日本ユニシスグループは、2018年度に発表した中期3カ年経営計画において社会課題解決に向けた4つの注力領域を定めた。それらは、新しい金融サービス創造を支援する「ネオバンク」と企業の事業成長をサポートする「デジタルアクセラレーション」。そして、社会インフラ分野の課題解決を図る「アセットガーディアン」とよりよい地域づくりを目指す「スマートタウン」という領域だ。本セッションでは、『宣伝会議』編集長の谷口優氏をゲストに迎え、ネオバンクとデジタルアクセラレーションの領域を推進するそれぞれの責任者が、「変化する生活者と企業との価値創造型コミュニケーション」をテーマに語り合った。
生活者の多様化とデジタル化の進展
企業はいかに個人にアプローチすべきか?
今、人々のライフスタイルは大きく変化しつつある。『宣伝会議』編集長の谷口優氏はこう指摘する。
「生活者は、より便利で快適な暮らしを望み、一人ひとりの好みや暮らし方の多様化も進んでいます。そして、それをかなえる大抵のモノは充足しています。このような時代の中で、企業がどのように生活者にアプローチするかは、大きな課題となっています」
では、多様化する生活者のニーズとさまざまなモノやサービスの提供者との間に、どのような橋を架けるのか。その手段の1つとして期待が寄せられるのが生活者と企業をつなぐデジタルプラットフォームの構築だ。社会に普及しつつあるデジタルを介して両者をつなぐ場を創造することで、顧客と企業の価値創造型のよりよいコミュニケーションを実現していく――。
それが日本ユニシスグループの目指す方向であり、4領域に注力してこうした動きを推進している。その中の2つが、「デジタルアクセラレーション」と「ネオバンク」である。
「企業は生活者の心を捉えたい、ファンになってもらいたいと考えています。その価値提供の基盤になるのが、デジタルサービス空間です」とデジタルアクセラレーション戦略本部長の田中建は語る。同本部は、この空間の企業・生活者双方にとっての利便性を高めるため、キャンペーンプラットフォームとオムニチャネル、Webコンサルティングサービス、AI×ロボティクスという4つ分野の開発・研究を推進している。
「生活者の購買行動には多様な選択肢があり、インターネットの生活への密着を背景に製品やサービスの認知のしかたは変化しています。こうした中で、企業の『売る理由』ではなく、生活者が製品などを『買う理由』やメリットの提示が求められます。また、消費者視点のマーケティング、デジタルとリアルを組み合わせたデータ活用が重要になっています」(田中)
一方、ネオバンク戦略本部はマネーコンシェルジュ、バンキング・アズ・ア・サービス、地域産業別プラットフォームの構築を推進。キャッシュレスとオープンイノベーション、パーソナライズ、APIエコノミーという4つの活動に注力してきた。
「これらの活動を通じて金融サービスを生活空間や事業空間に溶け込ませ、生活者の利便性向上や産業の活性化を目指しています。カギを握るのがデータです。ただ、データを収集するためには、生活者がメリットを享受できるようにデータを活用する必要があります。いかに生活者の求める価値を実現できるかがポイントです」と同本部長の竹内裕司は説明する。
「スマートキャンペーン」と「Fortune Pocket」による価値提供
モノやサービスがあふれ、多くの選択肢が存在する時代、企業と生活者の関係は以前とは様変わりしたと谷口氏は言う。
「主導権は商品やサービスの『送り手』から、『受け手』に移行しています。また、PCやスマートフォンなどのデジタルデバイスを利活用して情報を巧みに収集する生活者にとって、ブランド認知のプロセスも変わりつつあります。企業がマス広告を使って買わせようとしても、あまり反応してくれなくなりました」
生活者が主導権を握る時代、マーケティングのあり方も変わろうとしている。金融サービスにおけるトレンドの変化について、「従来、金融機関は職業や年齢などの属性データに基づくマーケティングが主体でした。また、『仮説検証型』のスタイルが一般的だったと思います。しかし、これからは行動データを活用した『コトづくり』、あるいは『文脈発見型』のマーケティングが求められるでしょう」と竹内は話す。
今や、企業はCRMなどを用いて個人の行動データを詳細に収集することが可能だ。うまく仕組みをつくれば個々人の文脈を読み取り、最適なタイミングで最適な提案をすることができる。
