分たちの行動が数字にどう反映されるかを見ることで、削減に向けた当事者意識が高まることを期待しています。

システムの導入はあくまでGX推進のプロセスの一部です。単なるデータ収集で終わらせるのではなく、最終的には排出量削減や経営判断へとつなげていきたい。算出された数字をどう減らすか、目標に対してどのような活動を行うか──データの活用方法こそが、本質的に重要だと考えています。

データを生かし、サステナビリティ経営の本質へ

――今後の展開について教えてください。

写真:村田憲彦氏

村田次の課題はサプライチェーン管理です。将来的にはサプライヤーから一次データを取得していきたいと考えていますが、容易ではありません。取引先には中小企業が多く、Excel以前に紙ベースで業務を進めている企業や、データ提出に人員や時間を割く余裕がないケースも少なくないからです。

仮に取引先の合意を得られたとしても、データを収集するだけでは不十分で、複数の取引先から集めたデータを可視化し、「自社がサプライチェーン全体の中でどの位置にいるか」をフィードバックする仕組みも必要です。国内では取適法(中小受託取引適正化法、旧下請法)の対象となる取引先も多いため、取り組みを加速しにくい面もありますが、段階的に前進していきたいと思っています。

製造業にとってCO₂削減は本業そのものではありません。だからこそ、どこまでリソースを投じるべきかを常に問い続けています。個人的に「やらない哲学」と呼んでいますが、開示ありきではなく、合理的に意味のある取り組みのみを選ぶことが大事です。ここで言う「意味がある」とは、例えば、(1)削減効果が定量的に見込める、(2)コスト・品質・納期など本業のKPIとも整合する、(3)取引先にも実行可能で継続しやすい――といった条件を満たすものです。これはGXに消極的ということではなく、本質的な自社の価値創出に集中するための戦略的判断軸です。そのため、この姿勢は今後も変わりません。

企業が持続的に存続し、企業価値を高めていくためには、将来の不確実性を前提として捉えつつ、それを成長機会へと転換していく視座が不可欠です。例えば、炭素税の導入や取引先との契約条件の見直しといった外部環境の変化に対応するにあたり、情報開示を規制・制度要請への対応として捉えるのではなく、自社の競争力強化や社会からの信頼獲得に結びつく機会として捉え、着実に生かしていくことが重要だと考えます。合理性と実効性のある取り組みを見極め、戦略的に選択していく姿勢こそが、これからのサステナビリティ経営だと考えています。

中原今回のプロジェクトを通じて、ニフコさまの「本質を捉えた上でサステナビリティに取り組む」という一貫した姿勢に触れ、多くを学ばせていただきました。BIPROGYとしても、システム導入の支援にとどまらず、ニフコさまが目指す姿を共に描きながら貢献していきたいと考えています。今後も「共に考える」パートナーとして、GX推進を支援してまいります。

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