私の本棚 第6回

感性を磨く

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初心者必読の本から上級者向けの本、「座右の書」などを推薦者のコメントとともにご紹介するコーナー。第6回のテーマは、「感性を磨く」です。価値ある一冊に巡り合う一助となれば幸いです。

写真:皆川和花

今回の推薦者
NUL System Services Corporation
President and CEO
皆川和花

推薦者コメント

ハウツー本など即効性のあるビジネス書が好まれる傾向にありますが、じっくりと自分なりの解釈を必要とする本から刺激を受け、感性を磨くことも有益ではないでしょうか。ビジネスに直接結びつかない事を比喩(アナロジー)とすることで理解が深まることも多くあり、ビジネス書以外の本からの刺激は、発想を豊かにします。今回は、あえてビジネス書ではない本を選んでみました。皆さまの刺激になれば幸いです。

幼年期の終わり

SF小説を読んだときに感じるワクワク感・高揚感を、「センス・オブ・ワンダー」と表現することがある。私が最も「センス・オブ・ワンダー」を感じたのがこの小説だ。本書は、20世紀を代表するSF作家アーサー・C・クラークの傑作として知られている。圧倒的な力を持つ宇宙人の到来によって地球上から争いがなくなり、統一化される様子を描く第1部「地球とオーバーロードたち」。宇宙人がもたらした技術力によって人類が働かなくなった世界を描く第2部「黄金期」。そして、人類の進化を描く第3部「最後の世代」。1952年時点においてシンギュラリティ後の世界を描いた、その創造力に衝撃を受けた。しかし、それ以上に人類の新たな進化を描く点に強いインスピレーションを受けた。現生人類は、20万年前頃以降進化を遂げていない。「その先の姿」をクラークは確かな筆致で描写しているのだ。何かを考えるときに、ふとこの本を思い出す。「常識の延長線上で物事を狭く捉えてはいないだろうか?」、そんな気持ちが湧き上がってくる。「ユートピアとは何か」「人間はどう進化するか」を自分なりに思考してみるのも面白いはずだ。発想の幅を豊かにする名作としてお勧めしたい。

[著]アーサー・C・クラーク
[訳]池田真紀子
[出版社]光文社(光文社古典新訳文庫)
[発行年月]2007年11月

植物は〈知性〉をもっている

このタイトルを見て、素直にうなずく人は少ないはずだ。AI開発が進み「知性とは何か」が世界的に議論される中、「植物に知性があるかもしれない」などとは考えたことすらなかった。「光、湿度、化学の物質の濃度、磁場など大量の環境データを記録し、そのデータを元にして養分の確保や競争、防御行動などを瞬時に判断して行動している植物の能力は、もはや知性と呼べる」と著者は主張する。そして、「植物の驚くべきさまざまな能力を知るにつれ、人間は植物よりも進化した存在といえるのか」と問いかける。私は、本書をひも解き、行間にも込められた著者のメッセージに触れるたび謙虚な気持ちになっていった。今、持続的なデザインなどを創造するために植物などの生物から学ぶ技術研究(バイオミミクリー)が進められている。技術開発分野以外でも、植物の生きるための戦略には「なるほど」と思うものが多々ある。読み終わるときには、きっと、植物に「生命の尊厳」を感じるようになっているだろう。植物学者ステファノ・マンクーゾ教授の植物への愛情にあふれた一冊。

[著]ステファノ・マンクーゾ、 アレッサンドラ・ヴィオラ
[出版社]NHK出版
[発行年月]2015年11月

社会心理学講義
〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉

最後に紹介する一冊は、大学の教科書のようなタイトルだが、非常に読み応えのある、読みながら唸らずにはいられない書籍を選んだ。「人間とは何か」「社会はどう機能するか」という社会心理学の問いに、真っ向から挑もうとした意欲作が本書だ。さまざまな社会心理学の実験結果や、著名な哲学者の思考を紹介しながら「平等な社会は人を幸せにするか」「責任転嫁の心理メカニズムとは」「意志とは何か」「伝統は実存するか」といった数々の疑問を読者に投げかけ、思考を促す。自分の主張に固執してしまっているとき、「なぜ自分はこう思ったのか」「これは自分の意志か」と、いったん疑問を持つなど自身の常識や倫理観を客観視するための視座獲得に資する一冊といえる。マーケティングにすぐに使える行動経済学の本とは、ひと味もふた味も違う。著者・小坂井敏晶先生が10年の歳月をかけて書き上げた本書には、現代を鋭く読み解くための深い洞察が満ちている。

[著]小坂井敏晶
[出版社]筑摩書房
[発行年月]2013年7月

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