「企業は、生活者の有限な時間を奪い合っています。生活者に振り向いてもらうためには、文脈にフィットした提案、生活者にとって価値ある提案をすることが大事です」と谷口氏は強調する。そのためには、デジタル上に集積される個人の行動データだけでは、必ずしも十分とは言えない。
提案価値をより高めるためには、デジタルとリアルを組み合わせたデータ活用が求められる。そんな方向を目指すのが、大日本印刷と日本ユニシスが展開する「スマートキャンペーン」である。スマートキャンペーンは、ID-POS(顧客ID付きPOS)を活用した購買連動キャンペーンプラットフォーム。ID-POSを用いることで、例えば、レジでの代金支払の際に個人IDが付与されたポイントカードが提示されれば、誰が、いつ、どこで、何を購入したかもデータとして集積できる。
これらの情報から、メーカーのキャンペーンを小売業などの会員サイトやアプリに配信、会員登録した生活者へと広告やクーポンなどが届けられる。こうして生活者が店舗に足を運び、キャンペーン対象商品を購買するよう促す仕組みである。
「会員データからのターゲット特定、あるいはメーカーや小売からのお得な情報の提案などが可能です。今後はさらにデジタルとリアルのデータを集約し、複数キャンペーン配信などを通じて、生活者に対して連続的な価値をタイムリーに提案していきたい」と語る田中は、スマートキャンペーンを生活者に一層密着したサービスに進化させる構えだ。
一方のネオバンク戦略本部も、データ活用を軸にした新サービスを立ち上げている。それがスマートフォンのアプリとして提供されている「Fortune Pocket」である。
「長寿社会において、豊かな暮らしを求める潜在ニーズは大きいと思います。生活者にとってマネーマジメントの重要性は高まっています。そこで生まれたのが、個人資産管理サービスアプリのFortune Pocketです。個人のあらゆる資産、財産を見える化し、生活者に寄り添ったサービスを提供。それぞれのユーザーに適したアドバイスなども提案していきたいと考えています」(竹内)
例えば、資産運用に関心を持っていても、「きっかけがなくて」と迷っている人は少なくない。売り手ではなく買い手の立場に立ち、適時に適切な提案ができれば、生活者をサポートするサービスとして存在感を高めることができるだろう。
シームレスかつストレスフリーで人を動かすアイデアを提案する
生活者の価値を創造するためには、本人も気づいていないような新しい選択肢を、最適なタイミングで提案することが重要。そうした価値創造の仕掛けはどうあるべきだろうか。「カギは“人を動かすアイデア”にあります」と田中は指摘する。
例えば、商店街には常連客の家族構成などを把握した上で、顔色を見て状況を判断し最適な提案をする商店主がいる。ただ、こうした能力の持ち主は少数だろう。デジタルとリアルのデータをうまく活用すれば、同等またはそれ以上の顧客接点づくりも可能だという。
「属人的な職人技からデータドリブンへ。データ分析を高度化すれば、そこから適切なアイデアを導けるはずです。こうした世界においては、データはインプット、人を動かすアイデアはアウトプットです。ある企業のアウトプットが、業種・業界を越えた連携『ビジネスエコシステム』を形成する別の企業にとってのインプットになることもあるでしょう」(田中)
ただし、人を動かすアイデアが単発で送られてきても、あまり大きな価値創造にはつながらない。谷口氏は「アイデアが連続的、シームレスかつストレスフリーな形で届くような仕掛けが重要だと思います。顧客体験を中心に据え、生活者に寄り添って価値を提供し続けるバリュージャーニーを実現するためには、連続的な顧客接点づくりが求められるでしょう」と見る。
日本ユニシスグループが目指すのは、生活者のバリュージャーニーと企業などをつなぐビジネスエコシステムづくり。それは、受け手と送り手を媒介するデジタルプラットフォームということもできる。
「送り手にはさまざまな業種業態の企業が含まれます。複数のプレーヤーが連携して、より高度なサービスを提供することもあるでしょう。多種多様なサービスと生活者をつなぐビジネスエコシステムを構築し、それを活用する生活者が夢を持ち、より豊かに暮らせるような世界をつくりたい」と竹内。価値創造の基盤となるビジネスエコシステムづくりに向けた日本ユニシスグループの歩みは、着実な歩みを続けている。