ビジネスエコシステム時代に描く変革のロードマップ

一人ひとりの社員が自律的に行動する組織をつくる

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21世紀の企業と顧客、企業と企業の関係は、これまでのような生産者と消費者といった分断された一方通行の関係ではなく、相互に対話をしながら共に価値を創出する共創的関係に変化していくと考えられる。この時代に企業はいかなる成長戦略を描くべきなのか――。早稲田大学ビジネススクール教授の平野正雄氏と日本ユニシス代表取締役社長の平岡昭良が、ジャーナリスト福島敦子氏のモデレーションの下で熱い議論を繰り広げた。(本文中敬称略)

課題を新しい付加価値に転換する

福島 日本ユニシスは、さまざまな企業と連携することで課題を解決し、新たな価値を生み出していくビジネスエコシステムの中核となって革新的なサービスを創造しようとしていますが、まずは、具体的な例で、ご説明いただけますか。

平岡 私たちは、さまざまな社会課題の解決に挑もうとしていますが、そのうちの1つであるエネルギー問題について、お話しします。10年以上も前に、CO2削減が叫ばれていた中で、電気自動車が登場し、その普及を後押しするために、充電インフラ・ネットワークの構築と提供を始めました。はじめは1社で取り組んでいたのですが、限界を感じまして、充電スタンドメーカーや充電サービス事業者と連携して、エコシステムをつくりました。そうしてできた、空いている充電スタンドと使いたい人をつなぐ仕組みは、実は別の分野にも応用できるということに気づきまして、所有から利用の流れの中で悩まれている自動車メーカーとカーシェアリングを、遊休スペース問題に悩む不動産企業とオフィスシェアリングを始めました。業界を超えた広がりを見せてきています。

福島 社会課題解決を目指して始めた取り組みでできた仕組みが、別の社会課題を解決するプラットフォームになっていく、というのは、非常に興味深いですね。このような日本ユニシスの取り組みを、平野先生はどのように捉えておられますか。

早稲田大学ビジネススクール教授
平野正雄氏

平野 新しい中期経営計画も拝見しましたが、全体として、3つの優れた点があると思います。1つは高齢化や地方の衰退など日本が抱えている社会課題の解決を正面に見据えていることです。2つ目はビジネスエコシステムの仕組みそのもので、すべてを自分たちが提供するのではなく、多くのパートナーとの緩やかなネットワークを構築しつつテクノロジーやソリューションを提供していくという戦略性は高く評価できます。3つ目はSIerからのビジネス転換を目指している点で、そこに新たな収益源や成長のチャンスを見いだそうとする先見性を感じています。

福島 平野先生から、とても前向きなご評価をいただきましたが、この変革にチャレンジしてきた背景には日本ユニシスとしての危機感もあったのでしょうか。

平岡 2000年を過ぎたころから、SIerはいずれ路頭に迷うのではないかという危機感が芽生え始め、ビジネスエコシステムを志向する現在の中期経営計画にたどり着きました。ビジネスエコシステムをつくるには、新しいサービスをデザインして実現する力が必要です。この3年間で、この力を蓄えてきました。例えば、昔であれば、課題を抱えているお客さまがいたら、効率化するICTシステムを提案していたでしょう。しかし、今では、その課題を新しい付加価値に変えませんか、という提案をしています。それが、私たちの強みですし、このように変わってきたことは間違っていなかったと、平野先生のお言葉から、大きな自信をいただいた気がします。

「ソフトキャピタル」が企業の競争力の源泉となる

ジャーナリスト
福島敦子氏

福島 平野先生のご著書『経営の針路――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか』(ダイヤモンド社)を拝読させていただき、なぜ冷戦終結後に多くの日本企業が輝きを失ってしまったのか、再び競争力を取り戻すためにはどんな戦略が必要なのか、私も強く考えさせられるものがありました。その中で平野先生は特に「ソフトキャピタル」の重要性を説いておられます。これはすなわち人材やブランド力、さらには企業カルチャーといった無形資産こそが企業の競争力の源泉になるということかと思うのですが、平岡社長も、人材やノウハウの蓄積と活用を重視されているようですね。

