現在は20世紀経済から21世紀経済への大変革(Great Transformation) の最中にある。さらにそのステップは、デジタルテクノロジーの進化・多様化が経済社会により大きなインパクトをもたらす“Great Transformation 2.0”へと推移している。早稲田大学ビジネススクール教授の平野正雄氏が、この変革の時代に企業が描くべきビジネス戦略について語った。
中国が強大化する
Great Transformationが始まった
現在、我々は「グローバル」「キャピタル」「デジタル」の3つの力が合わさった経済社会の大転換期(Great Transformation)の真っ只中にいる。
まず「グローバル」だが、今や各国はアメリカファーストを掲げて内向化する米国、強大化する中国のGreat Transformationとどう向き合っていくのかが問われている。一方でアジア全域に台頭する40億人の中間層による巨大市場をどう捉えていくのか、あらゆる企業にとって魅力的な事業機会であることは言うまでもない。
早稲田大学ビジネススクール教授
平野正雄氏
次の「キャピタル」で注目すべきは、資本政策や企業形態の多様化だ。例えば米国では上場企業の数が激減している。上場企業同士が合併を重ねて数が減っているという事情もあるが、それよりも大きいのは株式を上場することに、それほど大きな価値を見いださなくなっていることだ。これを象徴するかのように、グローバルなプライベートエクイティによる投資規模は、2017年の時点で約3兆9000億ドルまで拡大している。
そして、企業に最も大きな変化をもたらすのが、3つ目の「デジタル」である。早稲田大学ビジネススクール教授の平野正雄氏は、このように説いた。
「デジタルはすべての産業を変容させていきます。そのスピードとインパクトは産業によって異なるものの、あらゆる企業は先を見た取り組みでその脅威を取り除くことで、逆にビジネス機会を獲得していくことが重要です」
例えばソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータが「第3のプラットフォーム」としてもてはやされたのもつかの間であり、現在はその上にAI、IoT、ブロックチェーンなどが加わってきている。それほどまでに急激なスピードで進化・多様化していくデジタルにいかに対応していくかが、Great Transformationの時代を生き残る企業になるための必須条件となっている。
デジタルが国家と産業、企業、個人を
広範に変容させていく
実際にデジタルは経済社会をどのように変容していくのだろうか。
国家レベルでは、デジタルによる経済、社会、政府の改革が進行する。「特にレガシーが少ない新興国ほどデジタル技術が一気に普及します。最たるものが中国で、彼らはデジタル国家の構築を目指しているといっても過言ではありません」と平野氏は強調した。
そうした中でデジタルを活用した社会問題解決(社会コストの抑制や生活水準の改善など)がテーマとなる一方、サイバーセキュリティや個人情報保護など新たな社会課題も発生しているのも現実だ。
また、産業の観点からはこれまでの秩序が破壊され、競争条件、収益性などが劇的に変化していく。産業間の境界そのものが曖昧化し、横断的なプラットフォーマーやデジタルメガプレーヤーが台頭。圧倒的な先行者で優位で、スケールスコープの利益を独占していく。既存の企業に対して平野氏は、「現在のビジネスモデルを改善しているだけでは、あっという間に収益源が失われてしまうでしょう」と警鐘を鳴らした。
要するに現在の施設や従業員、取引関係の多くがレガシー化してしまうのだ。「会社の中に閉じこもっていたのでは変革は不可能です。オープンイノベーションやエコシステムといった新たな経営手法を採用し、他社と連携・協業しながらレガシーを競争力のあるアセットに転換していくことが求められています」と平野氏は説いた。
そしてデジタルは個人が持つパワーをも増強し、社会や企業に与える影響を劇的に拡大させていく。いわば働き方改革は、こうした個人の組織からの自立を促すものであり、デジタル時代の人材に求められるスキルの変化、職種の盛衰の加速に対応した、政府による労働市場や教育の改革が急務となっている。
全社の事業構想・成長戦略に基づく
デジタル戦略を構築せよ
デジタルの波から脅威を取り除き、ビジネス機会を獲得していくために企業は何をなすべきか。「全社の事業構想や成長戦略にひも付いたデジタル戦略の立案に始まり、デジタル化のロードマップならびにそれを推進する基盤を整備していくことが必要です」と平野氏は語った。そして、そこでの重要な柱として示したのが「Customer Centricity(顧客中心のサービス提供)」「Advanced Operation(先端的オペレーションの構築)」「Lean Corporate(最高の事務生産性の実現)」という3つのテーマである。それぞれのテーマの下で、具体的なプロジェクトを推進していくわけだ。
さらに、上記のようなデジタル戦略とロードマップ全体を束ねて推進していくインフラとして、ガバナンス整備やテクノロジー・パートナーの評価・選択、人材教育・スキル開発、カルチャー転換などを担う組織体制を整備する。一度策定したデジタル戦略やロードマップが数年後まで通用するわけではなく、テクノロジーの変化や進化に合わせて常に見直しを図っていかなければならない。その意味でもデジタルへの対応は決してIT部門だけに任せるのではなく、全社として取り組んでいくべきものなのだ。
「デジタルは勝者と敗者を明確に分かつ過酷な戦いです。だからこそ戦略としての有効性、展開のスピード、推進体制とガバナンスといったデジタル戦略の質が厳しく問われています」と平野氏は強調した。
Great Transformation時代を生き残ることは容易ではないが、デジタルの恩恵は平等にあり、伝統的な企業にもさらなる成長への大きなチャンスが広がっているのである。