私の本棚 第2回

イノベーション(2)

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初心者必読の本から上級者向けの本、「座右の書」などを推薦者のコメントとともにご紹介するコーナー。第2回のテーマは、前回に引き続いて「イノベーション」です。価値ある一冊に巡り合う一助となれば幸いです。

今回の推薦者
日本ユニシス株式会社
常務執行役員
インキュベーション部門、BizDevOps部門 担当
永井和夫

今回の推薦者
日本ユニシス株式会社
常務執行役員
インキュベーション部門、BizDevOps部門 担当
永井和夫

キッシンジャー超交渉術

書評書影画像:『キッシンジャー超交渉術』(日経BP社)

「イノベーション」というテーマで最初に思い浮かんだ3冊が、マックスヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、ピーターセンゲの『最強組織の法則』、そして本書である。「イノベーションをそのまま実装に向けて解釈し、イノベーションを目指すという失敗事例のなんと多いことか!」とあらためて気づかされる。ゲイツとザッカーバーグはハーバード大学に在籍し、セルゲイブリンもラリーペイジもスタンフォード大学の卒業生なわけで、彼らのイノベーションが水面上の氷山の一角とすれば、水面下には厚みがあるということだ。これは学歴志向でも権威主義でもなく、彼らがハーバードやスタンフォードをどう使ったか、使う実力があったか、ということに過ぎないが。
本書は、水面下の部分、つまり「ビジネス現場におけるケイパビリティとコンピテンシー」を、キッシンジャーを題材にして因数分解した一冊である。キッシンジャーはハーバードで教鞭を執った後、ニクソン政権での大統領補佐官を皮切りに国務長官など重要なポストを歴任。公職を辞した後も歴代大統領が彼に助言を求め、96歳の現在もオバマからトランプ、さらにプーチンやメルケル、習近平までが彼に意見を求めている。「交渉術」というと日本的な交渉(恫喝、嘆願、主張……)を考えるが、本書は、彼が交渉のシナリオをどのようにまとめたかが検討の中心となっている。

[著]ジェームズ・K・セベニウス/R・ニコラス・バーンズ/ロバート・H・ムヌーキン
[出版社]日経BP社
[発行年月]2019年1月

カスタマーサクセスとは何か?
日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

書評書影画像:『カスタマーサクセスとは何か?』(英治出版)

ビジネスにおけるイノベーションは、徹底的な市場理解と分析が原点である。ヤマトの宅急便にせよ、スマートフォンにせよ、技術的なブレークスルー(量子コンピュータやリチウムイオン電池など)が引き金ではなく、市場に存在する潜在的な需要を把握し、分析し、求められる商品/サービスをパッケージングする、というシナリオで実現されている。市場理解からパッケージングまでのプロセスで求められる知見やスキルは、市場そのもの複雑さや関係者の多さなどにより、一見、非常に高度で獲得困難に思えるが、その骨組みは決して複雑なものではない(枝葉の部分は、もちろん取り扱うエンティティの量だけ膨大で複雑であるが)。当社においては、この骨組みの1つの類型を「BDパイプライン」という形で整理し、部門を越えて共通言語化し、定着させるべく取り組みつつあるが、この骨組みに沿って新たなビジネスを組み立てる際に、本書は有効である。「顧客資産(マーケティングの世界では、顧客が製品やサービスに期待する心理的な量を顧客資産と呼ぶ)」は新規事業においてはゼロからのスタートとなるが、この顧客資産の獲得に関する知見(特にリテンションの観点から)を、実践的な観点からまとめ上げた内容となっている。

[著]弘子ラザヴィ
[出版社]英治出版
[発行年月]2019年7月

「ホットケーキの神様たち」に学ぶ
ビジネスで成功する10のヒント

書評書影画像:『「ホットケーキの神様たち」に学ぶ ビジネスで成功する10のヒント』(東洋経済新報社)

本書は、数年前、社内勉強会の講師をお願いした、『現場力を鍛える』(東洋経済新報社、2004年)などのベストセラーを持つ遠藤功氏の著書である。一般にビジネス開発関連の書籍は、取り上げている事例がなじみのない業態(「イノベーションのジレンマ」など)であったり、コンシューマ市場向けのマーケティング技法に偏っていたり、米国のネットビジネスの羅列であったりと、なかなか有効な入門書がないと感じている。だが、本書は基本的メカニズム(本書以外の書籍で説明されている一般的なもの)をもって、身近なビジネス事例を解釈するのに最適な一冊と言える。 例えば、「ブルーオーシャン戦略」と聞くと、誰もタッチしたことのない未知の市場、と考えがちであるが、本書では、スナック市場でもコモデティと思われがちなホットケーキ(パンケーキですらない)が実はブルーオーシャンであった、という気づきを紹介している。また、「両利き経営」的な「広げる」と「深める」の2つの視点においては、広げることが重要(クリステンセンモデルがディスラプションの定石)とされる中で、あえて深めることの重要性もあらためて言及している。さらに食事に関するエクスペリエンスにおいて、ともすると「おいしさ」や「映え」などが過度に追求される中、ユーザー視点(評価関数)として「気持ちがいい」ことを取り上げ、それを実現している商品・サービスに対する熱意と従業員教育の重要性を説くなど、「アイデアを具現化し、期待以上の成果を上げる」ヒントに富んだ一冊である。

[著]遠藤功
[出版社]東洋経済新報社
[発行年月]2019年5月

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