平岡 人材やノウハウといった「ソフトキャピタル」の一部を、当社では「アセット」と呼んでいまして、蓄積と活用を促進させています。例えば、先ほどのカーシェアリングやオフィスシェアリングのサービスの概念を知った別の社員が、日本郵便様の空き倉庫を活用できないかと考えて生まれたのが、当社の収納サービスです。そして、これらは別の組織の社員が企画しました。部門を超えて、アセットを社内流通させ、情報流を生み出すこと、そして、知恵を出し合う文化をつくることが、とても重要だと思っています。

福島 平野先生は、このような「ソフトキャピタル」の流通・活用について、どのように考えていらっしゃるでしょうか。

日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
平岡昭良

平野 社内からイノベーションを起こしていくためには、社員同士が互いに協力して新しいものをつくり出していく行動様式や価値基準を持つことが非常に重要となります。これをソフトキャピタルと総称しているわけですが、問題はこの企業カルチャーをどうやって組織の隅々にまで根づかせていくのかにあります。

多くの経営者は自らのミッションである業績を達成するため、日々非常に大きなプレッシャーを受けています。ソフトキャピタルを高めるためには、組織間の壁を越えた“横の力”を強化する必要がありますが、その結果として、目先の数字を達成する“縦の力”が弱まってしまう場合があります。社内の部門間で競い合うのではなく、部門を超えたコラボレーションによって、かつてない価値をお客さまに提供し、それによって会社全体の業績を向上させていくというサイクルを生み出すまで、いかに粘り強い経営を進めていけるかどうか、これが最大のポイントとなります。

どんな制度や仕組みよりも社員の意識で変わった組織は強い

福島 企業カルチャーの重要性について、さらに掘り下げて伺いたいと思います。平野先生は先の『経営の針路』の中で、「マトリクス組織が管理の重層化を生み、組織を硬直化させてしまう。人材を管理するのではなく、内的に動機づけを行うことを主眼とした組織設計が重要であり、その最も先端的な組織の形態がメタナショナル組織である」と説いておられます。これはいかなるものなのか、あらためてお教えいただけますか。

平野 これまでの組織はハイアラーキー(階層)で管理され人材が動いていましたが、結局のところ最終責任を誰が取るのかもよく分からず、全体が無責任な組織になってしまう恐れがありました。そうではなく一人ひとりが自らの役割を考えて自律的に行動していく組織をつくっていかなければなりません。これが内的に動機づけを行うことを主眼とした組織設計の基本的な考え方です。

メタナショナル組織は、端的に言えば組織のどこであれ新しいアイデアが生み出されたならば、それを取り上げ、会社の中核サービスに変えていく力です。実際、イノベーションは米国で起こるか、それとも中国で起こるか、どこで起こるか分かりません。

福島 なるほど、だからこそ、特にグローバルでは、企業カルチャーを共有していくことが、巨大組織になればなるほど重要になってくるのですね。

平岡 平野先生のお話を伺って、あらためて多くのことを考えさせられます。実のところ日本ユニシスでもマトリクス組織をつくったり、イノベーションを起こす専門部隊を設立したりした時期もありました。ただ、それでは他部門の社員は「お手並み拝見」となってしまい当事者意識を失いがちです。こうした悩みに直面しながら試行錯誤を繰り返してきました。現在は、すべての社員に対して、「事業創出」「ICT成長」「ICTコア」のすべての歯車に、その度合いは一人ひとり違うでしょうが、関与してほしいと働きかけています。平野先生がおっしゃるように、アイデアの種はどこから生まれるか分かりません。そうした中で「どんな制度や仕組みよりも、社員の意識で変わった組織は強い」という言葉に共感を示してくれる社員が非常に多くなってきていまして、会社が大きく変わり始めた手応えを感じています。

平野 デジタル変革の時代に需要な要素は、「ロードマップを描くこと」「よきパートナーを得ること」「強い意志で変革を進めるリーダーシップ」です。かつての労働集約的なSI産業から社会課題の解決を担うプラットフォーム型企業への転換を図り、同時にそこに業績も結び付けていく――。日本ユニシスさんの優れた先見性と平岡社長のリーダーシップに私も大きく期待しています。

福島 ビジネスを取り巻く環境が大きく変化し、新しい経済秩序が築かれようとする中で、デジタルがもたらすインパクトをどのように企業の成長につなげていくべきなのか、変革のロードマップが見えてきたような気がします。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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