多様なステークホルダーと共に未来を創る

多角的な視点に「まず試してみる」文化

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「ビジネスエコシステム」は、多様な分野のプレーヤーと共に社会課題の解決を目指す。その先行事例に触れながら成功に導くポイントなどについて、一橋大学名誉教授の石倉洋子氏と日本ユニシスの平岡昭良社長が、日経BPイノベーションICT研究所 桔梗原富夫所長のモデレートの下、活発に意見交換した。(本文中敬称略)

動き出したビジネスエコシステム調整力でステークホルダーをつなぐ

桔梗原 昨今、社会全体でビジネスエコシステムへの関心の高まりを感じます。この分野に日本ユニシスは積極的に取り組んでいますが、ビジネスエコシステム構築における御社の役割はどのようなものですか。

日本ユニシス 代表取締役社長 平岡昭良

日本ユニシス
代表取締役社長
平岡昭良

平岡 石倉先生の基調講演でも触れられていましたが、やはり人が重要だと思います。当社はこれまでITサービス分野を中心に事業を展開してきました。お客様の要望に応じて各ベンダーの技術を組み合わせて様々なプロジェクトを推進するためには、関係者の利害や技術を調整する力が問われます。こうした中で長年培ってきた調整力を生かしながら、多様なステークホルダーをつなぎ、共有したビジョンの実現に取り組んでいきたいと考えています。私たちは、その役割をカタリスト(触媒)と呼んでいます。

図1 カタリスト(触媒)として
出典:日本ユニシス

桔梗原 日本ユニシスにおけるビジネスエコシステムづくりの事例をお聞かせください。

平岡 例えば、倉庫の空きスペースを有効活用する「収納サービスプラットフォーム」です。このプラットフォームを用いて、クリーニング店をチェーン展開するポニークリーニングがクリーニング保管・宅配サービスを始めました。空き倉庫を活用したいという日本郵便様と、クリーニングを軸に新しいサービスを始めたいという穂高様をつなぎ、増加する都心の部屋の課題解決を目指したものです。シェアリングエコノミーの時代、このプラットフォームは、空きスペースの活用をキーに、洋服のレンタルサービスなど、様々に展開されていくでしょう。

図2 事例:収納サービスプラットフォーム
出典:日本ユニシス

違う分野の人材との接点を増やすことが重要
高齢者や外国人もイノベーターに

桔梗原 ビジネスエコシステムに取り組む上での課題について、石倉先生はどうお考えでしょうか。

一橋大学名誉教授 石倉洋子氏

一橋大学名誉教授
石倉洋子氏

石倉 自分たちの会社はこういうものだという固定観念があるようでは、業界を超えた結びつきを実現することはできません。日本は、ハウツーが好きで、1つのやり方を決めたら、それ以外のやり方は認めないという傾向がありますね。ですが、目標に向かうやり方はいろいろあり、その多様性を認められることが、とても重要だと思うのです。採用や昇進などの仕組みが固定的な企業では、いろいろな発想や視点を持つ人材は育ちにくいでしょう。

平岡 固定的な組織や仕組みの変革は、私たちにとっても大きな課題です。従来は業種・業界別の組織の下、徹底的に業務の専門性を鍛えることで競争力の強化を図りました。新しい時代に向けて、こうした組織や文化を変革していく必要があります。社内外の人材の交流を促し、常に刺激を受けてアンテナを張る癖をつけさせるために、オフィスの中に"わいがやスペース"をつくったり、社員が自発的にコラボレーションの場を立ち上げられる環境を整えたり、イノベーティブスペースを積極的に活用できるようにしたりしています。また、異なる環境に触れる時間をつくるために、エンジニアに対しては、1週間に連続して3時間、今やっている仕事から離れるよう促しています。

石倉 違う分野の人材との接点を増やすことは非常に重要ですね。新しい発想を生み出すというと、特別なアイデアを持っている人を連想するかもしれませんが、そうではありません。違った視点を持っている人から、新しい発想の種が生まれることもある。それは高齢者かもしれませんし、外国人かもしれません。

戦略はコラボレーションの中で
偶発的、創発的に生まれる

日経BP社 執行役員 日経BPイノベーションICT研究所長 桔梗原富夫氏

日経BP社 執行役員
日経BPイノベーションICT研究所長
桔梗原富夫氏

桔梗原 日本ユニシスは、ビジネスエコシステムにカタリストという役割で関わっていかれる、ということですが、他に強みがあれば、お話しいただけますか。

平岡 今まで培ってきたITのノウハウと蓄積してきたICTアセットを生かして、ビジネスエコシステムを支えるプラットフォームを担いたいと考えています。社会課題のために、社内のアセットだけではなく、外部の優れたサービスにも参加してもらって解決する、そのような場の構築を進めています。いわゆる、オープンイノベーションです。Fintechを対象とするVCに出資したり、アクセラレーションプログラムに参画したりするといった、取り組みを加速しています。

石倉 しがらみの少ない若い方たちなど、新しいアイデアを持っている人は世界中にいます。そうした人たちを支援するとともに、コラボレーションを目指すというのは、素晴らしい試みだと思います。ただ、刻々と変わる世界中の技術動向をウオッチしたり、スタートアップの情報を集めたりするのは大変なので、うまく役割分担して、情報を集める仕組みが必要ですね。

平岡 情報を集める仕組みも含め、最初から全体戦略を描くのではなく、実際に物事を動かしながら、コラボレーションの中で偶発的、創発的に生まれる戦略を大切にしています。このバランスを、どうかじ取りしていくかが重要で、私自身、悪戦苦闘しながら、多くのことを学んでいるというのが実際のところです。

石倉 今や、戦略を固めてから始めるという時代ではありません。特に大きな組織では「正しい答えが出るのを待とう」とか「もっと良い技術が出てきたらそれに乗ろう」といった姿勢になりがちですが、これではイノベーションは望めません。とにかく、まずやってみる。そして、様子を見ながら軌道修正し、学ぶこと。こうしたアプローチを組織に根づかせることができるかどうか。それが、企業の将来を左右することになるでしょう。

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